恋はさくらいろ♪

ハリネズミ

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ブルーブルーブルー

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しばらくして宮野さんも慣れてきて、これでやっと卜部君としゃべる事ができるかもしれないって思っていたけど、実際はそうはならなかった。
卜部君が時々意味ありげな視線を僕に向けてくる事はあったけど、いつも宮野さんが傍にいて僕の入り込む隙なんかなくて、卜部君もそれを嫌がっている様子はなくて。
いつも笑顔で嬉しそうだ。今日なんか宮野さんの頭を撫でていた。
お似合いのだ。

―――――カップル……。
ああ、そうか。二人は付き合ってるんだ。
二人の距離はあんなにも近いのに、なんでこんな簡単な事に気がつかなかったんだろう。
気づいてしまえばもうそとしか思えなくて、二人の事をそれ以上見ている事ができなくて、そっと視線を逸らした。


*****
宮野さんがバイトに入ってから僕の心はぐちゃぐちゃで、卜部君への気持ちと宮野さんへの気持ちでモヤモヤしたものが心の中で渦巻いていた。
だからっていうのは責任転嫁してるみたいでダメだと思うけど、二人の事が気になって仕事に集中できなかったんだ。
結果失敗してしまった。
運んできたビールを躓いてお客様にかけてしまったんだ。
激昂するお客様。
当たり前だ。ファミレスは食事を楽しむ場所だ。なのに頭からビールをかけられては楽しいもへったくれもない。
必死に頭を下げてお詫びしたけど、お怒りのお客様は手元にあったコップに入った水を僕に向かってばしゃりとかけた。

頭から水を被ったはずだった。
だけど僕は無事で、お客様が怒りを収めてくれたのかと思ったけどそれは違って、顔を上げると僕の前に誰かが立っていた。
前に立つ人からぽたりぽたりと水滴が落ちる音がして、僕の代わりにその人が水を被ってくれたのだと分かった。

――――卜部君だ。
卜部君が僕を庇ってくれたんだ………!

卜部君は無造作に濡れた髪をかきあげて、一瞬だけ振り返り僕に笑いかけた。
僕はその笑顔を見て安心してしまった。
怖くて不安で固まってしまっていた身体から力が抜けていくのを感じた。
そんな場合じゃないのに卜部君が僕の事を庇ってくれた事が嬉しくて、卜部君の笑顔が眩しくて、さっきまでとは違う意味でドキドキと心臓が煩い。

「お客様!誠に申し訳ございませんでした!」

勢いよく頭を下げる卜部君。現実に引き戻される。
僕もそれにならって頭を下げた。
そして宮野さんが持ってきた清潔なタオルを受け取って卜部君はにっこりと笑ってお客様に差し出した。
お客様は男性だったけど、卜部君の爽やかな微笑みに顔を真っ赤にさせていた。
やっぱり卜部君はすごいな。性別なんか関係なく魅了してしまう。

その後卜部君は手早く着替えて、そのお客様の事を気にかけつつ何事もなかったかのようにテキパキと仕事をこなしていた。

お客様もお帰りの際には、僕に大人気なかったと謝って下さった。
僕が悪かったのに卜部君が庇ってくれて、あんなに怒ってたお客様も笑顔になった。

卜部くんはすごい。本当にすごい人だ。
卜部君がしてくれた事は嬉しいはずなのに、自分がポンコツだって改めて思い知らされたようで、ますます僕たちの『差』を意識せずにはいられなかった。
僕の胸にどこか苦い想いが広がる。

卜部君は善意でしてくれた事なのに、僕はお礼もお詫びも言えないでいた。


*****
それからは何事もなくバイトの時間は終わった。
更衣室で着替えながらちらりと卜部君を窺うとバチっと目が合った。
卜部君も僕の方を見ていたみたいだ。
男子更衣室には宮野さんは入ってこれないから今僕は卜部君と二人きりだ。
卜部くんが僕を心配そうに見ていて胸がズキリと痛む。

自分がポンコツだとか関係ない。迷惑をかけたんだから謝らなくちゃ。
ここで謝らなきゃ二人の『差』はますます開くばかりだ。謝るなら今しかない。
僕は大きく深呼吸をして卜部君に頭を下げた。

「ごめんなさいっ。僕がドジったから――」

「気にしなくていい。誰でも一度はやる事だよ。それより大丈夫だったか?どこも怪我してない?」

顔を上げると卜部くんはやっぱりまだ心配そうに僕の事を見ていた。
そっと頬に触れる卜部君の温かい指先。
卜部君が庇ってくれたから僕は何ともないのに、心配してくれる。
どこまでも卜部君は優しい。
卜部君の優しさが嬉しくて、切なくて胸がぎゅっとなった。

「僕は卜部君が庇ってくれたから水の一滴も被ってないよ…。本当にごめんね…」

次の瞬間視界が揺れて、気がつくと僕は卜部君の腕の中にいた。
何が起こったのか分からなかった。

「え…?」

「ごめん。少しでいい…抱きしめさせて……」

何で僕抱きしめられてるんだろう?
流石に呆れられたと思ったのに。
何でこんな―――?

二人分の鼓動がドキドキと煩い。
卜部君もドキドキしてるの…?どうして?
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