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第14話 春名と美智香の魔法の方向性
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タクミ、春名、美智香の3名は魔法の練習のことなどすっかり忘れて呆然とした表情で美咲の素振りを眺めている。ややあって…
「タ、タレちゃん、スゴイ…」
春名からポツリと呟くような声が聞こえてくる。彼女が特に意識したわけでもないのだが、思わずこんな言葉が口から漏れ出した… そのくらい美咲がもたらしたインパクトは絶大だったよう。
とはいえその呟きは満更ムダではない。なぜなら春名の声を耳にしたタクミが我に返ったから。
「いや、さすがに驚いたな。あんな馬鹿デカい剣を両手に持って振り回すなんて芸当は並の人間には出来ないぞ。美咲って本当に職業はメイドなのか?」
「タクミの目から見てもタレちゃんはスゴイの?」
「スゴイというレベルじゃあないな。途轍もないって感じだ」
美智香の問い掛けにタクミはつくづく感じ入ったような声で答えている。別の言い方をするなら尋常じゃなくヤバいレベルとでもいおうか…
ともあれいつまでも美咲の素振りの様子を眺めているわけにもいかないので、ひとまずタクミが二人に対して魔法のレッスンを開始する。城に滞在していた折にこの二人は何度か図書館に通って、ことに美智香は術式の構文などをノートに書き写している。彼女はそのノートをタクミに見せながら…
「この世界の魔法の呪文は大体こんな具合になっている」
「どれどれ… なるほど、こりゃぁ、ずいぶんと無駄が多い呪文だな」
「無駄とは?」
「まずこの構文の冒頭の部分は魔法を行使するにあたって神だの精霊だのに感謝を捧げるセンテンスになっている。確かにこの文章を挟み込むことによって若干魔法の威力を引き上げることが可能かもしれないが、いってみれば誤差の範囲に過ぎない。こんな長い文章をいちいち口にしていたらそれだけで2~3分を要するだろう。その間に敵から攻撃を受けたら元も子もない」
「なるほど、タクミは大元は魔法使いだったというだけあって魔法についてしっかりと学んでいるのだな」
「学んだというよりも実戦で得た知恵だな。威力よりも発動速度を重視する… これが俺流の魔法に対する哲学でもある。そもそも威力なんてものは経験を積んでレベルが上昇すれば勝手に上昇する。だから威力にこだわるよりも不意打ちにも対応できるレベルまで発動速度を追求していくのがべターだと考えている」
「ふむ、合理的で納得できる理論だ」
美智香はタクミの主張にかなり感心した目を向けている。その隣で聞いている春名はといえば、ほへぇ~という間の抜けた表情で感心しきりという雰囲気。
「実際にタクミはどんな構文で術式を構築しているのか教えてほしい」
「いいだろう。普段は頭の中で組み立てているが、声に出すとこんな感じだ」
タクミはハンドガンを取り出すと右腕に魔力を集中し始める。
「属性は光、威力は極小、照準はマニュアル」
たったこれだけ言い終えると、彼の右手に集まった魔力が小さな魔法陣を形作る。出来上がった魔法陣を確認し終えると、タクミはハンドガンを晴れ渡った青空に向けて引き金を引く。その結果、小さな花火のような閃光が3人の上空で煌めいたかと思ったらあっという間に消え去っていく。
「タクミ君ってなにも気にせずに銃をパンパン撃ち放っていると思っていたんですが、実はちゃんと魔法の呪文を作って使用していたんですねぇ~」
「春名、感心するところはそこではない。たった2秒で術式を構築して撃ち出していいる点にもっと注意を向ける必要がある」
どこかピントがズレている春香に美智香が鋭く切り込んでいる。指摘された春名はケロッとしたままの顔で「なるほど、そういうことか」という雰囲気を醸し出しながら頷く。本当にわかっているのだろうか?
