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第11話 冒険者登録初日に…
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宿から冒険者ギルドまではさほど時間もかからず、歩いて15分程でタクミたちは石造りの立派な造りがヤケに目立つ冒険者ギルドの前に立っている。内部に足を踏み入れると、そこいら中にいる冒険者たちの不躾な視線が飛んできて、その視線のほとんどはタクミたちを値踏みしているかのようなあまりよろしくないというか友好的ではないと受け取れそうな感情がこもっている。
空いているカウンターがあったので、タクミが受付嬢に近づいていく。
「ようこそ、冒険者ギルドへ」
「冒険者登録をしたいのだが」
「わかりました。個人ですか? それともパーティーでの登録ですか?」
「個人登録と一緒にパーティー登録もしておきたい」
「わかりました。それではこちらの用紙にひとりひとりのお名前と使用武器や適性などを記入していただけますか」
「わかった。そこの台を使わせてもらうぞ」
「はい、どうぞ」
受付の女性は営業スマイルを浮かべて対応してくれる。タクミはカウンターでもらった登録用の書類をメンバーに手渡すと、台上で必要事項の記入を始める。その横では…
「空! 他所の冒険者に見とれていないでさっさと用紙に記入しなさいよ!」
どうやら念願のムキムキ冒険者に出会えたのがことのほか嬉しいようで、空はボディビルダーのような男性冒険者のガタイをガン見して手を動かそうとしない。ついには業を煮やした圭子にほっぺたを引っ張られて涙目になりながらペンを手にしている。
ここで春名が何かに気付いたようで、皆に向かって声をかける。
「そういえばパーティーの名称って決まってましたか?」
「言われてみれば全然考えていなかったわね。空、何かいい案はないの?」
「クックック、我の頭にたった今天啓が下された。薔薇園の騎士がよかろう」
「あなたの欲望がダダ洩れじゃないのよ! 聞いた私がバカだったわ。美智香はどう?」
「よそ者だからストレンジャーでいいと思う」
「なんかいい響きね。みんなは美智香の意見どうかしら?」
「「賛成」」
春名と美咲が賛同したので、このパーティーは正式に〔ストレンジャー〕という名称でギルドに登録される。
以降の登録手続き自体はスムーズに終わって、彼らは晴れてFランクの冒険者に。今日のところは登録カードを受け取ってから大まかな説明を受けるだけにしてギルドを出て行く。
「冒険者ギルドってもっと荒くれ者のイメージがあったのに、皆さん割と常識的な人ばかりでしたね」
春名がにこやかに話し出す。元からファンタジーゲームや小説が好きだったのもあって、冒険者になったことがよほど嬉しいよう。
「ハルハル、どうやらそうでもないから注意しておきなさい!」
圭子が声をひそめて春名に注意を促す。
「気がついていたか、宿を出た時からからつけられている。相手は約10人だ」
タクミがさらに具体的な危険を知らせる。
冒険者ギルドを出てからタクミはさりげなく人の居ない方向にパーティーを誘導している。もちろん圭子はその意図に気がついており、タクミの指示通りの道を進んでまったく通行人の姿が見当たらない路地にやってきている。
「私が前に出ようか?」
タクミに問いかける圭子、その拳にはいつの間にかブラスナックルが装着済み。そんな物で殴ると相手は大怪我では済まないだろうが、圭子はすでに心の中にあるリミッターを外しているよう。
「後ろから援護するから相手が死なない程度にやってくれ。他のメンバーは邪魔にならないように壁に張り付いているんだ」
すでにその手にはハンドガンが握られている。圭子以外の女子を壁際に寄せて、後方にも警戒の目を光らせるタクミ。
「来たよ!」
圭子が告げるとタクミもそれに応えるように警戒を強める。城の騎士たちを呆気ないほど簡単に無力化出来たので、物取りや人攫いを相手にするのはそれほど難しくはないだろうと考えるものの、敵のレベルも分からないうちは警戒を厳にするに越したことはない。
圭子が立ち塞がっている側からいかにもガラの悪い男たちがやってくるのが全員の目に留まる頃、路地の反対側よりタクミの警告が発せられる。
「こちらからも来たようだ、回り込んできたヤツらが5人だ」
襲撃者たちが角を曲がると、そこには彼らからすれば見るからに美味しそうな獲物に過ぎないタクミたちがいる。襲撃者は手にショートソードやナイフなど街中で取り回しやすい武器を持ってニマニマした表情で舌なめずりする。そんな彼らの様子を見るにつけ、どうやらこのような荒事に手馴れた連中らしい。
「ヘッヘッヘッ! 悪いな、わざわざこんな人気のない所まで案内してもらって。お前達に恨みは無いが、金目の物と女はもらっていくぜ」
彼らはタクミ達がほぼ丸腰なので御し易い相手だと思ったのだろう。いかにも性格の捻じ曲がっていそうな笑みを浮かべて近づいてくる。
その頃タクミはといえば…
(属性はナシ、威力は中、照準はマニュアル)
ハンドガンの銃倉にはすでに魔力弾が装填済み。薄ら笑いを浮かべて近づいてくる男たちに容赦なく引き金を引いていく。
ドサ、ドサドサドサドサ!
