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2:二人旅
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見目を整えたあとは折角だからと、夜営も挑戦する。なんだか本当に冒険をしているのだと実感が持てて、少しばかりはしゃいでしまった。ベリーがどことなく生温い目をしていたので、見張りを任せて眠ったが構わないだろう。元々夜行性だし睡眠そのものも要らないと言っていたし。
大きく栄えてはいないが、父親の領地は安全だと解っているのでベリー一人に任せてしまっても問題ない。
なぜ解るかと言えば、これも鑑定の力と言えるだろう。
薄く広く、魔力を放って鑑定をする。この場合殺意などの悪感情を放つ魔力を探ることで、危険の有無が事前に解るからだ。
もし反応があったとしても、遠くを巡っている場合には手を出さない。こちらに気付いて狙ってくるのなら、返り討ちにするし素材は剥ぎ取る。根源たる弱肉強食を返すだけだ。
見上げれば胸の踊る星空。
今にも降り注ぎそうな淡い光たちを、寝袋にくるまって見上げる。
明日もまた、素材を採取しながら進んでいこう。一人だったとしてもきっと今のように楽しんだだろうけど、一人ではないだけできっとこんなに明日が待ち遠しいのだろう。
面白いほど不安はない。思えば憂いなく外に出るのは初めてではないだろうか。だからかもしれない。
ちらりと視線を飛ばす。ぱちぱちと音をたてる焚き火の光を受けて映し出される顔が、穏やかさを乗せて俺を見ていた。ぎょっとして寝返りを打って顔を背けると、いつもの笑い声をこぼして愉快げにしている。悔しい。
早く大人になってしまいたい。とろとろと睡魔が来て、抗いきれずにすぐに寝落ちてしまった。
「……ゆっくり大人になっておくれよ」
穏やかな音が落ちてきたが、目を閉じながらも眉をしかめてしまう。
うるさい。子供じゃ、だめなんだ。
だって。
*****
晴天。小鳥の楽しげな鳴き声と、風に揺れる木葉の触れ合いがのどかな音を生む。昨夜のもやもやとした気持ちは、寝ている間にすっかり霧散していた。
ベリーが朝食を作ってくれている間に、俺は使用した寝袋などをしまう。
準備が出来たよと言われたので、スープの入った器を受け取り、並んで椅子代わりに出していた木箱に座って食べ始めた。
狩っておいた魔物の肉もしっかり入っているし、薬草もくたくたに煮られていて美味しい。
街に着いたら調味料なども買っておきたいものだ。特に塩。今後も旅の基本は歩き通しになるだろうから、きっと早く無くなってしまうはずだ。
これからどう進むか、どの方向に進むかを話し合うと時間なんてあっという間だった。
「あ、そうそう昨日の話の続きしてもいい?」
「昨日?」
「何かしたいことはないのかってやつ」
そう言えばあのあと考えるような顔をしていたが、魔物が襲ってきたので有耶無耶になっていたのだと思い出した。
そして、やりたいことがあるのなら手伝いたいと言う気持ちは変わらずあるので、頷く。
「ああ、良いぞ。見付かったのか?」
「うん、折角だし一回くらい進化しておきたいなって思って」
その話は、俺が望む本のようにやがては、と思っていた事だったので否やはない。ないのだが、思っていたより急だと思ってしまったので驚きが隠せなかった。
「もう出来るのか?」
「多分ね。たどり着く頃には確実に出来ると思うし」
「へえ。それで?」
なにか必要なものなどはないのだろうかと続きを促せば、ものは特に必要無く、行きたい場所があるのだと言う。
「プルミエの滝に行きたい」
「プルミエの滝?」
名の通りに滝だとは思うが、滝に用とはなんだろうか。
なにか特別な成分なのだろうか。
「特別と言えばそうかもしれないけど、ヒューマンにはあまり効果無いんじゃないかな」
となると魔物向けの成分なのか。そんなように納得だけした。ベリーがあまり詳しく話してくれなかった。行けば解るとでも言いたいのだろう。
ベリー自身が進化の正しい方法を既に知っているのなら、実際に行くだけで良いのだろうから、都度欲しいものがあるなら相談しろとだけ伝えておいた。
「ありがとう。……ただ、あの滝があるところ、きみが欲しい本置いているかわからないからさ。急ぎってわけじゃないから向かうのはいつでも構わないよ」
