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第19話 ラフィーヌのダンジョン 1
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話が長くなったので分割いたします。続きは1時間後に投稿します。
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しばらくの間タクミたち王都で過ごして、その間はメンバーたちのスキルアップに費やしていく。
約2週間の間、毎日訓練を積み重ねることによって美智香の魔法スキルは格段に向上している。もちろん美智香と同様に春名の謎の能力に関しても著しく技能が向上しており、難なく的に命中させるようになっている。とはいっても現時点では色々と制約が課せられている。というのも彼女の電撃やレールガンは共に威力が高すぎて使いどころが中々難しい。ダンジョンのかなり下の階層まで行けば春名が活躍する場面も出てくるだろうが、今のところはことに人前ではその能力を使わないように封印が申し渡されている。
同様に美咲も両手で振り回す大剣の威力が草原で出くわす魔物程度では明らかにオーバーキルなので、訓練以外の時は物騒な得物はアイテムボックスに収納して街中では虫も殺さないおしとやかなメイドで通すことにしている。
時には近辺に点在する森に入って実戦的な訓練を兼ねた魔物の討伐なども行って、ついにダンジョンのある街に向かって出発の日を迎える。
「全員忘れ物はないか?」
「タクミ君、大丈夫です」
「春名! あなたが一番忘れ物が多いんだから、そんなに堂々と答えるんじゃないわよ!」
いつものお花畑な返事で春名が圭子に突っ込まれている。こんな何気ない朝の風景だが、しばらく逗留した宿も本日で引き払うとなるとなんだか別れるのがちょっと寂しい気がしてこないでもない。
「またのご贔屓を」
宿屋の主人と女将さんの声に見送られて向かう先は乗り合い馬車の停留所。王都からダンジョンがある街ラフィーヌまでは約50キロ。徒歩だと途中で1泊挟まないといけないが、馬車なら朝のうちに出発してギリギリ夕方までには到着する距離となっている。
停留所の付近は王都からラフィーヌに向かう冒険者の姿がチラホラ。そんな中に混ざって見慣れた顔がある。
「お~い、圭子!」
「なんだ、勇造たちじゃないの」
「なんだはないだろう。わざわざ見送りに来てやったんだぜ」
「それはどうもね。餞別の品はないのかしら?」
「特に用意はしてない。まあ俺たちの顔が餞別代りだ」
「まあいいわ。見慣れた顔だけど受け取っておくわよ。私たちは一足先にダンジョンに向かうけど、勇造たちはどうするのよ?」
「俺たちもなるべく早いうちにダンジョンを目指すぜ。できればあと1か月以内にはDランクになって、それからダンジョンに入ろうと考えている」
「早くしないと私たちがラスボスを倒しちゃうわよ」
「それはそれで楽しみだが、ちょっとぐらいオイシイところは残しといてくれよな。おう、タクミも元気でな」
「ああ、わざわざ見送りに来てもらってすまなかったな」
あれからストレンジャーは何度か勇造たちのパーティー〔青き肉の壁〕とギルドで鉢合わせして、時には夕食を一緒に摂ったりしながら親しい関係を築いている。ここでタクミが思い出したように…
「もしよかったらコレを使ってくれ」
「おいおい、何だってんだ? こんなに高そうなモノ受け取れないぜ」
「夕べアイテムボックスを整理していたら奥のほうに収納されていたんだ。ミスリルの籠手なんだが、俺たちにはサイズが合わない。きっと勇造ならピッタリだろう」
タクミから籠手を渡された勇造は目をパチクリしている。さらにタクミは続ける。
「それからラグビー部の二人にはこの盾と短剣を渡しておく。ウチのパーティーには盾を扱う人材がいないもんでな。うまく活用してくれ」
