相棒は邪龍らしい。

渡邉 幻日

文字の大きさ
上 下
26 / 54
2:二人旅

しおりを挟む
見目を整えたあとは折角だからと、夜営も挑戦する。なんだか本当に冒険をしているのだと実感が持てて、少しばかりはしゃいでしまった。ベリーがどことなく生温い目をしていたので、見張りを任せて眠ったが構わないだろう。元々夜行性だし睡眠そのものも要らないと言っていたし。 

大きく栄えてはいないが、父親の領地は安全だと解っているのでベリー一人に任せてしまっても問題ない。
なぜ解るかと言えば、これも鑑定の力と言えるだろう。
薄く広く、魔力を放って鑑定をする。この場合殺意などの悪感情を放つ魔力を探ることで、危険の有無が事前に解るからだ。
もし反応があったとしても、遠くを巡っている場合には手を出さない。こちらに気付いて狙ってくるのなら、返り討ちにするし素材は剥ぎ取る。根源たる弱肉強食を返すだけだ。


見上げれば胸の踊る星空。
今にも降り注ぎそうな淡い光たちを、寝袋にくるまって見上げる。
明日もまた、素材を採取しながら進んでいこう。一人だったとしてもきっと今のように楽しんだだろうけど、一人ではないだけできっとこんなに明日が待ち遠しいのだろう。
面白いほど不安はない。思えば憂いなく外に出るのは初めてではないだろうか。だからかもしれない。 

ちらりと視線を飛ばす。ぱちぱちと音をたてる焚き火の光を受けて映し出される顔が、穏やかさを乗せて俺を見ていた。ぎょっとして寝返りを打って顔を背けると、いつもの笑い声をこぼして愉快げにしている。悔しい。
早く大人になってしまいたい。とろとろと睡魔が来て、抗いきれずにすぐに寝落ちてしまった。
「……ゆっくり大人になっておくれよ」
穏やかな音が落ちてきたが、目を閉じながらも眉をしかめてしまう。
うるさい。子供じゃ、だめなんだ。
だって。

*****

晴天。小鳥の楽しげな鳴き声と、風に揺れる木葉の触れ合いがのどかな音を生む。昨夜のもやもやとした気持ちは、寝ている間にすっかり霧散していた。
ベリーが朝食を作ってくれている間に、俺は使用した寝袋などをしまう。
準備が出来たよと言われたので、スープの入った器を受け取り、並んで椅子代わりに出していた木箱に座って食べ始めた。
狩っておいた魔物の肉もしっかり入っているし、薬草もくたくたに煮られていて美味しい。 

街に着いたら調味料なども買っておきたいものだ。特に塩。今後も旅の基本は歩き通しになるだろうから、きっと早く無くなってしまうはずだ。
これからどう進むか、どの方向に進むかを話し合うと時間なんてあっという間だった。 

「あ、そうそう昨日の話の続きしてもいい?」
「昨日?」
「何かしたいことはないのかってやつ」
そう言えばあのあと考えるような顔をしていたが、魔物が襲ってきたので有耶無耶になっていたのだと思い出した。
そして、やりたいことがあるのなら手伝いたいと言う気持ちは変わらずあるので、頷く。 

「ああ、良いぞ。見付かったのか?」
「うん、折角だし一回くらい進化しておきたいなって思って」
その話は、俺が望む本のようにやがては、と思っていた事だったので否やはない。ないのだが、思っていたより急だと思ってしまったので驚きが隠せなかった。
「もう出来るのか?」
「多分ね。たどり着く頃には確実に出来ると思うし」
「へえ。それで?」
なにか必要なものなどはないのだろうかと続きを促せば、ものは特に必要無く、行きたい場所があるのだと言う。 

「プルミエの滝に行きたい」
「プルミエの滝?」
名の通りに滝だとは思うが、滝に用とはなんだろうか。
なにか特別な成分なのだろうか。
「特別と言えばそうかもしれないけど、ヒューマンにはあまり効果無いんじゃないかな」
となると魔物向けの成分なのか。そんなように納得だけした。ベリーがあまり詳しく話してくれなかった。行けば解るとでも言いたいのだろう。
ベリー自身が進化の正しい方法を既に知っているのなら、実際に行くだけで良いのだろうから、都度欲しいものがあるなら相談しろとだけ伝えておいた。
「ありがとう。……ただ、あの滝があるところ、きみが欲しい本置いているかわからないからさ。急ぎってわけじゃないから向かうのはいつでも構わないよ」
そんなことを言う。彼の本そのものはどこにでもあり得るし、あると思って行ってみても無い場合だってあるのだからいちいち気にしなくとも良いのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編版】神獣連れの契約妃※連載版は作品一覧をご覧ください※

神楽圭
ファンタジー
*連載版を始めております。作品一覧をご覧ください。続きをと多くお声かけいただきありがとうございました。 神獣ヴァレンの守護を受けるロザリアは、幼い頃にその加護を期待され、王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、やがて王子の従妹である公爵令嬢から嫌がらせが始まる。主の資質がないとメイドを取り上げられ、将来の王妃だからと仕事を押し付けられ、一方で公爵令嬢がまるで婚約者であるかのようにふるまう、そんな日々をヴァレンと共にたくましく耐え抜いてきた。 そんなロザリアに王子が告げたのは、「君との婚約では加護を感じなかったが、公爵令嬢が神獣の守護を受けると判明したので、彼女と結婚する」という無情な宣告だった。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

ゆとりある生活を異世界で

コロ
ファンタジー
とある世界の皇国 公爵家の長男坊は 少しばかりの異能を持っていて、それを不思議に思いながらも健やかに成長していた… それなりに頑張って生きていた俺は48歳 なかなか楽しい人生だと満喫していたら 交通事故でアッサリ逝ってもた…orz そんな俺を何気に興味を持って見ていた神様の一柱が 『楽しませてくれた礼をあげるよ』 とボーナスとして異世界でもう一つの人生を歩ませてくれる事に… それもチートまでくれて♪ ありがたやありがたや チート?強力なのがあります→使うとは言ってない   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 身体の状態(主に目)と相談しながら書くので遅筆になると思います 宜しくお付き合い下さい

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...