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第35話 彼女たちが水着に着替えたら
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聡史たちのパーティーは伊豆旅行の費用を稼ぐために終業式の翌日から4日間の予定で秩父ダンジョンへ向かう。今年の新作水着の代金やお小遣いコミコミで目標金額のお一人様5万円を稼ぐために明日香ちゃんがいつになく燃えている。
「夏の楽しい旅行を実現するために、いっぱい稼ぎますよぉぉ!」
ひとりで天に向けてコブシを突き上げて今にも拳王様が昇天しそうな勢い。頭の中は海を見ながら美味しくいただくデザートでいっぱいになっているから周囲が何を言おうとも耳に入ってこない。脳内にお花畑が一面に咲き乱れて色とりどりの蝶々が飛び交っている。さらにそこには、真っ白なブラウスを着込んだ明日香ちゃん本人が裸足でクルクル回って華麗なダンスを踊る。目の前にイベントが待っているだけでこのテンションだから当日になったらどうなってしまうのか、今からちょっと心配になってくる。
ハイテンションの明日香ちゃんをなんとか宥めながら五人が駅に向かう途中、片側の車線を封鎖して道路工事を行っている。この暑い最中にご苦労様だなぁ… と思いつつ誘導に従って歩道を歩いていると、ダンプが運んできた土砂をスコップで穴に放り込んでいる集団がある。
ヘルメットを被るその表情の一人一人にはどこか見覚えがあるような…
「頼朝! こんな現場でアルバイトか?」
「おお! 聡史か、バイトで伊豆の旅費を稼いでいるんだ」
よく見ると頼朝だけではなくて、クラスの男子連中が大勢この現場で働いている。それぞれの持ち場で一輪車で土砂を運んだり、ダンプの荷台に乗ってへばりついている土をこそぎ落としたりと、分担しながら作業に勤しんでいる。
「学院から近いし結構いいバイト代を出してくれるんだぜ。給料も日払いだから、よかったら聡史もやらないか?」
「いや、俺たちはこれから秩父ダンジョンに行ってひと稼ぎしてくる」
「ダンジョンで金を稼げるなんて羨ましいぜ。俺たちみたいにゴブリンしか相手できないんじゃジュース代しか手に入らないからな」
本誌が入手した頼朝の独占告白「こんなブラックな1年生の悲惨な実態」が明らかになっている。身の危険を冒してゴブリンを討伐してもバイト代にもならない悲しい実情がここにある。冒険者見習いならば誰もが通る道とはいえ中々辛い期間を過ごしているよう。それだけでも聡史たちのパーティーの恵まれた立ち位置が理解できる。
「義仲、バーベキューの肉はこの桜様が確保しますから大船に乗った気でいなさい」
「木曽殿か! 今度はそっちに飛ぶのか? というよりも桜、だいぶネタに詰まってきているだろう」
「お兄様、断じてネタでやっているのではございませんから、そこだけはしっかりとご承知おきくださいませ」
こうして桜にからかわれた頼朝が涙目になるのを見届けてからパーティーは駅に向かおうと歩き出す。だが、そこで…
「おや? あそこに立っている女の子はクラスで見た顔だぞ」
聡史の視線の先には誘導棒を振りながら通行する車の整理をしている小柄な女子の姿がある。封鎖している道路の反対側にいるもうひとりの女子に誘導棒を振りながら合図を送り車の往来をきっちりと捌いている。
「ああ、あれはうちのクラスの蛯名ほのかちゃんですね。反対側にいるのは竹内真美ちゃんですよ」
ガテン系男子が大半を占めるEクラスの男子が道路工事のバイトに従事するのはなんとなくわかる気がする。だが女子までもがここで現場作業をしているとは、さすがに聡史も予想外。ただ脇目も振らずに懸命に車の誘導に当たる姿に対しては、心の中で「頑張れよ」と応援する言葉を投げ掛ける。
◇◇◇◇◇
数日が経過して、いよいよ伊豆に向けて出発する日がやってくる。
集合は学院の正門前で時間に余裕をもって特待生寮を出た聡史と桜は手ぶらで集合場所へと向かう。二人ともアイテムボックスに荷物を放り込んであるので、どこに行くにしても手荷物は持たない姿はすでに学院でも見慣れた光景。
楽しみにしていた伊豆への旅行の当日とあって桜の足取りはいつにもまして軽い。対する聡史は幾分重たい足を引きずるようにしながら歩いている。
少々お疲れ気味の聡史… その原因は昨日の行動にあった。近くの街まで水着の購入へと向かう女子たちに付き合わされて丸一日引っ張り回された成れの果ての姿ともいう。
