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第十四話 出発
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翌日。天気は晴れ。
気温もちょうどよく、お出かけ日和だ。
朝食を終えたあと、僕たちは出発した。
「ツバサさん、乗ってください」
ミルファが、跨った杖のうしろをポンポンっと叩く。
普段通りのローブ姿。
今日は帽子を被っていない。
時折吹く風が、彼女の長い黒髪をさらさらと揺らす。
本意を言えば僕がミルファを乗せていきたいところなのだけど、悲しいかな、僕は魔法が使えないので素直にミルファの後ろに跨る。
「つかまっててくださいね」
そう言われたけれど、少し困ってしまう。杖の長さ的に、僕はミルファに密着して座らなければならず、つかまるとすると、杖ではなくミルファの体になるからだ。
考えた末、ミルファの肩に手を伸ばす。
「そんなんじゃ、落ちちゃいますよ?もっとしっかりつかまってください」
鈴のように心地良い声で、ミルファは僕にそう促す。
「……。失礼します」
結局、お腹に腕を回してつかまった。
暖かく、柔らかい。
小さな体から伝わってくるその感触が、僕の鼓動を早める。もしかしたら、鼓動がミルファに伝わっているかもしれない。そう考えて、ますます顔が熱くなるのを感じた。
「……。それじゃあ、出発しますね」
ミルファがそう言うと、杖がゆっくりと浮かび上がり、僕たちを空中へと持ち上げていく。それも、森の木々を越える高さまで。
「っ……、高い……」
思わず言葉が漏れる。
前に乗せて貰った時は少し浮かんでいる程度だったから、今回もそれくらいだと思っていた。
「高いの、苦手ですか?」
上昇を止めてミルファが聞いてきた。
「いや、大丈夫。少し驚いただけ」
「そうですか。わたしは怖かったなあ、初めて高く飛んだとき。そのときは先生の後ろに乗ってたんですけど、降ろしてー!って大泣きしちゃいました」
えへへ、とミルファは照れ笑いしながら続ける。
「それから、先生に教えてもらって、飛べるようになって。けれども、力加減が難しくて。間違って高く飛んじゃったんです。でもそのときは、自分で飛んだからか不思議と恐怖感は無くて。それからは高いところ、大丈夫になりました」
「それはよかった」
話し終わると、出発しますね、とミルファが一言。そして空宙で止まっていた僕たちは、ゆっくりと前進し始めた。そして、自転車をこぐくらいの速度で飛び続ける。
木々の緑、小さな湖、穏やかな川。
それらを鳥瞰しながら風を切っていく。なかなか爽快なフライトだ。
「飛ぶのって、気持ちいいね。いつもと違う景色が見れるし、風がすごく心地いいよ」
「ふふっ、気に入ってもらえてよかったです。またいつでも乗せてあげますね」
「ありがとう」
でも、乗せて貰うのもいいけど……。
「僕も自分で飛べないかなぁ……」
「出来ると思いますよ。練習すれば、きっと」
「そうなの? 魔力とか使ってるんじゃないの?」
「そうですね。でも、魔力は誰にでもあります。使える量や質の違いはありますけど」
「それじゃあ、僕にもあるの?」
「はい。あるのは感じますよ。量や質に関しては、わたしじゃよく分かりませんが」
そうなのか。それなら練習してみようかな。
「ミルファは、飛べるようになるまでどれくらいかかったの?」
「浮かぶだけなら7歳のときに、先生に教えてもらってすぐにできるようになりました。けれど、安定して飛べるようになったのはつい先日ですね。わたしは魔力の制御が苦手でしたので」
ほうほう。それはつまり、マスターするまでに……、何年だ?
