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11 みんな、我慢してピーマンを食べてたんだ……
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「入れ替わってから一晩経ったわけだけど――」
昼休み。ナナと静流は中庭の日陰に腰を下ろして、お弁当を広げていた。
夏休み直前のこの時期、教室は冷房が付いているので、わざわざ中庭まで出てきて、暑い中ご飯を食べる生徒は少ない。快晴の今日、ここにはナナたちしかいなかった。
「――元に戻る方法、なにか思いついたかしら?」
「ナナは全然なんだ……静流はどうなんだ?」
「私もまだ思いつかないわ」
「そか……静流は今すぐ元に戻りたいのか?」
「正直、半々ね。ナナの身体、ちっちゃくて可愛いし、動きやすいし」
「ナナも半々くらいなんだ……。ナナは昨日静流の部屋で静流の服をいっぱい着て、楽しかったんだ」
「私と同じことをしてたのね……私も楽しんでたけど」
静流が玉子焼きを箸で小さく切り、口に運び、頬を緩めた――おいしそうに食べてるんだ。
自分が食事してる姿を目の前で見せられるのって、なんだか不思議な気分なんだ。
そんなことをぼんやり考えながら、ナナもお弁当に箸を伸ばす。
あむっ――静流ママの里芋の煮っ転がしおいしいんだ!
卵焼きを飲み込んだ静流が再び話し始める。
「もし仮に私たちの入れ替わりに意味があるとして」
「なにか条件を満たさないといけないってやつだな?」
昨日の帰り道で、確かそんな話をしたんだ。
「それを達成するための心当たりがない以上、なんでもいいから何か行動を起こした方がいいと思うの」
「それはそだな。あっ……」
返事したところでナナは重大なことに気付いた。
「うぁ……ピーマン入ってる……。ナナ、ピーマンは嫌いなんだ。静流にあげるんだ」
「自分で食べなさい」
「嫌なんだ。苦さで死んじゃうんだ……」
「それくらいじゃ死なないわよ。それに今は私の身体でしょ。味覚が違うかもしれないわ。むしろ今はナナの身体にいる私の方がピーマン苦手かもね」
「でも……」
「これはピーマンを美味しく食べる貴重なチャンスよ」
……確かに。
今ならおいしく食べられるかもなんだ……。
……。
ピーマンを箸でつまんで、ゆっくり口に近づけていく。そして――
「あむっ……うぇ、苦いんだあ……」
「まあ、そうでしょ。ピーマンはそういうものだし。私も美味しいとは思わないわ」
「静流に騙されたんだ……」
怨みの念を込めて、静流を#睥睨_へいげい__#してやる。
静流は一瞬ビクッと肩を震わせ、それから咳払いして場を仕切り直した。
「さっきの話に戻るわよ。状況を打破するためにも、何か行動を起こそうと思うの」
ナナが頷いたのを見て、静流が言葉を続ける。
「だから、今日は水着を買いに行きましょう。昨日はごたこたしてて流れちゃったし」
「もうちょっと違うことした方が良くないか?」
「手掛りがない以上、何をしてても大して変わらないじゃない? それとも、元に戻るまで階段から落ち続ける?」
「そんなの死んじゃうんだ!」
「だったら、買い物行きましょ」
昼休み。ナナと静流は中庭の日陰に腰を下ろして、お弁当を広げていた。
夏休み直前のこの時期、教室は冷房が付いているので、わざわざ中庭まで出てきて、暑い中ご飯を食べる生徒は少ない。快晴の今日、ここにはナナたちしかいなかった。
「――元に戻る方法、なにか思いついたかしら?」
「ナナは全然なんだ……静流はどうなんだ?」
「私もまだ思いつかないわ」
「そか……静流は今すぐ元に戻りたいのか?」
「正直、半々ね。ナナの身体、ちっちゃくて可愛いし、動きやすいし」
「ナナも半々くらいなんだ……。ナナは昨日静流の部屋で静流の服をいっぱい着て、楽しかったんだ」
「私と同じことをしてたのね……私も楽しんでたけど」
静流が玉子焼きを箸で小さく切り、口に運び、頬を緩めた――おいしそうに食べてるんだ。
自分が食事してる姿を目の前で見せられるのって、なんだか不思議な気分なんだ。
そんなことをぼんやり考えながら、ナナもお弁当に箸を伸ばす。
あむっ――静流ママの里芋の煮っ転がしおいしいんだ!
卵焼きを飲み込んだ静流が再び話し始める。
「もし仮に私たちの入れ替わりに意味があるとして」
「なにか条件を満たさないといけないってやつだな?」
昨日の帰り道で、確かそんな話をしたんだ。
「それを達成するための心当たりがない以上、なんでもいいから何か行動を起こした方がいいと思うの」
「それはそだな。あっ……」
返事したところでナナは重大なことに気付いた。
「うぁ……ピーマン入ってる……。ナナ、ピーマンは嫌いなんだ。静流にあげるんだ」
「自分で食べなさい」
「嫌なんだ。苦さで死んじゃうんだ……」
「それくらいじゃ死なないわよ。それに今は私の身体でしょ。味覚が違うかもしれないわ。むしろ今はナナの身体にいる私の方がピーマン苦手かもね」
「でも……」
「これはピーマンを美味しく食べる貴重なチャンスよ」
……確かに。
今ならおいしく食べられるかもなんだ……。
……。
ピーマンを箸でつまんで、ゆっくり口に近づけていく。そして――
「あむっ……うぇ、苦いんだあ……」
「まあ、そうでしょ。ピーマンはそういうものだし。私も美味しいとは思わないわ」
「静流に騙されたんだ……」
怨みの念を込めて、静流を#睥睨_へいげい__#してやる。
静流は一瞬ビクッと肩を震わせ、それから咳払いして場を仕切り直した。
「さっきの話に戻るわよ。状況を打破するためにも、何か行動を起こそうと思うの」
ナナが頷いたのを見て、静流が言葉を続ける。
「だから、今日は水着を買いに行きましょう。昨日はごたこたしてて流れちゃったし」
「もうちょっと違うことした方が良くないか?」
「手掛りがない以上、何をしてても大して変わらないじゃない? それとも、元に戻るまで階段から落ち続ける?」
「そんなの死んじゃうんだ!」
「だったら、買い物行きましょ」
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