勇造同様に頑丈で鉄よりも軽い神鋼でできた盾と同じ素材で作られた短剣を手渡されて驚いている。神鋼とは鉄に少量のミスリスを混ぜた金属。鉄よりも軽く、しかも固く頑丈という性質をもっている。タクミは更に剣道部の男子にはミスリス製の剣を、サッカー部の魔法使いには美智香と同じ魔力を手に集めやすい指輪を手渡す。
「こんなに色々ともらって本当にいいのか?」
「もちろんだ。その代わり約束してくれ。絶対にこの世界で生き抜いていくと」
「ああ、約束するぜ。次に出会う時はもっと強くなって驚かせてやるからな」
「楽しみにしている」
タクミとしては同じ日本人としてこの世界に招かれて多少なりとも縁があった以上は何とか無事に過ごしてもらいたいという人並みな感情を持ち合わせている。その結果として勇造たちが今後冒険者として活動する際に役立つ武器や防具を手渡している。もちろんアイテムボックスを整理して自分たちには必要ないと判断された品々ではあるが、眠らせておくよりもこうして有効活用したほうが何倍もいいだろう。
何台か客を詰め込んだ馬車が出発するのを見送ると、タクミたちの順番がやってくる。一緒にラフィーヌに向かうのは行商人と所用で王都に来ていたラフィーヌの住人だそう。
全員が乗り込むと御者が馬の手綱をしゃくって馬車は緩々と出発していく。勇造たちに手を振りながら、こうしてタクミたちのパーティーは王都を離れていくのだった。
◇◇◇◇◇
予定通りに夕暮れ前に馬車はラフィーヌの街の門をくぐっていく。
「ああ~、ずっと馬車に乗っていたからお尻が痛いわ」
「いやいや、圭子ちゃんは半分以上馬車の後ろを走っていたじゃないですか」
「当たり前でしょう! 同じ姿勢で座っていたら体がカチコチに固まっちゃうじゃないの。それにトレーニングは1日たりとも欠かすわけにはいかないからね」
どこに出しても恥ずかしくない脳筋がここにいる。そんな春名と圭子は横において、タクミが他の女子たちに声をかける。
「見知らぬ街だから、ひと塊になって絶対にはぐれないように注意するんだぞ。キョロキョロしている空は美咲が手を引いてどこかに行かないように監視してくれ」
「わかりました」
「クックック、我は神の神託があれば何処なりと出向かねばならぬ」
「圭子、何て言っているんだ?」
「好みのムキムキマッチョが現れたらついていくらしいわ」
「いっそのこと放し飼いにしてみようか?」
「さすがに不味いから、タレちゃんは絶対に手を離さないでね」
「はい、任せてください」
ということでひとまずは本日の宿を確保しに向かう一行。乗り合い馬車に同乗した行商人やこの街の住人から色々と情報を聞き出せたので、宿屋が寄り集まっている区域はすぐに見つかる。だが現在この街はダンジョンがもたらすドロップアイテムで沸き返っているせいかどこの宿も満員で断られる。ようやく空き部屋が見つかったのは、この街で一番の高級宿のしかも最上級の部屋。1泊1名様金貨1枚半… 日本円にして4万5千円なりという贅沢な部屋に通される。
「やりましたぁぁぁ! ちょっとしたセレブ気分ですよ~」
「天蓋付きのベッドなんて生まれて初めて見たわ」
「こんな部屋に何泊もしていたら、あっという間に金貨が無くなりそう」
春名は大喜びして、圭子はちょっとビックリという表情。その横では美智香がお金の心配をしている。
「ひとまずは移動の疲れを取ろう。明日からダンジョン攻略に向けて活動開始だから、しっかり睡眠をとっておくんだぞ」
「皆さん、ちょっと見てください! こっちに豪華なお風呂がありますよ~」
タクミが明日以降に向けてのアドバイスを始めるが、春名はそんなこと聞いちゃいない。ひとりでこの部屋の豪華設備を探検して回っている。
こんな調子でこの日は過ぎて、ストレンジャーの面々は食事と風呂を終えると早めに就寝するのだった。
◇◇◇◇◇
翌日、かなりセレブ気分に浸れる朝食を終えると、タクミたちは身支度を整えて早速ギルドに向かう。
