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 ギルドに入りたての頃、一度だけ迷子探しの依頼を引き受けたことがある。
 王都から出てきた貴族さまの子供が居なくなって、多額の報奨金が用意されたから、たくさんの冒険者が街中駆け回って。
 結局貴族様の子供は使われていない貴族のお屋敷にいたんだっけな。

「ユーリ、迷子を捜してるんだけど……銀髪でフリフリの服を着た子供なんだけど、見なかった?」

 わたしは街に駐在する騎士団の駐屯所に来ていた。
 王国から派遣された騎士たちで、落とし物や迷子の保護から、街の警備――と言っても、腕の立つ冒険者が多いからこの街ではお気楽騎士なんて呼ばれてもいる。

 背中に王国のエンブレムの描かれた長ったらしい青いマントにあまり使われていないぴかぴかの銀の鎧を身に纏って駐屯所の入り口でパンを抱えて食べている長身の男性、ユーリスディに声を掛ける。
 ユーリは、いつもと変わらない明るくて人懐こい笑顔をわたしに向ける。

「おっニア、まーた問題でも起こしたか? ついにパーティから追い出されたお転婆踊り子って噂で持ちきりだったぞ?」
「なによその噂! っていうか、わたしが問題児みたいな言い方やめてよね!?」

 日に当たるとキラキラ輝く金髪に碧眼……とまあ、絵本から出てきたような典型的な騎士様そのものだけど、見た目に反して口を開けばすぐ意地悪なことばっかり言うから憧れの騎士様とは正反対だけれど。

「んんっ。今日は何かあったとかじゃなくって、迷子を捜しているの。もしかしたら此処に届けられてると思ったんだけど……居ないならいーや。帰るね」

 いつものこの調子だと余計な話で終わってしまう。軽く咳払いをしてユーリを見てみるけど、のんきな顔をしてパンを頬張っている。
 この様子だと迷子が届けられている気配はないかな。

 溜息をつきながら踵を返せば、ユーリに手首を捕まれる。
 にっこりと笑顔浮かべているけれど……なんだか嫌な予感。

「まー待て待て。良い話があるんだが……ちょっとお茶でも飲んでいかないか?」
「えー……やだぁ……」

 ユーリは、「まあまあ」なんて言いながらわたしの不満の声なんて聞こえないフリをして、駐屯所の奥へと引っ張って行く。

 中は以外と狭くて、シンプルな机と椅子が二つ。その奥にまた部屋があって、真ん中に食卓のテーブルにキッチンが壁沿いに作られている簡易的な部屋になっている。
 多分、休憩室なのかな。あんまり使われている様子はなさそう。

 わたしを椅子に座らせて、ユーリは少し埃を被った棚の中からカップを二つ取り出して、紅茶の準備をしている。

「ここ最近、どうやら子供が行方不明になる事件が多いんだ。だがギルドにも騎士団の方にも依頼が来ていない。……どういうことかわかるか?」

 わたしの前に淹れたての紅茶が並々注がれたカップを置いて、ユーリさんが問い掛けてくるけれど、聞かれてもさっぱりわからない。
 首を傾けて頭にクエスチョンマーク浮かべるわたしに、ユーリは話を続ける。

「お貴族様の間でな、賭けが流行ってるんだ。年端もいかない子供を集めて戦わせて、誰が勝つか、ってな」
「悪趣味な遊びね」

 話を聞いて、苛立ちが込み上がる。
 子供にそんなことをさせるなんて、貴族さまは随分と暇を持て余しているみたい。

「つまり、貴族さまが人攫いから買ってるってこと?」
「……あくまで、憶測だけどな」

 紅茶をぐいっと飲み干して、音を立ててカップを置いたユーリさんはニッとわざとらしいくらいの笑顔を浮かべてわたしを見る。

 ――しまった。この笑顔は。

「お利口さんなニアは、ここまで聞けば俺が何を言いたいのかわかるな?」

 ――ユーリの良い話はいつだって、面倒事の押し付けだということをわたしは忘れていた。
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