聡史には理解できない女子の習性… 高々水着一着を選ぶのになぜ3時間も4時間も要するのだろうか? しかもいちいち試着して納得がいかないとまた別の水着を繰り返してと… 果てしない無限ループの間、聡史は常に男は自分ひとりしかいない水着売り場にて長時間の苦行を余儀なくされた。
唯一の心のオアシスはとっかえひっかえ水着を試着する美鈴とカレンに呼ばれて色とりどりの水着に包まれた彼女らの眩しい姿を拝謁する瞬間だけ。この時間だけは一緒に来て本当に良かったとしみじみと実感する聡史。
ただしその後には必ず難題を突き付けられる。美鈴とカレン、交互に身に着けている水着の感想を求められるという困難な課題が待ち受ける。どこかのソムリエ張りに「夏の情熱的な日差しに映える美しい色合い」とか「豊かなプロポーションをソフトなムードで包み込む大人のイメージ」などという気の利いた誉め言葉がその場で浮かぶほど聡史には女性の気分を盛り立てるスキルは持ち合わせていない。
ここで聡史が誉めればもう決まり! という場面で肝心な一言が出なかったおかげで、いたずらに試着の時間だけが延長されていく悪循環。その分は大いに目を楽しませたから、時間の経過とともにすり減らしていった聡史の精神的なエネルギー消費は差し引きゼロかもしれないが…
というわけでこのような男としての精神修養を経験して一回り成長した聡史は重たくなりがちな足を励まして正門へ向かって歩いている。
だだっ広い学院の敷地を歩いて正門へと向かう兄妹、二人が集合場所へ到着するとそこには驚くべき風景が広がっている。
下心満載で浮かれ切っている頼朝ら男子八人に混ざって、神の思し召しか天地がひっくり返る奇跡かクラスの女子が五人もこの場にいる。いかなる神の配剤だろうかと目を疑うような光景がそこに出現中。
あれだけ女子が集まらないと嘆いていた頼朝たちが奇跡的に五人の女子たちを今回のツアーに引き入れている。
すごいぞ、頼朝! 君たちは単なる肉体労働者ではない! 肉の壁でもない! もう一人前の男だ! いや、漢だ!
よくよく見ると、その中にはあの道路工事の現場で車の誘導をしていた二人の女子が混ざっている。彼女たちもこのツアーの代金を捻出するために工事現場のバイトに汗を流していたのだろう。
「皆様、おはようございます。信玄は朝から鼻の下を伸ばしていますわね」
「今度は戦国武将できたのか。頼朝だからな」
朝の挨拶ひとつで桜が頼朝を涙目に追い込んでから、聡史は桜に連れられて固まって待っている女子たちの前に引き出される。
「女子の皆さん、ここに立っているのが私の兄ですのでどうか気楽に声を掛けてやってくださいませ。中々自分から女子に話しかけられない小心者ですので、どうぞよろしくお願いいたします」
「どういう紹介だぁぁ! もうちょっと物の言い方というものがあるだろうがぁぁ! 引きこもりのオタクか? 俺はアニメの2次元の世界だけが友達の気の毒な高校生か?」
「お兄様、もしかしてオタクに偏見を持っていらっしゃいますか? そのような偏った物の見方はですねぇ…」
「お前にだけは言われたくないから!」
兄妹のやり取りに居並ぶ女子たちは声をあげて笑っている。どうやらツカミは上々のよう。ひとりずつ順番に自己紹介してくれている。こうして接してみるとEクラスの中では比較的まともな女子に見受けられる… いやいや、全員まともですよ! ちょっと個性的というだけで…
しばらくすると、美鈴、明日香ちゃん、カレンの三人が揃って姿を現す。明日香ちゃんは同じクラスだからともかくとして、「高嶺の花」「雲の上の人」「殿上人」「展開の住人」etc… Eクラスの生徒から見ればこのように表現しても差し支えない美鈴とカレンの登場に頼朝たちは感涙に咽んでいる。
通常ならばまずをもって交流がないAクラスから一,二を争う美女二人がこうして一緒に旅行に参加するなど、肉体労働者たちにとっては夢のような出来事。
こうして総勢18名のご一行は一路伊豆へと向かって出発していく。
◇◇◇◇◇
朝の7時に学院を出発した一行は、9時過ぎに伊豆の海に到着する。休日ともなると海水浴客で賑わう砂浜だが、今日は平日ということもあって人混みはまばらなよう。もっとも時間が早いせいで人出がまだなのかもしれない。一行は早速海の家の更衣室を借りて男女ともに着替えを開始する。
当然さっさと着替えを終えた男子が先に海の家から出てくる。彼らはレンタルのパラソルを準備したり、砂浜にブルーシートを広げたりとこまめに働いている。元々ガテン系の肉体労働者なので、このような作業はお手のもの。彼らがこうして張り切っているのは、ひとえに艶やかな水着に包まれた女子たちを出迎えるためと言い切ってよい。そのために労を惜しむヤル気のない人間などこの中にはひとりもいない。いや、いるはずがない!
