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第51話 魔法の対戦
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バキッ! ボコ!
「うう、まいった!」
「そこまでぇぇ! 勝者、青!」
模擬戦の試合で勝敗がついて、敗者が肩を落として控室へ戻っていく。
ドカッ! バキッ!
「うーん、もう動けないぃぃ!」
「そこまでぇぇ! 勝者、青!」
またまた勝負が決する。勝者は当然の表情で負かした相手を見下ろしている。
「チクショウ! あれだけ訓練したのに、勝てないなんて……」
「やっぱり、Aクラスの壁は厚いのか」
トーナメントが進むにつれて勝者と敗者が次々に生まれていく。そして勝つ側はAクラスで、負けるのはEクラスの生徒という当たり前の結果が生まれている。大半のEクラス生徒は諦めた表情で結果を受け入れているが、そんな中でも悔しがっているのは聡史らと一緒に自主練をしている連中。確かに彼らは、聡史が認めるように剣の腕を上げている。だが同様に他のクラスの生徒も日々剣や槍の技術を向上させているので、その差はなかなか埋まらない。
平均レベル9~10のAクラスと7~8のEクラスでは気合と根性だけでは乗り越えられない壁が存在する。だが、ついに奇跡が起きる。
「勝者、赤!」
「やったぜぇぇ!」
なんと頼朝がBクラスの生徒を下している。比較的相手に恵まれたとはいえ、これはEクラスにとっては途轍もない快挙。すでに敗退した生徒たちが、控室から出てくる頼朝を出迎えようと外で待ち構えている。なぜか背後からどす黒いオーラを吹き出しながら…
そして頼朝が出てくると、彼らは一斉に取り囲む。
「頼朝! ついにやったな!」
「お前はやってくれると信じていたぜ!」
手荒い祝福の雨で取り囲んだ生徒が頼朝の背中や肩をバシバシ叩く。
「このヤロウ! いい格好しやがって!」
「チクショウめ! ひとりだけ勝ちやがったな!」
次第にどす黒いオーラが広がって、なぜか取り囲んでいる生徒たちの口調が次第に荒っぽくなっていく。
「自分だけモテようたって、そうはいかねえぞ!」
「コンチクショウめがぁぁ!」
「抜け駆けするヤツには制裁を下せぇぇぇ!」
「こーのー恨ーみ、晴ーらーすーべーしー!」
醜い足の引っ張り合いが始まっている。そして彼らが去った後には地面に倒れる頼朝の姿があり、その背中には踏みつけられた足跡が多数つけられている。モテない男たちの怨念が籠ったヘイトをその身に受けた恐ろしい運命だが、これはさすがに気の毒すぎる…
だがそこに、救いの女神が通り掛る。
「あら、どうしたんですか?」
「た、助けて…」
たまたま自分の試合があるために控室にやってきたカレンが、倒れている頼朝に声をかける。どうやら何らかのダメージを負っている様子を見て、カレンの手から白い光が放たれる。
「あれ? なんだか痛みが引いて… カ、カレンさん! ありがとうございます!」
「どういたしまして! 勝ててよかったですね」
「はい! ありがとうございます!」
カレンの回復魔法で復活した頼朝が立ち上がる。頼朝はカレンに深々と礼をして、控室に入っていく彼女の姿を頭を下げたまま見送る。だが上目遣いになっているその目は、確実にカレンの胸の辺りをターゲットにしているのは間違いなさそう。これは正常な男子としては止むを得ないであろう。カレンのお胸があまりにも魅力的すぎるせいなのだから。そして、カレンが姿を消すと…
「やったぜ! カレンさんと話ができたぁぁ!」
模擬戦で勝利を挙げた際よりも大きな歓喜の雄たけびを上げる頼朝であった。
◇◇◇◇◇
ところ変わって第3室内演習場では、こちらも魔法部門の模擬戦が開幕している。オープニングマッチにはエントリーしている生徒の中でナンバーワンの美鈴が出場する。
控室には聡史と一緒に千里もやってきて、美鈴の防具の装着を手伝っている。魔法部門に参加する生徒は防具の上から不燃性のツナギを着なければならないので、さらに重装備となる。
「これじゃあ、ほとんど動けないわね。こんな格好で戦うなんて酷いじゃないの!」
「近接戦闘部門とは違うからな。火属性魔法が飛び交うから、防火対策は必要だろう」
