クラスごと異世界に召喚されたんだけど別ルートで転移した俺は気の合う女子たちととある目的のために冒険者生活 勇者が困っていようが助けてやらない

枕崎 削節

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第15話 圭子の本気

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 春名と美智香の魔法訓練が一段落してふと何かを考えこむ仕草を見せるタクミ。その様子に春名が…

「タクミ君、何かありましたか?」

「いや、大したことじゃないんだけど、俺の勝手な思い込みかもしれないが賢者というのは森の奥深くの小屋に長い年月隠れ住んで自己研鑽を重ねてその果てに何かしらの自らの研究成果を得るみたいなイメージなんだ。それが春名の場合はあまりにも自由過ぎるというか… 誰もが想像する賢者像からほど遠いというか…」

「なんだかタクミ君にしては歯切れが悪いですねぇ~。結局のところなにが言いたいんですか?」

「要は春名はあまりにも感覚的過ぎて、自分の人生を懸けて理論や真理を探究しようという普通の賢者とは懸け離れているとタクミは言いたいんだと思う」

「美智香ちゃんもなんだか歯にモノが詰まった言い方でよくわからないですよ~」

「ぶっちゃけて言うと適当過ぎて賢者らしくないということ」

「誰が適当ですかぁぁぁぁ! こう見えてもちゃんとやっているつもりなんですから!」

「そもそも魔法は系統立てた理論に基づいて組み立てられている。そんな代物を感覚だけで取り扱っているといつか痛い目に遭う」

「まあ、その点に関しては美智香ちゃんの言う通りかもしれないですが、私の場合は理論は後からついてくるといいますか… 理論のほうが私に合わせてもらいたいというか…」

「そんなわけあるか! その性根こそが適当過ぎると言われる原因」

 美智香にズバズバ指摘されて春名はこれ以上言い返すことが出来ないよう。このままではどうにもならないのでタクミが割って入る。

「この場はこのくらいにしておこう。春名の魔法スキルがどのように成長していくのかを論じるのは現時点では不確定要素が多すぎる」

「そうですよ! もっと広い心で私の成長を見守ってください」

 タクミが味方に付いたとばかりに急に強気になる春名がいる。この時点で美智香は彼女の根本的な性格が何とかならない限りこの問題は解決しそうにないと悟っているよう。さらに話題を変えようとしてかタクミは…

「そろそろ腹が減ってくる頃だろう。それに魔力の残量も気になるから訓練はこの辺にしておこう」

「確かに魔力のゲージが半分以下になっている」

 ステータス画面を開いた美智香が魔力の残量を確認した上でタクミの言葉を肯定している。

「今日はかなり訓練を頑張りましたからお腹がすきましたよ~」

 春名は何も気にすることなく自分のお腹の減り具合を声にする。この反応だけでいかに両者の性格が正反対なのか想像がついてくる。

「せっかくギルドから依頼を受けているんだから、昼食はホーンラビットをメインにしよう。お~い、圭子!」

「急にどうしたのよ?」

 やや離れた場所で素振りを終えて美咲に剣を振るう際の足捌きを教えていた圭子がこちらにやってくる。もちろん美咲も一緒に。

「そろそろ昼食の時間だから、すまないが圭子はホーンラビットを2羽ほど狩ってきてもらえるか」

「いいけど、私は捌けないわよ」

「解体は俺がやるから心配するな」

「だったら安心。それじゃあチャッチャッと捕まえてくるわね」

 そう言い残して草原のもっと先のほうに向かって駆け出していく圭子。やがて彼女が戻ってくると、草むらに2羽のホーンラビットを置く。どちらも首の骨を一瞬で折られてほぼ即死状態。これから食材となってくれる命に対する圭子のせめてもの思い遣りなのだろう。

 圭子が戻ってくるまでの間にタクミは少し離れた場所に生えている草をナイフで刈りとってから魔法で深さ50セントほどの穴を穿っている。その穴の前で獲れたてのホーンラビットの血抜きをしてから器用に毛皮を剥がして内臓を抜いて、仕上げに部位ごとに切り分けて食材にする部分をトレーに載せていく。2羽合わせて10分程で作業を終えると、トレーをテーブルに置いて美咲に向き直る。

「調理方法は美咲に任せるけど、レモンとバターを使用するのがホーンラビット料理の定番かな」

「わかりました。両方とも昨日市場で買ってありますから大丈夫です」

 タクミからトレーを受け取った美咲はテーブルを調理台代わりにして包丁で手際よく肉を切り分けていく。その他にもニンジンやホウレン草とよく似た葉物野菜を水桶で洗って下処理したり、ひとりでテキパキと動いている。

「ところで誰も美咲を手伝わないのか?」

「私は食べる専門ですから」(春名)

「私が料理をするとなぜか黒焦げの異物が出来上がるのよね」(圭子)

