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「おい、起きろニンゲン! いつまで寝てるのだ!」
 
 朝日がカーテンの隙間から差し込んで、顔を照らして眩しい。
 それに加えて、恐らくハティの手がわたしの額を遠慮なく叩いてくるから刺激で意識が一気に覚醒する。

「ハティ、乱暴はだめですの!」
「シャルさまに椅子で寝かせておいてアホ面して寝てるこのニンゲンが悪いのだぞ!」

 ハティとスコルで一つのベッド。余っているのも一つだけ。
 シャルが椅子で寝れるから問題ないからとわたしにベッドを譲ってくれたんだった。

 ハティとスコルの言い争う声が頭に響く。
 まだ眠たくてぼんやりするけれど、あくびをしながら仕方なく起き上がる。

「おはよう、ニア。よく眠れたみたいだな」
「おはよう……ベッド譲ってもらってごめんね、シャル」
「別に構わない。女に椅子で寝かせるわけにはいかないからな」

 言葉はぶっきらぼうだけど、行動は紳士的だなあ。
 わたしは「ありがとう」と告げて、まだ口論続けている二人の頭をわしゃわしゃ撫でる。

「ほらほら、二人ともそこまで。ハティ起こしてくれてありがとね」
「……ふんっ」

 そっぽ向くハティにスコルがまた怒りそうになっていたから、また口論が始まる前に止めておく。

「スコルとハティは兄妹なの? 顔もそっくりだし」
「はいですの。双子なんですの!」

 双子と聞いて納得する。髪の色と着ている服以外本当にそっくりだもん。
 ハティがあの屋敷で必死になっていたのも頷ける。大事な自分の家族が危険な目に合っていたんだから。

 明るく頷くスコル。素直でかわいいなぁ……。
 黙って聞いていたシャルの大きな溜息が聞こえ、二人の肩がびくっと跳ね上がる。
 ……まあ、保護者? の立場からしたら勝手に出てきたんだから怒るに決まってるよね……。

「ハティに続いて、スコルまで来たのは何でだ?」

 静かな声で問いかけるシャル。表情は真顔で、声は淡々としていて怒っているのかわからない。

「スコルは、ハティのことを連れ戻しに来たですの。お母さまから頼まれたですの!」

 キッと横目でハティを睨み付けるスコル。
 お母さま……たぶん、フェンリルよね? 想像つかないけれど、二人と同じように人型なのかな。

「ハティは……、ハティは帰らないのだぞ。スコル一人で帰るのだ」
「そんなこと出来ないですの! スコルはお母さまに頼まれたですの!」
「そうだ。二人とも帰れ」

 シャルがぴしゃりと言って、それに同調するスコル。
 ただ一人、ハティだけが首を横に振っている。

「ハティは……絶対に、帰らないのだぞ」

 これは、何を言っても帰らなさそうだ。でも、お互い主張は譲らない。
 部屋の中は気まずい空気で溢れ、全員が押し黙る。

 生意気だし、乱暴なところもあるし帰ってくれた方がいい。とは、思うけれど……。

「ねえ、ハティ。昨日、なんで捕まっちゃったの?」
「……この街に、スコルが来ているのが知っていたのだ。ハティはあいつらが、スコルを連れていったってわかって……スコルの匂いがしたのだぞ」

 わたしの質問に答えるか悩んでいたけれど、ぽつりぽつりと話し出してくれた。
 うんうんと頷きながら相槌を打つ。

「スコルとハティは繋がっているですの。どこにいても、どこにいるのかわかるですの」

 なるほど。わざと連れていかれたってことか。妹を助け出すために。
 ……うん。やっぱりこの子は悪い子じゃない。ちょっと素直じゃないだけで。……そう思える。

 ハティを追ってスコルが連れ戻しに来たというから、目的はまた違うことなんだろう。

 三人とも、それぞれ色んな事情や理由があって、この街にやってきた。
 どうしてなのか、理由はわたしからは聞かない。言ってきてくれるまで待つってシャルと決めたから。だから、この二人にもそんなことはしない。
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