タクミが5回引き金を引いただけで後方から接近してきた連中は全員地面に這い蹲っている。無属性の魔力弾は暴走していなくてもそれなりに殺傷能力を有する。威力を中に設定したものの、運と当たり処が悪かったら死亡するケースも考えられる。
男たちが動かなくなったのを確認したタクミが圭子のほうに目を向けると…
「そりゃー!」
圭子が襲撃者に襲い掛かっている。それはまさに小羊の群れに肉食獣が飛び掛るような一方的な蹂躙劇のように映る。
彼女のひと突きでひとりのゴロツキが吹き飛び、ひと蹴りで二人が意識を刈り取られる。
なんとか圭子の攻撃を受けずに残った連中は逃げ出そうとするが、右の男はタクミに撃たれて左の男は圭子に後頭部を殴られて昏倒する。
「圭子、すまないが冒険者ギルドに知らせてもらえるか」
「オッケーよ! タクミはしっかり女子を守っててよね」
襲撃者を片付けた疲れなどどこにもないようで、圭子がギルドに走って知らせに行く。この国の街の治安システムがどうなっているのか知らないが、取り敢えず場所が分かっている冒険者ギルドをタクミは選択している。
程なくしてからギルドの職員と警備兵が相次いでやってくる。職員に聞いてみたところ、男達は素行が悪くてギルドを除名になったゴロツキ共で王都全体に煙たがられていたそう。これまでも色々と犯罪行為が疑われたらしいが、証拠が不十分だったり被害者が口を噤んだりして官憲による捕縛の手を逃れていたらしい。そんな彼らが、いいカモがいないかと宿屋の近辺をウロついている際に目に入ったのがタクミたち。一見すると男はタクミだけで、残りは女子5人。タクミひとりを上手いこと片付ければあとはどうにでもなると踏んでの犯行だった模様。
「犯罪者の捕縛に協力してもらって感謝します。この件は報奨金の対象になると同時に依頼達成扱いになりますので、ご面倒でしょうがこのまま一度冒険者ギルでにお越しください」
職員の話で報奨金がもらえると聞いて春名がウキウキし始める。
「美智香ちゃん、どうやらお金が手に入るみたいですから、ここへ是非とも宿屋のグレードアップを」
「私もそうしたいのは山々だけど、定期的に収入が入る目途が立たない限りはムリ」
春名の提案はものの見事に美智香に却下されている。報奨金はともかくとして、ゴロツキどもを叩きのめした件が依頼達成扱いにしてもらえるということはひょっとしたら早めのランクアップに繋がるかもしれない。ということで一行は再度冒険者ギルドへ。
「ギルドマスターの部屋へご案内いたします」
登録初日にギルドマスターに部屋に通されるなど、よほどのことを仕出かさない限りまずそのような機会などお目にかかれない。そんなことはタクミと圭子は百も承知だが、異世界召喚されて間もない他のメンバーにとってはファンタジーの世界そのものが再現されているような感覚。
「美智香ちゃん、まさかのギルドマスターの部屋ですよ~」
「なんだか着実に異世界召喚物語の王道を進んでいるような気がしてならない」
などという会話をしながら階段を上がっていくと、いかにも重々しい造りのドアがあって表示のプレートはここがギルドマスターの部屋だと指し示している。
ノックをして室内に通されると、そこには2メートル近い筋骨隆々で白髪交じりの壮年の男性が出迎える。空の目が光っているのは言うまでもない。
「ようこそ冒険者ギルド王都本部へ! 私はギルドマスターを務めるリチャードだよ。君たちが今日登録したばかりのストレンジャーだね。登録したばかりだというのにとんでもない大手柄じゃないか!」
「いや、俺たちにチョッカイを出すバカに教育してやっただけで、手柄どうこうと言われても困ります」
「そんなに謙遜するものではないよ。実はあの男たちは闇の人身売買組織との繋がりが噂されててね。これまでなかなか証拠がなくって捕まえられなかったんだが、キミたちのおかげで証拠が必要ない現行犯で逮捕できたよ。あとは適当に痛め付けて自供を引き出せば、ヤツらは鉱山奴隷として山奥の炭鉱に送れる」
