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24 幼馴染みの様子が……

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 バイト三昧の週末を終え、月曜日。
 祐一は眠たい目を擦りながら身支度をし、家を出ると――ドアを開けた先、アパートの通路の壁に背中を預ける綾香の姿があった。

「おっ、もう来てたのか。中で待っててもよかったのに」
「ううん、今来たとこだから」

 答えながら、綾香は何故か慌てて姿勢を正す。背筋ピーン、だ。 

「そうか。じゃ、行くか」
「う、うんっ」

 祐一と綾香は幼馴染みなので、いつも一緒に登校している。綾香の方が準備が早ければ、綾香が祐一の家に向かい、祐一の方が早ければ、祐一が綾香の家へと向かう。
 肩を並べて一緒に登校なんて、すでに慣れ親しんだ日常の一部となっている――そのはずなのだけれど……。

 いつもはペラペラとおしゃべりをしてくる綾香が、今日に限って、何も話しかけてこない。
 無言のまま、ただ歩みを進めている。
 そのことに祐一は首を傾げながら、口を開いた。

「綾香、お前……なんか今日静かだな――どうした? 具合悪いのか?」
「ううん、そんなことないよ!」

 慌てたように返事をする綾香。なんだか早口で、心なしか頬が赤い。

「……本当に大丈夫か? 熱でもあるんじゃないか」

 言いながら、祐一は綾香のおでこに手を伸ばす。
 綾香の前髪の下に手を差し入れると、かすかな甘い香りが祐一の鼻をくすぐった。

「ひゃっ!」

 短い悲鳴。
 それと共に、綾香は跳び退くように祐一から一歩距離を取った。

「あ、悪い、急に触って……嫌だったか?」

 幼馴染みとは言え、年頃の女の子に対する思慮に欠ける行為だったかもしれない。そう思い、祐一は綾香に謝る。

「いや、あの……えと、そういうわけじゃないんだけど――」

 震える声で答えながら、綾香は目線を右往左往させる。次の言葉を探しているようだ。

「――あー、今日わたし日直だったかも? だから、先行くねっ」

 そう言い残して、走り去ろうとする綾香。
 その背中に祐一は――。

「いや、今日の日直は別の人だぞ!」
「あうっ」

 祐一の言葉に、綾香はずっこけそうになる。
 反射的に祐一は手を伸ばし――綾香の右腕を掴んで支えた。
 
「おい、大丈夫かよ……」
「う、うん……ありがと……」

 綾香が体制を立て直したところで、祐一は手を離す。綾香の顔は、今や祐一にもはっきりとわかる程に紅潮してしまっている。

「……なあ、どうしたんだよ? お前、今日本当におかしいぞ?」

 祐一は、これ以上踏み込まない方がいいのかもしれないと思っても、訊かずにはいられなかった。
 綾香のこの反応は、自分の勘違いかもしれないけど、もしかして――。

「いや、大丈夫だよ――」

 全然大丈夫じゃない、安定しない声で、綾香が答える。
 そして、再び目線を彷徨わせて、綾香は言葉を続けた。

「――えっと……あ! アレだよ! お花摘み! お花摘みに行きたいからっ……だから、えっと、先行くねっ!」
「そうか……わかった。気をつけてな」

 お花摘み――トイレに行きたいというのなら、引き留めるわけにも、追いかけるわけにもいかない。祐一は、長髪を揺らしながら駆けていく綾香の背中を静かに見送った。
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