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第二章 その一歩は何をもたらす

曙さんはお掃除ができる素敵な女性です!

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 遊さんがアルバイトを始めてから数日、僕の仕事は少しだけ変わった。

 遊さんが自主的に行っていた曙さんのお世話係。
 その仕事が僕の元に回ってきたのだ。

「や、必要無いっすよ、お世話係なんて」

 最初、曙さん自身は起伏の少ない語り口で断った。

「ボクは管理人さんと同い年の22歳。つまり、いい大人なんで。自分の事くらい自分でできますよ」

 遊ちゃんがメイドになりたいと気紛れで言い出したからお願いしただけ。

 そう付け加え、彼女は薄く微笑む。
 ローテンションスマイル。
 そこには大人の余裕が滲んでいた。

 その笑みに信頼を覚え、曙さんのことは彼女自身に任せることにした。

 しかし、その判断は誤りだった。

 そう気付いたのは三日後のこと。

「あたし、マカロン食べたい!」

 それは依乃さんのリクエスト。

 それに応えて、僕はマカロンを準備した。

 みんなを食堂に呼んで三時のおやつとしてそれを振る舞う。

 三時になる数分前。僕は皆を呼びに行った。

 まずは二階。星寧の部屋へ向かう。
 ノックと共に声をかけると、すぐに星寧が出てきた。

「管理人さん? どうなさいましたか?」

 星寧が落ち着いた物腰で問うてくる。
 同時に、彼女の後方から銀髪の少女が顔を出した。
 依乃さんだ。大きなウサギのぬいぐるみを抱きかかえている。

 彼女が微笑んできたので、僕も笑みを返し、口を開く。

「えっと、食堂にマ――」
「マカロン⁉ やったー!」

 歓喜する依乃さん。ブルーの瞳をこれ以上ないくらい輝かせている。
 ……や、まだ言ってないんだけど。

「――カロンを準備しました。おやつにしましょう」

 僕の言葉に星寧が頷く。

「呼びに来てくださりありがとうございます」
「星寧、依乃さんと食堂に行ってて。僕は曙さんに声をかけてくる」

 しっかり者の星寧に依乃さんを任せ部屋を出る。
 そして三階、曙さんの部屋へ。
 扉をノックし、声を掛ける。

「曙さん、マカロンがあるんですけどみんなで食べませんか?」

 すぐに返事が返ってくる。

「ボクはいいっす。今、手が離せないんで」

 普段ローテンションの曙さん。彼女の返事はぼそぼそとした声だったが、何とか聞き取れた。

「そうですか。わかりました」

 扉越しのやりとりを終え、食堂へと戻る。

「曙さん、忙しいようです」

 戻ってすぐ、星寧と依乃さんにそう伝える。

「多忙ですものね、優玲さん」

 星寧が口にした通り、曙さんは忙しい人のようだ。
 いつも何かの実験や研究をしている、と星寧や遊さんから聞いているし、僕が知る限り、ほとんど部屋から出ていない。
 
「マカロン、曙さんに届けてきます。残りは二人で召し上がってください」

 言いながら、曙さんの分をとりわける。
 マカロンを乗せた皿とティーカップをお盆に乗せ、食堂を出た。

 そして再び彼女の部屋へ。

「曙さん、マカロンをお持ちしました」

 扉越しに声をかける。

 数秒して部屋のドアが少し開き、小柄な白衣女子が顔を出す。
 曙さん、目の下のクマがすごいな……。かわいい顔だからか余計に目立つ。

「わざわざ持ってきて下さったんすね、ありがとうございます」

 曙さんがローテンションながらも律儀にお礼を言う。
 そして、お盆を受け取るために彼女はドアを大きく開けた。

 その瞬間。室内の光景に、僕は目を疑った。

 僕が初めてこの部屋を訪れた時、床のところどころに本タワーが出来上がっていた。
 
 現在の曙さんの部屋はその時の比にならない。

 脱ぎ散らかした衣類、空のペットボトルや空き缶、何かのメモが書かれた用紙、謎の袋などなど、様々なものが散らかし放題だった。

「……曙さん、これはいったい!?」
「これ……とは?」

 曙さんは小さく首をかしげる。

「この部屋のことです! こんなに散らかして!」
「平気っすよ。このくらいなら許容できるので」
「平気じゃないですよ! 掃除! 今から掃除です!!」
「や、今からマカロン……」
「食堂でどうぞ。とにかく、掃除しちゃいますからね」
「ひゃい……」

 曙さんを押し切って、僕は彼女の部屋の掃除を開始した。

 

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