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恋が雪のように降り積もる
中編
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大学の入学式の日、初めて兄貴の恋人が誰であるかを知ることになった。恋人の存在は知っていたけど、それが誰であるかは教えてもらっていなかったのだ。
とても可愛い人だとは聞いているけれど――。
「おはようございます……」という頼りなさげな甘く涼やかな声がして振り向き、視線の先にいた人物に俺は驚いた――。
兄貴の恋人、それは俺の高校の同級生、もっと言えば高校三年間同じクラスでずっと隣りの席だった都築 叶だったのだ。兄貴と恋人になって一年、俺は隣りの席だったにもかかわらずなにも知らなかった――。
兄貴が嬉しそうに都築を紹介して、ふたりが照れたように笑い合うのを見てなぜか胸がチクリと痛んだけれど、俺はそれを無視することにした。そうじゃないと大事なものを壊してしまいそうな気がしたからだ。
それからも俺はそのことについて深く考えることはせず、兄貴に纏わりついて、自然三人一緒のキャンパスライフを送っていた。
*****
半年が過ぎ、今はふたりとはそれなりに距離を置いている。別になにが起こったわけでもなく、仲違いしたわけでもないから呼ばれれば一緒に遊んだりはしたが、ふたりの間に流れる甘い空気に、さすがに自分がお邪魔虫だと気づいてしまったのだ。
と言うのは半分は本当で、半分は嘘だ。最初に感じた胸の痛みがふたりの傍にいると日に日に強くなっていき、無視できないところまできていたのだ。
であるのに胸が痛む理由が分からなくて、とりあえずふたりの傍を離れることにした。それでもモヤモヤチクチクが収まらなくて、兄貴たちと距離を置くようになってつるみだした祐にそれとなく相談してみた。
こいつとは確か「同じところにほくろがあるね」って声をかけられて、それから話すようになってなんとなく仲良くなった。
祐は見た目は派手で軽そうに見えるけど、少し話しただけで全然違うことが分かった。実際は裏表のない明るい性格で、気ぃ遣いの面倒見のいいやつだ。だからきっと『答え』とまではいかなくてもヒントくらいはくれそうだと思った。
「ズバリ、それは『恋』だね」
と言われ、は? と思う。だって兄貴のことは尊敬してるし好きだけど、実の兄弟だぞ? 恋? は?
「あれれ? なにか勘違いしてない? もしかしなくてもお兄さんに恋してるって言われたと思ってたり?」
祐は片方だけ眉を上げ、覗き込むように顔を近づけてきた。俺は反射的に身を引いて慌てて答えた。
「え? だって祐が恋してるって言うから。でも兄貴に恋ってあり得ないって!」
早口でそう言えば、祐はやれやれと言った感じで溜め息を吐いた。
「あのね、恋の相手はお兄さんじゃなくて、お兄さんの恋人さんだよ」
「――え……」
――都築に恋? 確かに男にしては華奢で綺麗な顔をしているから意識はしていた、かもしれない。だけど三年間ずっと同じクラスで、しかも隣りの席だったにもかかわらず、仲良くなることもなかった。交わした言葉だってそんなには多くはないはずだ。ふたりにつき纏っていたときでさえ俺は兄貴とばかりしゃべっていたし。
兄貴の恋人だと最初に紹介されたときも、すぐに「おめでとう」って言った、言えた。
なのに都築に恋? 兄貴の恋人だぞ?
