異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

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第65話 深部攻略 2

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 一夜明けて、パーティーメンバーは近くにある泉で歯を磨いて顔を洗っている。こうして水場があるのは、ダンジョン攻略に当たっては非常に助かる。もちろんポリタンクに入れた大量の水を準備してはいるものの、量に限りがある以上は節約するに越したことはない。

 服を着替えて朝食を取ってから、いよいよフィールドエリアの攻略に動き出す。とはいえ、ダンジョンとしてはあり得ないほどの広大な空間が広がっているこの階層では、これまでのような通路に当たるものは存在しない。どこをどう歩けば下の階層に向かう手掛かりが掴めるのか、今のところは皆目見当が付かない。


「まずはこのエリアの東側に向かってみましょう」

 こうなったら桜の勘に頼るしかないので、自信満々で指さす方向に向かって歩き出していく。しばらく進んでいくと、彼方の草原に黒い点が群れを成して移動している様子が目に入ってくる。


「あれはロングホーンブルのようですねぇ~。ほら、伊豆でステーキにして食べたお肉ですわ」

「ああ、あのステーキは美味しかったわね。桜ちゃんなんか3回もお代わりしていたし」

 桜の指摘で伊豆のバーベキュー大会を思い出した美鈴。彼女が調理担当だったので強く印象に残っているよう。


「桜ちゃん、どうするんですか?」

 明日香ちゃんはまだ遠くにいる魔物をどうするのか思案顔。距離にして3キロほど離れているので、わざわざそちらへ向かうのもどうだかという表情を浮かべる。


「お兄様、その辺に適当にファイアーボールを放ってもらえますか」

「いいぞ」

 聡史が草原に1発ファイアーボールを放つと、その炸裂音に過敏に反応したロングホーンブルが一斉にこちらに向かって走り出す。物音を聞きつけると敵がいると判断して群れで向かってくる習性があるのがこの魔物の特徴。獰猛な息遣いと草原に鳴り響く蹄の音を轟かせながら、合計30頭以上のロングホーンブルが次第に迫ってくる。


「さ、桜ちゃん、なんだか凄い勢いでこっちに来ますよ~。どうするんですか?」

「明日香ちゃん、私に任せてくださいませ。もうちょっと引き付けてから一撃で仕留めますわ」

 不安を露にする明日香ちゃんとは対照的に桜は至って余裕の表情。やがて真っ黒で軽自動車よりも大きな体格のロングホーンブルが、左右に張り出した1メートル以上はある角を振りかざしながら土煙を上げて迫ってくる。

 いよいよ群れが近づいてきた様子に桜はニンマリしながらやや腰を落とし加減で半身の姿勢をとる。どうやら例のアレで仕留めるつもりらしい。


「太極破ぁぁぁぁ!」

 ゴゴゴォォォォ!

 桜の手の平から草原にこだまする勢いで闘気が飛び出していく。

 ズッパアアアアアン!

 太極破は草原に巨大なクレーターを作り上げながら大爆発。濛々と沸き起こる土煙と上空に高く上るキノコ雲がその爆発の勢いを物語っている。


「さ、桜ちゃん、腰が抜けましたよ~」

 またまた明日香ちゃんは爆発の勢いに驚いて後ろに引っ繰り返っている。その姿に桜は大笑いし掛けたが、原因が自分にあったとやや反省気味に手を貸して明日香ちゃんを助け起こす。


「桜ちゃん、なんて威力なのよ! ビックリしたじゃないの!」

「美鈴ちゃん、広い場所なので遠慮なくぶっ放してみました」

 周囲には壊れる物が何もないので、桜は威力高目で打ち出したよう。その結果がこの大爆発と深さ2メートルに及ぶクレーターとなっている。


「さあさあ、肉を回収しましょう。今夜はステーキ大会ですよぉぉぉ!」

 ロングホーンブルの群れが一瞬で全滅した場所に向かって桜が駆け出していく。上質な肉の他に角なども落ちており、桜はひとりでせっせと拾い集めてあっという間に戻ってくる。拾ったそばからアイテムボックスに放り込んでいくので戻ってきた姿は相変わらず手ぶらのまま。


「桜ちゃんは本当に便利にできていますよね」

 その様子を見ているカレンはほとほと感心している。こんな便利な人間はパーティーにぜひとも一人ほしいと考えている。だが二人目をどうするかと聞かれたら、カレンは躊躇なく断る可能性が高い。さすがに桜が二人もいたらパーティー全体の収拾がつかないであろう。


 フィールドエリアは動物系の魔物が出現するよう。ロングホーンブルの他にはホーンシープやワイルドウルフなど、群れを成して襲い掛かってくる魔物が多く見受けられる。ホーンシープのドロップアイテムは高級羊毛と肉が半々で、ワイルドウルフは毛皮と魔石が半々といった具合。どうやらそこそこいい値段で買い取ってもらえそうな予感がしてくる。

 視界の悪い森を歩くのは時間がかかるので今回は避けて見通しのいい草原を進んでいく。桜の勘を頼りに東へ1時間ほど進んでいくと、地平線の先に高い塔が見えてくる。周辺には他に建造物が見当たらないので、どうやらそこは他の階層に向かう目印のよう。

