[完結]ナナシズswitch

深山ナオ

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8 着せ替え人形静流ちゃん

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 手持ち無沙汰になったんだ……。
 時計を見ると、時刻は九時前。
 お風呂は十時って言ってたから、まだ時間がある。
 何をしようか、と部屋を見回す。
 机の上。参考書の山に目が留まった。
 とりあえず、これを元に戻そかな。
 そう思って、参考書を本棚に持っていき、一番上の段のぽっかり空いていたところに戻した。
 その作業はすぐ終わった……。
 ……。
 そう言えば、クローゼットにオシャレな服がいっぱいあったな……。
 ちょっとくらい触ってみてもいかな?
 人の部屋を漁るのは良くないけど、服をちょっと見てみるくらいはいよね? 同性なんだし。
 心の中で言い訳をしながら、クローゼットを開ける。
 
「わあっ……」

 大人っぽい黒のワンピースとか、落ち着いたベージュのロングスカートとか――ナナが普段着ない……というか、チビのナナには似合わない雰囲気の服ばっかりなんだ。
 一着ずつ手に取って、体にあてがってみる。
 鏡に映っているのは静流の身体。
 けれど、今は自分の身体でもある。
 だから、休日に静流と遊びに行くときのような客観的な視線ではなく、主観的な視線になって――スタイル抜群になった自分自身に素敵な服を合わせているような気分になる。

 着てみたいな……。
 ……。

「これからナナは静流として生活していくんだし、自分に合う服装を把握しておく必要があるんだ。うん」
 
 姿見の中の静流に向かって、そんな言い訳をしてから。
 黒のチュールスカートと淡いブルーのセーターを着用していく。

「おお……」
 
 くるぶし付近まで覆う長いレース生地のスカート。
 背の小さいナナが履くと子どもっぽくしか見えないけど、女子高生にしては少し背の高い静流が履くと煌びやかに映える。
 そして、合わせたセーターが大人びた印象に仕上げている。
 くるりと回ると、黒のベールが空気を含んで舞い上がり、ほんの一瞬、白い足を露出させる。

「ナナじゃないみたいなんだ……」

 いや、ナナじゃなくて静流なんだ……。



     ♢



 それからしばらく、静流の服を試着した。
 普段、ナナが着ない服を楽しめたのは良かったんだけど、一つ気になることがあった……あったというか、無かった。
 短いスカートが一着も無かったんだ。
 一番短いのが学校の制服。それだって膝上五センチの、校則を順守した優等生スタイルだ。
 静流のスラっと伸びる脚には短めのスカートも似合うって、ナナは思うんだけど……。
 そういえば、静流が短いスカートを履いているのを見たことがないな……。

「せっかくだし、履いてみたかったな……」

 まあ、無いものはしかたないんだ……。
 時計を見ると、ちょうど十時。
 お風呂に入ってくるんだ――その前にトイレトイレ……。

 トイレに入ってパンツに指をかけた時。ふと、気付いた。
 ――ナナ、静流の身体でおしっこするのか⁉
 ――っていうか静流のやつ、ナナの身体でおしっこするのか⁉

「うぅ……恥ずかしいんだ……」
 
 でも仕方ないんだ、恥ずかしいのは我慢するんだ……おしっこは我慢できないから……。
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