美鈴はこれだけの重装備を規定している模擬戦のルールに文句を言いたげな表情。しかしルールに逆らうわけにもいかずに、ため息をついている。
「それじゃあ、俺たちはスタンドから見ているからな」
「ええ、応援してね」
聡史と千里の二人は控室から出ていく。二人を見送った美鈴は、その場で開始の時間を待つのだった。
◇◇◇◇◇
「あ、あの~… 聡史さん、本当に私なんかに魔法の才能があるんでしょうか?」
「あると思うな。少なくとも俺の目にはそう映っている」
スタンドで模擬戦の開始を待っている聡史と千里は、隣の席に座って会話を交わしている。つい先ほど桜が彼女の腕を引っ張って聡史たちに引き合わせてから、その後昼食を共にして何とか話ができる程度に打ち解けている。
「魔法か… 今まで遠い存在だったから、全然実感が湧かないです」
「この試合が終わったら、美鈴に色々と教えてもらうといい。まずは体内での魔力循環を覚えないとな」
「魔力循環ですか?」
「魔法を扱うための基本だ。授業で教わらなかったか?」
「魔法関係の科目を選択していなかったので、ほとんど何も知らないんです」
「そうだったのか! じゃあ、試しにここでやってみようか。俺の手を握ってくれ」
「は、はい… わかりました」
千里はおずおずと聡史に手を伸ばす。彼女の手は緊張から微かに震えている。
「俺が魔力を流すから、まずは魔力がどのように体に流れるかを感じてほしい」
「はい、わかりました」
手を握られている千里の頬がなぜだか赤く染まっている。
「それじゃあ、流すぞ」
「はい」
聡史の手から魔力が流れ出した途端に、千里の体がビクンと震える。初めて体内に魔力が流れる感覚は自分自身に新たな世界を開くかのよう。
「凄い! これが魔力……」
「ほう、もう感覚を掴んだのか。やはり間違いないようだ」
そのまま聡史は千里の手を握って魔力を流し続けていく。そして、しばらくして手を離すと千里の様子を観察する。
「そのまま魔力の循環を自分の力で続けてみるんだ」
「は、はい」
千里は目を閉じて、体内を巡る魔力を感じながらその流れを繰り返していく。どうやらコツをつかんだようで、聡史が手を放しても依然として魔力循環を続けていられるよう。
「毎日、朝、昼、夕方の3回、この魔力循環を自分でやってみるんだ。そのうちに魔力に関するスキルが得られるだろう」
「ありがとうございます。ついさっきまで自分に力がなくって絶望していたのに今は希望でいっぱいです。全部聡史さんのおかげです」
「それは違うな。人間は中々自分が持っている力に気が付かないものだ。たまたま俺が気付いただけで、元々千里には魔法の力があったんだ」
「それでも私はずっと聡史さんに感謝します! 私の中での新たな世界の扉を開いてくれたんですから!」
またまた女子から大きな信頼を勝ち得てしまった聡史がいる。もしかしたらそれは信頼だけに留まらないかもしれない。
「ただいまから模擬戦第1試合、Aクラス西川美鈴対Eクラス山田直美の対戦を開始いたします」
場内にアナウンスが流れると、スタンドには一気に張り詰めた雰囲気が流れる。彼らの注目は当然ながら魔法部門の第1位である美鈴に向かっている。
「いいか、美鈴の魔法を目に焼き付けておくんだ」
「はい」
聡史からのアドバイスに千里は頷いている。学年トップの魔法使いの指先の動きひとつ見逃さないように目を凝らしている。
アナウンス後に入場してきた美鈴は身にまとう装備のおかげで相当動きにくそうだが、フェイスガード越しに窺える表情は普段通りの緊張を感じさせない様子。
対戦する両者は20メートル離れた開始線上に立って開始の合図を待っている。審判は双方に準備の確認を終えると、右手を挙げて構える。
「試合開始!」
その腕が振り下ろされた瞬間から、魔法による戦いが開始される。
最初の一撃を放ったのは意外にもEクラスの生徒。魔法による戦いは先手をった側が圧倒的に有利なのは言うまでもない。
「ファイアーボール!」
ソフトボール大の火の玉が飛び出してくるが、美鈴は身動ぎしないで飛んでくる炎を見つめている。
やがて双方の立ち位置の半分の地点までファイアーボールが飛翔したのを見た美鈴は、ようやく体の手前に右手をかざす。
「魔法シールド!」
たったその一言で、美鈴の体の手前に透明な壁のようにしてシールドが張り巡らされていく。当たり前のようにファイアーボールはシールドにぶつかって四散する。