「一度術式さえ構築してしまったら、俺の場合は引き金を引くだけで無限に魔法が発動できるという寸法だ」
「つまり私たちでも構築した魔法を連続で発動可能ということか?」
「もちろんその通り。あとは相手の出方に応じて臨機応変に術式を切り替えていけばいいだけの話だ」
「なんだか簡単そうに聞こえてきました」
「春奈は気楽でいい。そんなレベルになるまでは相応の努力が必要」
いつも通りお気楽な考えの春名と先々を見越して努力の方向性を真剣に考えている美智香との間の温度差がヒドイことになっている。
「さて、魔法に関しての概要は以上だ。これから実践を開始するが、その前にこれを渡しておこう。
タクミはアイテムボックスから取り出した指輪をテーブルに置く。
「タクミ君、いきなり指輪のプレゼントだなんて私も色々と気持ちの準備がありますし、何よりもタレちゃんに申し訳なくって」
「春名、安っぽい勘違いをしている場合ではない。普通に考えればこの指輪はマジックアイテム」
変な方向に勘違いしかけた春名は美智香によって軌道修正させられている。このような場合美咲ならば顔を真っ赤にするのだろうが、脳内お花畑の超天然女子である春名は顔色ひとつ変えずにケロッとしている。
「美智香の言う通り、これは魔法の発動を補助するマジックアイテムだ。指に嵌めてみてくれ」
タクミの言葉に従って二人は指輪を右手に嵌める。
「タクミ君、何も変化がないですよ~」
「当たり前だ! その指輪は体内の魔力を右手に集めやすくする効果があるだけで、突然魔力が上昇するなどという代物じゃない」
「なんだ、ちょっと残念です」
あからさまにガッカリする春名。確かにRPGの世界では身に着けるだけで体力が向上したり魔力がアップするアイテムが存在するが、現実世界ではそうそう都合のいいモノは滅多にお目にかかれない。春名のおトボケにやや機先を削がれたタクミではあるが、気を取り直して話を続ける。
「右手の人差し指を立てて、指先に小さな炎を灯すところから始めるぞ。魔力循環は習ったな。ちゃんとできるようになったか?」
「召喚されて城での最初の講習の時に習った。すでに完璧に習得している」
「えっ、魔力循環って何の話ですか?」
これが学年ナンバーワンの秀才とテスト前までサボった挙句にあわや赤点のお気楽女子の違いなのだろうか。春名のあまりの脳天気ぶりにタクミの表情が歪んでいる。
「美智香は自分で最も適切だと思われる構文を考えて魔法の発動に挑戦してくれ。その際に心の中に描くイメージを大切にするんだ。言葉を選ぶよりも心のイメージをより鮮明にするほうがよりスムーズな発動に繋がりやすい。春名は取り敢えずは魔力循環をマスターするところからだな」
「わかった、やってみる」
美智香はタクミの言葉通りに短いセンテンスの術式で魔法の発動に挑み始める。ひとまず美智香は本人の努力で何とかなるだろうと考えたタクミは春名に向き直る。
「これから俺が春名に魔力を流すから、自分の体内で魔力がどんなふうに流れているのかを感じ取ってくれ」
「いよいよ魔法への第一歩ですよ~。ワクワクしてきました」
いい加減春名の天然具合にだいぶ慣れてきたタクミは彼女の肩に手を置くと魔力の注入を開始。すぐに春名が反応する。
「はぁ~… なんだかとってもいい心地です。肩こりがほぐれてきますねぇ~」
「春名は肩が凝るほど頭を使ってないはず」
「私だってアニメを長時間見れば肩ぐらい凝りますよ」
「やっぱり頭なんか使っていない」
魔法の発動に取り組んでいる美智香が思わずツッコミを入れたくなるセリフを口にする春名がいる。このお気楽さ加減はどうやら底なしのよう。
「どうだ、魔力の流れは掴めてきたか?」
「タクミ君、もうちょっとでわかってきそうです。あっ、そこじゃなくってもう少し首の近くをお願いします」
完全にタクミを整体師扱いしている春名がいる。
そんな春名の様子を呆れた表情で見つつも、美智香は指先に小さな炎を灯すことに成功した模様。予想よりも早く魔法の炎を灯した美智香にタクミは称賛の言葉をあげると共に新たな課題を課していく。
「美智香、中々いい調子だ。他の属性も試してみるんだ」
