[完結]ドジな魔女っ娘に間違って異世界召喚されました。

深山ナオ

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第三話 魔女の館

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 自然豊かな森の中。安全面に考慮してなのか、はたまた、僕とミルファを乗せて重量オーバーなのか、リースは周囲の木々の背丈の半分ほどの高さでゆっくりと飛んでいた。
 それでも、杖に乗って空を飛ぶという現実世界ではあり得ない体験に心躍る。なにより、自然の爽やかな風を受けるのが心地良い。

 移動中、ミルファは、
「あのオレンジの木の実はっていうんですが、とーっても酸っぱいからそのまま食べちゃダメですよ」
 とか、
「右に見えるあの池は夏になるとホタルがいっぱいで、綺麗なんです」
 とか、
「池のほとりに生えている黄色い閉じた蕾のあのお花は雷花らいかっていう名前で、成熟した雷花は雷のなっている時に開花して、雷が収まると散ってしまうんです。わたしは雷が苦手なので、雷花が咲いているところは見たことないんですけどね……。えへへ」 

 といった風に、弾んだ口調で楽しそうにこの森のことを紹介してくれた。
 十五分ほど移動した頃だろうか。森が開けたところに、西洋風の大きな館が見えてきた。
 石造りの館は、僕の背丈の2倍ほどの高さがある塀に囲まれている。館の正面にある門に近づくと、門がゆっくりと開きだした。
 それと同時に、僕の体を支えていたリースさんの魔法が緩まり、体がぐらっと揺れたが、ミルファが頑張って支えてくれた。

「ツバサ、すまない。魔法を複数同時に使うと、効果が薄くなってしまうんだ」

 リースさんが申し訳なさそうに謝る。

「ミルファ、支えてくれてありがとう」

 僕はミルファに礼を言った。

「いえいえっ、どういたしまして!」

 ミルファの明るい声が僕の背中で反射した。

 門が開いて中に入ると、玄関まで真っすぐに通路が続いている。そしてその両脇の広々とした庭に、赤、白、黄と色とりどりの花々が咲き誇っている。
 その中にはバラやカーネーションなどの見知った花もあるが、名前の分からない花や、見たこともない花もたくさんある。
 花畑を見るのはいつ以来だろう?
 種類ごとにまとまっている、手入れの行き届いた花畑。
 そこから漂うフローラルな香りが僕を満たしてゆく。

「どうだい? 見事なものだろう? 私とミルファで毎日世話してるんだ」

 口元を綻ばせ、心成しか自慢げに話すリースさん。

「はい、なんて言うか、すごくきれいです」

 なんとも下手な誉め言葉になってしまった……。

「ツバサさんに気に入ってもらえて、私も嬉しいです!」

 それでもミルファは僕の言葉に答えて、満面の笑みを浮かべた。
 僕たち三人はしばらくの間、花畑を見つめていた。

 ミルファは第一印象通りの素直で優しい、明るい女の子だ。リースさんは、切れ長の目と薄い唇、それに加えて長身と神秘的な白髪はくはつのロングヘアから受けた第一印象では、高潔で近寄り難い人物のように感じられたが、親切に接してくれるところや、花を愛する一面のある、面倒見の良い女性だと分かってきた。
 この世界に来てこの二人の魔女と過ごした数時間は、今までの病院の個室で過ごした十三年間とは比べ物にならないくらい幸せな時間だった。
 僕は花畑を見つめながら、柔らかい気持ちになっていた。

 しかしながら、いつまでもこうしている訳にはいかない。リースさんは彼女の不思議な魔法で僕の体を浮かび上がらせ館に入ると、二階の一室にある、大きくてふかふかなベッドまで運んでくれた。

 ♢ side ミルファ

「ミルファ、悪いけれど夕食の用意を任せていいかい?」

 ツバサさんを運び終えた先生が、部屋の前までついてきていたわたしにそう言いました。

「えっ、でも、お客さんに出す料理までわたしが作っていいんですか?」

 以前、私がお客さんに料理を出した時、調味料の配分を間違えてお客さんを怒らせてしまったことがあって、それ以来、お客さんが来たときには必ず先生が料理を作っています。

「今日はやらなければならないことがあるんだ。だから、料理は任せる」

 先生がそう言うので、

「分かりました! では、腕によりをかけて作りますね!!」

 と張り切って答えて、わたしはキッチンへ向かいました。



side 新見翼



 ミルファが立ち去り、僕はリースさんと二人きりになった。

「さて、ツバサ」

 リースさんが真剣な面持ちで口を開く。

「何ですか?」
「私は、キミを殺さなければならない」
「……、えっ?」

 それって……どういう……。今、リースさんはなんて言った?僕を殺す?
 突然のことに動揺してしまい、言葉がうまく出て来ない。

「安心し給え。面倒はしっかり見てあげるさ。キミの死体の面倒はね」

 そう言うと、リースさんは呪文を唱え始めた。僕は普段から、いつ死んでもいいとは思っていたけれど、まさか、リースさんに殺されるとは思いも寄らなかった。あの純真無垢なミルファの先生で、庭のあの綺麗な花畑を作り上げた、面倒見の良いリースさんに殺されるなんて……。
 呪文を唱えるリースさんの長い白髪が、風もないのにゆらゆら蠢きだす。
 そのただならぬ空気に冷や汗が止まらない。嫌な寒気がする。
 ……いや、この寒気は恐怖や冷や汗から来ているものではない。
 それは僕の足先からきているものだった。
 僕の寝ているベッドが、足元から氷漬けになっているのだ。
 僕の爪先からくるぶしを覆った氷は、脛から膝へ、そして太ももまでじわじわと覆ってきた。
 やがて、氷の浸食は腹部、胸部へと達し、最後には頭まで覆いつくした。
 僕の世界は凍りつき、意識が途絶えた。




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