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メイナ宅での事件②
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とりあえず用事を済ませよう。
そう考えた僕は、リースさんから頼まれて荷物を受け取りに来たことをメイナさんに伝えた。
「あー、リースのねぇ。ちょっとらけ、待っててねぇ」
メイナさんはゆっくりと立ち上がって、覚束ない足取りで奥へと消えていった。
その危なっかしい背中を見送った後、僕に抱き着いたまま胸元に頬ずりし続けているミルファに視線を落とす。
自分の欲求に素直になる薬。
欲求を満たせば元に戻る……。
このままミルファの好きなようにさせておけばいいのだろうか?
いや、さっきからずっと同じこと繰り返してるだけで、全然元に戻りそうにないしなあ……。
「ねえ、ミルファ。したいこととか、してほしいこととかある?」
「うーん、そうですねー。では、ツバサさんになでなでして欲しいです」
ミルファは僕の胸元に顔をうずめたまま、僕の質問に答えた。
「そう、それじゃ……」
僕はミルファの髪へと手を伸ばした。
さらさらと、触り心地の良い黒髪をゆっくりとなでていく。
「ふふっ……ツバサさんに、なでてもらっちゃいました」
そんなことを嬉しそうに言われて、顔が一層熱くなる。
たまらなくなって、ミルファから視線を外した。
すると、いつの間にか近くに立っていたメイナさんの、とろんとした目と視線が重なった。
「ひゅーひゅー。お熱いねぇ、お二人さん」
自分のミスのせいでこうなったのに、一切責任を感じていないのかと思える程、のほほんとした口調と表情だ。
「……事の元凶が煽らないでくれますか」
メイナさんに向ける僕の視線が冷ややかなものになっているのが自分でもわかった。
「うぅー。そんら顔しないでよぉ」
口を尖らせて抗議する酔っ払いのお姉さん。
これで優秀な人だというのだけれど、正直信じられない。
僕がため息をこぼしていると、メイナさんがちいさな黒い箱を持った右手を差し出してきた。
「わたしとぃれねぇ」
「わたしトイレね?」
「ちがうよぉ。これリースにわたしとぃれねぇ」
……渡しといてね、か。
呂律の回らない酔っ払いの発言をなんとか理解し、手のひらサイズのその箱を受け取った。
それと同時に、正面から、ぐぅ~っと可愛い音が聞こえた。
「ひゃう、すみません」
ミルファがあわてて僕から離れた。
顔が赤いのは、お腹が鳴ったからなのか……。
「ミルファ、お腹空いたの?」
「……はい」
もじもじしながらミルファが答えた。
抱き着くのは平気で、お腹が鳴るのは恥ずかしいのか……。難しいお年頃だ。
「ここでなにか食べてってもいいけどぉ……。せっかくだし、二人で食べに行ってきたらぁ?」
とメイナさんが提案した。
「そうですね、やることも終わりましたし。ツバサさん、どうでしょうか?」
期待に満ちた瞳でミルファが見上げてくる。
ミルファと二人で食事するのは僕も楽しみだ。
それに、ミルファの食欲を満たすことで、薬の効果が切れるかもしれないし。
「いいよ。行こうか」
僕の返事を聞くと、期待がミルファの瞳からあふれ、顔いっぱいに広がった。
そして、僕の腕を引っ張るようにして、家の外に連れ出していった。
そう考えた僕は、リースさんから頼まれて荷物を受け取りに来たことをメイナさんに伝えた。
「あー、リースのねぇ。ちょっとらけ、待っててねぇ」
メイナさんはゆっくりと立ち上がって、覚束ない足取りで奥へと消えていった。
その危なっかしい背中を見送った後、僕に抱き着いたまま胸元に頬ずりし続けているミルファに視線を落とす。
自分の欲求に素直になる薬。
欲求を満たせば元に戻る……。
このままミルファの好きなようにさせておけばいいのだろうか?
いや、さっきからずっと同じこと繰り返してるだけで、全然元に戻りそうにないしなあ……。
「ねえ、ミルファ。したいこととか、してほしいこととかある?」
「うーん、そうですねー。では、ツバサさんになでなでして欲しいです」
ミルファは僕の胸元に顔をうずめたまま、僕の質問に答えた。
「そう、それじゃ……」
僕はミルファの髪へと手を伸ばした。
さらさらと、触り心地の良い黒髪をゆっくりとなでていく。
「ふふっ……ツバサさんに、なでてもらっちゃいました」
そんなことを嬉しそうに言われて、顔が一層熱くなる。
たまらなくなって、ミルファから視線を外した。
すると、いつの間にか近くに立っていたメイナさんの、とろんとした目と視線が重なった。
「ひゅーひゅー。お熱いねぇ、お二人さん」
自分のミスのせいでこうなったのに、一切責任を感じていないのかと思える程、のほほんとした口調と表情だ。
「……事の元凶が煽らないでくれますか」
メイナさんに向ける僕の視線が冷ややかなものになっているのが自分でもわかった。
「うぅー。そんら顔しないでよぉ」
口を尖らせて抗議する酔っ払いのお姉さん。
これで優秀な人だというのだけれど、正直信じられない。
僕がため息をこぼしていると、メイナさんがちいさな黒い箱を持った右手を差し出してきた。
「わたしとぃれねぇ」
「わたしトイレね?」
「ちがうよぉ。これリースにわたしとぃれねぇ」
……渡しといてね、か。
呂律の回らない酔っ払いの発言をなんとか理解し、手のひらサイズのその箱を受け取った。
それと同時に、正面から、ぐぅ~っと可愛い音が聞こえた。
「ひゃう、すみません」
ミルファがあわてて僕から離れた。
顔が赤いのは、お腹が鳴ったからなのか……。
「ミルファ、お腹空いたの?」
「……はい」
もじもじしながらミルファが答えた。
抱き着くのは平気で、お腹が鳴るのは恥ずかしいのか……。難しいお年頃だ。
「ここでなにか食べてってもいいけどぉ……。せっかくだし、二人で食べに行ってきたらぁ?」
とメイナさんが提案した。
「そうですね、やることも終わりましたし。ツバサさん、どうでしょうか?」
期待に満ちた瞳でミルファが見上げてくる。
ミルファと二人で食事するのは僕も楽しみだ。
それに、ミルファの食欲を満たすことで、薬の効果が切れるかもしれないし。
「いいよ。行こうか」
僕の返事を聞くと、期待がミルファの瞳からあふれ、顔いっぱいに広がった。
そして、僕の腕を引っ張るようにして、家の外に連れ出していった。
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