「い、今のは何だったんだ?」
「体の手前で、魔法が阻まれるなんて…」
「本当に個人が使える魔法シールドなんてあったんだ…」
会場に詰め掛けているのはもちろん魔法使いを目指して日々切磋琢磨している生徒たち。彼らの常識は、美鈴が目の前で実演した光景に打ち砕かれている。その常識とは「魔法シールドは、魔石を用いて大掛かりな魔法陣を組み上げなければ構築できない」というものであるのだが、それを美鈴はあっさりと覆してしまっている。美鈴の右手から発動させた魔法シールドは期末試験で披露したファイアーボール以上の衝撃を会場にもたらしたよう。
相手の最初の魔法を簡単に躱した美鈴は、今度は自らの攻撃魔法を一瞬で構築する。シールドの陰から右手を出すと、はっきりした口調で魔法名を口にする。
「ファイアーボール!」
もちろん威力は十分に加減して相手に直撃しないように手前の地面に向けて打ち出しているのは当然。それでも美鈴は、爆発の威力で相手を戦闘不能に陥れると確信している。
ドーン!
「キャァァァ!」
爆発の衝撃で美鈴の予想通りにEクラスの生徒は吹き飛ばされて、そのまま動けなくなる。文字通りの完勝劇。
「勝者、青!」
審判の判断で勝敗が決する。尻もちを付いていたEクラスの生徒も大きな怪我をせずに起き上がっている。
こうして魔法部門のオープニングマッチは終了。美鈴は一礼して淡々とした態度で控え室に向かっていく。
「それじゃあ、俺たちも美鈴の所に行こうか」
「は、はい」
美鈴の魔法に見入っていた千里は聡史の一言にようやく我に返るって、聡史の後をついて控室への通路を歩いていく。
◇◇◇◇◇
「美鈴! お疲れさん!」
「ああ、聡史君! どうもありがとう」
控え室に入ってきた聡史をヘルメットを外したばかりの美鈴が迎える。
「このツナギが熱いから、早く脱ぎたいの! 手伝ってもらえるかしら?」
「オーケー! 千里も手伝ってくれるか?」
「はい」
二人掛かりで美鈴の防具を外していくと、ようやく彼女はホッとした表情に変わる。安全を考慮しているとはいえ、美鈴にとっては相当過剰な装備を身に着けていただけに、ようやく一息ついた心地であろう。
聡史は冷たいペットボトルを手渡して、ありがとうと言って受け取った美鈴が一口ふくむ。そこに千里が……
「あのー… 美鈴さん、あんな凄い魔法をどうやって使えるようになったんですか?」
「そうねぇ… やっぱり努力かな。特にシールドに関しては、相当な時間がかかったわ」
「そうなんですか… 私があんな高度な魔法が使えるかどうかちょっと不安になってきます」
「大丈夫よ! その辺は、私と聡史君がしっかりと教えるから。そうでしょう、聡史君?」
「もちろんだ! その代わり、相当厳しいから覚悟しておけよ」
「はい! どうかよろしくお願いします」
こうして模擬戦週間の初日は終わっていくのであった。
【お知らせ】
いつも当作品をご愛読いただきましてありがとうございます。この度こちらの小説に加えまして新たに異世界ファンタジー作品を当サイトに掲載させていただきます。この作品同様に多くの方々に目を通していただけると幸いです。すでにたくさんのお気に入り登録もお寄せいただいておりまして、現在ファンタジーランキングの40位前後に位置しています。作品の詳細は下記に記載いたしております。またこの作品の目次のページ左下に新作小説にジャンプできるアイコンがありますので、どうぞこちらをクリックしていただけるようお願い申し上げます。
新小説タイトル 〔クラスごと異世界に召喚されたんだけどなぜか一人多い 浮いている俺はクラスの連中とは別れて気の合う仲間と気ままな冒険者生活を楽しむことにする〕
異世界召喚モノにちょっとだけSF要素を取り入れた作品となっておりますが、肩の力を抜いて楽しめる内容です。皆様この小説同様に第1話だけでも覗きに来てくださいませ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! 皆様の応援を心よりお待ちしております。
「うう、まいった!」
「そこまでぇぇ! 勝者、青!」
模擬戦の試合で勝敗がついて、敗者が肩を落として控室へ戻っていく。
ドカッ! バキッ!