タクミのアドバイス通りに今度は氷の礫を生み出す美智香。これぞ学年ナンバーワンの本領発揮ともいうべき場面であろう。
美智香が3つ目の属性である水球を指先に浮かべることに成功した頃に、ようやく春名は魔力循環をマスターする。
「いや~、一度覚えてしまったら簡単なもんですねぇ~」
あれだけ手間取らせたにも拘らず、なぜかドヤ顔を決める春名。ちっとも偉くないのに本人だけはすでにイッパシの魔法使い気取りのよう。タクミもこんな天然娘を相手にしてよくぞ気長に付き合ったもの。
「それじゃあ春名も指先に炎を出すところから始めてみようか」
「タクミ君、ちょっと待ってください! 私にはひとつだけ試してみたいことがあるんです」
「なんだ? 危険じゃなければやっていいぞ」
「わかりました」
急に春名が何をおっぱじめるつもりだとタクミと美智香が彼女の様子をガン見している。そんな状況で春名はぶちかましてくれる。
「ふふふ、私はエレクトロマスター! 完全無欠の電撃姫! 放電開始!」
春名は超がつくほどのアニメ好き。どうやら某学園都市にいるレベル5の女子中学生に成り切っているつもりのよう。タクミと美智香は二人して顔を見合わせながら「またバカなことを始めた」と言わんばかりの表情。
だが二人の見立てに反するようになぜか春名の右手に魔力が集まり出してくる。そして…
「ヤッター! できましたよ~」
春名の指先で弱い電流の渦が発生してパチパチと火花を飛ばしている。これにはタクミと美智香もビックリ。
「本当にやりやがった」
「たぶん春名のアニメ好きが高じた結果、脳内にハッキリをしたイメージが再現されたんだと思う」
呆れ顔の両者に対して春名はますますドヤドヤしていく。一旦電流を引っ込めると、タクミと美智香に向かってとんでもないことを言い出す。
「私、今ならできる気がします。次は超電磁砲です」
またまたバカなことを言い始めてと呆れる二人を尻目に、春名はその辺に墜ちている石コロを拾うと右手で放電しながら上空に放り上げる。
パコン!
「痛~い」
だが悲しいかな春名が放り投げた石は頭に落ちてきて涙目になりながらその場で蹲っている。
「春名、ムリはするんじゃないぞ」
「だから言わんこっちゃない」
それ見たことかという表情で春名に言葉をかけるタクミと美智香。だが涙目になりながらも春名は黙ってはいない。
「今のは魔法がどうこうではなくって単純に私の投げる時のコントロールが悪かっただけです。今度こそ成功させますから見ていてください」
再度石コロを拾って立ち上がると、みたび右手で放電開始。そして慎重に石コロを頭よりもちょっと上まで放り投げると、今度は狙い通り電流の渦がビリビリしている指先付近に落ちてくる。そして次の瞬間誰もが目を疑う光景が…
「あれっ、本当に出来ちゃった」
春名の視線の先には放物線を描いて30メートルほど先に落ちていく石コロが。通常の石ならば電流や磁力に対してほとんど無反応なはずだが、今回たまたま春名が拾った石には金属質の成分が多く含有されていたのも幸いしたよう。
「本当に飛ばしたぞ」
「まさかここまでやるとは…」
タクミと美智香がポッカリと口を開いて石コロが飛んで行った方向を見遣っている。
「これで私は必殺の魔法が撃てるようになりましたぁぁぁぁ!」
上空に向かって右手を突き上げる春名。どうやら努力を惜しまない美智香とは違って、彼女は魔法に難しては天才肌なのかもしれない。ステータス画面の職業欄にある〔賢者の卵〕という記載にもある通り、春名は通常の魔法使いとは異なる方向に進んでいく未来を暗に指し示しているよう。
しばらく呆然としていたタクミだったが、時間の経過と共にようやく精神的な立ち直りを見せる。
「その… なんというか、美咲といい春名といい、このパーティーのメンバーには驚かされてばかりだな。同じ魔法系の職業とはいっても、美智香は汎用魔法を極めていくような方向が良さそうだし、春名は特殊な魔法で一点突破を図るようなそんな形で成長していく気がする」
「私もタクミと同感。春名みたいに特殊魔法は使用できなくても、既存の魔法をどんどん自分のモノにしていって戦力になるつもり」
「私もタクミ君の言う通りだと感じています。次はアクセラさんのような反射を覚えて、その次は黒子ちゃんのテレポートですかね~」
