[完結]ドジな魔女っ娘に間違って異世界召喚されました。

深山ナオ

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第十六話 メイナ宅での事件①

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 メイナさんに案内されて、客間に通された。そこには木製のテーブルと六つのイスがあり、そのテーブルの上にはメイナさんが飲んでいたと思しき、ぶどう酒の入ったグラスとワインボトルが何本も置いてある。それから、壁の棚にボトルがずらりと並んでいる。そのほかに暖炉があるが、暖かい時期なので火は灯っていない。
 窓からの光の量が少ないため、部屋は薄暗い。
 メイナさんがどこからかランプを持ってきて明かりを灯した。
 ほのかな明かりが部屋にお洒落な雰囲気を漂わせる。

「ちょっと待っててねぇー」

 そう言って、メイナさんは奥の部屋へふらふらと姿を消した。

「メイナさんは、薬の研究をしてるんです」

 ミルファは言いながらイスに座った。
 僕も隣のイスに腰かける。

「へえ、そうなんだ。そんな風には見えなかったから、ちょっと意外だなぁ」
「ふふっ。ああ見えても、凄い人なのですっ」

 ミルファは誇らしげにそう言って、微笑を浮かべた。
 その語り口を見るに、ミルファはメイナさんを尊敬しているようだ。
 第一印象からはわからなかったけれど、優秀な魔法使いなのだろう。

「となると、今日は仕事が休みで、休日を満喫してたってことか……」
「ふえ?」

 変な声を漏らしてミルファは不思議そうな顔になった。
 少ししてからミルファは、あー、と納得したように頷いた。

「いえいえ、ツバサさん。メイナさんはいつも……研究中でもお酒を飲んでますよ。それから、メイナさんはほぼ毎日研究に没頭してますから、たぶん今日もその途中だったと思います」
「……」
 
 薬の研究をする人がそれでいいのか……。
 僕が絶句していると、メイナさんが部屋に戻ってきた。
 持っていたグラスを二つ、座っていた僕たちの前に差し出した。
 氷がカランッと音をたてる。
 中にはオレンジ色の液体が入っていた。

「はぁぃ、どーぞ」
「ありがとうございます!」

 ここに辿り着くまでに歩き回ってのどが渇いていたのだろう、ミルファは元気よくお礼を言うとコップに手を伸ばし、ぐいっと飲んだ。

「……、これ、お酒じゃないですよね?」

 念のためメイナさんに確認してみる。

「らぃじょーぶ。ただのジュースらからぁ」

 この人、お酒もジュースとか言いそうだけど……。

「それじゃあ……」

 僕はコップを手に取った。
 ひんやりとしていて気持ちいい。
 それを口に運ぼうとした、その瞬間。
 僕のすぐ隣でドンッと物凄い音がした。
 ミルファがテーブルに額を打ち付けるようにして倒れたのだ。

「っ! ミルファ!」

 立ち上がって近寄り、肩を叩いて何度も呼びかける。
 すると、ミルファがゆっくりと顔を上げた。

「あれ? わたし、いったい……」

 ミルファはきょとんとしながら赤くなったおでこをさすった。

「大丈夫?」

 僕の声に反応して、ミルファがこちらを向いた。
 顔が近い。思わずドキッとしてしまう。
 それと同時に、ミルファの瞳の奥に甘い炎が宿ったように感じた。

「わあっ、ツバサさんだぁ」

 立ち上がったミルファが、いきなり僕の胸に飛び込んできた。

「み、ミルファ、どうしたの!?」
「えへへー、ツバサさーん」

 ミルファは僕の質問には答えずに、抱き着いたまま僕の胸元に頬ずりしてくる。

「メイナさん、いったい何を飲ませたんですか?」

 直感的に飲んだものが原因ではないかと思い、メイナさんを糾弾する。

「あれぇ? ただのジュースらったと思うよぉ?」

 言いながらミルファに出したジュースを飲むメイナさん。
 それを口に含むと、今まで半分も開いていなかった目を大きく見開いた。
 けれどそれは一瞬で、すぐにとろんとした目つきに戻った。

「あっ……」

 メイナさんは、のほほんとした表情で、何かしでかしてしまったという声を漏らした。

「どうしたんですか?」
「……これ、自分の欲求に素直になるクスリだったぁ」
「なんつーもの飲ませてるんですかっ!」

「いやぁ、ごめんごめん」

 メイナさんの適当な謝罪に呆れてしまう。

「……。それで、これ、大丈夫なんですか? 元に戻るんですか?」

 僕の質問に、メイナさんはぶどう酒を口に含んでから答えた。

「昔から、お姫様にかけられた呪いを解くのはー、王子様のキスって相場が決まってるにゃー」

 右手をネコのように丸めて悪戯な笑みを浮かべる。
 色っぽい仕草だけれど、不真面目な態度のメイナさんに少しむっとしてしまう。
 そんな僕を見てメイナさんは、

「らいじょーぶ、らいじょーぶ。欲求を満たせば元に戻るからぁ」

 と伝えて盛大に笑った。そして、空になったグラスにぶどう酒を注いだ。

「……」

 ダメだ。この人……。
 僕の胸の中では、ミルファがくんくんと、匂いを嗅ぎ始めてしまった。
 一体この状況、どうすればいいんだ……。
 解決策と、行き場のない両腕に頭を悩ませるのだった。
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