変わり者なβ

ハリネズミ

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僕は何者にもなれない

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僕は前世では別の世界のΩだった。

その世界はこことは違いΩは表面上は人権も認められていたが、実際は酷いものだった。
αに酷い目に合わされたΩを沢山知っている。
それでもαに愛されれば守ってもらえた。
僕は運がいい事に早い時期に愛するαと出会えた。
だから他のΩのように酷い目に合わずに済んだ。

僕はそのαの事を愛していた。αも僕の事を愛してくれていた。
僕たちは幸せだった。その幸せはずっと続くと信じて疑わなかった。
だけど、番になってすぐの僕たちの前に運命の相手が現れてしまった。
僕にじゃない。愛を誓いあったはずのαの運命の相手だ。
しかも運命の相手がαだって言うんだから笑える。
あの世界でもαの相手はΩだけだったはずだった。
なのに僕の愛したαの運命の相手はαだったんだ。
呆然と立ち尽くし、去って行く背中に待ってと手を伸ばしたけれど掴まれる事はなくて、二人は互いの手を取り合い一度も後ろを振り返る事はなかった。


僕はαにαを盗られたΩとして生涯笑い者にされながら生きた。
番になったにも関わらず捨てられたΩ。
誰にも愛されないΩ。
それは悲惨なものだった。
存在を軽んじられ踏みにじられた。


辛く悲しい短い生を終えた。



*****
そして、気がつくとこの世界にβとして転生していた。
αにもΩにも影響を受けないβ。運命だとか番だとか無関係なβ。
ただ相手を愛しいと思えるかどうか。いたってシンプルだ。
前世の経験から一番望んでいたはずだったのにどうもしっくりとこない。


僕がたとえαであったとしてもあの子の愛は得られなかった。
では僕がΩであったなら―――チャラ男あの男に求めて貰えた?

ゆっくりと首を左右に振る。

そうじゃない。αだったらとかΩだったらとかありもしない事を考えてみても意味がないんだ。

何で僕はβなのにこの世界のβのようにもっとお気楽に生きられないんだろう。お気楽なフリをしてみても、それはただのフリでしかなくて、いつまでもΩだった頃の自分に引きずられている。

こんなのは嫌なのに、もっと楽しく生きたいのに…。

αでもΩでも――βにもなれない僕はどうやって生きれば正解なのか分からなくなっていた。

僕はただ僕自身を誰かに見て欲しかった。

僕は誰かを愛したかった。
僕は誰かに愛されたかった。
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