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第6話 いきなりクライマックスイベント?

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 ひとまずパーティー内の話し合いを終えたタクミたちはそれぞれ本日の訓練並びに学習へと向かおうとしたその時、訓練場内に一台の馬車と合計20名ほどの完全武装の騎士たちがやってくる。

(あれは宮殿の内部にいた騎士たちか?)

 こちらの訓練場で見掛ける騎士たちよりもはるかに豪華に飾り立てた金属製の鎧を全身にまとうその姿にタクミは見覚えがある。この一団は王宮の内部の警備を務める国王や王太子の親衛隊にあたる騎士であろう。タクミの目には昨夜忍び込んだ際に宮殿の出入り口を見張っていた者たちと同様の姿に映っている。

 騎士たちは豪奢な馬車の左右に並ぶと、その中の隊長と思しき人物が大声を張り上げる。

「栄誉ある我がコーネリア王国に召喚された勇者たちよ、光栄に思うがよいぞ。我が国の摂政にして王太子殿下であらされるナダール様が貴様らの訓練に興味を示されて直々にその尊き御身をこの場にお運びになられた。すぐに馬車の前に集まって心より敬意を込めて殿下に忠誠を示すのだ」

 よくぞこんなボリュームが出せるものだと感心するような大音声が訓練場内に響き渡る。ずいぶんな上から目線で呼ばれているのはタクミとしてはむかっ腹が立つ思いではあるが、まあ仕方がないかと諦めつつメンバーたちに歩を合わせて馬車の前に集合する。もちろん他のクラスメートたちもゾロゾロとやってくるが、滅多にない王太子のご臨席と聞きつけた騎士団の面々も訓練場の遠い場所や兵舎から転がり出てくるように集まってくる。

 やや時間があって馬車の前に生徒や騎士団が全員が集合したのを見て隊長が合図を送ると、馬車の扉が開いて中から王太子と王女が訓練場に降り立つ。

「皆の者、王太子殿下と王女殿下に忠誠の礼を捧げよ!」

 隊長の声に騎士たちは一斉に右手を胸にあてて地面に片膝をつく。だがこの世界にやってきたばかりの生徒たちは何のことやらサッパリわかっておらずその場に突っ立ったまま。

「ええい、この無礼者たちが! 忠誠を捧げる礼も出来ぬのか!」

 額に青筋を立てながら隊長が怒鳴りつけるが、生徒たちは戸惑いの表情を浮かべるばかり。この世界の儀礼など何も聞かされていないのだからわからないものはわからないという態度しか取りようがない。

 だがここで王太子が隊長を手で制して口を開く。

「異なる世界からわざわざこのコーネリア王国にやってきた勇者殿とその仲間たちよ、余はこの国の王太子であるナダールと申す。そなたらは我が国のために働いてもらえると聞いておるゆえ、しっかりと自らの技を磨いて来るべく魔王との戦いに備えてもらいたい」

 王太子の企みを知っているタクミとしては反吐が出る思い。いくら耳障りのいい言葉を並べ立てても何の躊躇いもなく公爵を暗殺するような人間を信用できるはずがない。

 だがタクミの意識の大半は王太子ではなくてその隣に控えている王女に向けられている。相変わらずの無表情なその顔面の下にはなんとも表現のしようもないいやなモノが隠されているような気がしてならない。そのままタクミが王女を注視していると、不意に彼女の視線がタクミに向けられるのを感じる。

(ほう、中々勘がいいな。俺の視線に気づいたか)

 これだけ大勢の人間が居並ぶ中でピンポイントで探し当てるとは、タクミとしては正直予想外。と同時にもう一段階王女に対する警戒心を引き上げている。これまで2度に渡る異世界召喚の際に自分の直感を信じて行動した結果何度も命拾いをしてきた。そういう経験があるだけにタクミは今感じている直感を素直に信じている。