 さらに1時間歩いていくと塔の入り口に到着する。どうやらダンジョンを知り尽くしている桜の勘が的中した模様。


「桜ちゃんは凄いですね。こんな広い場所で簡単に目的地を見つけ出しましたよ~」

「明日香ちゃん、もっと私を誉めていいんですよ。明日香ちゃんは常日頃から私に対する尊敬の気持ちを持たないといけませんから」

「お言葉ですが、桜ちゃん。それは尊敬されるような行いをしてから言ってください」

 明日香ちゃん的には桜に対する尊敬度は限りなくゼロに近いよう。色々と酷い目に遭っているだけに、尊敬とは程遠い存在と見做しているに違いない。

 塔の入り口には大きな扉があって、特にカギがかかっている様子はない。内部に踏み込んでみると、そこにはボスの存在なども見当たらずに単に下へ降りていく階段あるだけで、やや拍子抜けした桜の姿がある。


「はぁ~、階層ボスでもいないかと期待したのですが…」

「なんで桜ちゃんはそこまで好戦的なんですかぁぁ! 安全が一番いいんですよ~」

「まったく、これだから明日香ちゃんはまだまだなんですわ。ダンジョンの真の醍醐味がわかっていませんねぇ~」

「そんなものは知りたくありませんからぁぁ!」

 水と油のような二人の性格、よくこれで長年友達としてやっていけるものだ。

 本当はもっとこのフィールドを事細かに探索したいところではあるが、周辺全てのエリアを回りきるには最低でも5日程度必要。今回は2泊3日と時間が限られているので、已む無く下の階層へと向かっていく。


 桜を先頭にして階段を降りていくと、当然次の13階層へと降り立つ。広々としたフィールドとは打って変わって、再び石造りの壁に囲まれた通路が続くダンジョンへと戻ってくる。しばらく広い場所に慣れた身にとっては、石造りの閉ざされた空間というのは一種の圧迫感を感じてしまう。


「この階層はどんな魔物が出てくるのかしら?」

「美鈴、通路をよく観察してみるんだ。上の階層よりも幅と天井が広くなっているだろう。ということは、それなりに大型の魔物が出現すると考えて間違いない」

「聡史さんは何でもよく知っていますね。もっと色々と教えてください」

「カレン、それはちょっと違うな。教えてもらうんじゃなくて自分で発見するんだ。そのほうが身に着くからな」

「はい、わかりました」

 聡史は中々厳しい。質問には答えるが、手取り足取り教えるような甘やかしはしない方針。まずは自分で経験してその中から学び取れと言っている。そしてカレンもその考え方を素直に受け入れている。

 しばらく歩いていると、桜が気配に気づく。


「足音からして人型の大きな魔物ですわ。おそらくオーガではないでしょうか」

「オーガって、あの鬼のような姿をしている魔物かしら?」

「そうですわ。かなり狂暴で魔法が効きにくいですから注意してください」

 桜の話が終わったちょうどのタイミングで、曲がり角の向こう側から体高2.5メートルはありそうなオーガが現れる。獲物はいないかと煌々と目を輝かせて、聡史たちの姿を発見するや否や手にする棍棒を振り上げて咆哮を上げる。

 グオォォォォ!

 オーガの咆哮、それはレベルが低い人間であればそれだけで体が竦んで身動きが取れなくなる恐ろしいもの。だがこのパーティーのメンバーは精神値が全員それなりに高いので、誰一人として動じる者はいない。


「それでは、私が見本を見せますわ」

 最初に動き出したのは桜。身軽な動きで正面からオーガの巨体に突っ込んでいく。対するオーガは接近してくる桜目掛けてその怪力に物を言わせて棍棒を振り下ろす。

 ガキーン!

 桜がアッパー気味に振り上げたオリハルコンの籠手と、オーガの怪力で振るわれた棍棒が正面から激突する。その結果、桜の拳が棍棒を見事に打ち砕いている。

 相手の得物を砕いた桜は、その勢いに任せてオーガの懐へと入り込む。対してオーガは反対側の拳を桜に向けて振り下ろす。

 ドッパァァァン!

 桜が打ち出した正拳が圧倒的に早くオーガの腹部を捉える。軽く放ったように見えてもそこはレベル600オーバーの一撃、オーガの体ごと吹き飛ばす。


「ふふふ、桜様の前に立ちはだかるにはオーガごときでは力不足ですわ」

 桜がドヤ顔を決めている。

 対して水平方向に50メートル飛んで石の床に顔面から着地したオーガは、まるで顔をおろし金で削られていくかのように、華麗に顔面スライディングを決めている。ようやく停止した時には、首があり得ない角度で曲がってしまったよう。息絶えたオーガの様子を確認した桜はパーティーメンバーに振り返る。


「こんな具合でオーガは倒せますの」

「「「出来るかぁぁぁぁぁ!」」」

 いつものように、美鈴、明日香ちゃん、カレンの声が、見事なユニゾンを奏でるのであった。

 

 またまたしばらく歩いていると、今度はシルバーウルフ3体の群れが現れる。唸り声をあげながら迫りくるオオカミのトリオはやや時間差をつけて襲い掛かろうと前後に並んで獰猛な牙を剥き出しにしている。


「桜ちゃん、なんだか走ってくるスピードが段違いですよ~。3体一度に対処なんて出来ません」

 これには明日香ちゃんもお手上げのよう。


「仕方がないですねぇ~。軽く私が手本を見せますから、次からは明日香ちゃんが頑張るんですよ」

 と言いつつ、桜はシルバーウルフを上回る速度で前進していく。そしてその勢いのまま3体まとめて体当たりで撥ね飛ばす。その光景はまるでボーリングでもしているかのよう。


「こんな具合でシルバーウルフは倒せますわ」

「出来るかぁぁぁぁぁ!」

 今度は明日香ちゃんひとりの声が通路に響き渡るのだった。



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