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第2話 自宅に帰りつくなり…

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 兄妹がアークデーモンを片付け終わった頃、そんな出来事など知らぬままに政府並びに自衛隊の面々は血眼になってダンジョンの手がかりを捜索を開始している。その捜索態勢は完全武装した自衛隊員が1万人以上動員されている大規模な体制。

 その中心地にいる聡史と桜の耳にはサイレンを鳴らして走行するパトカーの音が聞こえてくる。数台のパトカーが「危険なので外出を控えてください」とスピーカーの音量を最大にして地域住民に呼び掛けている模様。

 パトカーのサイレンに気を取られていると、暗がりをついて学校の正門を突き破って自衛隊の装甲車が続々と校庭に入ってくる様子が目に飛び込んでくる。周辺はすっかり夜半の時間帯であるが、二人の目はスキルによって夜間視力が確保されている。


「ずいぶん物々しい様子だな。一体何事が起きたんだろう?」

「私たちの戦いが嗅ぎ付けられるにはタイミングが早すぎますわ」

 もちろんたった今異世界から帰還したばかりの兄妹にはこの場で膨大な魔力が生じた一件などまったく想像の埒外。だが、なんとなくこの場にいるのは不味いのではないかという予感が沸き起こる。


「今なら間に合うか?」

 アイコンタクトで頷き合うと、二人は助走をつけて屋上のフェンスを飛び越える。そのまま地上5階から落下してしまうかと思わせておいてスタっと着地を決める。桜は無駄に高い身体能力に物を言わせて空中で5回転2回捻りを加えている。高飛び込みの競技か何かと勘違いしているのではないだろうか?

 そのまま兄妹は校舎の裏側へと走り抜けていく。学校の敷地と外を隔てる2メートルの塀をいとも簡単に飛び越えると、二人はそのまま夜陰に紛れて久方ぶりの我が家へと走り去るのだった。





   ◇◇◇◇◇






 実家の玄関先に聡史と桜が立っている。当然夜の10時を回っているので玄関にはカギが掛かっている。

 ピンポーン

「はい、どなたですか?」

「俺だよ」

「詐欺なら、間に合っていますから」

 どうやら変な方向に勘違いしている二人の母親の感情が一切こもらない返答が出迎える。このままでは埒が明かないので桜が兄に助言する。


「お兄様、言い方に問題があります」

「そうだったか? あの、この家の息子と娘ですが」

「ですから、詐欺は間に合っています」

 言い方を改めてもなおもインターホン越しの母親は詐欺だと思い込んでいるらしい。どこの世界にわざわざ家に押しかけてくるオレオレ詐欺の犯人がいるのだろうか? 二人の母親も大概な性格をしているよう。

 こんな頼りない兄には任せておけぬとばかりに、今度は妹がインターホンに顔を近づける。


「お母様、桜が帰ってきましたので玄関を開けてくれますか?」

「えぇぇぇぇ! 本当に桜ちゃんなのぉぉぉぉ」

 バタバタと足音を立てて玄関に近づいてくる人の気配がしてくる。そして勢いよくドアが開くと、そこには信じられないものを見たという表情の母親が立っている。


「お母様、ただいま戻りましたわ」

「母さん、ただいま。なんだか俺と桜の扱いに差を感じるんだけど?」

「お兄様、男は細かいことを気にしてはいけませんわ」

 妹の説得に対して聡史はまだ納得いかない表情をしているが、そんなことはお構いなく母親が捲し立てる。


「二人して連絡もしないでどこに行っていたのよ?!」

「母さん、信じてもらえないだろうが、俺たち二人は異世界に召喚されていたんだ。連絡をしようにも電話も繋がらなかったんだよ」

「適当なウソを言うんじゃありません。ちゃんと事情を説明しなさい」

 母親は、聡史の申し開きを一向に取り合おうとはしない。むしろ疑いの目を向けている。だが…


「お母様、本当ですわ。私たちは、異世界に召喚されていたんですの」

「あら、そうなの… まあ桜ちゃんが言うんだったら、きっと本当のお話なのね」

「俺って信用なさすぎっ」

「お兄様の信用がないわけではありませんわ。私の正直さをお母様は心から信じているんですの」

「ええ、桜ちゃんにはウソをつくという機能が搭載されていないものね」

「さすがはお母様ですわ。自分の娘のことをよくご存じですの」

 別に母親から褒められてはいないような気がするのだが、なぜか桜はドヤ顔を決め込んでいる。そして桜が聡史の肩を一つポンと叩く手の平には「お兄様、ドンマイですよ!」の気持ちが込められている。桜の兄を思う気持ちゆえの行動なのだが、この行為自体が聡史の心を微妙に抉っていく。

 だがこの空気を母親は敏感に察したよう。このままでは息子がスネてしまうのではないかと危惧する母親ならではの勘が働いたのだろう。そこで息子を納得させるために心からの言葉を送ろうと決心する。

 もうそれは長年二人を見てきた親として最上級の聡史を慰める言葉のつもりであった。


「も、もちろん聡史の言うこともちゃんと信用しているわ。ホントウデスヨ!」

「母さん、完全に棒読みだぞ」

 しまった! 息子にあっさりと読まれた… そんな感情アリアリの様子が母親の表情から一目瞭然。この状況を取り繕うために意を決した表情の母が告げる。


「冷静に考えてみれば、あなたたち二人だったら異世界くらい行って当たり前でしょう。むしろ行かないほうが不自然じゃないかしら」

「我が子を、どういう目で見ているんだぁぁぁ!」

 どうやら母親の苦し紛れの思いは聡史には伝わらなかったよう。


「まあいいから、早く中に入りなさい。桜ちゃんはお腹が空いているのかしら?」

「お母様、もちろんペコペコです」

「それじゃあ、今から美味しいご飯を用意するわ」

 どうやら母親は自分の気持ちを中々理解してくれない聡史は放置してターゲットを桜ひとりに絞ったよう。


「あのぉ… 俺の立場は?」

「さあさあ、二人が帰ってきたお祝いに、腕によりを掛けるわよ」

「お母様、とっても嬉しいです」 

「俺の立場は?」

 こうして母親に何となく誤魔化されて、ごくごく自然に双子は帰宅を果たす。

 聡史だけが、なんだか胸にモヤモヤした気分を残すのだった。



 
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