ブルーシート上に佇む男たちはなぜか揃って無口になっている。各自が脳内で女子たちの水着姿に妄想を膨らませて喋る余裕などない様子。すでに脳内メモリーのスタンバイは全員が完了を終えており、バッチこいと妄想を掻き立てながら今か今かとその瞬間を待っている。そして、ついにその時が訪れれる。
男たちの期待を一身に浴びて最初に登場したのは…
「桜ちゃんの水着は胸を思いっきり盛ってますよ~。選ぶのに3時間も掛ったはずです」
「そういう明日香ちゃんだって脇腹の肉をどうやって隠すか散々迷っていたじゃないですか。全部は隠しきれてはいませんが…」
「ムキィィィ! ちゃんと隠れてますからぁぁ! この水着はこういうデザインなんです」
「おやおや、デザインに責任を擦り付けるつもりですね」
「そういう桜ちゃんだって水着を取ったらまっ平じゃないですか。かさ上げするのにずいぶん苦労していましたよね」
「明日香ちゃん、実にいい根性です! 表に出ましょう。今日こそ決着を付けてあげます!」
「ここは思いっきり外ですよ~。砂浜だし」
とまあ、こんな身もふたもないぶっちゃけトークが聞こえてくると、男子一同妄想どころではない。期待を思いっきり裏切られて視線が大海原の彼方を彷徨っている。
それでも気を取り直して「次だ、次!」と新たな期待を海の家方向に向ける。
しばらくすると、黄色い声が聞こえてくる。男子たちの視線の先にEクラスの女子五人組が揃って姿を現す。普段は制服姿か訓練用のジャージ姿しか見ていない彼女たちがこうして水着に着替えると…
「これはなかなか…」
「いいなぁ…」
「なんだか別人のような…」
「ヤベぇ、ちょっと好きになってしまう…」
その気になれば手が届きそうな身近な女子に対するストレートな感想が並ぶ。もちろん男たちの脳内メモリーはフル稼働中。桜と明日香ちゃんの時はまだ稼働していなかった、もしくは本格稼働に向けての慣らし運転状態であったのが、いつの間にか超ハイスピードで貴重な画像を記録している。
お代わりを待つジリジリとする時間が経過していく。そして姿を現したのは美鈴と聡史。「着替え終わるのを待っていて」という美鈴のリクエストに聡史が付き合わされた結果、こうして海の家から二人並んで登場と相成っている。
「男はいらねぇぇぇ!」
「聡史、そこを退くんだ!」
「ジャマぁぁぁぁ!」
男たちの心の中で絶叫が響きあう。美鈴のスタイルをじっくりと鑑賞したいのに、どうしても隣を歩く聡史のどうでもいい水着姿が映り込んでしまう。必死で脳内メモリーから聡史の画像を消去しようと涙ぐましい努力をする男子一同。
そして最後に、本日のメインデッシュであるカレンが登場する。普通に歩くだけでユサユサと揺れる転がり落ちんばかりの胸は半分は異世界の血を引いている賜物か? 色白かつウエストにかけて引き締まった見事なポロポーションはこのままグラビアに掲載されても好評を博すのは間違いない。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「もう死んでもいい!」
「お父さん、お母さん! 俺をこの世に生み落としてくれたことを心から感謝いたします!」
「ヤベぇ! 俺、今絶対に立ち上がれない!」
「家宝にしますからぁぁぁ!」
今にも鼻血を噴き出さんばかりの煩悩全開でカレンの眩しい水着姿から目を離せない男子8名であった。
【お知らせ】
いつも当作品をご愛読いただきましてありがとうございます。この度こちらの小説に加えまして新たに異世界ファンタジー作品を当サイトに掲載させていただきます。この作品同様に多くの方々に目を通していただけると幸いです。すでにたくさんのお気に入り登録もお寄せいただいておりまして、現在ファンタジーランキングの40位前後に位置しています。作品の詳細は下記に記載いたしております。またこの作品の目次のページ左下に新作小説にジャンプできるアイコンがありますので、どうぞこちらをクリックしていただけるようお願い申し上げます。
新小説タイトル 〔クラスごと異世界に召喚されたんだけどなぜか一人多い 浮いている俺はクラスの連中とは別れて気の合う仲間と気ままな冒険者生活を楽しむことにする〕