「うーん、もう動けないぃぃ!」
「そこまでぇぇ! 勝者、青!」
またまた勝負が決する。勝者は当然の表情で負かした相手を見下ろしている。
「チクショウ! あれだけ訓練したのに、勝てないなんて……」
「やっぱり、Aクラスの壁は厚いのか」
トーナメントが進むにつれて勝者と敗者が次々に生まれていく。そして勝つ側はAクラスで、負けるのはEクラスの生徒という当たり前の結果が生まれている。大半のEクラス生徒は諦めた表情で結果を受け入れているが、そんな中でも悔しがっているのは聡史らと一緒に自主練をしている連中。確かに彼らは、聡史が認めるように剣の腕を上げている。だが同様に他のクラスの生徒も日々剣や槍の技術を向上させているので、その差はなかなか埋まらない。
平均レベル9~10のAクラスと7~8のEクラスでは気合と根性だけでは乗り越えられない壁が存在する。だが、ついに奇跡が起きる。
「勝者、赤!」
「やったぜぇぇ!」
なんと頼朝がBクラスの生徒を下している。比較的相手に恵まれたとはいえ、これはEクラスにとっては途轍もない快挙。すでに敗退した生徒たちが、控室から出てくる頼朝を出迎えようと外で待ち構えている。なぜか背後からどす黒いオーラを吹き出しながら…
そして頼朝が出てくると、彼らは一斉に取り囲む。
「頼朝! ついにやったな!」
「お前はやってくれると信じていたぜ!」
手荒い祝福の雨で取り囲んだ生徒が頼朝の背中や肩をバシバシ叩く。
「このヤロウ! いい格好しやがって!」
「チクショウめ! ひとりだけ勝ちやがったな!」
次第にどす黒いオーラが広がって、なぜか取り囲んでいる生徒たちの口調が次第に荒っぽくなっていく。
「自分だけモテようたって、そうはいかねえぞ!」
「コンチクショウめがぁぁ!」
「抜け駆けするヤツには制裁を下せぇぇぇ!」
「こーのー恨ーみ、晴ーらーすーべーしー!」
醜い足の引っ張り合いが始まっている。そして彼らが去った後には地面に倒れる頼朝の姿があり、その背中には踏みつけられた足跡が多数つけられている。モテない男たちの怨念が籠ったヘイトをその身に受けた恐ろしい運命だが、これはさすがに気の毒すぎる…
だがそこに、救いの女神が通り掛る。
「あら、どうしたんですか?」
「た、助けて…」
たまたま自分の試合があるために控室にやってきたカレンが、倒れている頼朝に声をかける。どうやら何らかのダメージを負っている様子を見て、カレンの手から白い光が放たれる。
「あれ? なんだか痛みが引いて… カ、カレンさん! ありがとうございます!」
「どういたしまして! 勝ててよかったですね」
「はい! ありがとうございます!」
カレンの回復魔法で復活した頼朝が立ち上がる。頼朝はカレンに深々と礼をして、控室に入っていく彼女の姿を頭を下げたまま見送る。だが上目遣いになっているその目は、確実にカレンの胸の辺りをターゲットにしているのは間違いなさそう。これは正常な男子としては止むを得ないであろう。カレンのお胸があまりにも魅力的すぎるせいなのだから。そして、カレンが姿を消すと…
「やったぜ! カレンさんと話ができたぁぁ!」
模擬戦で勝利を挙げた際よりも大きな歓喜の雄たけびを上げる頼朝であった。
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ところ変わって第3室内演習場では、こちらも魔法部門の模擬戦が開幕している。オープニングマッチにはエントリーしている生徒の中でナンバーワンの美鈴が出場する。
控室には聡史と一緒に千里もやってきて、美鈴の防具の装着を手伝っている。魔法部門に参加する生徒は防具の上から不燃性のツナギを着なければならないので、さらに重装備となる。
「これじゃあ、ほとんど動けないわね。こんな格好で戦うなんて酷いじゃないの!」
「近接戦闘部門とは違うからな。火属性魔法が飛び交うから、防火対策は必要だろう」
