上 下
9 / 66

第9話 Aクラスとのトラブル

しおりを挟む
 後から来たAクラスの生徒の姿を見て聡史のクラスメートは腰が引けている様子。面と向かって苦情を申し立てる態度を見せようとはしない。

 入学してまだ2か月少々ではAクラスの生徒とEクラスの生徒では埋めがたい能力差があるのは事実。これが1年2年と経過すれば訓練によって徐々に差が埋まってくるのだが、現時点ではAクラスの生徒一人でこの場にいる聡史を除いたEクラスの生徒全員を相手にしても十分お釣りがくるほど。

 頼朝を含めたEクラスの生徒たちは仕方なしに場所空けようとスタンドに向かって歩き出す。だがそんな彼らを尻目に聡史一人は平然とフィールドの中央で準備体操を続けている。

 もちろん、そんな聡史の態度はAクラスの生徒の癇に障るのは当然の流れ。


「おい、そこのゴミ野郎! さっさと場所を開けろ」

 ひとりが強い口調で警告するが、聡史は何も聞こえないといわんばかりの態度で体を捻ったり軽くジャンプを繰り返すだけ。


「聞こえないのか。早くそこを空けろ!」

 さらに強い口調で警告を発する生徒だが、聡史は一向に態度を変える様子を見せない。そんな中で別のひとりが気付く。


「あいつは見掛けない顔だな」

「そういえばそうだ。もしかして、今日から編入してきたヤツじゃないのか?」

「途中編入が認められていない魔法学院に学期半ばで入ってきたんだから、きっと相当なコネがあるんだろう」

「コネ入学で、しかも特待生か。真面目にやっているこっちが頭にくるぞ」

「こうななったら、実力で叩き出してやるか?」

「それがいいだろう。どうせコネで入ったヤツなんか俺たちに掛かればひと捻りだろう」

「違いないぞ」

「ハハハ、あとから泣きっ面をかくなよ」

 これだけの言いたい放題にされても聡史は気にも留めない様子。あまりに平然とした聡史の態度に心配になってきた頼朝が溜まりかねてAクラスの生徒たちに聞こえないように声を掛ける。


「聡史、今日は止めておこう」

「なんでだ? これから自主練をするんだろう。うるさいノラ犬が吠えているみたいだが、こんな連中に構っていたらせっかくの訓練時間が無駄になるぞ」

 自分の忠告にまったく聞く耳を持たない聡史に頼朝は額に手を当ててアチャーというゼスチャーをしている。聡史の発言は真っ正面からAクラスの生徒を挑発… いや、もう一歩踏み込んでケンカを売っている。


「こいつは正気か? 俺たちに喧嘩を売っているぞ」

「いいから、適当に痛めつけてやれ」

 こうして10人以上のAクラスの生徒が聡史を取り囲む。実は聡史もこの学院に在籍する生徒のレベルを知りたかった。せっかくだからAクラスの生徒を相手にする機会を有効利用するつもりらしい。

 自分を取り囲む12人を前にして聡史の目がスッと細められる。その手には訓練用の木刀が握られている。


「武器は好きなものを使っていいぞ。ただーし! 相応の覚悟で挑めよ。命まで奪うつもりはないが、怪我させない保証はないからな」

「この人数を相手にして大口を叩く余裕がいつまで保つと思っているんだ?」

「袋叩きで足腰が立たなくしてやる。編入初日に自主退学になるかもな」

 Aクラスの生徒は木剣や木槍を手にしたり、中には棒術で使用する木の棒を持っている。こちらの生徒はおそらく魔法を用いた戦闘を得意にしているのであろう。学院内で金属製の武器を用いるのは公式戦以外は禁止なので、訓練時には全員木製の武器を使用している。


「取り囲んでいるだけでは、いつまで経っても始まらないぞ。俺のほうから打ち掛かってもいいのか?」

 不敵な笑みを浮かべながら聡史がさらに挑発を投げ付けるとAクラスの生徒たちの我慢は限界を越えたよう。剣や槍を振り上げてバラバラに襲い掛かってくる。


「遅い」

 だが聡史には、そのような素人同然の相手など物の数ではない。そもそも踏み越えてきた修羅場と実戦経験が違いすぎる。桜には及ばないまでも彼らの目に留まらない素早さで剣や槍を持つ手を強かに打っていく。