「私が料理すると食材や調味料をグラム単位でキッチリ計るから時間がかかって仕方がない」

 どうやら3名とも料理には不向きな性格らしい。ちなみに空は「全然聞こえません」という表情でガチホモ本の鑑賞に耽っている。ここで圭子が…

「そういうタクミの料理はどうなのよ?」

「俺はもっぱら男の手料理が専門だから見てくれや味付けは大雑把だな」

 それでも抵抗なく口に入る品をまともに作れるだけ女子たちに比べてタクミのほうが何倍もマシだろう。

 やがて出来上がった料理がテーブルに運ばれる。配膳だけは春名と美智香が手伝っているが、圭子についてはこの二人から「何もしないで椅子に座っているように」と厳命されて素直に従っている。どうやら想像以上に圭子と料理というのは相性が悪いらしい。

「スゴイな! まるでレストランで出てくる料理みたいだ」

「短い時間で仕上げたので味のほうはあまり自信ありませんが、皆さんどうぞ召し上がれ」

 各自の目の前に並べられているのは野菜のスープにお馴染みの堅焼きの黒パン、それからメインのホーンラビットのソテー、レモンバターとハーブ風味となっている。付け合わせのニンジンのグラッセとホウレン草も色鮮やかでなんとも食欲を掻き立てる。

 肝心のお味のほうは、もちろん全員が何もしゃべらずに夢中になってナイフとフォークを動かすレベル。あっさりとしたホーンラビットの肉に絡むレモンバターのソースが絶妙で、少量加えてあるハーブがいいアクセントになっている。

「ふぅ~、とっても美味しかったです。タレちゃん、ごちそうさまでした」

「想像以上に旨かった。なんだかすっかり胃袋を掴まれた気分だな」

 春名の感想にはニッコリと微笑んだだけの美咲であったが、タクミの言葉を聞いて頬を赤らめている。何ともわかりやすい反応だが、やはりタクミには美咲の気持ちはまったく伝わっていないよう。しかし彼女は上機嫌で…

「今日は急ぎだったのお料理だけでしたが、次の機会にはもうちょっと時間に余裕を持ったうえでデザートもご用意したいと思います」

「タレちゃん、愛してます! 今からデザートが楽しみで仕方がないですよ~」

 美咲に告っているのは残念ながらタクミではなくて春名。しかもその心の内を正確に分析すると「美咲が創るデザートを愛している」という意味に他ならない。

 しばし休憩を取ってお茶を飲んでいると、食べて間もないというのに圭子がウズウズしだす。

「なんだ、圭子はもう動き出したくなってきたのか?」

「けっこうホーンラビット狩りが面白かったから早くいきたいのよ」

「依頼は5羽以上となっているぞ。ひとりで大丈夫か?」

「もちろんよ、それじゃあ、いってきま~す!」

 そう言い残して一目散に草原の向こう側に駆け出していく。圭子を見送ってから分担して食器を片付けたりテーブルを拭いたりしていると、地面に大きな影を落としながらタクミたちの頭上を巨大な物体が通り過ぎていく。タクミが上空を見上げると翼を広げた巨大な物体が彼らの頭上を悠々と旋回している。

「ワイバーンだ! 圭子、早くこっちに戻ってこい!」

「了解。すぐに戻るわ」

 王都から歩いて高々1時間少々の距離の草原にワイバーンが出没するとは、さすがは異世界というべきだろう。それはともかく、タクミの声を聞いて状況を理解した圭子がこちらに向かって駆け出してくる。その間にタクミは自動小銃を取り出す。

(術式は結界構築、威力は最大、照準はマニュアル)

 魔法陣を確認すると躊躇わずに女子たちが立っている地面に向けて引き金を引く。すると彼女たちを包み込むように防御用の結界が出来上がる。

「そこから出るんじゃないぞ! この場は俺と圭子が何とかする」

「わかりました。どうかご武運を」

 女子たちの中で辛うじて美咲だけが返事をする。他の面々はワイバーンが頭上から襲い掛かってくる恐怖に体が竦んでいるよう。特に一番ビビりの春名に至ってはしゃがみこんで両手で頭を隠している。

 美咲の励ましに見送られて、タクミは圭子と合流すべく草原に駆け出していく。ワイバーンの気配を察知したのか、先程まであれだけ付近を跳ね回っていたホーンラビットは巣穴に隠れて1羽も見当たらない。両者の中間地点で合流を果たしたタクミと圭子は…

「タクミ、春名たちは大丈夫なの?」

「心配いらない。結界で覆ってある」

「良かった、それじゃあ私たちは心置きなく討伐に専念していいのね」

「その通りで構わないんだが、圭子は空を飛んでいる相手に対抗する手段はあるのか?」

 タクミとしては大空をはばたくワイバーンを撃ち落とすのは自分の役目だと考えているが、どうやら圭子には何か秘策があるような雰囲気を感じ取っている。

「当たり前じゃない! 私だってワイバーンの討伐くらいやったことあるわよ」

「そうだったか。それは頼もしいな」

「それでね、あいつはさっき明らかにひとりでいる私を狙っている節があったのよ。だからタクミはちょっと離れた場所から私がしくじった時に備えて援護してもらいたいんだけど、いいかな?」

