20 / 31
第十六話 メイナ宅での事件①
しおりを挟む
メイナさんに案内されて、客間に通された。そこには木製のテーブルと六つのイスがあり、そのテーブルの上にはメイナさんが飲んでいたと思しき、ぶどう酒の入ったグラスとワインボトルが何本も置いてある。それから、壁の棚にボトルがずらりと並んでいる。そのほかに暖炉があるが、暖かい時期なので火は灯っていない。
窓からの光の量が少ないため、部屋は薄暗い。
メイナさんがどこからかランプを持ってきて明かりを灯した。
仄かな明かりが部屋にお洒落な雰囲気を漂わせる。
「ちょっと待っててねぇー」
そう言って、メイナさんは奥の部屋へふらふらと姿を消した。
「メイナさんは、薬の研究をしてるんです」
ミルファは言いながらイスに座った。
僕も隣のイスに腰かける。
「へえ、そうなんだ。そんな風には見えなかったから、ちょっと意外だなぁ」
「ふふっ。ああ見えても、凄い人なのですっ」
ミルファは誇らしげにそう言って、微笑を浮かべた。
その語り口を見るに、ミルファはメイナさんを尊敬しているようだ。
第一印象からはわからなかったけれど、優秀な魔法使いなのだろう。
「となると、今日は仕事が休みで、休日を満喫してたってことか……」
「ふえ?」
変な声を漏らしてミルファは不思議そうな顔になった。
少ししてからミルファは、あー、と納得したように頷いた。
「いえいえ、ツバサさん。メイナさんはいつも……研究中でもお酒を飲んでますよ。それから、メイナさんはほぼ毎日研究に没頭してますから、たぶん今日もその途中だったと思います」
「……」
薬の研究をする人がそれでいいのか……。
僕が絶句していると、メイナさんが部屋に戻ってきた。
持っていたグラスを二つ、座っていた僕たちの前に差し出した。
氷がカランッと音をたてる。
中にはオレンジ色の液体が入っていた。
「はぁぃ、どーぞ」
「ありがとうございます!」
ここに辿り着くまでに歩き回ってのどが渇いていたのだろう、ミルファは元気よくお礼を言うとコップに手を伸ばし、ぐいっと飲んだ。
「……、これ、お酒じゃないですよね?」
念のためメイナさんに確認してみる。
「らぃじょーぶ。ただのジュースらからぁ」
この人、お酒もジュースとか言いそうだけど……。
「それじゃあ……」
僕はコップを手に取った。
ひんやりとしていて気持ちいい。
それを口に運ぼうとした、その瞬間。
僕のすぐ隣でドンッと物凄い音がした。
ミルファがテーブルに額を打ち付けるようにして倒れたのだ。
「っ! ミルファ!」
立ち上がって近寄り、肩を叩いて何度も呼びかける。
すると、ミルファがゆっくりと顔を上げた。
「あれ? わたし、いったい……」
ミルファはきょとんとしながら赤くなったおでこをさすった。
「大丈夫?」
僕の声に反応して、ミルファがこちらを向いた。
顔が近い。思わずドキッとしてしまう。
それと同時に、ミルファの瞳の奥に甘い炎が宿ったように感じた。
「わあっ、ツバサさんだぁ」
立ち上がったミルファが、いきなり僕の胸に飛び込んできた。
「み、ミルファ、どうしたの!?」
「えへへー、ツバサさーん」
ミルファは僕の質問には答えずに、抱き着いたまま僕の胸元に頬ずりしてくる。
「メイナさん、いったい何を飲ませたんですか?」
直感的に飲んだものが原因ではないかと思い、メイナさんを糾弾する。
「あれぇ? ただのジュースらったと思うよぉ?」
言いながらミルファに出したジュースを飲むメイナさん。
それを口に含むと、今まで半分も開いていなかった目を大きく見開いた。
けれどそれは一瞬で、すぐにとろんとした目つきに戻った。
「あっ……」
メイナさんは、のほほんとした表情で、何かしでかしてしまったという声を漏らした。
「どうしたんですか?」
「……これ、自分の欲求に素直になるクスリだったぁ」
「なんつーもの飲ませてるんですかっ!」
「いやぁ、ごめんごめん」
メイナさんの適当な謝罪に呆れてしまう。
「……。それで、これ、大丈夫なんですか? 元に戻るんですか?」
僕の質問に、メイナさんはぶどう酒を口に含んでから答えた。
「昔から、お姫様にかけられた呪いを解くのはー、王子様のキスって相場が決まってるにゃー」
右手をネコのように丸めて悪戯な笑みを浮かべる。
色っぽい仕草だけれど、不真面目な態度のメイナさんに少しむっとしてしまう。
そんな僕を見てメイナさんは、
「らいじょーぶ、らいじょーぶ。欲求を満たせば元に戻るからぁ」
と伝えて盛大に笑った。そして、空になったグラスにぶどう酒を注いだ。
「……」
ダメだ。この人……。
僕の胸の中では、ミルファがくんくんと、匂いを嗅ぎ始めてしまった。
一体この状況、どうすればいいんだ……。
解決策と、行き場のない両腕に頭を悩ませるのだった。
窓からの光の量が少ないため、部屋は薄暗い。
メイナさんがどこからかランプを持ってきて明かりを灯した。
仄かな明かりが部屋にお洒落な雰囲気を漂わせる。
「ちょっと待っててねぇー」
そう言って、メイナさんは奥の部屋へふらふらと姿を消した。
「メイナさんは、薬の研究をしてるんです」
ミルファは言いながらイスに座った。
