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「はあ……これからどうしよう……」

わたしは今、酒場にいる。
アイツに捨てられて、聖女ちゃんや賢者くんのところに慌てて助けを求めたけど、鼻で笑われてしまった。
ちなみに、聖女ちゃんも賢者くんもあだ名である。
聖女ちゃんはセイラ・ジョセフィーヌという名前で拳闘士の糸目がチャーミングな女の子。
賢者くんはケンタウロス・ジャスダックという名前の2メートルくらいの身長のフリルを着た男の……娘とやらだ。
二人ともごりごりのガタイのいい体をしているけど、優しくていい人だって思ってたのに……。


わたしは、アイツに……いや、アイツらに捨てられたのだ。
でも、あんな奴でも幼馴染だったし、ちょっとだけ好意を抱いていた。

「あーー! くーーやーーしーーいーー!!」

ジョッキの底をテーブルにダンッと叩きつければ中になみなみと注がれたミルクが揺れてちょっとだけテーブルに零れて染みを作る。

少なくとも、わたしはアホ野郎の為に中々の努力と労力をつぎ込んできたつもりだ。
アイツと一緒に村を出て3年とちょっと。魔法を覚え、アホ野郎を守るために前線に立って時には剣を、時には斧だって振ってきたというのに。
そして史上初の最年少にして、踊り子という職業でSSSランクに到達したのだ。
――ちなみに、踊り子と言うのはギルドで職業を選ぶときにアホ野郎が「お前、かわいいしさ、踊り子とか似合うんじゃね?」といったので踊り子を選んだ。

それなのに、SSSランクになった途端にわたしの事をあっさり捨てて……!
SSSランクの踊り子なんていわば国民的アイドルよ?!
歌って踊れて、魔法も武器もお手の物なアイドルを捨てるなんて――

「絶対許さないんだから……うう」

こうなったら、新しいパーティーを探してアイツらよりも先に魔王討伐してやる!
そう決めて、酒場にいるわけなんだけど……。

「どーして誰も来ないのよー!」

一時間待っても、二時間待ってもパーティーのお誘いどころか、応募の一つもない。
掲示板には入れ替わり立ち替わりに張り紙が変わっていくけど、わたしが出したパーティー募集の張り紙はずっと残ったまま。

声を掛けられない理由も、誰も応募してこない理由もわかっている。
わたしが、SSSランクだからだ。

パーティーがランクを上げるには、パーティーメンバーの誰かの個人ランクがパーティーのランクよりも上に到達することが条件だ。
だが、上位ランクの人が自分より下位のパーティーに入ったところでパーティーのランクは上がらなくなってしまう。寧ろ、その時点のパーティーランクから上がることは無くなる上に、メンバーの個人ランクすら上がらなくなってしまうのだ。昔不正が色々とあってこういう仕組みになったらしいけど、今のわたしにとっては非常に苦しいシステムだ。
ちなみに、わたしがパーティーを組んでもSSSランクじゃなくって、一度もパーティーリーダーをしたことがないから最低のDランクからだ。でもわたしがSSSランクな以上、Dランクから上に上がることはない。

そんな理由から、SSSランクなんて最高ランクのわたしをパーティーに入れたがる人なんていない。
声を掛けても断られるか無視されるだけで心が折れたのでこうして大人しく待っている。

だったらソロで活動すれば? みなさんそう思いかと存じますが、ソロで活動するのは寂しい。それに、この世界はパーティー至上主義なところがあるから、ソロはとても活動しづらいのだ。
武器やアイテムを買うのも、飲食をすることも、宿屋に泊まることだってパーティー活動割引が付くし、ソロは倍料金を支払わなければならない。

「はあぁ~~……パーティー組みたいよぉ……」

テーブルに項垂れ、掲示板を見る。
次々と張り紙が剥がれては、また新しいものが貼られていく。
わたしの張り紙は真ん中にひっついたまま剥がれる気配もない。

SSSランクなんて、居てくれたら有り難いが、パーティーや自分たちのことを考えれば迷惑な存在だ。
ていうかそんなシステムにしたの誰よ! 王様か! くそぅ!

ミルクを一気に飲み干してジョッキを置けば、掲示板の前でわたしの張り紙を見ている人物に気が付く。

「ぷっはあ! ……ん?」

もしかして――と期待したのも束の間、その人物はすーっと掲示板の前から居なくなってしまった。
真っ黒なフードと赤いマフラーの長身の人物。
期待させておいて居なくなったことに不満の八つ当たりしてやる……!

「お嬢ちゃん、そろそろ次のチャージ料が掛かるぜ? ソロになっちまったんだろ?」
「ええーっもうそんな時間なのー!?」

これだからソロは活動しづらい。
酒場も上手くパーティーが組めなければどんどんチャージ料が掛かってしまう。

かろうじてミルク代は持っていたわたしはこれ以上居座ることは出来ない。

「仕方ない……また日銭稼いだらまた来るよ。おじさん、お会計お願いねー」
「あいよ。ミルクとチャージ代で1060Gな」

ポケットの中から全財産を取り出す。
ええと、500Gと……。

「……足りねえなあ」

全財産、590G。
金銭の管理は殆ど聖女ちゃんがしてたから、ちょっとしたお小遣い持たせて貰えなかった。
つまり、本当にミルク代しか持っていないのだ、わたしは。

「え、えっと……喰い逃げ……あ、飲み逃げをするつもりはなくて……」

おろおろとおじさんを見れば、おじさんも困った顔をしている。
無銭飲食は憲兵に突き出されて牢屋行きだ。いや、牢屋に行ったのはあくまで噂で、実際犯罪者がどうなったかなんて聞いたことはない。

思わず後ずさりしてしまえば、おじさんに腕を捕まれる。
わたしの実力的に、全力で逃げればこの街を出ることは出来るだろうけど、折角到達したのに、SSSランクの喰い逃げ犯なんてやだよーー!

「誰か憲兵を――」

おじさんがわたしの手を掴んだまま他の客に声を掛ける。

「ま、ままま待って待って!! 皿洗いでも用心棒でも何でもするからあ!!」
「待てねえなあ」

SSSランクになった時はあんなに喜んでくれたおじさんが、今はとても冷たい目でわたしを見ている。
パーティーを追い出されてソロ活動になった途端にこの扱いか!?
おじさんは掴んだわたしの腕を引っ張って店の入り口へと向かっていく。外にはきっと憲兵がいて、わたしはここじゃあ言えないようなあんなことやそんなことをされるに決まっている……!

「パーティーを募集しているのはお前か?」

先ほどわたしの張り紙を見ていた黒いフードの人物が腕を掴むおじさんの手首を掴んでいる。

「わたしだけど……あなたは……?」

フードの中には、黒髪と白髪が半分ずつと、少し釣り目がちな青い瞳の整った顔立ちが見える。

「俺のことよりも、パーティーリーダーが連れて行かれたら困る。パーティーになれば席料とやらも要らないんだろう? 解放してやってくれないか」
「あ……お、おう、そうだな」

フードの男がおじさんの手首を離せば、おじさんがわたしの腕を解放する。
思ったより強い力で捕まれていたみたいで、うっすら跡が出来ていた。
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