 タクミが王女に視線を向けている間、王太子はひとしきり演説をぶっている。内容は特に聞いていなくてもどうでもいいこの国の自慢話に終始している。やがて満足したようでナダールは演説を終える。それからいかにも下心がありそうな目で生徒たちを右から左に見渡してから隊長にそっと耳打ち。彼の言葉に小さく頷いた隊長が部下に何かを告げると、5名の騎士が列を離れて生徒たちが居並ぶ方へ歩いてくる。

 そのまま騎士たちは昨日タクミが第一次接近遭遇を果たした美咲を取り囲むと、左右から彼女の腕を取って連れ出そうとする。

「キャー! ヤメてください!」

「急に何をするんだ!」

「乱暴はヤメて手を離しなさいよ!」

 突然の出来事に美咲は恐怖と困惑の混ざった悲鳴を上げ、彼女のパーティーメンバーは抗議の声を発している。だがその声など一切構うことなく騎士は美咲を連れていこうとする。

「貴様ら、これ以上騒ぐな! この女は王太子殿下の特別なご高配によってしばらくの間夜伽のお相手に指名されたのだ。殿下にお相手いただくなどということは天から降ってきたような身に余る幸運だと覚えよ」

「ジャマ立てすると容赦はせぬぞ!」

 連れ出されようとする美咲とパーティーメンバーの間に割り込んで3名の騎士が威嚇のためか腰の剣を引き抜いている。まだ朝のうちだというのに、この場で公然とわいせつ目的の誘拐事案が発生という驚くべき状況。

「タクミ、もちろんタレちゃんを助けるわよね?」

「圭子は手始めに3人並んで威嚇している連中を倒してもらえるか。あとは俺ひとりでやる。彼女を助け出したらクラスメートたちを安全な場所に避難させてくれ。とにかくこの場からできるだけ遠ざかるんだ」

「本当にひとりで大丈夫なの?」

「心配するな。近くにいると巻き添えを食らうから、ともかく遠くに離れていてくれ」

「わかったわ」

「よし、いくぞ」

 ということで行動を開始するタクミと圭子。まずはタクミが突風のような速度で美咲を連れ出そうとする騎士の背後に接近。彼女を拘束する腕に向けて手刀を1発お見舞いする。

「ギャァァァァァ!」

 一見軽く打ち込んだ手刀のように見えるが、タクミの攻撃力は999999のカンスト状態。頑丈な金属製の鎧がべコリとヘコんで腕がダラリと垂れ下がっている。おそらく鎧の内部で二の腕の部分が折れているだろう。美咲を手放したと見るやタクミはその騎士に向けてヤクザキック。5メートルほど宙を舞った騎士は地面に打ち付けられて動かなくなる。まさかこのような苛烈な反抗があるとは思わずに完全に油断しきっていたもうひとりの騎士も同様に吹っ飛ばして、タクミは美咲の身柄確保に成功する。

 相棒の圭子はどうかとタクミが目を遣ると、剣を持った騎士たちに横合いから蹴り技を炸裂させて3人まとめて吹っ飛ばしたかと思ったら、今度はひとりずつサッカーボールキックをお見舞いしている最中。


(たぶんアレ、死んでるぞ)

 金属製の兜を被っているにも拘らず、騎士たちの首が変な方向に曲がっているのが何よりの証拠。むしろ異世界召喚経験者の圭子がクラスメートの危機に際して怒りに任せて暴れたら、このような結果になるほうが自然な成り行きであろう。

「圭子、美咲を頼む」

「オーケー! こっちは片付いたわ。タレちゃん、私と一緒に来て!」

「は、はい」

 美咲の手を引きながら圭子は生徒全員に呼び掛ける。

「すぐにこの場を離れるわよ! 全員こっちに走って!」

 さすがは小学生入学前から避難訓練で培った日本人の危機意識。生徒たちは一糸乱れない統率ぶりで圭子の後に続いていく。息が続く限り走って訓練場の反対側の壁までやってくると、圭子は立ち止まってパーティーごとに点呼をとる。

