恋むすび

ハリネズミ

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2 ①

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 昼休みもPCに向いデータを目で追いながら、今朝買ってきたおにぎりを片手でぱくつく。
 『乙女さん家』のおにぎりは冷たくなっていても、どこかぬくもりのようなものが感じられた。
 量もちょうどいいし具も種類があっていい。拘りのない俺でも具を選ぶのがちょっとだけ楽しくて、三食ともあの店のめしにしたいと思うくらい気に入っていた。
 朝の忙しい時間だから長話はした事はないけど、弁当屋のおばあさんはいつも笑顔で、初めて会った日から気安い様子だ。実の祖父母に会った事はないけど、本当のおばあさんのように思っている。

 名前を八坂 乙女やさか おとめさんといって、色々な事を話しても「おにぎりひとつで足りるの? もっと食べなさい」なんて事は言わない。
 それは俺に関心がないのではなく、何かを察してくれているのだろう。そういう押しつけがましくないところが気に入っているのかもしれない。
 年齢は流石に聞いていないが物腰の柔らかなホッと息を吐けるような女性で、まるで少女のように笑う温かな人。そんな彼女が作るおにぎりだからぬくもりを感じるのだろうか。


*****

 カーテンを閉めていても差し込む眩しい光に朝の訪れを知る。前に住んでいたところより大分条件がいい。
 まぁ前の所は雨風がしのげたらいいやで選んだ所だったので、当然の事かもしれない。
 そんな感じで俺は何に対しても頓着しない。人に対しても同じだったはずなのに、乙女さんに対して家族のような愛情を持った事にも驚いたが、まさか誰かに特別な想いを抱くなんて事はこの時の俺には想像もできなかった。


 寝起きはいい方だけどテキパキと動く方ではなく、もそもそと寝床から抜け出し洗面台へと向かう。鏡に映る自分の姿に溜め息が出た。
 未だ残る胃腸の不調で夜もあまり眠る事ができなくて、目の下にはクマが浮かび顔色もひどく青白く見えた。
 せめて目の下のクマだけでも消えてなくなれとコシコシとこすってみても、頑固に居座り続けるクマがすぐさま消えてなくなりなんかはしない。

 俺は今、恋人とラブラブで幸せいっぱいな事になっているのに、なんてひどい有様だ――。
 鏡に向かってにっこりと笑ってみても全然幸せそうには見えなくて、もたもたと着替えながら溜め息を吐いた。


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