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 思い出す。五年前のあの日。
 太陽がジリジリと肌を焼く、夏の日だった。

 提出しなければいけない課題を何とか終わらせた僕は、三日ぶりに彼女の住むアパートを訪れていた。

 合鍵を使って入った彼女の部屋は、妙にひんやりとしていたのを覚えている。

 玄関には彼女の靴と、初めて見る男物の靴が置いてあった。
 何だか嫌な予感がする。

 ゆっくりと靴を脱いで部屋に上がると、キッチンとバスルームを素通りし、居住スペースのドアを開けようとした。

 ガンッ!

 何か重いものに当たって、扉は全部は開かなかった。
 仕方なく、僕は開いた隙間から中を覗く。
 この時、僕は気付くべきだったんだ。靴がある筈なのに、家の中から音が全くしなかったことに。

 中を覗くと、目の前に足があった。

 白いスカートから伸びる足が宙に浮いた状態で、ぶらんぶらんと揺れている。

 (なんで足が浮いているんだ……?)

 心臓がうるさいくらいに鳴って、息がしづらくなってきた。
 僕はゆっくりと目線を、足から上に上げていく。

「えっ」

 彼女だ。
 白いノースリーブワンピースを着た僕の彼女が、ロフトの柵に結ばれたロープで首を吊っていた。

「な、なんで…………あれ?」
 (彼女が目の前に居るなら、この扉に当たる重みはなんだ?)

 不思議と、どこか冷静な頭の中で疑問が湧く。
 僕は開いた隙間に体を捩じ込ませ、重みの正体を見た。

 ドサッ
 バタン

 僕が尻もちを着いたのと扉が閉まったのは、ほぼ同時だったと思う。

「えっ? えっ? えっ? …………誰?」

 重みの正体は、健康そうなコムギ色の肌をした上半身裸の知らない男だった。
 彼女と同じように、ロフトの柵に結ばれたロープで首を吊っていた。

 どれくらいそうしていただろうか。
 首を吊っている彼女と知らない男にパニックになっていた僕は、救急車や警察を呼ぶこともせず、ただ座り込んでいた。

「ハァ……ハァ……ハァ……(ああ、なんだか息が上手く出来ない。頭もぼうっとしてきた)」

 座り込んでいた体勢から力が抜けていき、ゆっくりと後ろに倒れた。
 なんだか意識も朦朧とする。

 (もう……眠りたい…………)

 ガチャ。

 薄れ行く意識の中で、耳だけが扉の開く音を聞いた気がした。
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