「全員無事なようね」

「圭子ちゃん、危ないところをありがとうございました」

「タレちゃん、気にしないで。無事でよかったわ」

「でも安西君があっちに取り残されています」

「ああ、あいつなら心配いらないって本人が言ってたから大丈夫でしょう」

「で、でも万一何かあったら…」

「まあいいから、タレちゃんはここで見ているといいわよ」

「ほんとうに大丈夫なんでしょうか。私のために安西君に何かあったらどうしよう…」

 無事に生徒たちの避難が完了してひと安心の圭子とタクミが心配でたまらない表情の美咲。彼女たちだけではなくて他の生徒たちも先行きがどうなるのか不安そうに遠くに置かれている馬車の周囲に視線を送るのだった。





   ◇◇◇◇◇





 一方その頃、コーネリア王国の騎士たちに取り囲まれた状態のタクミといえば…

「ええい、何をしておるかぁぁぁ! 殿下に手向いいたす不埒者を早く捕えよ! この際殺しても構わん。殿下に逆らうとどういう目に遭うか思い知らせてやるのだぁぁ!」

 タクミと圭子にいいようにやられて相当立腹している様子の隊長が配下に命令を下すと、抜剣した騎士たちが一斉にタクミが立つ方向に向かって距離を詰めにかかる。

 対するタクミはアイテムボックスから2丁のハンドガンを取り出している。

(属性は雷、威力は通常の10分の1、照準はマニュアル)

 左右の手に持つハンドガンに魔法陣が浮かび上がって消えるとセット完了。タクミは接近してくる騎士たちに向かって容赦なく引き金を引いていく。通常の銃のような乾いた発砲音はなくてエアガンのような高圧の空気によって押し出されていくシュという音を立てて次々と魔力弾が発射されていく。それだけではなくて銃口から飛び出した魔力弾は電気を帯びて騎士に向かって宙を飛翔する。

 そして音もなく騎士たちが身にまとう金属鎧に着弾した途端に魔力弾が帯びている電気エネルギーを解放。全身にくまなく電気が流れたおかげで騎士たちは声を発する間もなくバタバタと倒れていく。

「なんだと! 相手は魔法使いか?!」

 隊長が目を見開いている。どうやらタクミひとりによって配下が全滅させられたという結果を受け止められないよう。

「なんということだ! このままでは王太子親衛騎士団の名折れ。そこの騎士共、全員でこの不埒者をなんとかするのだ!」

 すでに配下が全滅しているので名折れも何もないだろうに、隊長は顔を真っ赤にして今度は王都守備隊の騎士団にタクミの捕縛命令を出している。本来は越権行為なのだが、王太子が頷いている以上守備騎士団は従わざるを得ない。

「いいのか? ここから先は本格的な戦争になるぞ」

「やかましいわ! 多少魔法が使えるからといっていい気になりおって! この人数を相手にしたら、いかなる魔法使いといえども手も足も出まい。一斉に掛かるのだ!」

 命令を受けた守備騎士団が剣を抜いて動き出す。だが彼らが動き始めるのを待つ義理などないとばかりにタクミはすでに次の行動に移っている。ハンドガンは一旦アイテムボックスに仕舞って、新たに取り出したのは2丁のサブマシンガン。彼のアイテムボックスには一体どれだけの銃が仕舞ってあるのか、ちょっと不思議に思えてくる。

(属性は氷、威力は通常、照準はオート)

