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「私、飲み物買ってきますね! 里菜(りな)さんはいつものでいいですよね?」
「え! 悪いよ……」
「レッスンのお礼です! 待っててください!」
里菜さんにそう言い残し、お財布を持ってレッスン室から廊下に出る。レッスンで火照った体に、廊下のひんやりとした涼しさが、気持ちいい。
自動販売機に向かって歩きながら、先程の会話を思い出していると、また沸々と怒りが湧いてきた。
「聞こえるとこで悪口言ってんじゃねーよ」
里菜さんが言っていた更衣室で聞こえた悪口を言っていたのはきっと、円(まどか)と萌(もえ)だ。
普段は「里菜さん、里菜さん」と里菜さんにくっついてるくせに、裏では悪口だらけ。そんなだからいつまでもアンダーなんだよ。
ま、これで円と萌が里菜さんに嫌われようがどうでもいいけど、正直目障りだったし。でも、これを理由に里菜さんが卒業を決断してしまったら、どうしてくれるんだって話。里菜さんは、ああ言っていたから大丈夫だとは思うけど、苛立ちはまだ治まらない。
まだ里菜さんにはアイドルで居てもらわないと困るんだから……。
──里菜さんを初めて観たときに感じた衝撃は、今でも鮮明に覚えている。
テレビ越しだったけど、センターポジションでパフォーマンスをする里菜さんは、今まで出会ったすべての人たちの誰よりも、キラキラと輝いていてとても綺麗だった。
この人のことをもっと知りたい。会ってみたい。話してみたい。触れてみたい。
小さな液晶テレビの画面の中に映る里菜さんを見ながら、想いはどんどん強くなっていった。
ライブに初めて行ったときは、本当に生きて、存在しているんだと感動した。
握手会に参加したときは、里菜さんの体温に触れて、これ以上ないほどの幸福感を感じた。
でも、それだけじゃ全然満足出来なかった。
だんだんと自分は、このたくさんいるファンの中の一人でしかないんだと、里菜さんの瞳に自分は映っていないんだと、気付いてしまったからだ。
もっと近付きたい。自分だけをその瞳に映してほしい。
この沸き上がる感情の名前がなんなのかは分からなかったけど、考え出したら止まらなかった。
あの人を自分だけのモノにしたら、分かるんだろうか……。
そうしよう、あの人を自分だけのモノにしてしまおう。
手始めに、ちょうどやっていたOTD12の新メンバーオーディションを受けた。結果は合格。
容姿はわりと褒められるほうだったし、何より自信があった、昔からなんでも少し頑張れば出来てしまう人間だったからだ。
入ってすぐ選抜入りし、私の人生イージーモード? なんて思って、笑っていた。
この調子で、里菜さんも簡単に手に入ってしまうんじゃないかと思っていたら、これに関しては難しかった。
加入してすぐに話す機会があり、ファンであることを告げたときの反応は、わりと良いほうだったから(握手会に参加していたことは、里菜さんは覚えていなかったけど、ちょっとムカついた。)、なんだ簡単ではないかと、少し興醒めしていたら、そこからが難しかった。
周りよりも少しお姉さんな里菜さんは、メンバーからも人気で、なかなか近付くことが出来なかったからだ。
せめてもっと里菜さんの近くに行けるように、次の曲ではセンターポジションを目指し、人生で初めてってくらいに血の滲むような努力をして、見事に勝ち取ってやった。里菜さんのポジションは、私の右隣だった。
TVや雑誌撮影では必ず隣だし、初めてのセンターに不安がる私(演技だけど)に、里菜さんはたくさん話し掛けてくれた──。
『茜ちゃん、よろしくね』
『初めてのセンター不安だろうけど、私が支えるからね』
『茜ちゃん』
でも、まだ足りない。
まだこの感情に名前をつけれていない。
恋や愛なんてちっとも分からないけど、これがそんなに綺麗なもんじゃないことは分かる。
もっと、もっと、これはぐちゃぐちゃしたものだ。
ただ一つはっきりしているのは、やっぱりこの人が欲しい。欲しくて欲しくてどうしようもない。
その瞳に映るのは私だけでいい。
キラキラしているあの人にバレないように、ゆっくりと里菜さんを私のモノにしよう。
そうすれば、この感情が何なのか分かる筈だ。
