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第十五話 リースの友人
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街に着いたところで地面に降りた。
道幅は広く、茶色い土は踏みならされている。
所々に露店が出ていて、露天商が道行く人々にかける売り込みの声が飛び交っている。
「盛況だね。いつもこんな感じなの?」
野菜や果物、反物、装飾品などの多種多様な露店を横目に見ながらミルファに聞いてみる。
「そうですね。晴れの日は、大体。でも売ってるものは日によってまちまちですね」
ミルファも興味津々に商品を見て歩いている。
そんなミルファの真ん前から新聞を広げたおじさんが歩いてきた。
けれども、彼女はそれに気づいていない。
僕はミルファの肩を抱くように小さな体を引き寄せた。
「はわっ! すみません。ありがとうございます」
肩を離すと、ミルファは紅潮した顔を隠すように僕の先を歩いていった。歩くたびに揺れる彼女の黒髪を眺めながら、少し後ろを僕もついていく。
しばらく歩くと、ミルファは細い路地に入った。
石造りの建物の隙間。陰になっているため薄暗い。
所々にロープで洗濯物が干されている。
そんな道を淡々と進むミルファの後ろを無言でついていく。
そこを抜けると、古風な石橋。すぐ下の川は澄んでいて流れは穏やかだ。
橋を渡り終えるとまた先程と同じような細い路地を通り、さっきの大通りに戻ってきた。
「ごめんなさい。ちょっと道を間違えちゃったので、戻ってきました」
足を止めて振り返り、申し訳なさそうに頭を下げる。
「大丈夫だよ。気にしないで」
励ましの言葉をかけると、ミルファは回れ右をしてまた歩き始めた。
♢
結局、3回元の場所に戻ってきてそのたびにミルファは頭を下げた。
そして、4回目にしてようやく目的地にたどり着いた。
とある細い路地にある建物の一つ。他と同じように石造だ。
「これから会う人はちょっと強烈な人なので、そのつもりで心の準備をお願いします!」
ちょっと強烈な人?
リースさんの友人で、ちょっと強烈な人……。
気難しい天才魔法使いとかかな?
ミルファが扉に取り付けられたドアノッカーを使ってノックした。
少しして扉が開き、中から人が出てきた。
「ぁーぃ……ろちぁたまれすかー……っと」
出てきた女性は、一目でわかる程に酔っぱらっていた。
顔全体が真っ赤に染まっていて、口元も緩んでいる。
目元もとろんとしていて、今にも眠ってしまいそう。
羽織っているグレーのカーディガンとブラウンのロングスカートが、ふんわりとしたセミロングの茶髪と相まって一見優しそうなお姉さんという風にも見えるが、漂ってくる酒の匂いで全て台無しだ。
「メイナさん、お久しぶりです!」
出迎えた女性の風貌に驚くことも無く、ミルファは平然と挨拶をした。
「ぉー、みるふぁたんじゃぁないれすかぁ」
ミルファがメイナさんと呼んだ呂律が回っていない女性は、来客をミルファだと認識するなり手を回して抱き寄せた。
メイナさんの大きな胸に顔をうずめたミルファが苦しそうに呻き声を上げている。
「メイナさん、離してあげて!ミルファ窒息しちゃいそうだよ!」
ミルファをたすけるため声をかけると、メイナさんはミルファを離して僕の方を向いた。
「うーん……きみ、だぁれ?」
「翼といいます。ミルファの付き添いです」
「ふーん? まぁいーや。とりぁぇず……」
メイナさんがふらふらと僕に向かって歩み寄ってくる。そして……
「ばさたんも、ぎゅー」
突然柔らかさに包まれて、思考が一瞬止まる。
数秒後、メイナさんに抱き着かれていることを認識すると、酒臭さにも包まれた。
ていうか、ばさたんって僕のこと?
