[完結]夢わたる恋模様

深山ナオ

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第五章 二人の行方

海デート③

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「まずは息継ぎの練習からだ。腕を伸ばしたまま、横向きで呼吸をしてみよう」
「わかりました、先生っ!」

 明希の元気な返事が返ってくる。

「よし。それじゃ、始めっ!」

 号令と共に、両手を打ち鳴らす。

 それを合図に、明希は顔を水につけ、バタ足を始めた。

 指先までピンと伸びた姿勢で、小さな水しぶきを上げゆっくり進んでいく。

 そして、呼吸のタイミング。

 明希は顔を左側に向け口を出そうとする。

 けれどその瞬間、バランスが崩れ、一瞬体が水中へと沈んでしまう。

 明希は息継ぎを諦め、姿勢を戻してバランスを取り直したところで海底に足を付いて水面から顔を出す。

「ぷはあっ!」

 その場で呼吸を整える明希。

 その間に、僕は明希の傍へと向かう。

「うう……息継ぎしようとした瞬間に沈んじゃったよぉ」
「慣れるまではバランスをとるのが難しいからな……よし、次は僕が体を支えるから、その間にしっかり息継ぎのフォームを覚えようか」
「はい! 先生! よろしくお願いしますっ!」

 バタ足し始めた明希を、僕は横から支える。

 呼吸のタイミングで明希が沈まないよう、彼女のお腹に手を当てて。
 
 ぷにっとした柔らかさに内心ドキドキしてしまうけれど、自分の欲求は押し殺して指導を続ける。

 初めは明希が息継ぎする度にお腹を支えている僕の手に体重がかかっていた。

 けれど、徐々にかかる重さは軽くなってきた。

 もう少ししたら、そっと手を離してみようか。自転車の練習で支えを外すように。

 タイミングを見計らって、それを実行に移す。

 すると。

 明希は支え無しに息継ぎをしても、体が沈まなくなっていた。
 
「よし! 明希、次のステップに移行しよう」

 今度はクロールの腕の動きをつけるように指示し、僕が一度手本を見せる。

「どうだ、できそうか?」
「うん! やってみるっ!」

 明希は勢いよく頷いて、クロールに挑戦し始める。
 
 腕の回し方は見よう見まねでも様になっている。
 
 あとは息継ぎだが……。

 やはり、息継ぎのタイミングでは少しバランスを崩してしまっていた。

 事前に息継ぎだけの練習をしていたから、泳ぎを続行できない程の沈み方はしていないが、それでも綺麗に出来ていないから失速してしまうし、より体力を消耗してしまう。

「んーっ! どうしても沈んじゃう! むずかしーっ!!」

 最初のトライを終えた明希は、悔しそうな声を上げる。

 けれど、次に顔を上げた時には強気な表情で。

「もう一回……もう一回やるから、見ててっ」
「ああ」

 明希のひたむきな性格が発揮され、何度も何度も練習する明希。

 そして……。

 一時間後には、明希はクロールを習得していた。

「できた! できたよ渡っ!」
「おう! やったな、明希!」

 明希の元へと向かうと、明希は僕の胸に飛び込んでくる。

 僕の腕の中で嬉しそうに目を細めている明希。
 
 僕は彼女の濡れた茶髪を優しく撫で、おめでとうと伝える。
 
「えへへー。渡、教えてくれてありがとっ」

 と、そのタイミングで、明希のお腹がぐぅーっと鳴った。

「はうっ! ……お腹すいちゃったみたい」
「そうだな。頑張ったからな。上がってご飯にしようか」
「うんっ!」 
 
 こうして一度海から上がり、二人で昼食をとった。

 それから一休みして、現在。

 僕は砂浜に埋められていた。
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