どこまでもアニメの世界から離れようとしない春名であった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】やすぐ下にあるハートのアイコンの【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! 皆様の応援を心よりお待ちしております。
なおこちらの小説と同時に連載しております【異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!】もどうぞよろしくお願いいたします。こちらは現代ファンタジーの作品になりますが、この作品と同等のクオリティーで楽しめる内容となっています。目次のページの左下にジャンプできるアイコンがありますので、お暇な時間にお読みいただけたら幸いです。
「タ、タレちゃん、スゴイ…」
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「いや、さすがに驚いたな。あんな馬鹿デカい剣を両手に持って振り回すなんて芸当は並の人間には出来ないぞ。美咲って本当に職業はメイドなのか?」
「タクミの目から見てもタレちゃんはスゴイの?」
「スゴイというレベルじゃあないな。途轍もないって感じだ」
美智香の問い掛けにタクミはつくづく感じ入ったような声で答えている。別の言い方をするなら尋常じゃなくヤバいレベルとでもいおうか…
ともあれいつまでも美咲の素振りの様子を眺めているわけにもいかないので、ひとまずタクミが二人に対して魔法のレッスンを開始する。城に滞在していた折にこの二人は何度か図書館に通って、ことに美智香は術式の構文などをノートに書き写している。彼女はそのノートをタクミに見せながら…
「この世界の魔法の呪文は大体こんな具合になっている」
「どれどれ… なるほど、こりゃぁ、ずいぶんと無駄が多い呪文だな」
「無駄とは?」
「まずこの構文の冒頭の部分は魔法を行使するにあたって神だの精霊だのに感謝を捧げるセンテンスになっている。確かにこの文章を挟み込むことによって若干魔法の威力を引き上げることが可能かもしれないが、いってみれば誤差の範囲に過ぎない。こんな長い文章をいちいち口にしていたらそれだけで2~3分を要するだろう。その間に敵から攻撃を受けたら元も子もない」
「なるほど、タクミは大元は魔法使いだったというだけあって魔法についてしっかりと学んでいるのだな」
「学んだというよりも実戦で得た知恵だな。威力よりも発動速度を重視する… これが俺流の魔法に対する哲学でもある。そもそも威力なんてものは経験を積んでレベルが上昇すれば勝手に上昇する。だから威力にこだわるよりも不意打ちにも対応できるレベルまで発動速度を追求していくのがべターだと考えている」
「ふむ、合理的で納得できる理論だ」
美智香はタクミの主張にかなり感心した目を向けている。その隣で聞いている春名はといえば、ほへぇ~という間の抜けた表情で感心しきりという雰囲気。
「実際にタクミはどんな構文で術式を構築しているのか教えてほしい」
「いいだろう。普段は頭の中で組み立てているが、声に出すとこんな感じだ」
タクミはハンドガンを取り出すと右腕に魔力を集中し始める。
「属性は光、威力は極小、照準はマニュアル」
たったこれだけ言い終えると、彼の右手に集まった魔力が小さな魔法陣を形作る。出来上がった魔法陣を確認し終えると、タクミはハンドガンを晴れ渡った青空に向けて引き金を引く。その結果、小さな花火のような閃光が3人の上空で煌めいたかと思ったらあっという間に消え去っていく。
「タクミ君ってなにも気にせずに銃をパンパン撃ち放っていると思っていたんですが、実はちゃんと魔法の呪文を作って使用していたんですねぇ~」
「春名、感心するところはそこではない。たった2秒で術式を構築して撃ち出していいる点にもっと注意を向ける必要がある」
どこかピントがズレている春香に美智香が鋭く切り込んでいる。指摘された春名はケロッとしたままの顔で「なるほど、そういうことか」という雰囲気を醸し出しながら頷く。本当にわかっているのだろうか?
