4 / 4
運命に乾杯
しおりを挟む
追って来るはずもないのに図書室から少しだけ離れた場所で立ち止まる。
きっとまた数日もしたらバツが悪そうにしながらも現れるに違いない。
そうして謝っていつも通り。何もなかった事に―――。
αとβなんてそんなものだ。それが普通だ。
ぽろりと涙が零れた。
僕はあの時期待していた。
すぐに僕の手を取って「いいよ」って言ってくれる事を。
毎日のように僕に会いに来てくれた日向。
僕の事を笑わせようといつも楽しい話をしてくれた日向。
見た目はチャラいのに本当は真面目で優しい日向。
だから期待してしまったんだ。
αとΩにとって番は絶対だ。βの僕が番にしてだなんて、茶化したと思われても仕方がなかった。
だから……嫌がらせでキスされても自業自得なんだ…。
なのに、また選ばれなかった自分が悲しくて、心が痛くていたくて仕方がない。
友人としてでもβの僕にとっては充分だったはずだった。
だけど、僕はそれじゃ嫌だったから。あのαが…いや、日向の事が欲しかった。僕だけの物にしたかった。日向だけの物になりたかった。
流れ続ける涙を袖口で無造作に拭っていると、突然腕を掴まれた。
日向が怒ったような顔で僕の腕を掴んでいた。
「擦るな。赤くなる。どうしていつも篤は逃げるんだ。一体何から逃げてる?」
「―――僕は……」
そうか。僕は逃げているんだ。Ωだった自分からもβである自分からも。
目の前のαからも。
「さっきは―――番にはなれないけどパートナーになろうって言いたかったんだ。篤はこの世界の仕組みに取り込まれたいのか?それとも幸せになりたい?幸せになりたいのなら俺の手を取るんだ。αだとかβだとか関係ない。篤という存在を俺は愛してる。この手を取ってくれたら俺は篤しか見ないし、篤を必ず幸せにしてやる」
力強い瞳が僕の事を見ている。
日向なら絶対に実行してくれる。そんな確信を持てた。
だけど、僕はゆっくりと首を左右に振った。
「僕をじゃなくて、僕は二人で幸せになりたい。だから………僕と幸せになりませんか?」
すっと手を差し出す。
何度も掴まれなかったこの手を今度はすぐにぎゅっと力強く掴まれた。
温かい涙が頬を伝う。
僕の僕だけの人。
ぎゅっと抱きしめられて、自分はこの時のためにこの世界に生まれ変わったんだと思った。
世界を渡ってまでもこの人に会いたかったんだと。
「篤はやっぱり恰好いいな。真面目で頑張り屋で、恰好いい。そんなところも大好きなんだ。二人で幸せになろう」
そう言ってあんまり幸せそうに優しく笑うから、僕は泣きながら何度も何度も頷く事しかできなかったんだ。
日向はαで、僕はβだ。本当なら惹かれ合うはずもない性。だけど僕たちはお互い以外いらないって思えた。
前世では運命によって引き裂かれたけど、それもこれも全てがここに繋がっていたというなら、僕は運命を受け入れる。
この日、僕は『変わり者のβ』から『寿日向を愛し、寿日向に愛される嶋田篤』になった。
-終-
きっとまた数日もしたらバツが悪そうにしながらも現れるに違いない。
そうして謝っていつも通り。何もなかった事に―――。
αとβなんてそんなものだ。それが普通だ。
ぽろりと涙が零れた。
僕はあの時期待していた。
すぐに僕の手を取って「いいよ」って言ってくれる事を。
毎日のように僕に会いに来てくれた日向。
僕の事を笑わせようといつも楽しい話をしてくれた日向。
見た目はチャラいのに本当は真面目で優しい日向。
だから期待してしまったんだ。
αとΩにとって番は絶対だ。βの僕が番にしてだなんて、茶化したと思われても仕方がなかった。
だから……嫌がらせでキスされても自業自得なんだ…。
なのに、また選ばれなかった自分が悲しくて、心が痛くていたくて仕方がない。
友人としてでもβの僕にとっては充分だったはずだった。
だけど、僕はそれじゃ嫌だったから。あのαが…いや、日向の事が欲しかった。僕だけの物にしたかった。日向だけの物になりたかった。
流れ続ける涙を袖口で無造作に拭っていると、突然腕を掴まれた。
日向が怒ったような顔で僕の腕を掴んでいた。
「擦るな。赤くなる。どうしていつも篤は逃げるんだ。一体何から逃げてる?」
「―――僕は……」
そうか。僕は逃げているんだ。Ωだった自分からもβである自分からも。
目の前のαからも。
「さっきは―――番にはなれないけどパートナーになろうって言いたかったんだ。篤はこの世界の仕組みに取り込まれたいのか?それとも幸せになりたい?幸せになりたいのなら俺の手を取るんだ。αだとかβだとか関係ない。篤という存在を俺は愛してる。この手を取ってくれたら俺は篤しか見ないし、篤を必ず幸せにしてやる」
力強い瞳が僕の事を見ている。
日向なら絶対に実行してくれる。そんな確信を持てた。
だけど、僕はゆっくりと首を左右に振った。
「僕をじゃなくて、僕は二人で幸せになりたい。だから………僕と幸せになりませんか?」
すっと手を差し出す。
何度も掴まれなかったこの手を今度はすぐにぎゅっと力強く掴まれた。
温かい涙が頬を伝う。
僕の僕だけの人。
ぎゅっと抱きしめられて、自分はこの時のためにこの世界に生まれ変わったんだと思った。
世界を渡ってまでもこの人に会いたかったんだと。
「篤はやっぱり恰好いいな。真面目で頑張り屋で、恰好いい。そんなところも大好きなんだ。二人で幸せになろう」
そう言ってあんまり幸せそうに優しく笑うから、僕は泣きながら何度も何度も頷く事しかできなかったんだ。
日向はαで、僕はβだ。本当なら惹かれ合うはずもない性。だけど僕たちはお互い以外いらないって思えた。
前世では運命によって引き裂かれたけど、それもこれも全てがここに繋がっていたというなら、僕は運命を受け入れる。
この日、僕は『変わり者のβ』から『寿日向を愛し、寿日向に愛される嶋田篤』になった。
-終-
0
お気に入りに追加
14
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ご機嫌なα
ハリネズミ
BL
『迷惑なΩ』『変わり者なβ』の世界観と同じです。
『ご機嫌なα』である芦崎。
芦崎はαであるのに他のαが必死に番候補にアピールする中、そこまで必死になる事ができなかった。
狙っていたΩしぐれに対してもそこまでの執着が沸かなかったし、しぐれが他のαを選んだと聞いても別に辛くも悲しくもなかった。
そんな芦崎にも気になる相手ができたが、相手はβだ。
自分に初めて芽生えた気持ちに戸惑う。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
花に酔う
ハリネズミ
BL
二次性も分からないまま突然起こったヒートによって番関係になってしまう二人。
誤解によって歪められてしまった二人の関係はどうなるのか…?
視点未来はM、静流はSで表記しています。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる