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第十三話 今の生活
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先の事件から数か月が経った。
呪いは解かれたが、鉛のように重い四肢を不自由なく動かすためにはリハビリが必要だった。
けれどもその過酷なリハビリも、ミルファとリースさんのサポート――魔法で体を支えたり、転ばないようにしてくれた。ミルファの魔法は少々不安定で、体が浮かび上がることもあり、スリリングだったけれど――のおかげで乗り越えることができ、僕の体は日常生活を難なく送れるほど回復した。
それから、僕は家事や雑用の手伝いをしながら暮らしていた。
具体的には、屋敷の掃除や荷物の運搬、畑の手入れなどがいまの僕の主な仕事だ。
はじめのころは、料理も手伝えるようにとリースさんに教えてもらっていたのだが、どうやら僕のセンスは絶望的らしく、リースさんが匙を投げた。
そして、料理禁止令まで出されてしまった。
力になれなかったのは申し訳ないし、食料を無駄にしてしまったことは反省しているけれど、普段クールなリースさんの慌てふためく姿は新鮮で、ちょっぴり面白かった。
料理に関しては手伝うことはできないが、それ以外の仕事は充分にこなせるようになった。僕が仕事を手伝うことで、リースさんの拘束時間が減った。
そしてリースさんは、その空いた時間をミルファに魔法を教えるために使えるようになった。
前より長い時間、教えを受けられるようになったミルファは、安定した魔法を使えるようになってきたようだ。
以前は空を飛ぶにも危なっかしかったが、いまでは安心して見ていられる。
リースさんによると、彼女の魔法の不安定さは、感情の動きがそのまま反映されてしまうがゆえのものだったらしい。けれど、リースさんの指導によって、感情が魔法に与える影響が少なくなったようだ。
そういうわけで、ミルファの魔法の能力は、まだ僕を元の世界に戻せるほどではないとはいえ、着々と向上していた。
♢
ある夕暮れのこと。
畑での仕事をやり終えて自分の部屋へと戻ると、ミルファが机に向かっていた。
本を読んでいたようだが、僕がドアを開けた音に反応して本を閉じた。
そして、上半身をひねって僕の方を見た。
一瞬、彼女の大きな瞳と僕の視線がぴたりと合う。
けれども、ミルファはすぐに閉じられた本の黒い表紙へと視線を落としてしまった。
それから彼女は石になったかのように、微動だにしなかった。
「……ミルファ、どうしたの?」
近くまで歩み寄って聞いてみる。するとミルファは、机の本に向かって話すように口を開いた。
「ツバサさん、あの、お話があるのですが……いま、大丈夫ですか」
少し上擦った声のミルファ。
彼女を落ち着かせられるよう、できるだけ優しい口調を心掛ける。
「うん、大丈夫だよ。それで、話って?」
僕の言葉を聞いたミルファは、一つ大きく呼吸した。
そして、イスに座ったまま、体ごと僕の方を向いた。
自然と彼女が僕を見上げる形になり、少し上目遣いで力強い視線を向けてきた。
「先生にお使いを頼まれたんですけれど……ツバサさん、明日、わたしと一緒についてきてくれませんか?」
……。なんだ、そういうことか。
ミルファがいつにもなく真剣な面持ちに、つい身構えてしまった。
「もちろんいいよ。一緒にいこう」
僕の返事を聞いて、安堵したように表情が明るくなるミルファ。
「ありがとうございます。それじゃあ明日、朝食後に出発ということでお願いしますっ!」
呪いは解かれたが、鉛のように重い四肢を不自由なく動かすためにはリハビリが必要だった。
けれどもその過酷なリハビリも、ミルファとリースさんのサポート――魔法で体を支えたり、転ばないようにしてくれた。ミルファの魔法は少々不安定で、体が浮かび上がることもあり、スリリングだったけれど――のおかげで乗り越えることができ、僕の体は日常生活を難なく送れるほど回復した。
それから、僕は家事や雑用の手伝いをしながら暮らしていた。
具体的には、屋敷の掃除や荷物の運搬、畑の手入れなどがいまの僕の主な仕事だ。
はじめのころは、料理も手伝えるようにとリースさんに教えてもらっていたのだが、どうやら僕のセンスは絶望的らしく、リースさんが匙を投げた。
そして、料理禁止令まで出されてしまった。
力になれなかったのは申し訳ないし、食料を無駄にしてしまったことは反省しているけれど、普段クールなリースさんの慌てふためく姿は新鮮で、ちょっぴり面白かった。
料理に関しては手伝うことはできないが、それ以外の仕事は充分にこなせるようになった。僕が仕事を手伝うことで、リースさんの拘束時間が減った。
そしてリースさんは、その空いた時間をミルファに魔法を教えるために使えるようになった。
前より長い時間、教えを受けられるようになったミルファは、安定した魔法を使えるようになってきたようだ。
以前は空を飛ぶにも危なっかしかったが、いまでは安心して見ていられる。
リースさんによると、彼女の魔法の不安定さは、感情の動きがそのまま反映されてしまうがゆえのものだったらしい。けれど、リースさんの指導によって、感情が魔法に与える影響が少なくなったようだ。
そういうわけで、ミルファの魔法の能力は、まだ僕を元の世界に戻せるほどではないとはいえ、着々と向上していた。
♢
ある夕暮れのこと。
畑での仕事をやり終えて自分の部屋へと戻ると、ミルファが机に向かっていた。
本を読んでいたようだが、僕がドアを開けた音に反応して本を閉じた。
そして、上半身をひねって僕の方を見た。
一瞬、彼女の大きな瞳と僕の視線がぴたりと合う。
けれども、ミルファはすぐに閉じられた本の黒い表紙へと視線を落としてしまった。
それから彼女は石になったかのように、微動だにしなかった。
「……ミルファ、どうしたの?」
近くまで歩み寄って聞いてみる。するとミルファは、机の本に向かって話すように口を開いた。
「ツバサさん、あの、お話があるのですが……いま、大丈夫ですか」
少し上擦った声のミルファ。
彼女を落ち着かせられるよう、できるだけ優しい口調を心掛ける。
「うん、大丈夫だよ。それで、話って?」
僕の言葉を聞いたミルファは、一つ大きく呼吸した。
そして、イスに座ったまま、体ごと僕の方を向いた。
自然と彼女が僕を見上げる形になり、少し上目遣いで力強い視線を向けてきた。
「先生にお使いを頼まれたんですけれど……ツバサさん、明日、わたしと一緒についてきてくれませんか?」
……。なんだ、そういうことか。
ミルファがいつにもなく真剣な面持ちに、つい身構えてしまった。
「もちろんいいよ。一緒にいこう」
僕の返事を聞いて、安堵したように表情が明るくなるミルファ。
「ありがとうございます。それじゃあ明日、朝食後に出発ということでお願いしますっ!」
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