「いいぞ。ひとつだけ考慮に入れてもらいたい件があるんだが」

「何よ?」

「ワイバーンの飛膜は防水効果が高くて雨除けのマントを誂えるのに最高の素材なんだ。可能な限り飛膜に傷をつけないように討伐できそうか?」

「ふ~ん、そうだったんだ。何度か討伐したけど、そんな細かいこと考えてもいなかったわ」

「冒険者を続ける限りこれから先旅をする機会もあるだろう。雨風を防ぐ装備も用意しておかないと痛い目を見るからな」

「わかったわ。可能な限り傷をつけないようにするわね」

 打ち合わせが済んだところでタクミはチラリと上空を見上げる。相変わらずワイバーンはこちらの様子を窺いながら旋回中。タクミは圭子が立っている場所から50メートル後退して肩に掛けていた自動小銃を手にする。

(弾種は散弾、属性はナシ、威力は最大、照準はマニュアル)

 万が一圭子に危険が迫った際には有無を言わせずに飛竜を地面に叩き落とすつもりで広範囲に魔力弾をバラ撒ける散弾をセレクトしている。迎え撃つ準備が整ったので圭子のほうに目を遣ると、彼女は軽く足を前後に開いてやや腰だめの姿勢で上空を見つめている。

 そしてついにその時がやってくる。タクミが離れて圭子がひとりになったのを目にしたワイバーンは、徐々に高度を落としたかと思ったら突然急降下を開始。そんな敵の様子を捉えた圭子の目はわずかに細められてこちらも迎撃のタイミングを計っているよう。

 双方の距離が急激に縮まって残り500メートルを切ったとき、圭子が宙に向けて両腕をとんでもない勢いで交互に突き始める。繰り返し突き出される両手の動きはさながら某拳王様が放つ百裂拳のごとし。ともかく腕の動きが早すぎてその残像のみが辛うじて視認可能なレベル。

 それだけならまだしも、以前彼女が口にした通りその拳の動きは音速をはるかに超えている。物体が移動する際にその速度が音速を上回ると、高速で押し出された空気が物体の前方で渦を巻き始めてさらに反転、音の波が繰り返し合成していく結果より大きな波動を形成して物理的なエネルギーが生じる。これが衝撃波が生み出されるメカニズム。

 こんな強烈なエネルギーを持つ波動が直撃すると飛行する物体は当然危険に晒される。ただでさえ絶妙はバランスを保ちながら飛行しているところに、胴体だの翼だのところ構わず物理的な高エネルギーの空気の波紋が何十発もまとめて襲い掛かってくる。当たり前のことだがワイバーンは空中で大きくバランスを崩す。ガクンと高度を落としたワイバーンは懸命に翼を動かして浮力を得ようとするが、元々急降下している最中にバランスを崩してしまっては、それはもはや虚しい努力に過ぎない。

 ほぼ墜落同然で地面の草を薙ぎ倒しながら着地したワイバーンは片方の翼は根元から折れてもう二度と空には戻れなくなっている。しかも体全体を強く地面に打ち付けたことによる深刻なダメージもあるよう。

 わずかに首を持ち上げて威嚇のための咆哮をあげようと試みるが、力ない唸り声が出るだけ。もちろんこんなチャンスを圭子が逃すはずもない。全力ダッシュでワイバーンの元に駆け込むと、勢いに任せて首元に飛び蹴りを食らわせる。

 バキッ!

 何かが折れる音が周辺に響くと、ワイバーンは力なくその首を地面に降ろしていく。つい先程までは大地を爛々と見下ろしながら獲物を探していたその目は今では徐々に光を失っていき、最期にはゆっくりと両目が閉じられてワイバーンは息を引き取っていく。

 全長15メートルにも及ぶ巨体の脇でドヤ顔をして立っている圭子。タクミは足早に彼女の側に駆け寄っていく。

「翼は折れちゃっているけど、たぶん飛膜は無事だと思うわ」

「見事としか言いようがない討伐ぶりだったな」

「そりゃぁどうも。まあちょっとだけ本気を出したみただけよ」

「そうだな、圭子の真の力の一端を垣間見させてもらったよ」

 この日は美咲の剛力で驚かされ、春名のよくわからない魔法スキルに唖然としたが、やはり何といっても圭子の本気というのが一番タクミをビックリさせている。それからタクミがワイバーンを、圭子が離れた場所に放置してある20体ちかくのホーンラビットをアイテムボックスに収納して、この日は予定よりも早めに王都への帰路に就くのであった。




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なおこちらの小説と同時に連載しております【異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!】もどうぞよろしくお願いいたします。こちらは現代ファンタジーの作品になりますが、この作品と同等のクオリティーで楽しめる内容となっています。目次のページの左下にジャンプできるアイコンがありますので、お暇な時間にお読みいただけたら幸いです。
 
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