「んーまぁ良くも悪くもキミは単純だから、お兄さんの恋人のことが好きだなんて思いもしないのかもしれないけど、でもそうとしか思えない」
「――な、なんでそんなこと……」
「本人も気づかないのにどうして分かるかって? そんなの簡単だよ」
そう言って祐はふふふと笑って、人差し指で俺の鼻先をちょんっとつついた。
「でもね、今は教えてあげない。きみはもう少し色々と考えてみるべきだと思う。答えばっかり欲しがってたらダメだよ。まぁ特別にクリスマスに答えを教えてあげるからそれまでは頑張って考えてみて?」
一方的にそんなことを言われ、訳知り顔に腹が立ったのか俺の頬は熱を持ち、心臓はドキドキと煩く鳴っていた――。
とても可愛い人だとは聞いているけれど――。
「おはようございます……」という頼りなさげな甘く涼やかな声がして振り向き、視線の先にいた人物に俺は驚いた――。
兄貴の恋人、それは俺の高校の同級生、もっと言えば高校三年間同じクラスでずっと隣りの席だった都築 叶だったのだ。兄貴と恋人になって一年、俺は隣りの席だったにもかかわらずなにも知らなかった――。
兄貴が嬉しそうに都築を紹介して、ふたりが照れたように笑い合うのを見てなぜか胸がチクリと痛んだけれど、俺はそれを無視することにした。そうじゃないと大事なものを壊してしまいそうな気がしたからだ。
それからも俺はそのことについて深く考えることはせず、兄貴に纏わりついて、自然三人一緒のキャンパスライフを送っていた。
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半年が過ぎ、今はふたりとはそれなりに距離を置いている。別になにが起こったわけでもなく、仲違いしたわけでもないから呼ばれれば一緒に遊んだりはしたが、ふたりの間に流れる甘い空気に、さすがに自分がお邪魔虫だと気づいてしまったのだ。
と言うのは半分は本当で、半分は嘘だ。最初に感じた胸の痛みがふたりの傍にいると日に日に強くなっていき、無視できないところまできていたのだ。
であるのに胸が痛む理由が分からなくて、とりあえずふたりの傍を離れることにした。それでもモヤモヤチクチクが収まらなくて、兄貴たちと距離を置くようになってつるみだした祐にそれとなく相談してみた。
こいつとは確か「同じところにほくろがあるね」って声をかけられて、それから話すようになってなんとなく仲良くなった。
祐は見た目は派手で軽そうに見えるけど、少し話しただけで全然違うことが分かった。実際は裏表のない明るい性格で、気ぃ遣いの面倒見のいいやつだ。だからきっと『答え』とまではいかなくてもヒントくらいはくれそうだと思った。
「ズバリ、それは『恋』だね」
と言われ、は? と思う。だって兄貴のことは尊敬してるし好きだけど、実の兄弟だぞ? 恋? は?
「あれれ? なにか勘違いしてない? もしかしなくてもお兄さんに恋してるって言われたと思ってたり?」
祐は片方だけ眉を上げ、覗き込むように顔を近づけてきた。俺は反射的に身を引いて慌てて答えた。
「え? だって祐が恋してるって言うから。でも兄貴に恋ってあり得ないって!」
早口でそう言えば、祐はやれやれと言った感じで溜め息を吐いた。
「あのね、恋の相手はお兄さんじゃなくて、お兄さんの恋人さんだよ」
「――え……」
――都築に恋? 確かに男にしては華奢で綺麗な顔をしているから意識はしていた、かもしれない。だけど三年間ずっと同じクラスで、しかも隣りの席だったにもかかわらず、仲良くなることもなかった。交わした言葉だってそんなには多くはないはずだ。ふたりにつき纏っていたときでさえ俺は兄貴とばかりしゃべっていたし。
兄貴の恋人だと最初に紹介されたときも、すぐに「おめでとう」って言った、言えた。
なのに都築に恋? 兄貴の恋人だぞ?
「んーまぁ良くも悪くもキミは単純だから、お兄さんの恋人のことが好きだなんて思いもしないのかもしれないけど、でもそうとしか思えない」
「――な、なんでそんなこと……」
「本人も気づかないのにどうして分かるかって? そんなの簡単だよ」
そう言って祐はふふふと笑って、人差し指で俺の鼻先をちょんっとつついた。
「でもね、今は教えてあげない。きみはもう少し色々と考えてみるべきだと思う。答えばっかり欲しがってたらダメだよ。まぁ特別にクリスマスに答えを教えてあげるからそれまでは頑張って考えてみて?」
一方的にそんなことを言われ、訳知り顔に腹が立ったのか俺の頬は熱を持ち、心臓はドキドキと煩く鳴っていた――。
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