「一度術式さえ構築してしまったら、俺の場合は引き金を引くだけで無限に魔法が発動できるという寸法だ」
「つまり私たちでも構築した魔法を連続で発動可能ということか?」
「もちろんその通り。あとは相手の出方に応じて臨機応変に術式を切り替えていけばいいだけの話だ」
「なんだか簡単そうに聞こえてきました」
「春奈は気楽でいい。そんなレベルになるまでは相応の努力が必要」
いつも通りお気楽な考えの春名と先々を見越して努力の方向性を真剣に考えている美智香との間の温度差がヒドイことになっている。
「さて、魔法に関しての概要は以上だ。これから実践を開始するが、その前にこれを渡しておこう。
タクミはアイテムボックスから取り出した指輪をテーブルに置く。
「タクミ君、いきなり指輪のプレゼントだなんて私も色々と気持ちの準備がありますし、何よりもタレちゃんに申し訳なくって」
「春名、安っぽい勘違いをしている場合ではない。普通に考えればこの指輪はマジックアイテム」
変な方向に勘違いしかけた春名は美智香によって軌道修正させられている。このような場合美咲ならば顔を真っ赤にするのだろうが、脳内お花畑の超天然女子である春名は顔色ひとつ変えずにケロッとしている。
「美智香の言う通り、これは魔法の発動を補助するマジックアイテムだ。指に嵌めてみてくれ」
タクミの言葉に従って二人は指輪を右手に嵌める。
「タクミ君、何も変化がないですよ~」
「当たり前だ! その指輪は体内の魔力を右手に集めやすくする効果があるだけで、突然魔力が上昇するなどという代物じゃない」
「なんだ、ちょっと残念です」
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「えっ、魔力循環って何の話ですか?」
これが学年ナンバーワンの秀才とテスト前までサボった挙句にあわや赤点のお気楽女子の違いなのだろうか。春名のあまりの脳天気ぶりにタクミの表情が歪んでいる。
「美智香は自分で最も適切だと思われる構文を考えて魔法の発動に挑戦してくれ。その際に心の中に描くイメージを大切にするんだ。言葉を選ぶよりも心のイメージをより鮮明にするほうがよりスムーズな発動に繋がりやすい。春名は取り敢えずは魔力循環をマスターするところからだな」
「わかった、やってみる」
美智香はタクミの言葉通りに短いセンテンスの術式で魔法の発動に挑み始める。ひとまず美智香は本人の努力で何とかなるだろうと考えたタクミは春名に向き直る。
「これから俺が春名に魔力を流すから、自分の体内で魔力がどんなふうに流れているのかを感じ取ってくれ」
「いよいよ魔法への第一歩ですよ~。ワクワクしてきました」
いい加減春名の天然具合にだいぶ慣れてきたタクミは彼女の肩に手を置くと魔力の注入を開始。すぐに春名が反応する。
「はぁ~… なんだかとってもいい心地です。肩こりがほぐれてきますねぇ~」
「春名は肩が凝るほど頭を使ってないはず」
「私だってアニメを長時間見れば肩ぐらい凝りますよ」
「やっぱり頭なんか使っていない」
魔法の発動に取り組んでいる美智香が思わずツッコミを入れたくなるセリフを口にする春名がいる。このお気楽さ加減はどうやら底なしのよう。
「どうだ、魔力の流れは掴めてきたか?」
「タクミ君、もうちょっとでわかってきそうです。あっ、そこじゃなくってもう少し首の近くをお願いします」
完全にタクミを整体師扱いしている春名がいる。
そんな春名の様子を呆れた表情で見つつも、美智香は指先に小さな炎を灯すことに成功した模様。予想よりも早く魔法の炎を灯した美智香にタクミは称賛の言葉をあげると共に新たな課題を課していく。
「美智香、中々いい調子だ。他の属性も試してみるんだ」
タクミのアドバイス通りに今度は氷の礫を生み出す美智香。これぞ学年ナンバーワンの本領発揮ともいうべき場面であろう。
美智香が3つ目の属性である水球を指先に浮かべることに成功した頃に、ようやく春名は魔力循環をマスターする。
「いや~、一度覚えてしまったら簡単なもんですねぇ~」
あれだけ手間取らせたにも拘らず、なぜかドヤ顔を決める春名。ちっとも偉くないのに本人だけはすでにイッパシの魔法使い気取りのよう。タクミもこんな天然娘を相手にしてよくぞ気長に付き合ったもの。
「それじゃあ春名も指先に炎を出すところから始めてみようか」
「タクミ君、ちょっと待ってください! 私にはひとつだけ試してみたいことがあるんです」
「なんだ? 危険じゃなければやっていいぞ」
「わかりました」
急に春名が何をおっぱじめるつもりだとタクミと美智香が彼女の様子をガン見している。そんな状況で春名はぶちかましてくれる。
「ふふふ、私はエレクトロマスター! 完全無欠の電撃姫! 放電開始!」
春名は超がつくほどのアニメ好き。どうやら某学園都市にいるレベル5の女子中学生に成り切っているつもりのよう。タクミと美智香は二人して顔を見合わせながら「またバカなことを始めた」と言わんばかりの表情。
