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目が覚めると、見たことの無い天井が広がっていた。
「んん……?」
ああ、そうだ。ここは街はずれの宿屋だ。
幽霊退治を頼まれて、幽霊と契約をして――……そのあとから記憶がぼんやりしている。
魔力を連日で使って倒れたのかな……。
「ふわぁ……」
ゆっくり起きあがる。外はまだ明るくて、倒れてしまってからまだそんなに時間も経っていなさそうだ。
シャル達も待っているだろうし、起きなくちゃ……と思ったら、何だか両側が妙にあったかい。
起き上がってみてみれば、ハティとスコルがわたしを挟んで寝ている。
「……」
声が出てしまいそうになるのをなんとか堪えて寝顔を見下ろせば、落ち着いている様子だ。
もしかして、心配して寄り添ってくれてたのかな。
何だかんだ素直じゃないからなぁ。
起こさないようにそっとベッドを抜け出して、部屋を出る。
わたしの部屋はちょうどど真ん中の様で、部屋を出てすぐに食堂へと続く階段があった。
「ニア、起きたのか。良かった、目を覚まして」
「シャル。ごめん、あの後意識なくって」
部屋から出たところで、食堂にいたシャルが迎えてくれた。
「マスター! よかった、目が覚めたのね! あのまま目覚めなかったらあたし早速主人亡くしちゃうところだったわよぅ」
「もう、大袈裟だなあ」
幽霊――フェメイがわたしに飛びついてくる……けれど、透けているからわたしを通り抜けて部屋のなかまで突っ込んでいった。
シャルもフェメイも、ちょっと眠っていただけなのになんだか反応が大げさすぎやしない?
バン! とわたしの部屋の扉が開かれて、ハティとスコルが慌てた様子で出てきた。
そのまま階段を駆け下りてきたかと思えば二人とも足を踏み外して一気に下まで降りてくる。
「ちょ、ちょっと大丈夫? そんなに慌ててどうし――」
慌てて二人に駆け寄って、怪我がない事を確認しようとすれば、二人に抱き付かれて目を丸くする。
「起きるのが遅いのだぞ!」
「心配したですの!」
どこか怒ったような声で強くぎゅうと抱き締められる。
そんな心配されるような倒れ方をしたのかな。
「……わ、わたし、ちょっと寝てただけだよね?」
「いや、ニアは三日間眠り続けていたんだぞ」
「えっ!?」
シャルを見て、聞いてみれば予想外の答えに驚いてしまう。
わたし、あれから三日間寝ていたの?
……そう考えると、確かにみんなの反応も頷ける。
「ニーナのところには報告はもう済ませた。宿はこのまま譲渡でいいと言っていた」
寝ている間に色々と動いてくれていたらしい。
食堂は綺麗に整っているし、それぞれ部屋割りも決めて、布団や道具を新調したりしたと。
申し訳なく思うけれど、すごく有り難いとも思う。
「そっか、色々とありがとう、みんな」
ハティとスコルの頭を撫でれば腕に力が入ってちょっと苦しい。
「ちょうどいいから、マスターとシャルさんがクエストに出ている間食堂として使っても良いって。あたし達も養われてるばっかじゃあねー」
上からふわふわ浮いてフェメイが戻ってくる。
せっかく食堂があるなら使うべきだとは思うけれど、フェメイは幽霊だし、ハティとスコルは子供だし……。安全はフェメイがいるから大丈夫だとは思うけれど、食堂として機能するんだろうか。
「料理とかできるの?」
「あたしは無理よぉ! 幽霊だよ? 塩に触ったらその瞬間に冥界に飛ばされちゃうってー!」
ですよねー……。
けらけら笑うフェメイを呆れたように見てから、抱き付いたままのハティとスコルを見下ろしてみれば二人とも顔を見合わせている。
「ハティはそれなりに出来るのだぞ」
「スコルも教わっていたので多少なら」
二人とも料理は一応できるらしい。……魔物が作る料理ってどんなのなんだろう。
食事は二人ともわたし達と同じように食べていたけれど。
「本当に作れるの?」
「作るなら今作るのだぞ。朝ごはんはまだなのだ」
ハティは腕に自信があるみたいで、ふふんと自慢気な表情を浮かべている。
「マスターは料理出来るの?」
フェメイの質問に、少しだけ返答に悩む。