「わわっ、ダメですっ! メイナさん。ツバサさんから離れて!」
ミルファが慌ててメイナさんを僕から引きはがした。
「えー。いぃじゃん、別に……」
「ダメですっ! 男の人に抱き着いたりしちゃ」
ミルファが珍しく怒っている……というか、これは叱っているのか。
「うぅー。すきんしっぷ……だいじなんらよぉ」
ミルファに叱られて、茶髪の先を指でくるくる巻きながら拗ねるメイナさん。
そんなメイナさんにため息をつきながらミルファは話を進めた。
「それで、先生のお使いで来たんですけど……」
「ぁー、はぃはぃ。とりぁぇず、あがってあがって」
「はい、お邪魔します!」
ミルファが家の中に入っていく。
それを眺めていると、
「んー、ばさたんも、突っ立ってないで、入って入って」
メイナさんに促されて、僕もお邪魔することになった。
道幅は広く、茶色い土は踏みならされている。
所々に露店が出ていて、露天商が道行く人々にかける売り込みの声が飛び交っている。
「盛況だね。いつもこんな感じなの?」
野菜や果物、反物、装飾品などの多種多様な露店を横目に見ながらミルファに聞いてみる。
「そうですね。晴れの日は、大体。でも売ってるものは日によってまちまちですね」
ミルファも興味津々に商品を見て歩いている。
そんなミルファの真ん前から新聞を広げたおじさんが歩いてきた。
けれども、彼女はそれに気づいていない。
僕はミルファの肩を抱くように小さな体を引き寄せた。
「はわっ! すみません。ありがとうございます」
肩を離すと、ミルファは紅潮した顔を隠すように僕の先を歩いていった。歩くたびに揺れる彼女の黒髪を眺めながら、少し後ろを僕もついていく。
しばらく歩くと、ミルファは細い路地に入った。
石造りの建物の隙間。陰になっているため薄暗い。
所々にロープで洗濯物が干されている。
そんな道を淡々と進むミルファの後ろを無言でついていく。
そこを抜けると、古風な石橋。すぐ下の川は澄んでいて流れは穏やかだ。
橋を渡り終えるとまた先程と同じような細い路地を通り、さっきの大通りに戻ってきた。
「ごめんなさい。ちょっと道を間違えちゃったので、戻ってきました」
足を止めて振り返り、申し訳なさそうに頭を下げる。
「大丈夫だよ。気にしないで」
励ましの言葉をかけると、ミルファは回れ右をしてまた歩き始めた。
♢
結局、3回元の場所に戻ってきてそのたびにミルファは頭を下げた。
そして、4回目にしてようやく目的地にたどり着いた。
とある細い路地にある建物の一つ。他と同じように石造だ。
「これから会う人はちょっと強烈な人なので、そのつもりで心の準備をお願いします!」
ちょっと強烈な人?
リースさんの友人で、ちょっと強烈な人……。
気難しい天才魔法使いとかかな?
ミルファが扉に取り付けられたドアノッカーを使ってノックした。
少しして扉が開き、中から人が出てきた。
「ぁーぃ……ろちぁたまれすかー……っと」
出てきた女性は、一目でわかる程に酔っぱらっていた。
顔全体が真っ赤に染まっていて、口元も緩んでいる。
目元もとろんとしていて、今にも眠ってしまいそう。
羽織っているグレーのカーディガンとブラウンのロングスカートが、ふんわりとしたセミロングの茶髪と相まって一見優しそうなお姉さんという風にも見えるが、漂ってくる酒の匂いで全て台無しだ。
「メイナさん、お久しぶりです!」
出迎えた女性の風貌に驚くことも無く、ミルファは平然と挨拶をした。
「ぉー、みるふぁたんじゃぁないれすかぁ」
ミルファがメイナさんと呼んだ呂律が回っていない女性は、来客をミルファだと認識するなり手を回して抱き寄せた。
メイナさんの大きな胸に顔をうずめたミルファが苦しそうに呻き声を上げている。
「メイナさん、離してあげて!ミルファ窒息しちゃいそうだよ!」
ミルファをたすけるため声をかけると、メイナさんはミルファを離して僕の方を向いた。
「うーん……きみ、だぁれ?」
「翼といいます。ミルファの付き添いです」
「ふーん? まぁいーや。とりぁぇず……」
メイナさんがふらふらと僕に向かって歩み寄ってくる。そして……
「ばさたんも、ぎゅー」
突然柔らかさに包まれて、思考が一瞬止まる。
数秒後、メイナさんに抱き着かれていることを認識すると、酒臭さにも包まれた。
ていうか、ばさたんって僕のこと?
「わわっ、ダメですっ! メイナさん。ツバサさんから離れて!」
ミルファが慌ててメイナさんを僕から引きはがした。
「えー。いぃじゃん、別に……」
「ダメですっ! 男の人に抱き着いたりしちゃ」
ミルファが珍しく怒っている……というか、これは叱っているのか。
「うぅー。すきんしっぷ……だいじなんらよぉ」
ミルファに叱られて、茶髪の先を指でくるくる巻きながら拗ねるメイナさん。
そんなメイナさんにため息をつきながらミルファは話を進めた。
「それで、先生のお使いで来たんですけど……」
「ぁー、はぃはぃ。とりぁぇず、あがってあがって」
「はい、お邪魔します!」
ミルファが家の中に入っていく。
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「んー、ばさたんも、突っ立ってないで、入って入って」
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