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 わたしは、ハティとスコルを連れて泊まっている宿まで戻ってきた。
 元々二人用の部屋だから、子供とはいえ四人で泊まるにはかなり狭く感じる。

 悪党たちとの闘いよりも、事情聴取と言う名のユーリの雑談話の方に疲れを感じちゃって、とりあえず早く休みたい気持ちでいっぱいだ。
 でもその前に二人を寝かし付けておこうかな。シャルは帰ってきてないみたいだけど、待たせるよりも朝ゆっくり話した方が良いと思うし。

 一つのベッドに二人を寝かせて布団を被せると、スコルがぎこちなくわたしの服を引っ張る。

「あ、あの、お姉さま、お話ししてほしいですの。いつも寝るときには、シャルさまがお話聞かせてくれたですの」
「ええ……お話、かあ」

 村ではよく寝かし付けを任されていた時もあったっけ。
 でも、子供に聞かせられるようなおとぎ話なんて何かあったかな。

 ――――これはね、どこか遠い世界のお話。
 うーんと唸って考えていれば、不意に、頭の中に浮かんできたおばあちゃんの声。

 ああ、そういえば何回も何回も聞かせてくれたっけ。

 昔何度も聞いた話を思い出すように、おばあちゃんの声に続くように、言葉を追っていく。

「――どこか遠い、遠い世界のお話。ニホンという国から来た勇者様がいました。勇者様は、魔族の女の子と出会いました。その世界では、色んな種族が暮らしていましたが、どの種族も人間は嫌っていました。勇者様が旅をしている中、たくさんの血と、たくさんの涙が流れて、世界は知らない間にぼろぼろになっていきました」
「……ニンゲンは、どの世界でも愚かなのだぞ」

 ハティが小さな声で呟く。
 スコルには届いていないようだったけれど、わたしには届いていた。

 返事をすることはしないで、わたしは一息吸ってからまた物語を紡ぎ出す。

「その時、勇者様は魔族の女の子と手を取り合いました。崩れてしまった世界を、何とかしようとしたのです」
「……それで、勇者さまはどうしたんですの?」

 スコルの質問に言葉を詰まらせる。
 おばあちゃんはいつも、どんな終わりを話していたっけ?

「ああ、そうだ……勇者様のこの後だけどね、わからないの」

 えっ? と二人の声が重なる。

「まだ終わってないのかもしれないし、始まってすらないのかもしれない。でもきっと結末は幸せな終わりだと思う」

 おばあちゃんはいつも結末は話してくれなかった。
 まるでまだ書きかけのお話みたいに。それでも、結末がわかっているみたいに。
 そんなお話だ。

「寝かし付けの話じゃないのだぞ」
「あはは……その通りねー……でも、これしか覚えてないんだもん」

 ハティの鋭い突っ込み思わず苦笑いを浮かべてしまう。困ったような、呆れたような深い溜息が二つぶん聞こえて、わたしはがっくりと肩を落とす。

「おやすみなさいですの、お姉さま」
「ハティたちはもう眠るのだ、ニンゲン」
「はいはい、おやすみ」

 そういって、離れようとすれば二人からの熱い視線を感じる。
 あ、あー……そうか、この二人もそういう文化で育った子なんだ。

 少し恥ずかしくて、軽く咳払いをしてから二人のおでこに口付ける。

 ようやく満足した二人から寝息が聞こえるのを確認してからわたしはそっと部屋を出た。
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