異世界召喚モノにちょっとだけSF要素を取り入れた作品となっておりますが、肩の力を抜いて楽しめる内容です。皆様この小説同様に第1話だけでも覗きに来てくださいませ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! 皆様の応援を心よりお待ちしております。
「夏の楽しい旅行を実現するために、いっぱい稼ぎますよぉぉ!」
ひとりで天に向けてコブシを突き上げて今にも拳王様が昇天しそうな勢い。頭の中は海を見ながら美味しくいただくデザートでいっぱいになっているから周囲が何を言おうとも耳に入ってこない。脳内にお花畑が一面に咲き乱れて色とりどりの蝶々が飛び交っている。さらにそこには、真っ白なブラウスを着込んだ明日香ちゃん本人が裸足でクルクル回って華麗なダンスを踊る。目の前にイベントが待っているだけでこのテンションだから当日になったらどうなってしまうのか、今からちょっと心配になってくる。
ハイテンションの明日香ちゃんをなんとか宥めながら五人が駅に向かう途中、片側の車線を封鎖して道路工事を行っている。この暑い最中にご苦労様だなぁ… と思いつつ誘導に従って歩道を歩いていると、ダンプが運んできた土砂をスコップで穴に放り込んでいる集団がある。
ヘルメットを被るその表情の一人一人にはどこか見覚えがあるような…
「頼朝! こんな現場でアルバイトか?」
「おお! 聡史か、バイトで伊豆の旅費を稼いでいるんだ」
よく見ると頼朝だけではなくて、クラスの男子連中が大勢この現場で働いている。それぞれの持ち場で一輪車で土砂を運んだり、ダンプの荷台に乗ってへばりついている土をこそぎ落としたりと、分担しながら作業に勤しんでいる。
「学院から近いし結構いいバイト代を出してくれるんだぜ。給料も日払いだから、よかったら聡史もやらないか?」
「いや、俺たちはこれから秩父ダンジョンに行ってひと稼ぎしてくる」
「ダンジョンで金を稼げるなんて羨ましいぜ。俺たちみたいにゴブリンしか相手できないんじゃジュース代しか手に入らないからな」
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「義仲、バーベキューの肉はこの桜様が確保しますから大船に乗った気でいなさい」
「木曽殿か! 今度はそっちに飛ぶのか? というよりも桜、だいぶネタに詰まってきているだろう」
「お兄様、断じてネタでやっているのではございませんから、そこだけはしっかりとご承知おきくださいませ」
こうして桜にからかわれた頼朝が涙目になるのを見届けてからパーティーは駅に向かおうと歩き出す。だが、そこで…
「おや? あそこに立っている女の子はクラスで見た顔だぞ」
聡史の視線の先には誘導棒を振りながら通行する車の整理をしている小柄な女子の姿がある。封鎖している道路の反対側にいるもうひとりの女子に誘導棒を振りながら合図を送り車の往来をきっちりと捌いている。
「ああ、あれはうちのクラスの蛯名ほのかちゃんですね。反対側にいるのは竹内真美ちゃんですよ」
ガテン系男子が大半を占めるEクラスの男子が道路工事のバイトに従事するのはなんとなくわかる気がする。だが女子までもがここで現場作業をしているとは、さすがに聡史も予想外。ただ脇目も振らずに懸命に車の誘導に当たる姿に対しては、心の中で「頑張れよ」と応援する言葉を投げ掛ける。
◇◇◇◇◇
数日が経過して、いよいよ伊豆に向けて出発する日がやってくる。
集合は学院の正門前で時間に余裕をもって特待生寮を出た聡史と桜は手ぶらで集合場所へと向かう。二人ともアイテムボックスに荷物を放り込んであるので、どこに行くにしても手荷物は持たない姿はすでに学院でも見慣れた光景。
楽しみにしていた伊豆への旅行の当日とあって桜の足取りはいつにもまして軽い。対する聡史は幾分重たい足を引きずるようにしながら歩いている。
少々お疲れ気味の聡史… その原因は昨日の行動にあった。近くの街まで水着の購入へと向かう女子たちに付き合わされて丸一日引っ張り回された成れの果ての姿ともいう。
聡史には理解できない女子の習性… 高々水着一着を選ぶのになぜ3時間も4時間も要するのだろうか? しかもいちいち試着して納得がいかないとまた別の水着を繰り返してと… 果てしない無限ループの間、聡史は常に男は自分ひとりしかいない水着売り場にて長時間の苦行を余儀なくされた。
