［完結］夢わたる恋模様

第三章 恋人になった

星川明希の慟哭

「っあああぁぁぁ……」

　枕に顔を押し付け、必死に声を堪こらえる。

　苦しい、苦しい、苦しい……。

　目頭が熱くて、喉が痛くて、胸が引き裂かれる……。

　公園で見つめ合う、お兄ちゃんと知らない女の人。
　二人はいい雰囲気で、お兄ちゃんがアタシに気が付かなかったら、たぶんそのまま……。

　何の予告もなく見せつけられた光景が、何度もフラッシュバックしている。
　いや、予兆はあったんだ。

　今までアタシの誘いを断ったことの無いお兄ちゃんが、一度約束したのにもかかわらず、今日のバスケの練習をキャンセルしてきたこと。
　彼女とデートするためだった……。
　鈍いアタシは気付かなかったんだ。
　
「うああぁぁぁあぁぁ……っ！」

　お兄ちゃん、お兄ちゃんっ……！

　溢れる涙は留まることを知らない。
　漏れ出る声は激しさを増し、枕なんかじゃ抑えきれない。

　……アタシがもたもたしてたのが悪いんだ。
　今までの関係の心地良さに浸りきって、停滞しちゃったアタシが。
　
　子どもの頃……入院してた頃。
　弱虫なアタシは手術が怖くって……でも、お兄ちゃんが病気が治ったらいっぱい遊ぼうって励ましてくれた。手術を受ける勇気をくれた。

　そして今、病気は完治して、こうして元気に暮らしてる。
　以前よりもずっと前向きになったし、毎日が楽しくて仕方なかった。
　そんな中でお兄ちゃんと再会して、一緒にいられるようになって。
　この日常がずっと続くみたいに錯覚しちゃってたんだ。

　まだ、好きって……アタシの好きは恋愛の好きだって、ちゃんと伝えてない。告白してないっ！

　後悔の濁流がアタシを飲み込む。
　それは制御できない激しさで、いつまでたっても治まってくれない。
　一晩中、ずっとずっと泣き叫んで、涙が枯れてもなお、激情に駆られ続ける……。