「はぁ、炭鉱送りですか。厳しいですね」
「タクミ君、炭鉱送りってそんなに重たい罪なんですか?」
何も知らない春名が聞いてくる。
「もちろんだ。1日15時間働かされて食事はほんのわずかな量。平均余命は6~8か月と言われている。実質死刑と変わらない処罰だよ」
「ほへ~、世の中には知らないことがいっぱいあるんですね~」
春名が驚いているが、そんなことはお構いなしでギルドマスターがグイグイくる。
「ガハハハッ! これで王都の治安が多少はよくなるからな。ということでこれは報奨金の金貨30枚だ。受け取れ!」
タクミの目の前に金貨が入った麻袋をグイッと突き付けるリチャード。ここまでされてはタクミとしては受け取るしかない。ちなみにこの国の貨幣価値を日本円に換算すると金貨1枚が3万円、銀貨1枚が3千円、大銅貨1枚が3百円、銅貨1枚が30円程度となっている。
「ああ、それから今回の手柄はクエストランクとしてはかなり高位のモノでな、本来ならばCランク相当の冒険者に依頼するべきなんだよ。それをよりにもよって今日登録したばかりの新人が解決したというのだから、私も頭を悩ませている。さすがに登録したその日にランク昇格というわけにはいかんしな。そこでだ、お前たちのパーティーはあと2件簡単な依頼を達成出来たら、その時点でEランクの冒険者と認定する。ちなみに達成する依頼は薬草摘みでも落とし物探しでもなんでもいいぞ」
「承知しました」
「何はともあれこの冒険者ギルド王都本部は君たちのような有望な若者は大歓迎する。これから先も活躍してくれることを祈っているよ」
「ありがとうございます。期待に応えられるように頑張ります」
今回の手柄に関してタクミたちを絶賛するギルドマスターとあまり注目を浴びたくなさそうなタクミとの間で温度差がヒドイことになっている。ともあれこれで話は終わって、タクミたち一行はギルドマスターの部屋を退出する。
「タクミ君、もしかして私たち依頼を受けて本格的に冒険者デビューですか?」
「そうだなぁ~… せっかくギルドマスターが『あと2件依頼を達成したら昇格』と言っているんだから、何か受けておくのがいいかもしれないな」
ということで全員で掲示板を見に行くとすでに割のいい依頼はすべて別の冒険者が引き受けており、掲示板にはさしてうま味のある依頼は見当たらない。
「精々これくらいかしらねぇ~」
圭子が手に取った依頼書を覗き込む女子たち。
「何々… ホーンラビットの討伐ですって」
「ウサギを捕まえるだけの簡単なお仕事よ」
依頼書を読み上げる春名に圭子が説明を加えている。いや確かに圭子からすれば簡単な仕事なのだろうが、他の女子たちは今日冒険者になったばかりのピカピカの初心者ばかり。
「タクミ、どうせ街の外に出るんだったら、美智香や春名の魔法に関する訓練をやっておいた方がいいんじゃないの?」
この件はタクミとしてもかねがねどうしようかと考えていた課題。魔法が使えそうな二人にはいつまでも守ってもらってばかりではなくて早めに戦力として役立ってもらいたいのは山々なところ。
「そうだな、ホーンラビット狩りのついでに、街の外の広い場所で魔法の練習をやってみるか」
「タクミ君、それは本当ですか?」
「私の魔法をお披露目する時がきたか」
美智香と春名の目がキラキラに輝くのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! 皆様の応援を心よりお待ちしております。
空いているカウンターがあったので、タクミが受付嬢に近づいていく。
「ようこそ、冒険者ギルドへ」
「冒険者登録をしたいのだが」
「わかりました。個人ですか? それともパーティーでの登録ですか?」
「個人登録と一緒にパーティー登録もしておきたい」
「わかりました。それではこちらの用紙にひとりひとりのお名前と使用武器や適性などを記入していただけますか」
「わかった。そこの台を使わせてもらうぞ」
「はい、どうぞ」
