変わり者なβ

ハリネズミ

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番にして

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「――なぁ、名前を教えてくれないか?」

チャラ男だ。
あれから三日間来なかったからもう来ないと思ったのに、またふらりと現れた。
知り合って一月程が経つ。初めて名前を訊かれた。あの子にも最後まで名乗る事がなかった名前。

嶋田篤しまだあつし

「え…?」

キョトンとした顔をする。まるで僕が名乗った事がおかしいとでも言うように。
少しだけイラッとした。

「訊かれたから答えたんですけど?僕の名前」

「あ、ああ!篤か、俺の名前は寿日向ことぶきひなた。ひなたでもひなでも何でも好きなように呼んで?」

名前までおめでたく明るい。
急に元気にしゃべりだすチャラ…日向。日向の後ろにブンブンと振られる大きな尻尾が見えるようだ。何がそんなに嬉しいんだか…。

「あのさ、こないだは本当ごめんな。別に委…篤の事バカにしたわけじゃなかったんだ。篤いつも勉強頑張ってるし偉いなぁって思ってた。こないだはなんか元気なかったから笑わせようと思って……本当ごめん」

深々と頭を下げる日向。

「もう…いいです。僕も言い過ぎました。ごめんなさい…」

「俺が悪いんだし、篤は謝らなくていい。あ、そうだお詫びに一個だけ篤の言う事訊くから何でも言ってくれ」

「………」

何でも…。そんな事簡単に口に出すもんじゃない。

「―――番に…して」

だから僕みたいなやつからこんな事を言われるんだ。

日向は心底びっくりしたという顔をした。
そりゃそうだ。僕はβだ。どう頑張ってみても番になれるわけなんかない。
僕だって分かってる。
そうじゃなくて、僕はただ僕の手を取って欲しかった。
僕だけの相手が欲しかった。

誰かを愛したい。
誰かに愛されたい。
それがいつしか日向を愛したい。
日向に愛されたいに変わっていた。


「――――あのさ……流石に番う事はできない…け―――ど」

「冗談ですよ。βの僕がαのあなたと番になれるなんて本気で思っていませんよ。だから気にしないで―――くだ…」

最後までは訊きたくなくて被せるように僕は言った。
だけど、最後まで言い終わる事は出来なかった。なぜなら僕の口は塞がれてしまったから。
日向にキスされたのだ。

びっくりして言葉も出ない。
―――なん、で…キス……?

僕はそのまま僕を抱きしめる日向の腕を振り払い走り出していた。

仕返しだとしたら…あまりにもひどい……。

「―――篤っ!」
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