だが二人の見立てに反するようになぜか春名の右手に魔力が集まり出してくる。そして…
「ヤッター! できましたよ~」
春名の指先で弱い電流の渦が発生してパチパチと火花を飛ばしている。これにはタクミと美智香もビックリ。
「本当にやりやがった」
「たぶん春名のアニメ好きが高じた結果、脳内にハッキリをしたイメージが再現されたんだと思う」
呆れ顔の両者に対して春名はますますドヤドヤしていく。一旦電流を引っ込めると、タクミと美智香に向かってとんでもないことを言い出す。
「私、今ならできる気がします。次は超電磁砲です」
またまたバカなことを言い始めてと呆れる二人を尻目に、春名はその辺に墜ちている石コロを拾うと右手で放電しながら上空に放り上げる。
パコン!
「痛~い」
だが悲しいかな春名が放り投げた石は頭に落ちてきて涙目になりながらその場で蹲っている。
「春名、ムリはするんじゃないぞ」
「だから言わんこっちゃない」
それ見たことかという表情で春名に言葉をかけるタクミと美智香。だが涙目になりながらも春名は黙ってはいない。
「今のは魔法がどうこうではなくって単純に私の投げる時のコントロールが悪かっただけです。今度こそ成功させますから見ていてください」
再度石コロを拾って立ち上がると、みたび右手で放電開始。そして慎重に石コロを頭よりもちょっと上まで放り投げると、今度は狙い通り電流の渦がビリビリしている指先付近に落ちてくる。そして次の瞬間誰もが目を疑う光景が…
「あれっ、本当に出来ちゃった」
春名の視線の先には放物線を描いて30メートルほど先に落ちていく石コロが。通常の石ならば電流や磁力に対してほとんど無反応なはずだが、今回たまたま春名が拾った石には金属質の成分が多く含有されていたのも幸いしたよう。
「本当に飛ばしたぞ」
「まさかここまでやるとは…」
タクミと美智香がポッカリと口を開いて石コロが飛んで行った方向を見遣っている。
「これで私は必殺の魔法が撃てるようになりましたぁぁぁぁ!」
上空に向かって右手を突き上げる春名。どうやら努力を惜しまない美智香とは違って、彼女は魔法に難しては天才肌なのかもしれない。ステータス画面の職業欄にある〔賢者の卵〕という記載にもある通り、春名は通常の魔法使いとは異なる方向に進んでいく未来を暗に指し示しているよう。
しばらく呆然としていたタクミだったが、時間の経過と共にようやく精神的な立ち直りを見せる。
「その… なんというか、美咲といい春名といい、このパーティーのメンバーには驚かされてばかりだな。同じ魔法系の職業とはいっても、美智香は汎用魔法を極めていくような方向が良さそうだし、春名は特殊な魔法で一点突破を図るようなそんな形で成長していく気がする」
「私もタクミと同感。春名みたいに特殊魔法は使用できなくても、既存の魔法をどんどん自分のモノにしていって戦力になるつもり」
「私もタクミ君の言う通りだと感じています。次はアクセラさんのような反射を覚えて、その次は黒子ちゃんのテレポートですかね~」
どこまでもアニメの世界から離れようとしない春名であった。
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400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!
果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。
次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった!
しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……?
「ちくしょう! 死んでたまるか!」
カイムは、殺されないために努力することを決める。
そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る!
これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。
本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています
他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります
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異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
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突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
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