そんなことを言う。彼の本そのものはどこにでもあり得るし、あると思って行ってみても無い場合だってあるのだからいちいち気にしなくとも良いのに。
大きく栄えてはいないが、父親の領地は安全だと解っているのでベリー一人に任せてしまっても問題ない。
なぜ解るかと言えば、これも鑑定の力と言えるだろう。
薄く広く、魔力を放って鑑定をする。この場合殺意などの悪感情を放つ魔力を探ることで、危険の有無が事前に解るからだ。
もし反応があったとしても、遠くを巡っている場合には手を出さない。こちらに気付いて狙ってくるのなら、返り討ちにするし素材は剥ぎ取る。根源たる弱肉強食を返すだけだ。
見上げれば胸の踊る星空。
今にも降り注ぎそうな淡い光たちを、寝袋にくるまって見上げる。
明日もまた、素材を採取しながら進んでいこう。一人だったとしてもきっと今のように楽しんだだろうけど、一人ではないだけできっとこんなに明日が待ち遠しいのだろう。
面白いほど不安はない。思えば憂いなく外に出るのは初めてではないだろうか。だからかもしれない。
ちらりと視線を飛ばす。ぱちぱちと音をたてる焚き火の光を受けて映し出される顔が、穏やかさを乗せて俺を見ていた。ぎょっとして寝返りを打って顔を背けると、いつもの笑い声をこぼして愉快げにしている。悔しい。
早く大人になってしまいたい。とろとろと睡魔が来て、抗いきれずにすぐに寝落ちてしまった。
「……ゆっくり大人になっておくれよ」
穏やかな音が落ちてきたが、目を閉じながらも眉をしかめてしまう。
うるさい。子供じゃ、だめなんだ。
だって。
*****
晴天。小鳥の楽しげな鳴き声と、風に揺れる木葉の触れ合いがのどかな音を生む。昨夜のもやもやとした気持ちは、寝ている間にすっかり霧散していた。
ベリーが朝食を作ってくれている間に、俺は使用した寝袋などをしまう。
準備が出来たよと言われたので、スープの入った器を受け取り、並んで椅子代わりに出していた木箱に座って食べ始めた。
狩っておいた魔物の肉もしっかり入っているし、薬草もくたくたに煮られていて美味しい。
街に着いたら調味料なども買っておきたいものだ。特に塩。今後も旅の基本は歩き通しになるだろうから、きっと早く無くなってしまうはずだ。
これからどう進むか、どの方向に進むかを話し合うと時間なんてあっという間だった。
「あ、そうそう昨日の話の続きしてもいい?」
「昨日?」
「何かしたいことはないのかってやつ」
そう言えばあのあと考えるような顔をしていたが、魔物が襲ってきたので有耶無耶になっていたのだと思い出した。
そして、やりたいことがあるのなら手伝いたいと言う気持ちは変わらずあるので、頷く。
「ああ、良いぞ。見付かったのか?」
「うん、折角だし一回くらい進化しておきたいなって思って」
その話は、俺が望む本のようにやがては、と思っていた事だったので否やはない。ないのだが、思っていたより急だと思ってしまったので驚きが隠せなかった。
「もう出来るのか?」
「多分ね。たどり着く頃には確実に出来ると思うし」
「へえ。それで?」
なにか必要なものなどはないのだろうかと続きを促せば、ものは特に必要無く、行きたい場所があるのだと言う。
「プルミエの滝に行きたい」
「プルミエの滝?」
名の通りに滝だとは思うが、滝に用とはなんだろうか。
なにか特別な成分なのだろうか。
「特別と言えばそうかもしれないけど、ヒューマンにはあまり効果無いんじゃないかな」
となると魔物向けの成分なのか。そんなように納得だけした。ベリーがあまり詳しく話してくれなかった。行けば解るとでも言いたいのだろう。
ベリー自身が進化の正しい方法を既に知っているのなら、実際に行くだけで良いのだろうから、都度欲しいものがあるなら相談しろとだけ伝えておいた。
「ありがとう。……ただ、あの滝があるところ、きみが欲しい本置いているかわからないからさ。急ぎってわけじゃないから向かうのはいつでも構わないよ」
そんなことを言う。彼の本そのものはどこにでもあり得るし、あると思って行ってみても無い場合だってあるのだからいちいち気にしなくとも良いのに。
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