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──というわけで抽選会の翌日、一等のチケットを手に旅行にでかけたオレは、現在絶賛ひとり旅を満喫中なわけだ。だけど根っからの小市民である為、想像以上に豪華な旅館にドキドキしながらチェックインを済ませ、部屋の中をじっくり見ることもなく、仲居さんに勧められるまま街へと散策にでかけた。
オレは今まで遊びを目的とした旅行の経験がない。旅行といえば修学旅行や仕事関係くらいのものだ。どちらもわりときっちり予定が決まっていて、他人との協調性を求められる為、のんびりとは程遠い。今回は一人であることと、特に予定があるわけではないから気楽なものだ。
だからなのか、それとも旅先での開放感からなのかなんなのか、そう特別でもない街並みであっても目に映るものすべてが新鮮に見えた。心なしか空気も美味しい気がして、深く息を吸い込んでみる。
うーん、美味しい。こんなに心が軽いのは何年ぶりだろうか──。
途中、夕食の時間にはまだ早いことから、時間を調整する為に目についた喫茶店に入ることにした。早めに帰って部屋でのんびりするのもアリだとは思うけれど、こういう突発的な行動も旅の醍醐味なのだと思う。オレの日常にはこういうゆとりのようなものはもうずっとなかったわけだし、たまにはいいだろう。
ドアを開け、チリンと控えめに鳴るドアベル。店内を軽く見渡した感じ、内装も落ち着いていて好ましい。よくある全国チェーンもいいけれど、こういう雰囲気のあるところの方が今日の気分には合っていた。偶然引いた『当たり』に自然と口角が上がる。
入店して「いらっしゃいませ」と声がかかった。ギャルソンエプロンを身につけた少し年嵩の店員に案内され、壁際の席に座った。二人用の小さなテーブルではあるものの、オレはそう広いスペースを必要としないし、椅子がソファータイプでゆったりと座れる為狭いとは感じなかった。
さして迷うことなくオレが注文したのはカフェオレで、最近のお気に入りだ。店が違っていてもそう大きく味は変わらないし、苦くも甘くもないところがいい。ホットかアイスかはその日の気分で決めていて、ちなみに今日はホットにした。
運ばれてきたカフェオレを飲み、はふぅと小さな息が漏れる。なんというか、素敵な空間で美味しいものを口にする喜びというのだろうか、少し年寄りくさいかもしれないけれど、こういうことに幸せを感じられることは決して悪いことではないと思うのだ。年齢問わず、それは心に余裕があるということだと思うからだ。ちなみにオレは現在二十六歳で、おじさんというほどではないけれど若者とも言い難い、微妙な年頃だ。
そんな幸せな時間を満喫中、予想もしていなかったノイズに、オレの身体は一瞬で強張った。
ノイズが特別大きかったわけじゃないし、声の主とはそこそこ離れた席に座っていたから普通は聞こえるはずのないモノだった。そもそも店内には音楽が流れている為、近い席であっても話している内容までは普通は分からないはずなのだ。もちろんオレが聞き耳を立てていたわけでもない。
それなのにはっきりと聞こえてしまったのは、『運命の人』という言葉を女が使ったからだ。それがオレの頭の中でとある人物の声へと変換されてしまった。忘れたくても忘れられない声に。だから、かもしれない。
「『運命の人』に出会ったから別れて」という身勝手な別れ話が──。
オレは今まで遊びを目的とした旅行の経験がない。旅行といえば修学旅行や仕事関係くらいのものだ。どちらもわりときっちり予定が決まっていて、他人との協調性を求められる為、のんびりとは程遠い。今回は一人であることと、特に予定があるわけではないから気楽なものだ。
だからなのか、それとも旅先での開放感からなのかなんなのか、そう特別でもない街並みであっても目に映るものすべてが新鮮に見えた。心なしか空気も美味しい気がして、深く息を吸い込んでみる。
うーん、美味しい。こんなに心が軽いのは何年ぶりだろうか──。
途中、夕食の時間にはまだ早いことから、時間を調整する為に目についた喫茶店に入ることにした。早めに帰って部屋でのんびりするのもアリだとは思うけれど、こういう突発的な行動も旅の醍醐味なのだと思う。オレの日常にはこういうゆとりのようなものはもうずっとなかったわけだし、たまにはいいだろう。
ドアを開け、チリンと控えめに鳴るドアベル。店内を軽く見渡した感じ、内装も落ち着いていて好ましい。よくある全国チェーンもいいけれど、こういう雰囲気のあるところの方が今日の気分には合っていた。偶然引いた『当たり』に自然と口角が上がる。
入店して「いらっしゃいませ」と声がかかった。ギャルソンエプロンを身につけた少し年嵩の店員に案内され、壁際の席に座った。二人用の小さなテーブルではあるものの、オレはそう広いスペースを必要としないし、椅子がソファータイプでゆったりと座れる為狭いとは感じなかった。
さして迷うことなくオレが注文したのはカフェオレで、最近のお気に入りだ。店が違っていてもそう大きく味は変わらないし、苦くも甘くもないところがいい。ホットかアイスかはその日の気分で決めていて、ちなみに今日はホットにした。
運ばれてきたカフェオレを飲み、はふぅと小さな息が漏れる。なんというか、素敵な空間で美味しいものを口にする喜びというのだろうか、少し年寄りくさいかもしれないけれど、こういうことに幸せを感じられることは決して悪いことではないと思うのだ。年齢問わず、それは心に余裕があるということだと思うからだ。ちなみにオレは現在二十六歳で、おじさんというほどではないけれど若者とも言い難い、微妙な年頃だ。
そんな幸せな時間を満喫中、予想もしていなかったノイズに、オレの身体は一瞬で強張った。
ノイズが特別大きかったわけじゃないし、声の主とはそこそこ離れた席に座っていたから普通は聞こえるはずのないモノだった。そもそも店内には音楽が流れている為、近い席であっても話している内容までは普通は分からないはずなのだ。もちろんオレが聞き耳を立てていたわけでもない。
それなのにはっきりと聞こえてしまったのは、『運命の人』という言葉を女が使ったからだ。それがオレの頭の中でとある人物の声へと変換されてしまった。忘れたくても忘れられない声に。だから、かもしれない。
「『運命の人』に出会ったから別れて」という身勝手な別れ話が──。
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