唯一の心のオアシスはとっかえひっかえ水着を試着する美鈴とカレンに呼ばれて色とりどりの水着に包まれた彼女らの眩しい姿を拝謁する瞬間だけ。この時間だけは一緒に来て本当に良かったとしみじみと実感する聡史。
ただしその後には必ず難題を突き付けられる。美鈴とカレン、交互に身に着けている水着の感想を求められるという困難な課題が待ち受ける。どこかのソムリエ張りに「夏の情熱的な日差しに映える美しい色合い」とか「豊かなプロポーションをソフトなムードで包み込む大人のイメージ」などという気の利いた誉め言葉がその場で浮かぶほど聡史には女性の気分を盛り立てるスキルは持ち合わせていない。
ここで聡史が誉めればもう決まり! という場面で肝心な一言が出なかったおかげで、いたずらに試着の時間だけが延長されていく悪循環。その分は大いに目を楽しませたから、時間の経過とともにすり減らしていった聡史の精神的なエネルギー消費は差し引きゼロかもしれないが…
というわけでこのような男としての精神修養を経験して一回り成長した聡史は重たくなりがちな足を励まして正門へ向かって歩いている。
だだっ広い学院の敷地を歩いて正門へと向かう兄妹、二人が集合場所へ到着するとそこには驚くべき風景が広がっている。
下心満載で浮かれ切っている頼朝ら男子八人に混ざって、神の思し召しか天地がひっくり返る奇跡かクラスの女子が五人もこの場にいる。いかなる神の配剤だろうかと目を疑うような光景がそこに出現中。
あれだけ女子が集まらないと嘆いていた頼朝たちが奇跡的に五人の女子たちを今回のツアーに引き入れている。
すごいぞ、頼朝! 君たちは単なる肉体労働者ではない! 肉の壁でもない! もう一人前の男だ! いや、漢だ!
よくよく見ると、その中にはあの道路工事の現場で車の誘導をしていた二人の女子が混ざっている。彼女たちもこのツアーの代金を捻出するために工事現場のバイトに汗を流していたのだろう。
「皆様、おはようございます。信玄は朝から鼻の下を伸ばしていますわね」
「今度は戦国武将できたのか。頼朝だからな」
朝の挨拶ひとつで桜が頼朝を涙目に追い込んでから、聡史は桜に連れられて固まって待っている女子たちの前に引き出される。
「女子の皆さん、ここに立っているのが私の兄ですのでどうか気楽に声を掛けてやってくださいませ。中々自分から女子に話しかけられない小心者ですので、どうぞよろしくお願いいたします」
「どういう紹介だぁぁ! もうちょっと物の言い方というものがあるだろうがぁぁ! 引きこもりのオタクか? 俺はアニメの2次元の世界だけが友達の気の毒な高校生か?」
「お兄様、もしかしてオタクに偏見を持っていらっしゃいますか? そのような偏った物の見方はですねぇ…」
「お前にだけは言われたくないから!」
兄妹のやり取りに居並ぶ女子たちは声をあげて笑っている。どうやらツカミは上々のよう。ひとりずつ順番に自己紹介してくれている。こうして接してみるとEクラスの中では比較的まともな女子に見受けられる… いやいや、全員まともですよ! ちょっと個性的というだけで…
しばらくすると、美鈴、明日香ちゃん、カレンの三人が揃って姿を現す。明日香ちゃんは同じクラスだからともかくとして、「高嶺の花」「雲の上の人」「殿上人」「展開の住人」etc… Eクラスの生徒から見ればこのように表現しても差し支えない美鈴とカレンの登場に頼朝たちは感涙に咽んでいる。
通常ならばまずをもって交流がないAクラスから一,二を争う美女二人がこうして一緒に旅行に参加するなど、肉体労働者たちにとっては夢のような出来事。
こうして総勢18名のご一行は一路伊豆へと向かって出発していく。
◇◇◇◇◇
朝の7時に学院を出発した一行は、9時過ぎに伊豆の海に到着する。休日ともなると海水浴客で賑わう砂浜だが、今日は平日ということもあって人混みはまばらなよう。もっとも時間が早いせいで人出がまだなのかもしれない。一行は早速海の家の更衣室を借りて男女ともに着替えを開始する。
当然さっさと着替えを終えた男子が先に海の家から出てくる。彼らはレンタルのパラソルを準備したり、砂浜にブルーシートを広げたりとこまめに働いている。元々ガテン系の肉体労働者なので、このような作業はお手のもの。彼らがこうして張り切っているのは、ひとえに艶やかな水着に包まれた女子たちを出迎えるためと言い切ってよい。そのために労を惜しむヤル気のない人間などこの中にはひとりもいない。いや、いるはずがない!
