変わり者なβ

ハリネズミ

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運命に乾杯

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追って来るはずもないのに図書室から少しだけ離れた場所で立ち止まる。
きっとまた数日もしたらバツが悪そうにしながらも現れるに違いない。
そうして謝っていつも通り。何もなかった事に―――。
αとβなんてそんなものだ。それが普通だ。

ぽろりと涙が零れた。


僕はあの時期待していた。
すぐに僕の手を取って「いいよ」って言ってくれる事を。

毎日のように僕に会いに来てくれた日向。
僕の事を笑わせようといつも楽しい話をしてくれた日向。
見た目はチャラいのに本当は真面目で優しい日向。

だから期待してしまったんだ。

αとΩにとって番は絶対だ。βの僕が番にしてだなんて、茶化したと思われても仕方がなかった。
だから……嫌がらせでキスされても自業自得なんだ…。

なのに、また選ばれなかった自分が悲しくて、心が痛くていたくて仕方がない。
友人としてでもβの僕にとっては充分だったはずだった。
だけど、僕はそれじゃ嫌だったから。あのαが…いや、日向の事が欲しかった。僕だけの物にしたかった。日向だけの物になりたかった。


流れ続ける涙を袖口で無造作に拭っていると、突然腕を掴まれた。
日向が怒ったような顔で僕の腕を掴んでいた。

「擦るな。赤くなる。どうしていつも篤は逃げるんだ。一体何から逃げてる?」

「―――僕は……」

そうか。僕は逃げているんだ。Ωだった自分からもβである自分からも。
目の前のαからも。

「さっきは―――番にはなれないけどパートナーになろうって言いたかったんだ。篤はこの世界の仕組みに取り込まれたいのか?それとも幸せになりたい?幸せになりたいのなら俺の手を取るんだ。αだとかβだとか関係ない。篤という存在を俺は愛してる。この手を取ってくれたら俺は篤しか見ないし、篤を必ず幸せにしてやる」

力強い瞳が僕の事を見ている。
日向なら絶対に実行してくれる。そんな確信を持てた。

だけど、僕はゆっくりと首を左右に振った。

「僕をじゃなくて、僕は二人で幸せになりたい。だから………僕と幸せになりませんか?」

すっと手を差し出す。
何度も掴まれなかったこの手を今度はすぐにぎゅっと力強く掴まれた。

温かい涙が頬を伝う。
僕の僕だけの人。

ぎゅっと抱きしめられて、自分はこの時のためにこの世界に生まれ変わったんだと思った。
世界を渡ってまでもこの人に会いたかったんだと。

「篤はやっぱり恰好いいな。真面目で頑張り屋で、恰好いい。そんなところも大好きなんだ。二人で幸せになろう」

そう言ってあんまり幸せそうに優しく笑うから、僕は泣きながら何度も何度も頷く事しかできなかったんだ。


日向はαで、僕はβだ。本当なら惹かれ合うはずもない性。だけど僕たちはお互い以外いらないって思えた。
前世では運命によって引き裂かれたけど、それもこれも全てがここに繋がっていたというなら、僕は運命を受け入れる。


この日、僕は『変わり者のβ』から『寿日向を愛し、寿日向に愛される嶋田篤』になった。



-終-
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