このラフィーヌの街はダンジョンから冒険者が持ち帰る様々な品で繁栄しており、そこらじゅうに一攫千金を狙う冒険者たちで溢れ返っている。ギラついた眼で少しでも他の冒険者を出し抜いて自分が高額なドロップ品や宝箱の中の財宝を持ち帰ろうと虎視眈々。
したがって街中の治安はお世辞にもいいとは言い難い。特に大金を手にした冒険者を狙ったスリや女性冒険者をターゲットにする強盗事件が多発している。
また、ダンジョンの中でも魔物だけでなく人間が敵になることがあるそう。ダンジョン内では誰がどこで死んだとしても分からないし、パーティーが全滅することも珍しくは無い。
その原因は人と魔物が半々だといわれている。
これらの注意事項をギルド職員から口が酸っぱくなる程聞かされたタクミ達は、とりあえず明日からダンジョンに入る手続きだけして宿に戻ってくる。
「いや~… 簡単に考えてましたけどダンジョンって大変なんですね」
おそらくギルドの職員はこのパーティーに女性が多いことを見て親切心で色々注意したのだろう。その言葉を聞いたせいなのか春名がいつに無く及び腰になっている。
「まあ、ダンジョンがある街っていくのはどこでもこんな感じよね」
「圭子ちゃんは他の世界でダンジョンに入ったんですか?」
「そりゃぁもう、手当たり次第に入ったわよ。ほとんどひとりで12カ所のダンジョンを完全攻略したわ」
圭子が自信満々に胸を張っている。どおりで過去一度しか異世界に行っていない圭子がこれほど強いわけだ。脳筋は往々にして戦いの血が騒ぎだしてバトルジャンキーの道に踏み込んでしまうと聞く。おそらく圭子もその手の人間なのだろう。
この後ギルドでもらった10階層までのマップを元に計画を練る。
このダンジョンは10階層までは下のランクの冒険者に開放されており、かなりの人数が入り込んでいるらしい。
タクミたちは他の冒険者との関わりを可能な限り避けるため出来るだけ最短距離を通って10階層まで行き、そこからは時間を掛けて攻略をしていく方針に決定する。
「美咲、食料のストックはどうだ?」
「1か月は十分に賄えます」
「そうか… となると、最大でも1ヶ月で戻ってこないといけないな」
「私ひとりだったらその半分で攻略を終えるけど、さすがに今回は初心者が多いから慎重に進まないといけないわね。それはそうとして、移動の時や戦闘時のフォーメーションはどうするの?」
「圭子はシロと一緒に先頭を歩いてもらえるか?」
「ええ、いいわよ。シロは私よりも気配に敏感だから、ダンジョンでも役に立ってもらうわ」
「キャン!」
探知犬としての役割を与えられたシロが嬉しそうにシッポを振っている。さすがは異世界からやってきた霊獣だけのことあってなんとも頼もしい。
それから魔物が単独の場合は圭子が前面に出て美咲がそのフォロー。魔物が多数の場合はタクミが前に出て圭子がフォローをするフォーメーションをとることなどを確認する。
色々とケースは考えられるが、圭子、タクミ、美咲のうちのひとりが後方の警戒に当たりつつ非戦闘員を守るような戦闘隊形を具体的にノートに書き出していく。汎用魔法の使い手の美智香は遊軍として適宜戦闘に加わるが、最初のうちはもちろんタクミの指示に従って動くことなども理解を得ていく。春名はしばらくは空と一緒に後方で待機を仰せつかっているが、どうも本人的には不満が残るよう。電撃とレールガンの威力が高すぎるための措置だとわかっていても、本人は早く活躍の場が欲しいらしい。
この日は遅めの昼食を摂ってから、午後は自由時間となる。タクミと美咲が市場に出向いて不足している品がないかと最終確認を行った以外は、他のメンバーは部屋で英気を養いつつ特に何もせずに過ごすのだっ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や、すぐ下にあるハート型のアイコンの【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります。もちろん連打も大歓迎です! 皆様の応援を心よりお待ちしております。
