1LDKの恋

ハリネズミ

文字の大きさ
上 下
3 / 9

3 愛しい愛しい花のような人と出会った ① @大輔

しおりを挟む
 入学式でオレは壇上に美しい人をみつけた。

 その人はオレが入学したばかりの高校の化学のセンセーで、名前を宮古硯さんっていった。名前まで綺麗だなんて、なんか反則だ。
 オレは芸能人には疎くて知らなかったんだけど、傍にいたヤツらがなんとかっていう女優に似てるって騒いでた。
 後でスマホで調べてみたら、ちっとも似てなんかいなかった。
 センセーの方が断然可愛くて綺麗だ。

 それから何人かがセンセーに告白すると言うから、オレも負けてなんかいられない、と道端に咲く花を摘んでセンセーに会いに行った。その花は名前も知らないけれどなんだかセンセーのように可憐な花だったから、絶対センセーにプレゼントしたいと思ったんだ。
センセーは大人だし慣れているのか誰の事も相手にしていないようだった。
なかなかの塩対応に他のヤツらは次々と脱落していって、身近なヤツと付き合い始めた。オレは絶対センセーと付き合いたいから、断られても諦めきれずに毎日センセーの元に通った。

 丁度通い始めて一ヶ月が過ぎた頃、センセーが言ったんだ。

「返答によっては付き合ってやってもいいけど。――何でもするって言っても、キミは一体何をしてくれるの?」

 オレは、

「沢山の愛をあげる」

 そう答えた。そのひと言につきると思ったからだ。
 センセーの為ならなんだってできると思った。
 毎日会いに来るだとか、好きって伝えるだとか、どうやっても年齢は追いつく事はできないけどセンセーに相応しい男になるように頑張るだとか、全部あなたへの愛だから。だから沢山の愛をあげる。

 センセーはオレの答えを聞いて一瞬だけ眉間に皺を寄せたけど、いくつかの条件つきで付き合ってくれる事になった。
 天にも昇る心地だった。

 それからオレは今までと同じように毎日センセーの元に通った。
 違うのは時々センセーがオレの頭を撫でて・・・くれたり、オレの話を嫌な顔をせずちゃんと聞いてくれる事。
 ツンとデレが8:2くらいだったけど、デレてくれたら本当にすごく嬉しかった。勿論ツンなセンセーの事も大好きだ。
 そんな感じで『甘い』とは言えないけどオレたちの付き合いは順調に続いていた。

 それが、オレが二年生になって数日が過ぎた頃、二年になって同じクラスになったヤツが言ったんだ。

「なぁ、宮古ちゃんと付き合ってるんだろう? アッチ・・・の方はどうなんだ? やっぱ具合いいの?」

 ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながらオレの事を見る。

「アッチ? 具合?」

 オレは何の事を言っているのか本当に全く分からなかったので聞き返すと、そいつは呆れたような顔をして続けた。

「アッチって言ったらアッチだろ。セックス。そりゃあもう年上だしバンバンじゃねーの? 俺の兄ちゃんもここの卒業生なんだけどさ、こないだ電話した時聞いたんだ。宮古ちゃんって昔兄ちゃんの先輩と付き合ってたんだって。それでもう毎日ヤリまくりだったらしいぜ? あんな清楚な感じなのにとんだビッチだよな」

 センセーに彼氏がいた事につきんと胸が痛んだ。
 あんなに素敵なんだからいない方がおかしいんだ……。分かってはいたけどおもしろくはない。
 でも、なんでセンセーのそんな話が出てくるんだ? ビッチ?
 好き合ってて付き合ってたんじゃないの……? それなのにビッチって……。
 別れ方に何か――?

「――センセーって何で別れたの……?」

「は? 何でって当たり前だろ? ここ卒業しちゃえば女の子が沢山いるんだぜ? いくら綺麗だからって男相手に続くもんか。兄ちゃんの先輩もよく自慢話してたみたいだけど、卒業の日に別れようって言った時、宮古ちゃん引きとめもしなかったし平気な顔してたって。だから宮古ちゃんの方も遊びだったんだろうって。お前も卒業ん時、すんなり別れられそうで良かっ……た……」

 バキっ!! とオレの手の中にあったペンがものすごい音を立てて折れた。

「……な――――? え? え? え? ……」

 ――そんなわけない。
 一年間傍でセンセーの事を見続けてきたから分かる。
 センセーは傷つきやすく繊細だ。
 多分その先輩の事をすごく好きだったんだ。
 だからそいつと別れてから誰とも付き合ってこなかった。
 オレがしつこくしたから、同情で付き合ってくれたんだ。
 センセ、オレ本当にあなたの事が好きだよ。
 あなたの苦しみ、悲しみ――まるごと全部愛したい。

「センセーとはキスもした事ない。センセーはすごく純粋な人だ。その先輩ってヤツがクズだっただけだ。お前の兄貴に間違った事言うなって言っといて」

 ギロリと睨みそう言うと、「あ、ああ……」とだけ言ってそそくさと逃げるようにオレの傍から離れた。

 付き合っていた相手にそんな事を言われてしまったセンセーの気持ちを考えると、悔しくて苦しくてどうしようもなく悲しかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

愛しているかもしれない 傷心富豪アルファ×ずぶ濡れ家出オメガ ~君の心に降る雨も、いつかは必ず上がる~

大波小波
BL
 第二性がアルファの平 雅貴(たいら まさき)は、30代の若さで名門・平家の当主だ。  ある日、車で移動中に、雨の中ずぶ濡れでうずくまっている少年を拾う。  白沢 藍(しらさわ あい)と名乗るオメガの少年は、やつれてみすぼらしい。  雅貴は藍を屋敷に招き、健康を取り戻すまで滞在するよう勧める。  藍は雅貴をミステリアスと感じ、雅貴は藍を訳ありと思う。  心に深い傷を負った雅貴と、悲惨な身の上の藍。  少しずつ距離を縮めていく、二人の生活が始まる……。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

好きな男が他の女と結婚する

和泉奏
BL
俺達は、ずっと友達で、同級生で、…男同士で、 だから…「好き」だなんて感情、言葉にできるはずもなかった。 社会人×社会人

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

処理中です...