美鈴はこれだけの重装備を規定している模擬戦のルールに文句を言いたげな表情。しかしルールに逆らうわけにもいかずに、ため息をついている。
「それじゃあ、俺たちはスタンドから見ているからな」
「ええ、応援してね」
聡史と千里の二人は控室から出ていく。二人を見送った美鈴は、その場で開始の時間を待つのだった。
◇◇◇◇◇
「あ、あの~… 聡史さん、本当に私なんかに魔法の才能があるんでしょうか?」
「あると思うな。少なくとも俺の目にはそう映っている」
スタンドで模擬戦の開始を待っている聡史と千里は、隣の席に座って会話を交わしている。つい先ほど桜が彼女の腕を引っ張って聡史たちに引き合わせてから、その後昼食を共にして何とか話ができる程度に打ち解けている。
「魔法か… 今まで遠い存在だったから、全然実感が湧かないです」
「この試合が終わったら、美鈴に色々と教えてもらうといい。まずは体内での魔力循環を覚えないとな」
「魔力循環ですか?」
「魔法を扱うための基本だ。授業で教わらなかったか?」
「魔法関係の科目を選択していなかったので、ほとんど何も知らないんです」
「そうだったのか! じゃあ、試しにここでやってみようか。俺の手を握ってくれ」
「は、はい… わかりました」
千里はおずおずと聡史に手を伸ばす。彼女の手は緊張から微かに震えている。
「俺が魔力を流すから、まずは魔力がどのように体に流れるかを感じてほしい」
「はい、わかりました」
手を握られている千里の頬がなぜだか赤く染まっている。
「それじゃあ、流すぞ」
「はい」
聡史の手から魔力が流れ出した途端に、千里の体がビクンと震える。初めて体内に魔力が流れる感覚は自分自身に新たな世界を開くかのよう。
「凄い! これが魔力……」
「ほう、もう感覚を掴んだのか。やはり間違いないようだ」
そのまま聡史は千里の手を握って魔力を流し続けていく。そして、しばらくして手を離すと千里の様子を観察する。
「そのまま魔力の循環を自分の力で続けてみるんだ」
「は、はい」
千里は目を閉じて、体内を巡る魔力を感じながらその流れを繰り返していく。どうやらコツをつかんだようで、聡史が手を放しても依然として魔力循環を続けていられるよう。
「毎日、朝、昼、夕方の3回、この魔力循環を自分でやってみるんだ。そのうちに魔力に関するスキルが得られるだろう」
「ありがとうございます。ついさっきまで自分に力がなくって絶望していたのに今は希望でいっぱいです。全部聡史さんのおかげです」
「それは違うな。人間は中々自分が持っている力に気が付かないものだ。たまたま俺が気付いただけで、元々千里には魔法の力があったんだ」
「それでも私はずっと聡史さんに感謝します! 私の中での新たな世界の扉を開いてくれたんですから!」
またまた女子から大きな信頼を勝ち得てしまった聡史がいる。もしかしたらそれは信頼だけに留まらないかもしれない。
「ただいまから模擬戦第1試合、Aクラス西川美鈴対Eクラス山田直美の対戦を開始いたします」
場内にアナウンスが流れると、スタンドには一気に張り詰めた雰囲気が流れる。彼らの注目は当然ながら魔法部門の第1位である美鈴に向かっている。
「いいか、美鈴の魔法を目に焼き付けておくんだ」
「はい」
聡史からのアドバイスに千里は頷いている。学年トップの魔法使いの指先の動きひとつ見逃さないように目を凝らしている。
アナウンス後に入場してきた美鈴は身にまとう装備のおかげで相当動きにくそうだが、フェイスガード越しに窺える表情は普段通りの緊張を感じさせない様子。
対戦する両者は20メートル離れた開始線上に立って開始の合図を待っている。審判は双方に準備の確認を終えると、右手を挙げて構える。
「試合開始!」
その腕が振り下ろされた瞬間から、魔法による戦いが開始される。
最初の一撃を放ったのは意外にもEクラスの生徒。魔法による戦いは先手をった側が圧倒的に有利なのは言うまでもない。