なおこちらの小説と同時に連載しております【異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!】もどうぞよろしくお願いいたします。こちらは現代ファンタジーの作品になりますが、この作品と同等のクオリティーで楽しめる内容となっています。目次のページの左下にジャンプできるアイコンがありますので、お暇な時間にお読みいたけると幸いです。
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しばらくの間タクミたち王都で過ごして、その間はメンバーたちのスキルアップに費やしていく。
約2週間の間、毎日訓練を積み重ねることによって美智香の魔法スキルは格段に向上している。もちろん美智香と同様に春名の謎の能力に関しても著しく技能が向上しており、難なく的に命中させるようになっている。とはいっても現時点では色々と制約が課せられている。というのも彼女の電撃やレールガンは共に威力が高すぎて使いどころが中々難しい。ダンジョンのかなり下の階層まで行けば春名が活躍する場面も出てくるだろうが、今のところはことに人前ではその能力を使わないように封印が申し渡されている。
同様に美咲も両手で振り回す大剣の威力が草原で出くわす魔物程度では明らかにオーバーキルなので、訓練以外の時は物騒な得物はアイテムボックスに収納して街中では虫も殺さないおしとやかなメイドで通すことにしている。
時には近辺に点在する森に入って実戦的な訓練を兼ねた魔物の討伐なども行って、ついにダンジョンのある街に向かって出発の日を迎える。
「全員忘れ物はないか?」
「タクミ君、大丈夫です」
「春名! あなたが一番忘れ物が多いんだから、そんなに堂々と答えるんじゃないわよ!」
いつものお花畑な返事で春名が圭子に突っ込まれている。こんな何気ない朝の風景だが、しばらく逗留した宿も本日で引き払うとなるとなんだか別れるのがちょっと寂しい気がしてこないでもない。
「またのご贔屓を」
宿屋の主人と女将さんの声に見送られて向かう先は乗り合い馬車の停留所。王都からダンジョンがある街ラフィーヌまでは約50キロ。徒歩だと途中で1泊挟まないといけないが、馬車なら朝のうちに出発してギリギリ夕方までには到着する距離となっている。
停留所の付近は王都からラフィーヌに向かう冒険者の姿がチラホラ。そんな中に混ざって見慣れた顔がある。
「お~い、圭子!」
「なんだ、勇造たちじゃないの」
「なんだはないだろう。わざわざ見送りに来てやったんだぜ」
「それはどうもね。餞別の品はないのかしら?」
「特に用意はしてない。まあ俺たちの顔が餞別代りだ」
「まあいいわ。見慣れた顔だけど受け取っておくわよ。私たちは一足先にダンジョンに向かうけど、勇造たちはどうするのよ?」
「俺たちもなるべく早いうちにダンジョンを目指すぜ。できればあと1か月以内にはDランクになって、それからダンジョンに入ろうと考えている」
「早くしないと私たちがラスボスを倒しちゃうわよ」
「それはそれで楽しみだが、ちょっとぐらいオイシイところは残しといてくれよな。おう、タクミも元気でな」
「ああ、わざわざ見送りに来てもらってすまなかったな」
あれからストレンジャーは何度か勇造たちのパーティー〔青き肉の壁〕とギルドで鉢合わせして、時には夕食を一緒に摂ったりしながら親しい関係を築いている。ここでタクミが思い出したように…
「もしよかったらコレを使ってくれ」
「おいおい、何だってんだ? こんなに高そうなモノ受け取れないぜ」
「夕べアイテムボックスを整理していたら奥のほうに収納されていたんだ。ミスリルの籠手なんだが、俺たちにはサイズが合わない。きっと勇造ならピッタリだろう」
タクミから籠手を渡された勇造は目をパチクリしている。さらにタクミは続ける。
「それからラグビー部の二人にはこの盾と短剣を渡しておく。ウチのパーティーには盾を扱う人材がいないもんでな。うまく活用してくれ」