ブルーシート上に佇む男たちはなぜか揃って無口になっている。各自が脳内で女子たちの水着姿に妄想を膨らませて喋る余裕などない様子。すでに脳内メモリーのスタンバイは全員が完了を終えており、バッチこいと妄想を掻き立てながら今か今かとその瞬間を待っている。そして、ついにその時が訪れれる。
男たちの期待を一身に浴びて最初に登場したのは…
「桜ちゃんの水着は胸を思いっきり盛ってますよ~。選ぶのに3時間も掛ったはずです」
「そういう明日香ちゃんだって脇腹の肉をどうやって隠すか散々迷っていたじゃないですか。全部は隠しきれてはいませんが…」
「ムキィィィ! ちゃんと隠れてますからぁぁ! この水着はこういうデザインなんです」
「おやおや、デザインに責任を擦り付けるつもりですね」
「そういう桜ちゃんだって水着を取ったらまっ平じゃないですか。かさ上げするのにずいぶん苦労していましたよね」
「明日香ちゃん、実にいい根性です! 表に出ましょう。今日こそ決着を付けてあげます!」
「ここは思いっきり外ですよ~。砂浜だし」
とまあ、こんな身もふたもないぶっちゃけトークが聞こえてくると、男子一同妄想どころではない。期待を思いっきり裏切られて視線が大海原の彼方を彷徨っている。
それでも気を取り直して「次だ、次!」と新たな期待を海の家方向に向ける。
しばらくすると、黄色い声が聞こえてくる。男子たちの視線の先にEクラスの女子五人組が揃って姿を現す。普段は制服姿か訓練用のジャージ姿しか見ていない彼女たちがこうして水着に着替えると…
「これはなかなか…」
「いいなぁ…」
「なんだか別人のような…」
「ヤベぇ、ちょっと好きになってしまう…」
その気になれば手が届きそうな身近な女子に対するストレートな感想が並ぶ。もちろん男たちの脳内メモリーはフル稼働中。桜と明日香ちゃんの時はまだ稼働していなかった、もしくは本格稼働に向けての慣らし運転状態であったのが、いつの間にか超ハイスピードで貴重な画像を記録している。
お代わりを待つジリジリとする時間が経過していく。そして姿を現したのは美鈴と聡史。「着替え終わるのを待っていて」という美鈴のリクエストに聡史が付き合わされた結果、こうして海の家から二人並んで登場と相成っている。
「男はいらねぇぇぇ!」
「聡史、そこを退くんだ!」
「ジャマぁぁぁぁ!」
男たちの心の中で絶叫が響きあう。美鈴のスタイルをじっくりと鑑賞したいのに、どうしても隣を歩く聡史のどうでもいい水着姿が映り込んでしまう。必死で脳内メモリーから聡史の画像を消去しようと涙ぐましい努力をする男子一同。
そして最後に、本日のメインデッシュであるカレンが登場する。普通に歩くだけでユサユサと揺れる転がり落ちんばかりの胸は半分は異世界の血を引いている賜物か? 色白かつウエストにかけて引き締まった見事なポロポーションはこのままグラビアに掲載されても好評を博すのは間違いない。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「もう死んでもいい!」
「お父さん、お母さん! 俺をこの世に生み落としてくれたことを心から感謝いたします!」
「ヤベぇ! 俺、今絶対に立ち上がれない!」
「家宝にしますからぁぁぁ!」
今にも鼻血を噴き出さんばかりの煩悩全開でカレンの眩しい水着姿から目を離せない男子8名であった。
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器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~
夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。
全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。
適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。
パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。
全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。
ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。
パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。
突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。
ロイドのステータスはオール25。
彼にはユニークスキルが備わっていた。
ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。
ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。
LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。
不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす
最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも?
【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】
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