だから里菜さん、
「まだ卒業しないでね」
「え! 悪いよ……」
「レッスンのお礼です! 待っててください!」
里菜さんにそう言い残し、お財布を持ってレッスン室から廊下に出る。レッスンで火照った体に、廊下のひんやりとした涼しさが、気持ちいい。
自動販売機に向かって歩きながら、先程の会話を思い出していると、また沸々と怒りが湧いてきた。
「聞こえるとこで悪口言ってんじゃねーよ」
里菜さんが言っていた更衣室で聞こえた悪口を言っていたのはきっと、円(まどか)と萌(もえ)だ。
普段は「里菜さん、里菜さん」と里菜さんにくっついてるくせに、裏では悪口だらけ。そんなだからいつまでもアンダーなんだよ。
ま、これで円と萌が里菜さんに嫌われようがどうでもいいけど、正直目障りだったし。でも、これを理由に里菜さんが卒業を決断してしまったら、どうしてくれるんだって話。里菜さんは、ああ言っていたから大丈夫だとは思うけど、苛立ちはまだ治まらない。
まだ里菜さんにはアイドルで居てもらわないと困るんだから……。
──里菜さんを初めて観たときに感じた衝撃は、今でも鮮明に覚えている。
テレビ越しだったけど、センターポジションでパフォーマンスをする里菜さんは、今まで出会ったすべての人たちの誰よりも、キラキラと輝いていてとても綺麗だった。
この人のことをもっと知りたい。会ってみたい。話してみたい。触れてみたい。
小さな液晶テレビの画面の中に映る里菜さんを見ながら、想いはどんどん強くなっていった。
ライブに初めて行ったときは、本当に生きて、存在しているんだと感動した。
握手会に参加したときは、里菜さんの体温に触れて、これ以上ないほどの幸福感を感じた。
でも、それだけじゃ全然満足出来なかった。
だんだんと自分は、このたくさんいるファンの中の一人でしかないんだと、里菜さんの瞳に自分は映っていないんだと、気付いてしまったからだ。
もっと近付きたい。自分だけをその瞳に映してほしい。
この沸き上がる感情の名前がなんなのかは分からなかったけど、考え出したら止まらなかった。
あの人を自分だけのモノにしたら、分かるんだろうか……。
そうしよう、あの人を自分だけのモノにしてしまおう。
手始めに、ちょうどやっていたOTD12の新メンバーオーディションを受けた。結果は合格。
容姿はわりと褒められるほうだったし、何より自信があった、昔からなんでも少し頑張れば出来てしまう人間だったからだ。
入ってすぐ選抜入りし、私の人生イージーモード? なんて思って、笑っていた。
この調子で、里菜さんも簡単に手に入ってしまうんじゃないかと思っていたら、これに関しては難しかった。
加入してすぐに話す機会があり、ファンであることを告げたときの反応は、わりと良いほうだったから(握手会に参加していたことは、里菜さんは覚えていなかったけど、ちょっとムカついた。)、なんだ簡単ではないかと、少し興醒めしていたら、そこからが難しかった。
周りよりも少しお姉さんな里菜さんは、メンバーからも人気で、なかなか近付くことが出来なかったからだ。
せめてもっと里菜さんの近くに行けるように、次の曲ではセンターポジションを目指し、人生で初めてってくらいに血の滲むような努力をして、見事に勝ち取ってやった。里菜さんのポジションは、私の右隣だった。
TVや雑誌撮影では必ず隣だし、初めてのセンターに不安がる私(演技だけど)に、里菜さんはたくさん話し掛けてくれた──。
『茜ちゃん、よろしくね』
『初めてのセンター不安だろうけど、私が支えるからね』
『茜ちゃん』
でも、まだ足りない。
まだこの感情に名前をつけれていない。
恋や愛なんてちっとも分からないけど、これがそんなに綺麗なもんじゃないことは分かる。
もっと、もっと、これはぐちゃぐちゃしたものだ。
ただ一つはっきりしているのは、やっぱりこの人が欲しい。欲しくて欲しくてどうしようもない。
その瞳に映るのは私だけでいい。
キラキラしているあの人にバレないように、ゆっくりと里菜さんを私のモノにしよう。
そうすれば、この感情が何なのか分かる筈だ。
だから里菜さん、
「まだ卒業しないでね」
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