 こちらの騎士団は王太子親衛騎士団とは違って訓練用の革鎧を着用している。よってタクミは先程の雷属性よりも物理的な威力がある氷属性を選択している。

「それじゃあ遠慮なくブッ放すぜ!」

 引き金を引くと毎分300発の氷弾が銃口から吐き出される。そんな破壊的性能のサブマシンガンを両手持ちということは毎分600発。こんなにも大量の氷の弾丸を浴びせられては騎士たちは堪ったものではない。やや腰を落とし気味に構えて体を左右に動かすタクミの動きに合わせて1秒ごとに小隊規模の騎士たちが地面に横たわっていく。ステータスにあった〔すべてを超越する戦士〕という職業や〔神殺し〕という物騒な称号も自然と頷けてくる。

 そしてタクミが引き金から指を離した時には、その場に立っている騎士はひとりもいなくなっている。シーンと静まり返った訓練場でタクミが振り返ると、そこには口をパクパクして声も出せない隊長と王太子ナダールの姿。

 サブマシンガンを仕舞い込んで再びハンドガンに持ち替えたタクミは二人に銃口を向けながらゆっくりと近づいていく。

「ち、近寄るな! この死神め!」

「無礼者が! 余はコーネリア王国の王太子なるぞ! これまでの無礼は水に流すゆえに、それ以上近付くでない」

 タクミに向かって喚き立てる隊長と王太子ではあるが、彼らの希望をタクミが聞き届けなければならない理由などどこにもない。

「ゴチャゴチャうるさいんだよ! 静かに寝ていろ!」

 タクミが手刀を振るうと両者は仲良く地面に崩れ落ちていく。まあここまでは美咲に対して狼藉を働いた天罰といえよう。タクミが視線を移すと、そこには相変わらず無表情のままで王女が立っている。

「気に入らないな。これだけの戦闘シーンを目撃しておきながら、お前の目の光には一片の怯えも感じられない。一体何者だ?」

「私はコーネリア王国の王女ヒルデクライン」

 彼女の口から発せられる音声はまるで機械で合成したような響きを含んでいる。

「どうやら人間じゃないようだな」

 タクミはアイテムボックスから取り出したガラス製の小瓶を宙に放り投げると、そのビンが王女の頭上に達したタイミングでハンドガンを1発だけ発砲。銃弾はものの見事に小瓶に命中して中に入っていた液体が小さなシャワーのように王女の体に降りかかる。

「ギャァァァァァ!」

「違う世界の聖水を浴びた気分はどうだ?」

 余裕の表情で王女を眺めているタクミ。やがて王女の体の表面がドロドロと溶けていくと、脱皮をしたように皮膚の下から別の生物が姿を現す。

「これがお前の正体か。今まで人間の間に紛れ込んでいてよくもまあバレなかったものだな。見掛けはサキュパスに似ているようだが、どの道人間に仇なす存在なんだろう」

「まさか下等な人間を相手にして妾が本来の姿を晒さねばならぬとは思ってもみなかった。そこなる下種な人間よ、よく聞くがいい。妾はこの世界を支配する偉大なる神に仕える黒精霊。この国の王女に化けて周辺の国々に戦禍を撒き散らそうという我が神の御意志であったが、たったひとりの人間に阻まれるとは何たる不覚。この期に及んではそなたの命を奪ってせめてもの慰めとしてくれよう」

 ちなみにこの世界の宗教観では善と悪の二元論というのが主流。人間を導いて環境を整えながら秩序を保つ善神に仕える白精霊… 地球でいえば天使に相当する存在がいるかと思えば、その反対に悪神に仕える黒精霊もいる。言ってみればこちらは悪魔に相当するだろう。

 タクミに向かって憎々しげな眼差しを向ける黒精霊。異世界に召喚されて3日目だというのに、タクミにとってもかなりの難敵を迎えている。この黒精霊から受ける圧力は最初の召喚の折にラスボスとして登場した邪神の配下にいた堕天使と同等。

(いきなりクライマックスイベントかよ。ツイていないぜ)

 とはいってもこのような経験はこれまで2度の異世界召喚において掃いて捨てるほどある。完全な本気モードになったタクミと黒精霊の戦いがいよいよここに火蓋を切って落とすのだった。



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