「ミルファって、いま何歳?」
「14歳です」
ほうほう。ミルファは14歳なのか……じゃなくて、マスターするまでに7年を要したのか。
「ミルファ、今度、飛び方教えてくれない?」
「はい、いいですよ。一緒にがんばりましょー!」
そんな会話を交わすうちに、街が近づいてきた。
石造りの建物がいくつもならぶ街。
所々に背の高い、教会のような建物がいくつか散らばっている。
そして街の中央に、古風で堅牢そうな外観の城がみえる。
「あそこが目的地?」
「はい、そうですよ」
「なんて名前の街?」
「ムーンティギュアといいます。王都ですね」
王都ということは中央の城は王城だろう。
「ところで、今日はなにをするの?」
お使いに行く、としか聞いていなかったので確認してみる。
「えっとですね……先生に頼まれた用事は、先生のお友達の魔女さんのところに行って荷物を受け取りをすることなので、まずはそれを終わらせます。それが終わったら、二人で食事とか買い物とかって考えてたんですけど……どうでしょうか?」
二人で食事とか買い物とか……。
それってなんだかデートみたいだ、と思ってこそばゆくなる。
でも、嬉しい。
「うん、いいね。楽しみだ」
「はい、わたしも楽しみです!」
ミルファはまたえへへ、と笑った。
気温もちょうどよく、お出かけ日和だ。
朝食を終えたあと、僕たちは出発した。
「ツバサさん、乗ってください」
ミルファが、跨った杖のうしろをポンポンっと叩く。
普段通りのローブ姿。
今日は帽子を被っていない。
時折吹く風が、彼女の長い黒髪をさらさらと揺らす。
本意を言えば僕がミルファを乗せていきたいところなのだけど、悲しいかな、僕は魔法が使えないので素直にミルファの後ろに跨る。
「つかまっててくださいね」
そう言われたけれど、少し困ってしまう。杖の長さ的に、僕はミルファに密着して座らなければならず、つかまるとすると、杖ではなくミルファの体になるからだ。
考えた末、ミルファの肩に手を伸ばす。
「そんなんじゃ、落ちちゃいますよ?もっとしっかりつかまってください」
鈴のように心地良い声で、ミルファは僕にそう促す。
「……。失礼します」
結局、お腹に腕を回してつかまった。
暖かく、柔らかい。
小さな体から伝わってくるその感触が、僕の鼓動を早める。もしかしたら、鼓動がミルファに伝わっているかもしれない。そう考えて、ますます顔が熱くなるのを感じた。
「……。それじゃあ、出発しますね」
ミルファがそう言うと、杖がゆっくりと浮かび上がり、僕たちを空中へと持ち上げていく。それも、森の木々を越える高さまで。
「っ……、高い……」
思わず言葉が漏れる。
前に乗せて貰った時は少し浮かんでいる程度だったから、今回もそれくらいだと思っていた。
「高いの、苦手ですか?」
上昇を止めてミルファが聞いてきた。
「いや、大丈夫。少し驚いただけ」
「そうですか。わたしは怖かったなあ、初めて高く飛んだとき。そのときは先生の後ろに乗ってたんですけど、降ろしてー!って大泣きしちゃいました」
えへへ、とミルファは照れ笑いしながら続ける。
「それから、先生に教えてもらって、飛べるようになって。けれども、力加減が難しくて。間違って高く飛んじゃったんです。でもそのときは、自分で飛んだからか不思議と恐怖感は無くて。それからは高いところ、大丈夫になりました」
「それはよかった」
話し終わると、出発しますね、とミルファが一言。そして空宙で止まっていた僕たちは、ゆっくりと前進し始めた。そして、自転車をこぐくらいの速度で飛び続ける。
木々の緑、小さな湖、穏やかな川。
それらを鳥瞰しながら風を切っていく。なかなか爽快なフライトだ。
「飛ぶのって、気持ちいいね。いつもと違う景色が見れるし、風がすごく心地いいよ」
「ふふっ、気に入ってもらえてよかったです。またいつでも乗せてあげますね」
「ありがとう」
でも、乗せて貰うのもいいけど……。
「僕も自分で飛べないかなぁ……」
「出来ると思いますよ。練習すれば、きっと」
「そうなの? 魔力とか使ってるんじゃないの?」
「そうですね。でも、魔力は誰にでもあります。使える量や質の違いはありますけど」
「それじゃあ、僕にもあるの?」
「はい。あるのは感じますよ。量や質に関しては、わたしじゃよく分かりませんが」
そうなのか。それなら練習してみようかな。
「ミルファは、飛べるようになるまでどれくらいかかったの?」
「浮かぶだけなら7歳のときに、先生に教えてもらってすぐにできるようになりました。けれど、安定して飛べるようになったのはつい先日ですね。わたしは魔力の制御が苦手でしたので」
ほうほう。それはつまり、マスターするまでに……、何年だ?
「ミルファって、いま何歳?」
「14歳です」
ほうほう。ミルファは14歳なのか……じゃなくて、マスターするまでに7年を要したのか。
「ミルファ、今度、飛び方教えてくれない?」
「はい、いいですよ。一緒にがんばりましょー!」
そんな会話を交わすうちに、街が近づいてきた。
石造りの建物がいくつもならぶ街。
所々に背の高い、教会のような建物がいくつか散らばっている。
そして街の中央に、古風で堅牢そうな外観の城がみえる。
「あそこが目的地?」
「はい、そうですよ」
「なんて名前の街?」
「ムーンティギュアといいます。王都ですね」
王都ということは中央の城は王城だろう。
「ところで、今日はなにをするの?」
お使いに行く、としか聞いていなかったので確認してみる。
「えっとですね……先生に頼まれた用事は、先生のお友達の魔女さんのところに行って荷物を受け取りをすることなので、まずはそれを終わらせます。それが終わったら、二人で食事とか買い物とかって考えてたんですけど……どうでしょうか?」
二人で食事とか買い物とか……。
それってなんだかデートみたいだ、と思ってこそばゆくなる。
でも、嬉しい。
「うん、いいね。楽しみだ」
「はい、わたしも楽しみです!」
ミルファはまたえへへ、と笑った。
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