 バキッ

「痛えぇぇぇぇ!」

 バキッ

「うぎゃぁぁぁぁ!」

 バキッ

「痛たあぁぁぁ!」

 バキッ

「あべし」

 冒険者として訓練を開始して2か月のAクラスの生徒たちに対して、聡史は本物のプロの冒険者として3年の月日を過ごしてきた。もちろん人間をその手に掛けた経験も数知れない。それだけでも大きな差だが、さらにステータス上のレベル差もある。要するにAクラスといえども敵にもならない相手であって、歯牙にもかけないというのはこんな状態に違いない。ゴブリンどころかスライムよりも手応えのないと断言して大した問題はなさそう。

 一方のAクラスの生徒たちは12名の味方とたったひとりの敵が入り乱れてほとんどが聡史の正確な位置を見失っている。

 プロの戦闘集団ならば絶対に採用しない1対多人数という不味い戦いの陣形ともいえる。仮に警察官や兵士がひとりの犯人やテロリストを拘束するとしたら、実際に拘束を担当するのは多くても四人。他の人員は周辺の警戒とテロリストの退路を断つ位置に配置されるのが定石。まだ5月の段階では彼らがこんな専門的な戦術を身に着けるには時期尚早であったのかもしれない。

 しかも、敏捷な動きで位置を次々に変えていく聡史の動きに誰も追いつけてはいない。そのまま全員が木剣で籠手を打たれて蹲る。たかが木剣と侮るなかれ。片手を木刀で打たれただけでも並の人間は抵抗できなくなる。下手をすると骨にヒビが入っているかもしれない。


「だらしないな。この程度でAクラスを名乗れるのか。魔法学院というのは想像していたよりもずいぶん甘っチョロい場所なんだな」

 大した運動にもなっていないといわんばかりに木剣をブンブン振り回す風切り音がフィールドに響き、聡史の信じがたい強さを目の当たりにしたクラスメートが息を飲む姿だけがそこにはあるのだった。



          【お知らせ】

 いつも当作品をご愛読いただきましてありがとうございます。この度こちらの小説に加えまして新たに異世界ファンタジー作品を当サイトに掲載させていただきます。この作品同様に多くの方々に目を通していただけると幸いです。すでにたくさんのお気に入り登録もお寄せいただいておりまして、現在ファンタジーランキングの40位前後に位置しています。作品の詳細は下記に記載いたしております。またこの作品の目次のページ左下に新作小説にジャンプできるアイコンがありますので、どうぞこちらをクリックしていただけるようお願い申し上げます。



 新小説タイトル 〔クラスごと異世界に召喚されたんだけどなぜか一人多い 浮いている俺はクラスの連中とは別れて気の合う仲間と気ままな冒険者生活を楽しむことにする〕

 異世界召喚モノにちょっとだけSF要素を取り入れた作品となっておりますが、肩の力を抜いて楽しめる内容です。皆様この小説同様に第1話だけでも覗きに来てくださいませ。


    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「面白かった」

「続きが気になる」

「早く投稿して!」

と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! 皆様の応援を心よりお待ちしております。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

クラスごと異世界に召喚されたんだけど別ルートで転移した俺は気の合う女子たちととある目的のために冒険者生活 勇者が困っていようが助けてやらない

枕崎 削節
ファンタジー
安西タクミ18歳、事情があって他の生徒よりも2年遅れで某高校の1学年に学期の途中で編入することになった。ところが編入初日に一歩教室に足を踏み入れた途端に部屋全体が白い光に包まれる。 「おい、このクソ神! 日本に戻ってきて2週間しか経ってないのにまた召喚かよ! いくらんでも人使いが荒すぎるぞ!」 とまあ文句を言ってみたものの、彼は否応なく異世界に飛ばされる。だがその途中でタクミだけが見慣れた神様のいる場所に途中下車して今回の召喚の目的を知る。実は過去2回の異世界召喚はあくまでもタクミを鍛えるための修行の一環であって、実は3度目の今回こそが本来彼が果たすべき使命だった。 単なる召喚と思いきや、その裏には宇宙規模の侵略が潜んでおり、タクミは地球の未来を守るために3度目の異世界行きを余儀なくされる。 自己紹介もしないうちに召喚された彼と行動を共にしてくれるクラスメートはいるのだろうか? そして本当に地球の運命なんて大そうなモノが彼の肩に懸かっているという重圧を撥ね退けて使命を果たせるのか? 剣と魔法が何よりも物を言う世界で地球と銀河の運命を賭けた一大叙事詩がここからスタートする。

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

処理中です...