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機械製造されたおにぎりのようないかにもな物ばかりだと周囲の同情をかうようで、誰かが親切でくれた食べ物がきっかけになって色々なものが差し入れられるようになってしまった。今では手作り弁当まで……。弁当が重なっても「夜にでも食べてよ」「明日の朝にでも――」と食べきれない手作り弁当たちが増えていく。俺は就職を機にひとり暮らしをしていて、それも心配される原因のひとつのようだ。これでもひとり暮らし歴5年と、わりともうベテランだと思うんだが――。
休憩中に、「せめてお世話してくれる恋人でもいればねぇ」と年配の女子社員に言われてしまった。決まってその後は「いい人を紹介するわよ」と言われてしまうので、俺は慌てて「急ぎの仕事があったんだった。すみません」と逃げるのだ。
生まれてこの方恋人と呼べるような人はいた事がないし、できる予定もない。それに恋人の存在と俺の食事情は関係がないし、その事だけで恋人を作りたいとも思えなかった。
差し入れに対して「いらない」ってひと言言えば済むと思うかもしれないが、そう簡単な話ではないのだ。俺の見た目では説得力がなく、遠慮しているか何か深い理由があると勘ぐられてしまうのだ。これは散々経験してきた事なので『かもしれない』という話ではない。それに母さんの口癖は「もったいない」「感謝しなさい」で、食べ物に限らず何でも大事にしたし、人の好意にはいつも感謝していた。だからこういった人の親切を俺も無下にはできない。どんなに誠心誠意言葉を尽くしても理解はされず、下手をすると相手を傷つけかねない。これが悪意によるものであったなら立ち向かっていくつもりだが、そうではないので対応に困るのだ。だから断り切れずに無理してでも全部食べようとした。
とは言え、すぐにお腹はいっぱいになり沢山は食べる事ができない。だけど残す事も捨てる事もできないから頑張るしかなくて。それで本当に顔色も悪くなり俺の貧相な見た目と相まって、手作り弁当やお菓子などの差し入れがどんどん増えていくという悪循環。
本当にほんとーに俺は困り果てていた。思いあまって相談した数少ない友人には食べられるだけ食べて、後は分からないように捨てるしかないな、なんて事を言われて眉間に皺を寄せた。
さっきも言ったように俺は食に拘りはないが、粗末に扱っていいとは思ってはいない。
友人に相談する前は残った分は持ち帰り、冷凍して少しずつでも食べようとしていたのだ。だけど、消費よりも供給の方が上回って――俺はもう限界だった。冷蔵庫も冷凍庫も――俺の胃袋も。
そんな時出会ったのが、引っ越し先で見つけた『乙女さん家』という名前の弁当屋だった。
アパートの更新時に、大きな冷蔵庫が置けるように少しだけ広いところに引っ越したのだ。我ながら何やってるんだと思わなくもないが、他に趣味もない俺は親に仕送りをしてもそれなりに蓄えはあったから、あの時はナイスな選択をしたと思ったのだ。それくらい追い詰められていたという事だ。
まぁ実際このお弁当屋との出会いは俺にとって『運命』だったと言えるので、結果的には良かったと言える。
休憩中に、「せめてお世話してくれる恋人でもいればねぇ」と年配の女子社員に言われてしまった。決まってその後は「いい人を紹介するわよ」と言われてしまうので、俺は慌てて「急ぎの仕事があったんだった。すみません」と逃げるのだ。
生まれてこの方恋人と呼べるような人はいた事がないし、できる予定もない。それに恋人の存在と俺の食事情は関係がないし、その事だけで恋人を作りたいとも思えなかった。
差し入れに対して「いらない」ってひと言言えば済むと思うかもしれないが、そう簡単な話ではないのだ。俺の見た目では説得力がなく、遠慮しているか何か深い理由があると勘ぐられてしまうのだ。これは散々経験してきた事なので『かもしれない』という話ではない。それに母さんの口癖は「もったいない」「感謝しなさい」で、食べ物に限らず何でも大事にしたし、人の好意にはいつも感謝していた。だからこういった人の親切を俺も無下にはできない。どんなに誠心誠意言葉を尽くしても理解はされず、下手をすると相手を傷つけかねない。これが悪意によるものであったなら立ち向かっていくつもりだが、そうではないので対応に困るのだ。だから断り切れずに無理してでも全部食べようとした。
とは言え、すぐにお腹はいっぱいになり沢山は食べる事ができない。だけど残す事も捨てる事もできないから頑張るしかなくて。それで本当に顔色も悪くなり俺の貧相な見た目と相まって、手作り弁当やお菓子などの差し入れがどんどん増えていくという悪循環。
本当にほんとーに俺は困り果てていた。思いあまって相談した数少ない友人には食べられるだけ食べて、後は分からないように捨てるしかないな、なんて事を言われて眉間に皺を寄せた。
さっきも言ったように俺は食に拘りはないが、粗末に扱っていいとは思ってはいない。
友人に相談する前は残った分は持ち帰り、冷凍して少しずつでも食べようとしていたのだ。だけど、消費よりも供給の方が上回って――俺はもう限界だった。冷蔵庫も冷凍庫も――俺の胃袋も。
そんな時出会ったのが、引っ越し先で見つけた『乙女さん家』という名前の弁当屋だった。
アパートの更新時に、大きな冷蔵庫が置けるように少しだけ広いところに引っ越したのだ。我ながら何やってるんだと思わなくもないが、他に趣味もない俺は親に仕送りをしてもそれなりに蓄えはあったから、あの時はナイスな選択をしたと思ったのだ。それくらい追い詰められていたという事だ。
まぁ実際このお弁当屋との出会いは俺にとって『運命』だったと言えるので、結果的には良かったと言える。
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