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19 部室でイメチェン!

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「ごちそうさま。ふう、美味しかったー」
「じゃ、食べ終わったことですし、始めますか」
「はい……よろしくお願いします」

 翌日の昼休み。
 綾香、小糸、夜霧の三人は天文部室に集まっていた。夜霧のイメチェンに際して、髪を切る前にどんな髪型にするか目星を付けるためだ。
 祐一は昼休みに個人面談が入っているため、今日は不在だ。
 先に昼食を済ませた三人は、弁当を片付け、夜霧のイメチェンに取り掛かる。
 
 綾香が道具を取り出し、鏡を夜霧の前に置く。
 それからくしを持って、座っている夜霧の後ろへと回り込む。

「それじゃ、一回解かすねー」

 言って綾香は夜霧の長い髪に櫛を入れ、くしくしと丁寧にいていく。
 
 夜霧は、置物のようにじっとして、それが終わるのを待つ。
 しばらくして……。

「よしっ、それじゃ、どうしようか?」

 一通り終えた綾香が、二人に問いかける。

「まずは二つ縛りにしてみましょうか。それでいいですか?」
「はい……お任せします」

 夜霧の返事を聞いて、小糸はヘアゴムを手に取り、綾香と場所を変わる。
「長い髪をいじるのは久しぶりですねー」

 ショートヘアの小糸は、そう言いながらもてきぱきと夜霧の髪を纏める――小糸が手を離すと肩の前で長いお下げが静かに波打った。

「うーん」

 見ていた綾香が唸る。

「前髪が長すぎて、切った後のイメージがあんまり沸かない……」

 それを聞いた小糸は首を傾げながら、鏡に映る夜霧をじっと見つめる。
 そして、思案顔のまま口を開いた。

「ちょっと、前失礼しますね」

 言って、小糸は夜霧の前髪を指で分ける。
 鏡越しに、小糸と夜霧の目が合う。
 
「わあ、夜霧ちゃん、まつ毛長ーい」
「あ、あの、えっと……」

 夜霧は言葉に詰まり、目を泳がせている。その頬がだんだん赤くなっていく。

「どうですか? 綾香ぽん。私は前髪切ればいい感じだと思うんですけど……」
「そうだねっ、前髪ちゃんと切れば、暗さが無くなって優しそうな雰囲気になると思う!」
「だよねだよねっ、長いお下げって子供のお世話をするお姉さんって感じでいいですよねっ」 
「っていうか、きりちゃんやっぱりちょーかわいいよねっ! 前髪で顔隠してるのもったいないっていつも思ってたもんっ」
「これは今回の趣旨にもあってると思いますし、第一候補ですね! 夜霧ちゃんはどう思いますか?」
「あの、えっと……」

 普段褒められ慣れていない夜霧の頬は上手く返事ができない。顔は湯気が出そうなほど真っ赤だ。
 それを見た綾香が仕切り直すように言い放つ。
「まあ、他の髪型も試してから決めよっ!」
「そうですね。次はどんな髪型にしましょうか?」
「長い黒髪が映えるツインテ―ル!」
「りょーかい!」

 綾香の無駄にテンションが高いリクエストに返事をして、小糸は夜霧の髪を一度元に戻す。
 そして、頭の高い位置で両サイドを二つ縛りしていく。

「じゃーん! できましたー!」
「おおーっ! これなら全体の長さは変えなくても、前髪切るだけでいけるねっ! きりちゃんっぽくないけどっ」
「私っぽくない……」

 綾香の言葉を聞いて、夜霧が肩を落とす。

「ああ、綾香ぽんの余計な一言で夜霧ちゃんがショック受けてます……」
「いや、ぽくないだけで、似合ってはいるんだよっ」

 手のひらをわちゃわちゃさせ、慌ててフォローする綾香。
 それを見て、夜霧がくすりと微笑み口を開いた。

「綾香が良くも悪くも素直なのはわかってるから……」

 言って、夜霧はツインテ―ルを自ら解いた。

「小糸ちゃん、次お願いします……」

 鏡越しに背後の小糸と視線を合わせる夜霧。その表情は柔らかいものだった。

「はい! 次はどうしましょうか?」
「長い黒髪が映えるポニーテール!」

 小糸が元気よく訊くと、横から、それに負けないくらい元気な返事が返ってきた。

「さっきと似た方向じゃないですか!」
「せっかくだから見てみたくて……」

 綾香が言い訳しながら自分の髪を撫でる。
 それを見て、夜霧が息を一つ吐き出した。

「……好きにして」

 それを受けて、小糸は純白のシュシュを取り出した。そして、夜霧の髪形をシュシュっと纏め上げた。

 そして夜霧の髪を一度元に戻し、それからシュシュっと纏め上げた。

「じゃーん! 活発な感じになりました!」
「おおっ! もしもきりちゃんが運動部だったらっていう感じ」
「……要するにまた私っぽくないってこと?」

 夜霧が少し拗ねたように訊く。

「んー、ツインテ―ルは無理してイメチェンしましたって感じだけど、ポニーテールは頑張ってイメチェンしましたって感じかな」
「……それってどう違うの?」

 夜霧の問いに、小糸が首を傾げつつ答える。

「初々しくてかわいいってことですね」
「そういうことっ」

 小糸と綾香が目を合わせて頷き合う。
 夜霧はまた照れて俯いた。

「時間もなくなってきましたし、次が最後ですかね?」
「そうだね。どうする?」
「候補に挙がってたお団子にしましょうか」
「一つにする? 二つにする?」
「うーん、一つの方がいいんじゃないでしょうか? 二つだと萌え萌えしくなりそうなので」
「よし、それでいこう!」

 綾香と小糸が二人で相談して決める。
 小糸が結んだ夜霧の髪を二つに分けてより合わせていく――そして、纏まった髪をピンで固定して仕上げる。

「じゃーん! おしとやかな感じに仕上がりました!」
「おおっ! きりちゃんって感じ!! 似合ってる!!!」
「これはお下げに並びましたね。どちらにしましょうか?」

 小糸が夜霧に問いかける。
 夜霧は鏡の中の自分を見つめ、困ったように眉を寄せた。

「え、えっと……どっちだろう……?」
「わたしはお下げがいいと思うなー。子どもたちの相手をするお姉ちゃんって感じ」

 綾香の言葉に小糸が頷く。

「確かにそうですねー。お団子はデートのときの特別仕様にするといいと思います!」
「ででで、デート……」

 自分とは縁がない単語がでてきて困惑した夜霧は、誰にも聞こえないほどの小さな呟きを漏らした。

「そういうわけで、今回はお下げの方がいいと思うんですけど、どうですか? 夜霧ちゃん?」
「うん。お下げにする……二人とも、ありがとう」

 夜霧が綾香と小糸に向かってはにかみながらお礼を言う。
 それを見て、二人は満足げに笑い返した。
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