僕も隣のイスに腰かける。
「へえ、そうなんだ。そんな風には見えなかったから、ちょっと意外だなぁ」
「ふふっ。ああ見えても、凄い人なのですっ」
ミルファは誇らしげにそう言って、微笑を浮かべた。
その語り口を見るに、ミルファはメイナさんを尊敬しているようだ。
第一印象からはわからなかったけれど、優秀な魔法使いなのだろう。
「となると、今日は仕事が休みで、休日を満喫してたってことか……」
「ふえ?」
変な声を漏らしてミルファは不思議そうな顔になった。
少ししてからミルファは、あー、と納得したように頷いた。
「いえいえ、ツバサさん。メイナさんはいつも……研究中でもお酒を飲んでますよ。それから、メイナさんはほぼ毎日研究に没頭してますから、たぶん今日もその途中だったと思います」
「……」
薬の研究をする人がそれでいいのか……。
僕が絶句していると、メイナさんが部屋に戻ってきた。
持っていたグラスを二つ、座っていた僕たちの前に差し出した。
氷がカランッと音をたてる。
中にはオレンジ色の液体が入っていた。
「はぁぃ、どーぞ」
「ありがとうございます!」
ここに辿り着くまでに歩き回ってのどが渇いていたのだろう、ミルファは元気よくお礼を言うとコップに手を伸ばし、ぐいっと飲んだ。
「……、これ、お酒じゃないですよね?」
念のためメイナさんに確認してみる。
「らぃじょーぶ。ただのジュースらからぁ」
この人、お酒もジュースとか言いそうだけど……。
「それじゃあ……」
僕はコップを手に取った。
ひんやりとしていて気持ちいい。
それを口に運ぼうとした、その瞬間。
僕のすぐ隣でドンッと物凄い音がした。
ミルファがテーブルに額を打ち付けるようにして倒れたのだ。
「っ! ミルファ!」
立ち上がって近寄り、肩を叩いて何度も呼びかける。
すると、ミルファがゆっくりと顔を上げた。
「あれ? わたし、いったい……」
ミルファはきょとんとしながら赤くなったおでこをさすった。
「大丈夫?」
僕の声に反応して、ミルファがこちらを向いた。
顔が近い。思わずドキッとしてしまう。
それと同時に、ミルファの瞳の奥に甘い炎が宿ったように感じた。
「わあっ、ツバサさんだぁ」
立ち上がったミルファが、いきなり僕の胸に飛び込んできた。
「み、ミルファ、どうしたの!?」
「えへへー、ツバサさーん」
ミルファは僕の質問には答えずに、抱き着いたまま僕の胸元に頬ずりしてくる。
「メイナさん、いったい何を飲ませたんですか?」
直感的に飲んだものが原因ではないかと思い、メイナさんを糾弾する。
「あれぇ? ただのジュースらったと思うよぉ?」
言いながらミルファに出したジュースを飲むメイナさん。
それを口に含むと、今まで半分も開いていなかった目を大きく見開いた。
けれどそれは一瞬で、すぐにとろんとした目つきに戻った。
「あっ……」
メイナさんは、のほほんとした表情で、何かしでかしてしまったという声を漏らした。
「どうしたんですか?」
「……これ、自分の欲求に素直になるクスリだったぁ」
「なんつーもの飲ませてるんですかっ!」
「いやぁ、ごめんごめん」
メイナさんの適当な謝罪に呆れてしまう。
「……。それで、これ、大丈夫なんですか? 元に戻るんですか?」
僕の質問に、メイナさんはぶどう酒を口に含んでから答えた。
「昔から、お姫様にかけられた呪いを解くのはー、王子様のキスって相場が決まってるにゃー」
右手をネコのように丸めて悪戯な笑みを浮かべる。
色っぽい仕草だけれど、不真面目な態度のメイナさんに少しむっとしてしまう。
そんな僕を見てメイナさんは、
「らいじょーぶ、らいじょーぶ。欲求を満たせば元に戻るからぁ」
と伝えて盛大に笑った。そして、空になったグラスにぶどう酒を注いだ。
「……」
ダメだ。この人……。
僕の胸の中では、ミルファがくんくんと、匂いを嗅ぎ始めてしまった。
一体この状況、どうすればいいんだ……。
解決策と、行き場のない両腕に頭を悩ませるのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル
異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた
なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった
孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます
さあ、チートの時間だ
夢の硝子玉
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
少年達がみつけた5色の硝子玉は願い事を叶える不思議な硝子玉だった…
ある時、エリオットとフレイザーが偶然にみつけた硝子玉。
その不思議な硝子玉のおかげで、二人は見知らぬ世界に飛ばされた。
そこは、魔法が存在し、獣人と人間の住むおかしな世界だった。
※表紙は湖汐涼様に描いていただきました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる