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第二十五話 決意
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ミルファは、彼女の希望で、リースさんの元に留まって魔法の修行を続けることになった。
その代わり、週一回以上はクルファさんと過ごす時間をとるようだ。
クルファさんには女王としての務めもあるため、時間の捻出が困難らしい。
ミルファが親子の関係を取り戻してから、僕の生活も少し変わった。
僕もリースさんから魔法の使い方を教わり始めた。
それは、ミルファとの会話がきっかけで始めたものだった。
♢
「ツバサさん、いろいろ後押ししてくださり、ありがとうございました」
夕日色を浮かべる池の前。
僕に向き合うように立っているミルファが、すっきりとした表情でお礼を言ってきた。
「大したことはしてないけど……二人が上手くやっていけそうで良かったよ」
僕が笑いかけると、ミルファも笑った。
それからミルファは天高く腕を伸ばし、一伸び。
穏やかな風が、彼女の長い黒髪をさらさらと揺らした。
「また明日から頑張ります! ツバサさんを元の世界に返さなきゃいけないですし……」
「元の世界……」
僕はすっかりこの世界に馴染んでいた。ミルファやリースさんの傍にいるのが当たり前になっていた。だから……。
「帰らなきゃ、ダメかな……」
そんな呟きが思わず漏れた。
ミルファがきょとんとした表情をしている。
「これからも、ミルファと、リースさんと一緒にいたい」
僕はそう伝えた。だけど……。
「帰らなきゃ、ダメです」
ミルファははっきりとそう告げた。
真剣な表情のミルファが――意思の籠もった大きな瞳が、僕の目をしっかりと見据えている。
「ツバサさんにも、帰りを待ってる人がいるでしょう?」
「うん。きっと父さんが帰りを待ってる」
「だったら、帰らなきゃダメです」
「でも……ミルファやリースさんと会えなくなるんだったら……」
「それでも、です」
毅然とした態度のミルファ。
けれど、瞳が少し潤んでいる。
「子どもはいつか、親元を巣立つ。僕にとって、きっとそれは今なんだ」
そんなことを口にした。ここに留まるための悪あがきだ。
「親元を巣立つ、というのは確かにそうです。けれど、それは今じゃありません。巣立つ前には必ずお別れをしなければなりません。そうでなければ、ただの家出です。家出は良くないことです。だから……」
ミルファは一度言葉を区切って、僕の瞳に一際真剣な眼差しを向けた。
「ツバサさんはお父さんの元に帰らないといけません。わたし、頑張って魔法を使えるようになって、ツバサさんが元の世界に帰れるようにしますから」
優しくて真面目なミルファらしい正論。
僕は何も言えなくなった。
♢
ミルファは頑張り屋さんだ。
だからきっと、彼女は魔法を会得して僕を元の世界へと戻すだろう。
そのとき、僕はどうする?
そう考えて得た結論が魔法の修行をすることだった。
修行をして、この世界と元の世界を行き来するための魔法を会得するという結論だ。
だから、僕も頑張らなければならない。
その代わり、週一回以上はクルファさんと過ごす時間をとるようだ。
クルファさんには女王としての務めもあるため、時間の捻出が困難らしい。
ミルファが親子の関係を取り戻してから、僕の生活も少し変わった。
僕もリースさんから魔法の使い方を教わり始めた。
それは、ミルファとの会話がきっかけで始めたものだった。
♢
「ツバサさん、いろいろ後押ししてくださり、ありがとうございました」
夕日色を浮かべる池の前。
僕に向き合うように立っているミルファが、すっきりとした表情でお礼を言ってきた。
「大したことはしてないけど……二人が上手くやっていけそうで良かったよ」
僕が笑いかけると、ミルファも笑った。
それからミルファは天高く腕を伸ばし、一伸び。
穏やかな風が、彼女の長い黒髪をさらさらと揺らした。
「また明日から頑張ります! ツバサさんを元の世界に返さなきゃいけないですし……」
「元の世界……」
僕はすっかりこの世界に馴染んでいた。ミルファやリースさんの傍にいるのが当たり前になっていた。だから……。
「帰らなきゃ、ダメかな……」
そんな呟きが思わず漏れた。
ミルファがきょとんとした表情をしている。
「これからも、ミルファと、リースさんと一緒にいたい」
僕はそう伝えた。だけど……。
「帰らなきゃ、ダメです」
ミルファははっきりとそう告げた。
真剣な表情のミルファが――意思の籠もった大きな瞳が、僕の目をしっかりと見据えている。
「ツバサさんにも、帰りを待ってる人がいるでしょう?」
「うん。きっと父さんが帰りを待ってる」
「だったら、帰らなきゃダメです」
「でも……ミルファやリースさんと会えなくなるんだったら……」
「それでも、です」
毅然とした態度のミルファ。
けれど、瞳が少し潤んでいる。
「子どもはいつか、親元を巣立つ。僕にとって、きっとそれは今なんだ」
そんなことを口にした。ここに留まるための悪あがきだ。
「親元を巣立つ、というのは確かにそうです。けれど、それは今じゃありません。巣立つ前には必ずお別れをしなければなりません。そうでなければ、ただの家出です。家出は良くないことです。だから……」
ミルファは一度言葉を区切って、僕の瞳に一際真剣な眼差しを向けた。
「ツバサさんはお父さんの元に帰らないといけません。わたし、頑張って魔法を使えるようになって、ツバサさんが元の世界に帰れるようにしますから」
優しくて真面目なミルファらしい正論。
僕は何も言えなくなった。
♢
ミルファは頑張り屋さんだ。
だからきっと、彼女は魔法を会得して僕を元の世界へと戻すだろう。
そのとき、僕はどうする?
そう考えて得た結論が魔法の修行をすることだった。
修行をして、この世界と元の世界を行き来するための魔法を会得するという結論だ。
だから、僕も頑張らなければならない。
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