勇造同様に頑丈で鉄よりも軽い神鋼でできた盾と同じ素材で作られた短剣を手渡されて驚いている。神鋼とは鉄に少量のミスリスを混ぜた金属。鉄よりも軽く、しかも固く頑丈という性質をもっている。タクミは更に剣道部の男子にはミスリス製の剣を、サッカー部の魔法使いには美智香と同じ魔力を手に集めやすい指輪を手渡す。
「こんなに色々ともらって本当にいいのか?」
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「ああ、約束するぜ。次に出会う時はもっと強くなって驚かせてやるからな」
「楽しみにしている」
タクミとしては同じ日本人としてこの世界に招かれて多少なりとも縁があった以上は何とか無事に過ごしてもらいたいという人並みな感情を持ち合わせている。その結果として勇造たちが今後冒険者として活動する際に役立つ武器や防具を手渡している。もちろんアイテムボックスを整理して自分たちには必要ないと判断された品々ではあるが、眠らせておくよりもこうして有効活用したほうが何倍もいいだろう。
何台か客を詰め込んだ馬車が出発するのを見送ると、タクミたちの順番がやってくる。一緒にラフィーヌに向かうのは行商人と所用で王都に来ていたラフィーヌの住人だそう。
全員が乗り込むと御者が馬の手綱をしゃくって馬車は緩々と出発していく。勇造たちに手を振りながら、こうしてタクミたちのパーティーは王都を離れていくのだった。
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予定通りに夕暮れ前に馬車はラフィーヌの街の門をくぐっていく。
「ああ~、ずっと馬車に乗っていたからお尻が痛いわ」
「いやいや、圭子ちゃんは半分以上馬車の後ろを走っていたじゃないですか」
「当たり前でしょう! 同じ姿勢で座っていたら体がカチコチに固まっちゃうじゃないの。それにトレーニングは1日たりとも欠かすわけにはいかないからね」
どこに出しても恥ずかしくない脳筋がここにいる。そんな春名と圭子は横において、タクミが他の女子たちに声をかける。
「見知らぬ街だから、ひと塊になって絶対にはぐれないように注意するんだぞ。キョロキョロしている空は美咲が手を引いてどこかに行かないように監視してくれ」
「わかりました」
「クックック、我は神の神託があれば何処なりと出向かねばならぬ」
「圭子、何て言っているんだ?」
「好みのムキムキマッチョが現れたらついていくらしいわ」
「いっそのこと放し飼いにしてみようか?」
「さすがに不味いから、タレちゃんは絶対に手を離さないでね」
「はい、任せてください」
ということでひとまずは本日の宿を確保しに向かう一行。乗り合い馬車に同乗した行商人やこの街の住人から色々と情報を聞き出せたので、宿屋が寄り集まっている区域はすぐに見つかる。だが現在この街はダンジョンがもたらすドロップアイテムで沸き返っているせいかどこの宿も満員で断られる。ようやく空き部屋が見つかったのは、この街で一番の高級宿のしかも最上級の部屋。1泊1名様金貨1枚半… 日本円にして4万5千円なりという贅沢な部屋に通される。
「やりましたぁぁぁ! ちょっとしたセレブ気分ですよ~」
「天蓋付きのベッドなんて生まれて初めて見たわ」
「こんな部屋に何泊もしていたら、あっという間に金貨が無くなりそう」
春名は大喜びして、圭子はちょっとビックリという表情。その横では美智香がお金の心配をしている。
「ひとまずは移動の疲れを取ろう。明日からダンジョン攻略に向けて活動開始だから、しっかり睡眠をとっておくんだぞ」
「皆さん、ちょっと見てください! こっちに豪華なお風呂がありますよ~」
タクミが明日以降に向けてのアドバイスを始めるが、春名はそんなこと聞いちゃいない。ひとりでこの部屋の豪華設備を探検して回っている。