アイツと二人だけのパーティだったときはわたしがご飯作っていたし……聖女ちゃんたちがパーティに加わった時からは聖女ちゃんが作ったり、宿の食事に頼っていたりしていたから、その後はあんまり作ってはないけれど……。
あ、でもたまにクエストに出掛けたときに他のパーティの人たちと一緒に食事するときに作ったりすることもあったかな。
ここ最近は作ろうか? って聞いても遠慮されることが多かったなあ……。
「うーん……まあ、人並みくらいには作れるかな」
料理の経験が全くないわけじゃないし、それなりには作れるはず。うん。
腕は落ちてるかもしれないけれど。
「じゃあ、ニアも起きたことだし、ぱーっとやりましょうよー! あたしの歓迎会! ねっ!」
歓迎される方が言い出すのかい……と突っ込みは置いといて。
みんなでぱーっとやるのもいいかもしれない。
食堂を見てみれば、食材も随分と買い込んでいるようだ。
「ま、いっか。それじゃあみんなでいっぱい作って、記念にパーティーしましょ!」
「スコルはいいと思いますの!」
「ハティも賛成なのだぞ!」
乗り気なハティとスコルと一緒に立ち上がれば、宿屋の扉が開かれる。
「よおニア。宿屋経営するって?」
「よーやく起きたのね、ニア!」
「ユーリ、ニーナまで……!」
ラフな格好をしたユーリとニーナが入ってくる。二人の両腕にはぱんぱんになった紙袋を持っていて。
「アタシはあの後倒れたって聞いたからお見舞いよ!」
「俺は開店祝い。ほれ」
二人から紙袋を受け取れば、いっぱいに入った果物や野菜が入っている。
「こんないっぱいに……ありがと。ちょーっと魔力使いすぎちゃっただけだからね」
ユーリとニーナも適当なところに座って、シャルと話し始めたのを見てから食堂へと入る。
一瞬ニーナに引き留められたけれど、心配されなくてももう元気なのに。
食材もいっぱいあるし……よぉし、久しぶりに腕が鳴るぞー!
「んん……?」
ああ、そうだ。ここは街はずれの宿屋だ。
幽霊退治を頼まれて、幽霊と契約をして――……そのあとから記憶がぼんやりしている。
魔力を連日で使って倒れたのかな……。
「ふわぁ……」
ゆっくり起きあがる。外はまだ明るくて、倒れてしまってからまだそんなに時間も経っていなさそうだ。
シャル達も待っているだろうし、起きなくちゃ……と思ったら、何だか両側が妙にあったかい。
起き上がってみてみれば、ハティとスコルがわたしを挟んで寝ている。
「……」
声が出てしまいそうになるのをなんとか堪えて寝顔を見下ろせば、落ち着いている様子だ。
もしかして、心配して寄り添ってくれてたのかな。
何だかんだ素直じゃないからなぁ。
起こさないようにそっとベッドを抜け出して、部屋を出る。
わたしの部屋はちょうどど真ん中の様で、部屋を出てすぐに食堂へと続く階段があった。
「ニア、起きたのか。良かった、目を覚まして」
「シャル。ごめん、あの後意識なくって」
部屋から出たところで、食堂にいたシャルが迎えてくれた。
「マスター! よかった、目が覚めたのね! あのまま目覚めなかったらあたし早速主人亡くしちゃうところだったわよぅ」
「もう、大袈裟だなあ」
幽霊――フェメイがわたしに飛びついてくる……けれど、透けているからわたしを通り抜けて部屋のなかまで突っ込んでいった。
シャルもフェメイも、ちょっと眠っていただけなのになんだか反応が大げさすぎやしない?
バン! とわたしの部屋の扉が開かれて、ハティとスコルが慌てた様子で出てきた。
そのまま階段を駆け下りてきたかと思えば二人とも足を踏み外して一気に下まで降りてくる。
「ちょ、ちょっと大丈夫? そんなに慌ててどうし――」
慌てて二人に駆け寄って、怪我がない事を確認しようとすれば、二人に抱き付かれて目を丸くする。
「起きるのが遅いのだぞ!」
「心配したですの!」
どこか怒ったような声で強くぎゅうと抱き締められる。
そんな心配されるような倒れ方をしたのかな。
「……わ、わたし、ちょっと寝てただけだよね?」
「いや、ニアは三日間眠り続けていたんだぞ」
「えっ!?」
シャルを見て、聞いてみれば予想外の答えに驚いてしまう。
わたし、あれから三日間寝ていたの?