「ファイアーボール!」
ソフトボール大の火の玉が飛び出してくるが、美鈴は身動ぎしないで飛んでくる炎を見つめている。
やがて双方の立ち位置の半分の地点までファイアーボールが飛翔したのを見た美鈴は、ようやく体の手前に右手をかざす。
「魔法シールド!」
たったその一言で、美鈴の体の手前に透明な壁のようにしてシールドが張り巡らされていく。当たり前のようにファイアーボールはシールドにぶつかって四散する。
「い、今のは何だったんだ?」
「体の手前で、魔法が阻まれるなんて…」
「本当に個人が使える魔法シールドなんてあったんだ…」
会場に詰め掛けているのはもちろん魔法使いを目指して日々切磋琢磨している生徒たち。彼らの常識は、美鈴が目の前で実演した光景に打ち砕かれている。その常識とは「魔法シールドは、魔石を用いて大掛かりな魔法陣を組み上げなければ構築できない」というものであるのだが、それを美鈴はあっさりと覆してしまっている。美鈴の右手から発動させた魔法シールドは期末試験で披露したファイアーボール以上の衝撃を会場にもたらしたよう。
相手の最初の魔法を簡単に躱した美鈴は、今度は自らの攻撃魔法を一瞬で構築する。シールドの陰から右手を出すと、はっきりした口調で魔法名を口にする。
「ファイアーボール!」
もちろん威力は十分に加減して相手に直撃しないように手前の地面に向けて打ち出しているのは当然。それでも美鈴は、爆発の威力で相手を戦闘不能に陥れると確信している。
ドーン!
「キャァァァ!」
爆発の衝撃で美鈴の予想通りにEクラスの生徒は吹き飛ばされて、そのまま動けなくなる。文字通りの完勝劇。
「勝者、青!」
審判の判断で勝敗が決する。尻もちを付いていたEクラスの生徒も大きな怪我をせずに起き上がっている。
こうして魔法部門のオープニングマッチは終了。美鈴は一礼して淡々とした態度で控え室に向かっていく。
「それじゃあ、俺たちも美鈴の所に行こうか」
「は、はい」
美鈴の魔法に見入っていた千里は聡史の一言にようやく我に返るって、聡史の後をついて控室への通路を歩いていく。
◇◇◇◇◇
「美鈴! お疲れさん!」
「ああ、聡史君! どうもありがとう」
控え室に入ってきた聡史をヘルメットを外したばかりの美鈴が迎える。
「このツナギが熱いから、早く脱ぎたいの! 手伝ってもらえるかしら?」
「オーケー! 千里も手伝ってくれるか?」
「はい」
二人掛かりで美鈴の防具を外していくと、ようやく彼女はホッとした表情に変わる。安全を考慮しているとはいえ、美鈴にとっては相当過剰な装備を身に着けていただけに、ようやく一息ついた心地であろう。
聡史は冷たいペットボトルを手渡して、ありがとうと言って受け取った美鈴が一口ふくむ。そこに千里が……
「あのー… 美鈴さん、あんな凄い魔法をどうやって使えるようになったんですか?」
「そうねぇ… やっぱり努力かな。特にシールドに関しては、相当な時間がかかったわ」
「そうなんですか… 私があんな高度な魔法が使えるかどうかちょっと不安になってきます」
「大丈夫よ! その辺は、私と聡史君がしっかりと教えるから。そうでしょう、聡史君?」
「もちろんだ! その代わり、相当厳しいから覚悟しておけよ」
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クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
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選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
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