こんな調子でこの日は過ぎて、ストレンジャーの面々は食事と風呂を終えると早めに就寝するのだった。
◇◇◇◇◇
翌日、かなりセレブ気分に浸れる朝食を終えると、タクミたちは身支度を整えて早速ギルドに向かう。
このラフィーヌの街はダンジョンから冒険者が持ち帰る様々な品で繁栄しており、そこらじゅうに一攫千金を狙う冒険者たちで溢れ返っている。ギラついた眼で少しでも他の冒険者を出し抜いて自分が高額なドロップ品や宝箱の中の財宝を持ち帰ろうと虎視眈々。
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また、ダンジョンの中でも魔物だけでなく人間が敵になることがあるそう。ダンジョン内では誰がどこで死んだとしても分からないし、パーティーが全滅することも珍しくは無い。
その原因は人と魔物が半々だといわれている。
これらの注意事項をギルド職員から口が酸っぱくなる程聞かされたタクミ達は、とりあえず明日からダンジョンに入る手続きだけして宿に戻ってくる。
「いや~… 簡単に考えてましたけどダンジョンって大変なんですね」
おそらくギルドの職員はこのパーティーに女性が多いことを見て親切心で色々注意したのだろう。その言葉を聞いたせいなのか春名がいつに無く及び腰になっている。
「まあ、ダンジョンがある街っていくのはどこでもこんな感じよね」
「圭子ちゃんは他の世界でダンジョンに入ったんですか?」
「そりゃぁもう、手当たり次第に入ったわよ。ほとんどひとりで12カ所のダンジョンを完全攻略したわ」
圭子が自信満々に胸を張っている。どおりで過去一度しか異世界に行っていない圭子がこれほど強いわけだ。脳筋は往々にして戦いの血が騒ぎだしてバトルジャンキーの道に踏み込んでしまうと聞く。おそらく圭子もその手の人間なのだろう。
この後ギルドでもらった10階層までのマップを元に計画を練る。
このダンジョンは10階層までは下のランクの冒険者に開放されており、かなりの人数が入り込んでいるらしい。
タクミたちは他の冒険者との関わりを可能な限り避けるため出来るだけ最短距離を通って10階層まで行き、そこからは時間を掛けて攻略をしていく方針に決定する。
「美咲、食料のストックはどうだ?」
「1か月は十分に賄えます」
「そうか… となると、最大でも1ヶ月で戻ってこないといけないな」
「私ひとりだったらその半分で攻略を終えるけど、さすがに今回は初心者が多いから慎重に進まないといけないわね。それはそうとして、移動の時や戦闘時のフォーメーションはどうするの?」
「圭子はシロと一緒に先頭を歩いてもらえるか?」
「ええ、いいわよ。シロは私よりも気配に敏感だから、ダンジョンでも役に立ってもらうわ」
「キャン!」
探知犬としての役割を与えられたシロが嬉しそうにシッポを振っている。さすがは異世界からやってきた霊獣だけのことあってなんとも頼もしい。
それから魔物が単独の場合は圭子が前面に出て美咲がそのフォロー。魔物が多数の場合はタクミが前に出て圭子がフォローをするフォーメーションをとることなどを確認する。
色々とケースは考えられるが、圭子、タクミ、美咲のうちのひとりが後方の警戒に当たりつつ非戦闘員を守るような戦闘隊形を具体的にノートに書き出していく。汎用魔法の使い手の美智香は遊軍として適宜戦闘に加わるが、最初のうちはもちろんタクミの指示に従って動くことなども理解を得ていく。春名はしばらくは空と一緒に後方で待機を仰せつかっているが、どうも本人的には不満が残るよう。電撃とレールガンの威力が高すぎるための措置だとわかっていても、本人は早く活躍の場が欲しいらしい。
この日は遅めの昼食を摂ってから、午後は自由時間となる。タクミと美咲が市場に出向いて不足している品がないかと最終確認を行った以外は、他のメンバーは部屋で英気を養いつつ特に何もせずに過ごすのだっ
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