受付の女性は営業スマイルを浮かべて対応してくれる。タクミはカウンターでもらった登録用の書類をメンバーに手渡すと、台上で必要事項の記入を始める。その横では…
「空! 他所の冒険者に見とれていないでさっさと用紙に記入しなさいよ!」
どうやら念願のムキムキ冒険者に出会えたのがことのほか嬉しいようで、空はボディビルダーのような男性冒険者のガタイをガン見して手を動かそうとしない。ついには業を煮やした圭子にほっぺたを引っ張られて涙目になりながらペンを手にしている。
ここで春名が何かに気付いたようで、皆に向かって声をかける。
「そういえばパーティーの名称って決まってましたか?」
「言われてみれば全然考えていなかったわね。空、何かいい案はないの?」
「クックック、我の頭にたった今天啓が下された。薔薇園の騎士がよかろう」
「あなたの欲望がダダ洩れじゃないのよ! 聞いた私がバカだったわ。美智香はどう?」
「よそ者だからストレンジャーでいいと思う」
「なんかいい響きね。みんなは美智香の意見どうかしら?」
「「賛成」」
春名と美咲が賛同したので、このパーティーは正式に〔ストレンジャー〕という名称でギルドに登録される。
以降の登録手続き自体はスムーズに終わって、彼らは晴れてFランクの冒険者に。今日のところは登録カードを受け取ってから大まかな説明を受けるだけにしてギルドを出て行く。
「冒険者ギルドってもっと荒くれ者のイメージがあったのに、皆さん割と常識的な人ばかりでしたね」
春名がにこやかに話し出す。元からファンタジーゲームや小説が好きだったのもあって、冒険者になったことがよほど嬉しいよう。
「ハルハル、どうやらそうでもないから注意しておきなさい!」
圭子が声をひそめて春名に注意を促す。
「気がついていたか、宿を出た時からからつけられている。相手は約10人だ」
タクミがさらに具体的な危険を知らせる。
冒険者ギルドを出てからタクミはさりげなく人の居ない方向にパーティーを誘導している。もちろん圭子はその意図に気がついており、タクミの指示通りの道を進んでまったく通行人の姿が見当たらない路地にやってきている。
「私が前に出ようか?」
タクミに問いかける圭子、その拳にはいつの間にかブラスナックルが装着済み。そんな物で殴ると相手は大怪我では済まないだろうが、圭子はすでに心の中にあるリミッターを外しているよう。
「後ろから援護するから相手が死なない程度にやってくれ。他のメンバーは邪魔にならないように壁に張り付いているんだ」
すでにその手にはハンドガンが握られている。圭子以外の女子を壁際に寄せて、後方にも警戒の目を光らせるタクミ。
「来たよ!」
圭子が告げるとタクミもそれに応えるように警戒を強める。城の騎士たちを呆気ないほど簡単に無力化出来たので、物取りや人攫いを相手にするのはそれほど難しくはないだろうと考えるものの、敵のレベルも分からないうちは警戒を厳にするに越したことはない。
圭子が立ち塞がっている側からいかにもガラの悪い男たちがやってくるのが全員の目に留まる頃、路地の反対側よりタクミの警告が発せられる。
「こちらからも来たようだ、回り込んできたヤツらが5人だ」
襲撃者たちが角を曲がると、そこには彼らからすれば見るからに美味しそうな獲物に過ぎないタクミたちがいる。襲撃者は手にショートソードやナイフなど街中で取り回しやすい武器を持ってニマニマした表情で舌なめずりする。そんな彼らの様子を見るにつけ、どうやらこのような荒事に手馴れた連中らしい。
「ヘッヘッヘッ! 悪いな、わざわざこんな人気のない所まで案内してもらって。お前達に恨みは無いが、金目の物と女はもらっていくぜ」
彼らはタクミ達がほぼ丸腰なので御し易い相手だと思ったのだろう。いかにも性格の捻じ曲がっていそうな笑みを浮かべて近づいてくる。
その頃タクミはといえば…
(属性はナシ、威力は中、照準はマニュアル)
ハンドガンの銃倉にはすでに魔力弾が装填済み。薄ら笑いを浮かべて近づいてくる男たちに容赦なく引き金を引いていく。
ドサ、ドサドサドサドサ!
