リナ・セレネーレの物語

桜井あこ

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一年生

入学式

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「リナー、そろそろでるわよー」
「はーい!」
今日は学校の入学式。
すっかり空っぽになった自分の部屋を見て、私は荷物を抱え直した。
お母さんが承認の仕事で使う馬車に荷物を積み込む。
ひとつの本を片手に、私は馬車の中に乗った。
これは昨日お母さんに呼ばれたときにもらった本だ。


『リナ』
『なにーお母さん。荷造りならあとちょっとーー』
『休憩がてらこっちに来てくれない?』
『わかった、一段落したら行くー』

荷造りの手を休め、私はお母さんのところに行った。
椅子に座っている母の手には、茶色い表紙の本が握られていた。

『それなに?』
『これはねぇ、私が小さいときにお母さん、あなたのおばあちゃんからもらった呪文の書』
『ふーん』
『この村じゃ使えないけど、学校で役に立つ』
『え。くれるの?』

おばあちゃんからもらったやつなのに。
そう言うと、お母さんは少し微笑んだ。

『お母さんね、リナの将来にたくさん口出ししちゃったと思ったの。私がお母さんに言われてたことは、〝よく寝て〟〝よく食べて〟〝よく動く〟それだけだったの。リナのことはリナで決める。私の第二の人生じゃないって今頃気づいたの。遅いわよね』
『お母さん・・・・・・』
『あそこならリナのなりたいもの、目標が絶対見つかるわ。保証する』

お母さんが私の手に本を乗せる。

『私は自分の物語がちゃんとある。今度は、あなたの物語を作っておいで』

お母さんの目はまっすぐだった。

『うん、頑張る!』


私は握り拳を作り、誓ったのだ。
将来子供や友人に語れるような、他の誰でもない私だけの物語じんせいを歩くって。

「リナ、しっかりやりなさいね」
「わかってまーす」
「ふふふ。じゃあ、いってらっしゃい」

お母さんが〝行け〟と合図するように馬の頭をポンと叩く。
すると馬はヒヒーンと高くいななき、空を駆け上がった。

「いってきまーす!」

どんどん小さくなるお母さん。
馬車が安定したところで窓から外を覗く。
入学式に向かって親の使い魔で送ってもらったり同じく馬車で飛んでいたり。いつもはない光景に、いよいよだ。と体が熱くなった。
これからどんな日々が待ち受けているのだろう。私のなりたいもの、見つかるかな。
緊張半分、ワクワク半分。って感じだ。


○○○○○○○○○○


『それでは、セビラ魔法学校入学式を始めます』

校長先生が舞台に立つ。
私たち新入生は、大講堂と呼ばれるところにクラス順にズラリと座っていた。
名前順で、私の右隣にはこの国の王子様が座っていたからめちゃくちゃ緊張する。
王子の名前は知らないけれど、黒髪黒目が綺麗だった。
私の周辺にいるほとんどの子は貴族っぽいなーっていう格好で、キラキラして見える。

『新入生代表挨拶。ガイル・アイリス・セビラ』
「はい」

お、代表挨拶は王子なんだ。名前はガイル。王子っぽい。
年齢の割に大人っぽい声で返事をし、ピシッと背筋を伸ばして席を立つ王子。同い年とは思えない。すごい。
そして舞台の横にある階段をのぼり、教卓が置いてある中心まで歩き、校長先生と向き合う。
胸から紙を取りだして広げ、王子が代表挨拶をした。

『暖かい春の風が私たちを包む中ーー』

声を大きくする声帯機に王子の声が反響し、大講堂の壁に反響する。
正直、内容なんて全く頭に入らなかった。
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