[完結]ドジな魔女っ娘に間違って異世界召喚されました。

深山ナオ

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第十七話 ランチタイム

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「ツバサさん、こっちです!」

 そう言ってミルファは、僕の腕に自分の腕を絡めてきた。
 先程から続くミルファの大胆な行動に、僕はドキドキさせられっぱなしだった。
 そんな僕の様子なんか気にもとめず、ミルファは僕の腕を引っ張るようにして歩きだした。
 そして、メインストリートから少し外れたところに建つ店に入ることになった。
 石造の建物が多い街だが、この店は木造だ。
 大きな窓があって日当たりがよく、清潔感がある。
 テーブル席に三人組の女性客と、年配の夫婦がいて、カウンターには男性客が一人座って新聞を広げていた。
 若い店員さんに案内され、僕たちは窓際奥のテーブル席に向かい合って座った。
 ミルファが、置かれていたメニュー表を開く。
 手書きのメニュー表。可愛らしいイラストも描かれていて、心が温かくなる。

「ツバサさん、どれにしますか?」
「うーんと……」

 メニューに載っている料理は知らないものもたくさんある。
 せっかくなので、食べたことの無いものを食べてみたい気がする。
 かといって、適当に選んで変な料理が出てきたら困るので、ミルファに相談してみることにした。

「よくわからないんだけど、どれがいいかな?」
「そうですねー。わたしのおすすめはガーノフォッセですね」
「どんな料理なの?」
「牛肉と野菜の煮物ですね。パンと一緒に食べるんです。男の人の味覚には合うと思いますよ」
「じゃ、それにするね」

 店員さんを呼んで、注文を告げる。
 ミルファは、パンケーキと紅茶を頼んだ。

「おしゃれな店だね」

 窓辺に飾ってある造花を見ながら言った。

「ですよね。このお店、気に入ってるんです」
「ミルファはこの店、よく来るの?」
「街に来るときは毎回来ます。でも、街に来ることが少ないので、このお店も久しぶりです」
「そうなんだ」

 僕がこの世界に来てからミルファが街に出たのは、おそらく今日が初めてだ。
 ミルファは毎日コツコツと魔法の修行をしている。

「毎日魔法の練習ばっかりで、大変じゃない?」
「いえ、大変ですけど、それでも上達すると嬉しいので……」
「そっか。ミルファは頑張り屋さんだな」
「そんなことないですよ。まだまだ未熟者ですし……」
「それでも、すごいよ」
「えへへ……、褒められちゃいました」

 赤くなった頬を両手で押さえて照れるミルファ。
 なんとも可愛らしい。
 と、そこに、お待たせしました、と店員さんが料理を運んできた。
 ミルファの前に、ホイップクリームが乗った2段重ねのパンケーキと紅茶が置かれ、それから僕の前に、ビーフシチューのようなものと小さくカットされたパンが置かれた。

「わあっ、おいしそうです!」

 ミルファはパンケーキを見て、目をキラキラと輝かせた。

「それじゃ、食べよっか」
「はい!いただきます!」

 ミルファがふんわりとしたパンケーキにナイフを入れると、その部分がへこんで、たっぷりかかったシロップがゆっくりと流れ落ちた。
 ミルファは、丁寧に切り分けた一口サイズのパンケーキを口に運んだ。

「ん~、おいしい~!」
 
 パンケーキを食べて、とろけるような笑みを浮かべるミルファ。
 僕もガーノフォッセなる食べ物をスプーンですくって一口。
 うん。お肉が柔らかくて、ブラウンソースの味もしっかりしている。
 他の具材も食べてみる。
 玉ねぎや、パプリカなども、ソースとよく合っていておいしい。
 それにパンとの相性もいい。
 僕もミルファも、夢中になって食べていた。

 ♢

「ふぅ、おいしかった」

 食べ終わって一息つく。

「ふふ、よかったです」

 また一緒に来ましょうね、とミルファが微笑みかけてくる。
 
 そんな幸せなランチタイムを過ごしたのだった。

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