タクミが5回引き金を引いただけで後方から接近してきた連中は全員地面に這い蹲っている。無属性の魔力弾は暴走していなくてもそれなりに殺傷能力を有する。威力を中に設定したものの、運と当たり処が悪かったら死亡するケースも考えられる。
男たちが動かなくなったのを確認したタクミが圭子のほうに目を向けると…
「そりゃー!」
圭子が襲撃者に襲い掛かっている。それはまさに小羊の群れに肉食獣が飛び掛るような一方的な蹂躙劇のように映る。
彼女のひと突きでひとりのゴロツキが吹き飛び、ひと蹴りで二人が意識を刈り取られる。
なんとか圭子の攻撃を受けずに残った連中は逃げ出そうとするが、右の男はタクミに撃たれて左の男は圭子に後頭部を殴られて昏倒する。
「圭子、すまないが冒険者ギルドに知らせてもらえるか」
「オッケーよ! タクミはしっかり女子を守っててよね」
襲撃者を片付けた疲れなどどこにもないようで、圭子がギルドに走って知らせに行く。この国の街の治安システムがどうなっているのか知らないが、取り敢えず場所が分かっている冒険者ギルドをタクミは選択している。
程なくしてからギルドの職員と警備兵が相次いでやってくる。職員に聞いてみたところ、男達は素行が悪くてギルドを除名になったゴロツキ共で王都全体に煙たがられていたそう。これまでも色々と犯罪行為が疑われたらしいが、証拠が不十分だったり被害者が口を噤んだりして官憲による捕縛の手を逃れていたらしい。そんな彼らが、いいカモがいないかと宿屋の近辺をウロついている際に目に入ったのがタクミたち。一見すると男はタクミだけで、残りは女子5人。タクミひとりを上手いこと片付ければあとはどうにでもなると踏んでの犯行だった模様。
「犯罪者の捕縛に協力してもらって感謝します。この件は報奨金の対象になると同時に依頼達成扱いになりますので、ご面倒でしょうがこのまま一度冒険者ギルでにお越しください」
職員の話で報奨金がもらえると聞いて春名がウキウキし始める。
「美智香ちゃん、どうやらお金が手に入るみたいですから、ここへ是非とも宿屋のグレードアップを」
「私もそうしたいのは山々だけど、定期的に収入が入る目途が立たない限りはムリ」
春名の提案はものの見事に美智香に却下されている。報奨金はともかくとして、ゴロツキどもを叩きのめした件が依頼達成扱いにしてもらえるということはひょっとしたら早めのランクアップに繋がるかもしれない。ということで一行は再度冒険者ギルドへ。
「ギルドマスターの部屋へご案内いたします」
登録初日にギルドマスターに部屋に通されるなど、よほどのことを仕出かさない限りまずそのような機会などお目にかかれない。そんなことはタクミと圭子は百も承知だが、異世界召喚されて間もない他のメンバーにとってはファンタジーの世界そのものが再現されているような感覚。
「美智香ちゃん、まさかのギルドマスターの部屋ですよ~」
「なんだか着実に異世界召喚物語の王道を進んでいるような気がしてならない」
などという会話をしながら階段を上がっていくと、いかにも重々しい造りのドアがあって表示のプレートはここがギルドマスターの部屋だと指し示している。
ノックをして室内に通されると、そこには2メートル近い筋骨隆々で白髪交じりの壮年の男性が出迎える。空の目が光っているのは言うまでもない。
「ようこそ冒険者ギルド王都本部へ! 私はギルドマスターを務めるリチャードだよ。君たちが今日登録したばかりのストレンジャーだね。登録したばかりだというのにとんでもない大手柄じゃないか!」
「いや、俺たちにチョッカイを出すバカに教育してやっただけで、手柄どうこうと言われても困ります」
