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第二章 その一歩は何をもたらす
曙さんはお掃除ができる素敵な女性です! ③
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「お、終わった……」
大仕事だった……曙さんの部屋の掃除。
曙さんのおやつタイムからさらに三十分、合計一時間かけた今。
床にゴミや衣類が散らばることはなく、机の上下問わず書類が散らばっていることもなく。
部屋は見違えるように綺麗になった。
「いやあ、見違えましたね。ええ。気持ちいいっす。管理人さん、ありがとうございました」
曙さんがすっきりした表情で――目の下のクマは相変わらずだが――お礼を言ってくる。
感謝され、苦労が報われる。
けれど、一時間前の惨状を思い出し、僕は心を鬼にする。
言うべきことはしっかり言わねばならない。
惨劇を繰り返してはならないのだ。
「洗濯物はきちんと畳んでしまう、空になった缶やペットボトルはきちんとゴミに出す、必要なメモはファイルにまとめてそれ以外は処分。必要な書類はもちろんしっかりと整理! これからは徹底してください」
「っす」
「曙さん? なんで目そらしてるんですか?」
「や、あの……ボク、できない約束はしない主義でしで……」
曖昧な口調。
彼女は視線を彷徨わせている。
「できない約束はしないのなら、適当な誤魔化しも言わないでください! 『ボクは管理人さんと同い年の22歳。つまり、いい大人なんで。自分の事くらい自分でできますよ』そう言ったのは曙さんじゃないですか!!」
「うっ」
強めの口調で言ったせいだろう、肩をしゅんとさせる曙さん。
洗濯物を畳んでいるときに大人に見えたのはなんだったのか、今はまるっきり叱られている子供だ。
僕は説教慣れしていないので、なんだか気の毒になってしまった。
一つ息を吸って、穏やかな口調になるよう意識する。
「……もし適当なことを言ってしまったのならば、それが適当ではなくなるように努めてください」
「急に甘くなった……逆に怖い」
なんでやねん!
心の中でツッコみながらも、柔らかい笑みを浮かべて次の言葉を紡いだ。
「曙さんは掃除ができる素敵な女性ですよね?」
「ひっ!」
曙さんは肩をびくっとさせ、表情をこわばらせた。
そして震える声で復唱する。
「曙さんは掃除ができる素敵な女性です……」
これから曙さんが有言実行の生活を送るかどうかはわからない。
けれど、彼女は心を入れ替えたと信じ、この場はこれで終わりにしよう。
大仕事だった……曙さんの部屋の掃除。
曙さんのおやつタイムからさらに三十分、合計一時間かけた今。
床にゴミや衣類が散らばることはなく、机の上下問わず書類が散らばっていることもなく。
部屋は見違えるように綺麗になった。
「いやあ、見違えましたね。ええ。気持ちいいっす。管理人さん、ありがとうございました」
曙さんがすっきりした表情で――目の下のクマは相変わらずだが――お礼を言ってくる。
感謝され、苦労が報われる。
けれど、一時間前の惨状を思い出し、僕は心を鬼にする。
言うべきことはしっかり言わねばならない。
惨劇を繰り返してはならないのだ。
「洗濯物はきちんと畳んでしまう、空になった缶やペットボトルはきちんとゴミに出す、必要なメモはファイルにまとめてそれ以外は処分。必要な書類はもちろんしっかりと整理! これからは徹底してください」
「っす」
「曙さん? なんで目そらしてるんですか?」
「や、あの……ボク、できない約束はしない主義でしで……」
曖昧な口調。
彼女は視線を彷徨わせている。
「できない約束はしないのなら、適当な誤魔化しも言わないでください! 『ボクは管理人さんと同い年の22歳。つまり、いい大人なんで。自分の事くらい自分でできますよ』そう言ったのは曙さんじゃないですか!!」
「うっ」
強めの口調で言ったせいだろう、肩をしゅんとさせる曙さん。
洗濯物を畳んでいるときに大人に見えたのはなんだったのか、今はまるっきり叱られている子供だ。
僕は説教慣れしていないので、なんだか気の毒になってしまった。
一つ息を吸って、穏やかな口調になるよう意識する。
「……もし適当なことを言ってしまったのならば、それが適当ではなくなるように努めてください」
「急に甘くなった……逆に怖い」
なんでやねん!
心の中でツッコみながらも、柔らかい笑みを浮かべて次の言葉を紡いだ。
「曙さんは掃除ができる素敵な女性ですよね?」
「ひっ!」
曙さんは肩をびくっとさせ、表情をこわばらせた。
そして震える声で復唱する。
「曙さんは掃除ができる素敵な女性です……」
これから曙さんが有言実行の生活を送るかどうかはわからない。
けれど、彼女は心を入れ替えたと信じ、この場はこれで終わりにしよう。
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