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「おはよう、シャル! 良い朝だよ!」
朝日が昇り始めて約一時間。
ギルドが開くにはまだ早いけれど、良い依頼が締め切られる前にギルドに行かなければいけない。
窓を開けるとちょっとだけ朝の冷たい風が入り込んでくる。
ちょっぴり肌寒いのか、シャルが布団の中でもぞもぞ身じろいだのが見えた。
――昨日の夜のことは、忘れることにした。村に居たときだって犬に顔中舐められたこともあるし、同じようなものでしょ、うん。
「もう朝なのか……朝は苦手だ……」
少し掠れた声でシャルが起き上がってくる。
寝惚けた目と合ってしまって、気恥ずかしくなるが顔に出ないようににっこり笑顔を浮かべて見せる。うん、大丈夫、平常心平常心!
「朝ご飯食べて、ギルドに行きましょ! 良い依頼は朝一番から! パーティーランクもシャルの個人ランクも上がらないけど、お金稼ぎはしなくっちゃね!」
わたしがSSSランクだから、依頼自体は何でも受けれるはず。
お金はとても大事。
聖女ちゃんも、賢者くんも仲間じゃなかった頃――アイツと二人きりの時はとにかくお金がなくて野宿やそこらへんの草なんかを食べて生きてきた。
野草を食べて毒状態になったりしたときは本当に惨めな思いだったなあ……。
うう、あの頃を思い出したらお腹痛くなってきた……。
「そうか……依頼というのは朝一番が良いんだな。覚えた」
シャルをギルドで登録するときは、職業を魔王とは流石に書けなかったから、魔法剣士にしておいた。
『鑑定』の魔法で見た職業と登録する職業は別の者を書けるなんて知らなかったから、ちょっとずる賢い知識を学べたなあ。
「食事は酒場か? それとも、宿で済ませられるんだろうか」
「残念だけど、酒場はお昼からじゃないとやってないの。宿に食堂が付いてるはずだから行こう」
今まで、シャルはどんな風に生きてきたんだろ?
あんまり知識もないところを見ると、本当に冒険初心者みたいだし。
意識がちゃんと覚醒して、黒いフードを被るシャルと目が合ったけれど、柔らかい笑みを返される。
うん、シャルも昨日のことは気にしてないみたいね! 安心したような、意識されてなくて女として悲しいような……?
複雑な思いは抱きつつもわたし達は一階にある食堂へと向かって降りて行った。
――――
宿屋の食事はビュッフェ形式。
パーティーランクがA以上になれば一流の料理人の作ったご飯を食べれるけど、ソロ活動とパーティーランクがB以下の人は見習いが作ったご飯だ。
つまりは練習台ということで、担当する見習いによって美味しかったり、美味しくなかったりもする。
「今日は……外れだね」
「そうなのか? 普通に美味いと思うが……」
魔王というのは心が広いのか、それとも味音痴なのか……。
焼き料理は真っ黒にこげっこげだし、砂糖と塩を間違えているのかしょっぱい料理が甘いし、甘いはずの料理はしょっぱい。
流石のわたしでももう少しまともな料理するっていうのに!
周りを見てみれば、「まずい!」だの「朝から変なもの食わせるな!」だの他の冒険者たちの不満が爆発して怒号が飛んでいる。
「ニア、外れとかいうのは作ったやつに失礼だぞ。料理は、気持ちが籠っていればそれでいい」
「は、はい……すみません……」
シャルの心が広すぎるだけだった。
魔王なんだよね、この人。
いや、もしかしたら本当にマ・オーっていう新しい職業なのかもしれない。
うん、そうよきっとそう! そうじゃなきゃ、そこらの人間よりも人間性が出来過ぎてるもの……。
朝日が昇り始めて約一時間。
ギルドが開くにはまだ早いけれど、良い依頼が締め切られる前にギルドに行かなければいけない。
窓を開けるとちょっとだけ朝の冷たい風が入り込んでくる。
ちょっぴり肌寒いのか、シャルが布団の中でもぞもぞ身じろいだのが見えた。
――昨日の夜のことは、忘れることにした。村に居たときだって犬に顔中舐められたこともあるし、同じようなものでしょ、うん。
「もう朝なのか……朝は苦手だ……」
少し掠れた声でシャルが起き上がってくる。
寝惚けた目と合ってしまって、気恥ずかしくなるが顔に出ないようににっこり笑顔を浮かべて見せる。うん、大丈夫、平常心平常心!
「朝ご飯食べて、ギルドに行きましょ! 良い依頼は朝一番から! パーティーランクもシャルの個人ランクも上がらないけど、お金稼ぎはしなくっちゃね!」
わたしがSSSランクだから、依頼自体は何でも受けれるはず。
お金はとても大事。
聖女ちゃんも、賢者くんも仲間じゃなかった頃――アイツと二人きりの時はとにかくお金がなくて野宿やそこらへんの草なんかを食べて生きてきた。
野草を食べて毒状態になったりしたときは本当に惨めな思いだったなあ……。
うう、あの頃を思い出したらお腹痛くなってきた……。
「そうか……依頼というのは朝一番が良いんだな。覚えた」
シャルをギルドで登録するときは、職業を魔王とは流石に書けなかったから、魔法剣士にしておいた。
『鑑定』の魔法で見た職業と登録する職業は別の者を書けるなんて知らなかったから、ちょっとずる賢い知識を学べたなあ。
「食事は酒場か? それとも、宿で済ませられるんだろうか」
「残念だけど、酒場はお昼からじゃないとやってないの。宿に食堂が付いてるはずだから行こう」
今まで、シャルはどんな風に生きてきたんだろ?
あんまり知識もないところを見ると、本当に冒険初心者みたいだし。
意識がちゃんと覚醒して、黒いフードを被るシャルと目が合ったけれど、柔らかい笑みを返される。
うん、シャルも昨日のことは気にしてないみたいね! 安心したような、意識されてなくて女として悲しいような……?
複雑な思いは抱きつつもわたし達は一階にある食堂へと向かって降りて行った。
――――
宿屋の食事はビュッフェ形式。
パーティーランクがA以上になれば一流の料理人の作ったご飯を食べれるけど、ソロ活動とパーティーランクがB以下の人は見習いが作ったご飯だ。
つまりは練習台ということで、担当する見習いによって美味しかったり、美味しくなかったりもする。
「今日は……外れだね」
「そうなのか? 普通に美味いと思うが……」
魔王というのは心が広いのか、それとも味音痴なのか……。
焼き料理は真っ黒にこげっこげだし、砂糖と塩を間違えているのかしょっぱい料理が甘いし、甘いはずの料理はしょっぱい。
流石のわたしでももう少しまともな料理するっていうのに!
周りを見てみれば、「まずい!」だの「朝から変なもの食わせるな!」だの他の冒険者たちの不満が爆発して怒号が飛んでいる。
「ニア、外れとかいうのは作ったやつに失礼だぞ。料理は、気持ちが籠っていればそれでいい」
「は、はい……すみません……」
シャルの心が広すぎるだけだった。
魔王なんだよね、この人。
いや、もしかしたら本当にマ・オーっていう新しい職業なのかもしれない。
うん、そうよきっとそう! そうじゃなきゃ、そこらの人間よりも人間性が出来過ぎてるもの……。
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