「そんなに謙遜するものではないよ。実はあの男たちは闇の人身売買組織との繋がりが噂されててね。これまでなかなか証拠がなくって捕まえられなかったんだが、キミたちのおかげで証拠が必要ない現行犯で逮捕できたよ。あとは適当に痛め付けて自供を引き出せば、ヤツらは鉱山奴隷として山奥の炭鉱に送れる」
「はぁ、炭鉱送りですか。厳しいですね」
「タクミ君、炭鉱送りってそんなに重たい罪なんですか?」
何も知らない春名が聞いてくる。
「もちろんだ。1日15時間働かされて食事はほんのわずかな量。平均余命は6~8か月と言われている。実質死刑と変わらない処罰だよ」
「ほへ~、世の中には知らないことがいっぱいあるんですね~」
春名が驚いているが、そんなことはお構いなしでギルドマスターがグイグイくる。
「ガハハハッ! これで王都の治安が多少はよくなるからな。ということでこれは報奨金の金貨30枚だ。受け取れ!」
タクミの目の前に金貨が入った麻袋をグイッと突き付けるリチャード。ここまでされてはタクミとしては受け取るしかない。ちなみにこの国の貨幣価値を日本円に換算すると金貨1枚が3万円、銀貨1枚が3千円、大銅貨1枚が3百円、銅貨1枚が30円程度となっている。
「ああ、それから今回の手柄はクエストランクとしてはかなり高位のモノでな、本来ならばCランク相当の冒険者に依頼するべきなんだよ。それをよりにもよって今日登録したばかりの新人が解決したというのだから、私も頭を悩ませている。さすがに登録したその日にランク昇格というわけにはいかんしな。そこでだ、お前たちのパーティーはあと2件簡単な依頼を達成出来たら、その時点でEランクの冒険者と認定する。ちなみに達成する依頼は薬草摘みでも落とし物探しでもなんでもいいぞ」
「承知しました」
「何はともあれこの冒険者ギルド王都本部は君たちのような有望な若者は大歓迎する。これから先も活躍してくれることを祈っているよ」
「ありがとうございます。期待に応えられるように頑張ります」
今回の手柄に関してタクミたちを絶賛するギルドマスターとあまり注目を浴びたくなさそうなタクミとの間で温度差がヒドイことになっている。ともあれこれで話は終わって、タクミたち一行はギルドマスターの部屋を退出する。
「タクミ君、もしかして私たち依頼を受けて本格的に冒険者デビューですか?」
「そうだなぁ~… せっかくギルドマスターが『あと2件依頼を達成したら昇格』と言っているんだから、何か受けておくのがいいかもしれないな」
ということで全員で掲示板を見に行くとすでに割のいい依頼はすべて別の冒険者が引き受けており、掲示板にはさしてうま味のある依頼は見当たらない。
「精々これくらいかしらねぇ~」
圭子が手に取った依頼書を覗き込む女子たち。
「何々… ホーンラビットの討伐ですって」
「ウサギを捕まえるだけの簡単なお仕事よ」
依頼書を読み上げる春名に圭子が説明を加えている。いや確かに圭子からすれば簡単な仕事なのだろうが、他の女子たちは今日冒険者になったばかりのピカピカの初心者ばかり。
「タクミ、どうせ街の外に出るんだったら、美智香や春名の魔法に関する訓練をやっておいた方がいいんじゃないの?」
この件はタクミとしてもかねがねどうしようかと考えていた課題。魔法が使えそうな二人にはいつまでも守ってもらってばかりではなくて早めに戦力として役立ってもらいたいのは山々なところ。
「そうだな、ホーンラビット狩りのついでに、街の外の広い場所で魔法の練習をやってみるか」
「タクミ君、それは本当ですか?」
「私の魔法をお披露目する時がきたか」
美智香と春名の目がキラキラに輝くのであった。
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