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新しく生きる、言葉の意味
第4話
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「お待たせしました……」
「あ、本物の羽澤灯里ちゃんだ~」
お話し会の場所として利用することを許可されている教室に辿り着く。
私を待っていたのは、二学年になったときに初めて会った百合宮杏珠さん。
眩しいくらいの笑顔が特徴で、いつも多くの友達に囲まれている社交的な同い年の女の子。
「教室の扉は、開けさせてもらいますね」
「うんっ、了解っ」
もちろん生徒同士のお話し会のため、部屋に鍵をかけることはできない。
扉は必ず開けたままで、いつ顧問の先生が部屋を訪れても大丈夫にしておかなければいけない。
(私たちは、教師じゃない)
ピアサポート部の部員は、同じ高校生。
ピアサポート部の生徒と話をしたいと思っている相手も、同じ高校生。
(私は、百合宮さんの同級生でしかない)
悩みがあるのなら、高校生ではなく教師に話すべきかもしれない。
でも、ピアサポートの制度を利用する人たちは教師ではなく、同世代の子に話をすることを選んでくれた。
部活内で行われている研修の内容を頭に浮かべながら、私は彼女と一緒に指定された教室に置かれてある椅子に腰かける。
(それでも、私たちは他人の人生を変える可能性がある……)
言葉は人を傷つける武器にもなるけれど、人を救う武器にもなる。
私たちピアサポート部員は、そのことをしっかりと頭に入れておかなければいけない。
昨日今日が初めましての人たちと関わることの責任の重さと言ったら、とても一人で背負いきれるものではない。
(それでも、やるしかない)
過去の私が、できなかったことをやり直すのか。
過去の私とは、まったく別の人生を歩み始めるのか。
何も決まっていない。
神様が現れて、君が進む道はこっちだよと教えてくれるわけではない。
今の私にできるのは、今の人生を生きること。
「感動だな~! あの天才ヴァイオリニスト羽澤灯里ちゃんとお話しできる日が来るなんて」
「今は、ただの高校生です……」
入口には第二理科準備室と言う案内板が掲げられていて、生徒との相談に使用できるほど清掃が行き届いていないことがよく分かる。
「指定された教室はここですけど、かび臭いですね……この教室……」
「窓、開けてもいいかな?」
「開けましょう!」
カビ臭く、埃にまみれた第二理科準備室が百合宮さんとの出会いの場所。
今も過去も、変わっていない。
「場所変えなくても、大丈夫ですか」
「百合宮さんさえ良ければ、場所変えましょうか?」
「灯里ちゃんとお話してみたかっただけだから、場所はどこでも大丈夫だよ」
百合宮さんは梓那くんと同じく、世界を魅了できるほどの実力あるチェロの演奏家になる予定の女の子。
梓那くんを、幸せにする女の子。
私にはできなかったことをやり遂げた、同級生の女の子。
「あ、灯里ちゃん! せっかくなら二人で掃除する?」
「百合宮さんの制服が汚れちゃいますよ」
「なかなか掃除のし甲斐があるねっ!」
暗くて陰湿な雰囲気さえも漂う教室なのに、百合宮さんの笑顔は消えたりしない。
ほかの生徒相手だったら、清掃なんてするだけ無駄なんて言葉が返ってくるかもしれない。
「でも、百合宮さんは雑巾禁止です」
「えー」
「演奏家志望の人が怪我しちゃったら……」
「私も普通の高校生をやりたいでーす」
理科とは無縁そうな道具や資料が山積み……そもそも、一体何に使うのか分からないような道具や資料が山積みの教室。
人手は一人でも多い方が助かるけれど、百合宮さんの手は将来数えきれないほどの人を幸せにするための手。
傷ひとつ許されない体なのだから、まともに清掃なんてさせるわけにはいかない。
「あ、本物の羽澤灯里ちゃんだ~」
お話し会の場所として利用することを許可されている教室に辿り着く。
私を待っていたのは、二学年になったときに初めて会った百合宮杏珠さん。
眩しいくらいの笑顔が特徴で、いつも多くの友達に囲まれている社交的な同い年の女の子。
「教室の扉は、開けさせてもらいますね」
「うんっ、了解っ」
もちろん生徒同士のお話し会のため、部屋に鍵をかけることはできない。
扉は必ず開けたままで、いつ顧問の先生が部屋を訪れても大丈夫にしておかなければいけない。
(私たちは、教師じゃない)
ピアサポート部の部員は、同じ高校生。
ピアサポート部の生徒と話をしたいと思っている相手も、同じ高校生。
(私は、百合宮さんの同級生でしかない)
悩みがあるのなら、高校生ではなく教師に話すべきかもしれない。
でも、ピアサポートの制度を利用する人たちは教師ではなく、同世代の子に話をすることを選んでくれた。
部活内で行われている研修の内容を頭に浮かべながら、私は彼女と一緒に指定された教室に置かれてある椅子に腰かける。
(それでも、私たちは他人の人生を変える可能性がある……)
言葉は人を傷つける武器にもなるけれど、人を救う武器にもなる。
私たちピアサポート部員は、そのことをしっかりと頭に入れておかなければいけない。
昨日今日が初めましての人たちと関わることの責任の重さと言ったら、とても一人で背負いきれるものではない。
(それでも、やるしかない)
過去の私が、できなかったことをやり直すのか。
過去の私とは、まったく別の人生を歩み始めるのか。
何も決まっていない。
神様が現れて、君が進む道はこっちだよと教えてくれるわけではない。
今の私にできるのは、今の人生を生きること。
「感動だな~! あの天才ヴァイオリニスト羽澤灯里ちゃんとお話しできる日が来るなんて」
「今は、ただの高校生です……」
入口には第二理科準備室と言う案内板が掲げられていて、生徒との相談に使用できるほど清掃が行き届いていないことがよく分かる。
「指定された教室はここですけど、かび臭いですね……この教室……」
「窓、開けてもいいかな?」
「開けましょう!」
カビ臭く、埃にまみれた第二理科準備室が百合宮さんとの出会いの場所。
今も過去も、変わっていない。
「場所変えなくても、大丈夫ですか」
「百合宮さんさえ良ければ、場所変えましょうか?」
「灯里ちゃんとお話してみたかっただけだから、場所はどこでも大丈夫だよ」
百合宮さんは梓那くんと同じく、世界を魅了できるほどの実力あるチェロの演奏家になる予定の女の子。
梓那くんを、幸せにする女の子。
私にはできなかったことをやり遂げた、同級生の女の子。
「あ、灯里ちゃん! せっかくなら二人で掃除する?」
「百合宮さんの制服が汚れちゃいますよ」
「なかなか掃除のし甲斐があるねっ!」
暗くて陰湿な雰囲気さえも漂う教室なのに、百合宮さんの笑顔は消えたりしない。
ほかの生徒相手だったら、清掃なんてするだけ無駄なんて言葉が返ってくるかもしれない。
「でも、百合宮さんは雑巾禁止です」
「えー」
「演奏家志望の人が怪我しちゃったら……」
「私も普通の高校生をやりたいでーす」
理科とは無縁そうな道具や資料が山積み……そもそも、一体何に使うのか分からないような道具や資料が山積みの教室。
人手は一人でも多い方が助かるけれど、百合宮さんの手は将来数えきれないほどの人を幸せにするための手。
傷ひとつ許されない体なのだから、まともに清掃なんてさせるわけにはいかない。
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