……そう考えると、確かにみんなの反応も頷ける。
「ニーナのところには報告はもう済ませた。宿はこのまま譲渡でいいと言っていた」
寝ている間に色々と動いてくれていたらしい。
食堂は綺麗に整っているし、それぞれ部屋割りも決めて、布団や道具を新調したりしたと。
申し訳なく思うけれど、すごく有り難いとも思う。
「そっか、色々とありがとう、みんな」
ハティとスコルの頭を撫でれば腕に力が入ってちょっと苦しい。
「ちょうどいいから、マスターとシャルさんがクエストに出ている間食堂として使っても良いって。あたし達も養われてるばっかじゃあねー」
上からふわふわ浮いてフェメイが戻ってくる。
せっかく食堂があるなら使うべきだとは思うけれど、フェメイは幽霊だし、ハティとスコルは子供だし……。安全はフェメイがいるから大丈夫だとは思うけれど、食堂として機能するんだろうか。
「料理とかできるの?」
「あたしは無理よぉ! 幽霊だよ? 塩に触ったらその瞬間に冥界に飛ばされちゃうってー!」
ですよねー……。
けらけら笑うフェメイを呆れたように見てから、抱き付いたままのハティとスコルを見下ろしてみれば二人とも顔を見合わせている。
「ハティはそれなりに出来るのだぞ」
「スコルも教わっていたので多少なら」
二人とも料理は一応できるらしい。……魔物が作る料理ってどんなのなんだろう。
食事は二人ともわたし達と同じように食べていたけれど。
「本当に作れるの?」
「作るなら今作るのだぞ。朝ごはんはまだなのだ」
ハティは腕に自信があるみたいで、ふふんと自慢気な表情を浮かべている。
「マスターは料理出来るの?」
フェメイの質問に、少しだけ返答に悩む。
アイツと二人だけのパーティだったときはわたしがご飯作っていたし……聖女ちゃんたちがパーティに加わった時からは聖女ちゃんが作ったり、宿の食事に頼っていたりしていたから、その後はあんまり作ってはないけれど……。
あ、でもたまにクエストに出掛けたときに他のパーティの人たちと一緒に食事するときに作ったりすることもあったかな。
ここ最近は作ろうか? って聞いても遠慮されることが多かったなあ……。
「うーん……まあ、人並みくらいには作れるかな」
料理の経験が全くないわけじゃないし、それなりには作れるはず。うん。
腕は落ちてるかもしれないけれど。
「じゃあ、ニアも起きたことだし、ぱーっとやりましょうよー! あたしの歓迎会! ねっ!」
歓迎される方が言い出すのかい……と突っ込みは置いといて。
みんなでぱーっとやるのもいいかもしれない。
食堂を見てみれば、食材も随分と買い込んでいるようだ。
「ま、いっか。それじゃあみんなでいっぱい作って、記念にパーティーしましょ!」
「スコルはいいと思いますの!」
「ハティも賛成なのだぞ!」
乗り気なハティとスコルと一緒に立ち上がれば、宿屋の扉が開かれる。
「よおニア。宿屋経営するって?」
「よーやく起きたのね、ニア!」
「ユーリ、ニーナまで……!」
ラフな格好をしたユーリとニーナが入ってくる。二人の両腕にはぱんぱんになった紙袋を持っていて。
「アタシはあの後倒れたって聞いたからお見舞いよ!」
「俺は開店祝い。ほれ」
二人から紙袋を受け取れば、いっぱいに入った果物や野菜が入っている。
「こんないっぱいに……ありがと。ちょーっと魔力使いすぎちゃっただけだからね」
ユーリとニーナも適当なところに座って、シャルと話し始めたのを見てから食堂へと入る。
一瞬ニーナに引き留められたけれど、心配されなくてももう元気なのに。
食材もいっぱいあるし……よぉし、久しぶりに腕が鳴るぞー!
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