6 / 31
第五話 ミルファの任務
しおりを挟む
早朝、寝ぼけ眼をこすりながらローブに着替え、うつろな意識で荷物を持ってそとに出ました。
そして、そとの少し冷たい空気を吸い込むと、眠気が一気に吹き飛びました。
「大切な仕事を任されたんだから、しっかりやらなくちゃ!」
そう、大切な仕事。ツバサさんを助けるための、大切な仕事。
事の始まりは昨日のこと。
わたしは召喚魔法を失敗して手足が不自由な細身の男性―ツバサさん―を召喚してしまいました。
先生を連れてきて話をした結果、誤って召喚してしまったせめてものお詫びとして、ツバサさんを家に連れて帰りることになりました。
ツバサさんを部屋まで運んだ後、先生に夕飯の支度を頼まれました。
そして、作ったスープとパンをツバサさんのところへ運んでいったときのことです。
ドアを開けると、凍えるような冷気が押し寄せてきました。部屋の中には、ベッドごと氷漬けになっているツバサさんと、そのツバサさんの四肢をじっくり凝視している先生の姿がありました。
「あの、えっと……」
いったい、これはどういう状況でしょうか……。なぜ、ツバサさんが氷漬けに……。
「ん? ミルファか。ちょうどいい。少し話があるんだ」
こちらを向いた先生は、険しい表情をしていました。
「……、その前に……、この状況を説明していただけませんでしょうか」
少し震えた声になってしまいました。それでも、先生の鋭い目をしっかり見つめて問いかけました。
「そうだな。まずはそこから話さねばならないか」
「見ての通り、ツバサは氷漬けになっている。そして、彼を氷漬けにしたのは私だ」
やっぱり、この状況を作り出したのは先生でした。先生の魔法をもってすれば、人ひとり氷漬けにするなど、容易い事なのです。しかし……。
「どうして……こんなことを……」
「呪いの進行を止めるためさ」
「呪い……ですか?」
「そう、呪い。彼の四肢が動かないのは、呪いをかけられたせいなんだ。そうだな……、ミルファ、よく見てろ」
先生は杖を構え、呪文を唱え始めました。杖が赤い光を放ち、ツバサさんを照らします。すると、ツバサさんの腕に複雑な黒い紋様が浮かんできました。
「先生、これは……?」
「これが彼にかけられた呪いだ。上着やズボンで隠れて見えない場所にもこれがある。しかも、それだけじゃない。彼にはもう一つ別の呪いがかけられている。その呪いは、彼を死に至らしめるものだ。発動条件は分からないが、いつ発動してもおかしくない。発動を防ぐために、私は彼を凍らせ、仮死状態にした。そして、これから私は解呪のための準備に取り掛かる。それで、ミルファにも手伝いをお願いしたいのだが、やってくれるか?」
「もちろんです! お任せください!」
わたしの力強い返事を聞いて、先生の表情が少し柔らかくなりました。
それから先生は、解呪に必要な材料集めを私に指示すると、昨晩遅くに町へと出かけていきました。
これが、昨日の出来事です。そして、今日からわたしは解呪に必要な材料集めに行ってきます。
「がんばるぞー!」
抱いていたくまごろうを天に掲げます。
……くまごろう?
両手には大好きなくまのぬいぐるみ。
はわわ……リュックと間違えて、くまごろうを連れてきてしまいました……。
そして、そとの少し冷たい空気を吸い込むと、眠気が一気に吹き飛びました。
「大切な仕事を任されたんだから、しっかりやらなくちゃ!」
そう、大切な仕事。ツバサさんを助けるための、大切な仕事。
事の始まりは昨日のこと。
わたしは召喚魔法を失敗して手足が不自由な細身の男性―ツバサさん―を召喚してしまいました。
先生を連れてきて話をした結果、誤って召喚してしまったせめてものお詫びとして、ツバサさんを家に連れて帰りることになりました。
ツバサさんを部屋まで運んだ後、先生に夕飯の支度を頼まれました。
そして、作ったスープとパンをツバサさんのところへ運んでいったときのことです。
ドアを開けると、凍えるような冷気が押し寄せてきました。部屋の中には、ベッドごと氷漬けになっているツバサさんと、そのツバサさんの四肢をじっくり凝視している先生の姿がありました。
「あの、えっと……」
いったい、これはどういう状況でしょうか……。なぜ、ツバサさんが氷漬けに……。
「ん? ミルファか。ちょうどいい。少し話があるんだ」
こちらを向いた先生は、険しい表情をしていました。
「……、その前に……、この状況を説明していただけませんでしょうか」
少し震えた声になってしまいました。それでも、先生の鋭い目をしっかり見つめて問いかけました。
「そうだな。まずはそこから話さねばならないか」
「見ての通り、ツバサは氷漬けになっている。そして、彼を氷漬けにしたのは私だ」
やっぱり、この状況を作り出したのは先生でした。先生の魔法をもってすれば、人ひとり氷漬けにするなど、容易い事なのです。しかし……。
「どうして……こんなことを……」
「呪いの進行を止めるためさ」
「呪い……ですか?」
「そう、呪い。彼の四肢が動かないのは、呪いをかけられたせいなんだ。そうだな……、ミルファ、よく見てろ」
先生は杖を構え、呪文を唱え始めました。杖が赤い光を放ち、ツバサさんを照らします。すると、ツバサさんの腕に複雑な黒い紋様が浮かんできました。
「先生、これは……?」
「これが彼にかけられた呪いだ。上着やズボンで隠れて見えない場所にもこれがある。しかも、それだけじゃない。彼にはもう一つ別の呪いがかけられている。その呪いは、彼を死に至らしめるものだ。発動条件は分からないが、いつ発動してもおかしくない。発動を防ぐために、私は彼を凍らせ、仮死状態にした。そして、これから私は解呪のための準備に取り掛かる。それで、ミルファにも手伝いをお願いしたいのだが、やってくれるか?」
「もちろんです! お任せください!」
わたしの力強い返事を聞いて、先生の表情が少し柔らかくなりました。
それから先生は、解呪に必要な材料集めを私に指示すると、昨晩遅くに町へと出かけていきました。
これが、昨日の出来事です。そして、今日からわたしは解呪に必要な材料集めに行ってきます。
「がんばるぞー!」
抱いていたくまごろうを天に掲げます。
……くまごろう?
両手には大好きなくまのぬいぐるみ。
はわわ……リュックと間違えて、くまごろうを連れてきてしまいました……。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】百年に一人の落ちこぼれなのに学院一の秀才をうっかり消去しちゃいました
平田加津実
ファンタジー
国立魔術学院の選抜試験ですばらしい成績をおさめ、百年に一人の逸材だと賞賛されていたティルアは、落第を繰り返す永遠の1年生。今では百年に一人の落ちこぼれと呼ばれていた。
ティルアは消去呪文の練習中に起きた誤作動に、学院一の秀才であるユーリウスを巻き込んでしまい、彼自身を消去してしまう。ティルア以外の人の目には見えず、すぐそばにいるのに触れることもできない彼を、元の世界に戻せるのはティルアの出現呪文だけなのに、彼女は相変わらずポンコツで……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる