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白い日の告白
後編
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僕はひと月前のバレンタインデーに工藤さんにチョコを贈って、付き合い始めた。
しばらくは諦めていた事が叶って浮かれ過ぎていたけど、僕はもうひとつ工藤さんに告白をしないといけない事があるのだ。今日こそはと思いながらひと月が過ぎ、今日はホワイトデーだ。工藤さんが差し出す綺麗にラッピングされた袋を僕は受け取る事もできず、じっと見つめた。
不安気に工藤さんの瞳が揺れる。そんな顔して欲しくない、だけど――。
「――あの……どうしても聞いて欲しい事が……あります」
「聞いて欲しい事……?」
「まさか別れ話……?」と小さく呟くのが聞こえたけど、それを決めるのは工藤さんで僕じゃない。僕はゴクリと唾を飲み込み話し始めた。
「二年前の……受験の……日、風邪……ひきました……よね?」
「――え?」
「そのせいで受験……ダメ……で、それって僕のせいなんです……」
「どういう事?」
いきなり何を言いだすのかと訝し気に僕を見る工藤さん。
「僕、言ってませんでしたが工藤さんの弟と同じクラスで……、あ、殆どしゃべった事はないんですが……席が隣りで……、僕……僕風邪ひいてたのに学校行って、それで工藤くんにうつしちゃって、それが工藤さんに――っだから僕のせい、なんです!」
じっと見つめてくる工藤さんの瞳に、逃げ出してしまいそうになるけど逃げるわけにはいかない。これが多分僕が工藤さんに謝れる最初で最後のチャンスだ。
「最初は工藤くんが話すお兄さんに憧れてました。工藤くんと東くんが話すお兄さんの話が本当に楽しくて――好きでした。僕のせいで受験……ダメだった時、工藤さんに謝ろうってコンビニに行ったんですができなくて――、何度もなんども――。それでこないだ工藤くんと東くんがお兄さんにチョコあげる子がいたら元気になるんじゃないかって話してて――それなら僕がって思って――」
「――うーんと……、じゃあ俺の事好きでチョコくれたんじゃないって事? あーいやちょっと待って、待って……そういや俺好きって言われてないわ――」
「ち、違います! 本当に好き、です! 本当に……大……好き」
ぽろぽろと零れていく涙たち。僕に泣く資格なんかないのに――涙が止まらない。
「僕……、僕……内緒にしたまま付き合う事はできなくて……、工藤さんが元気になる為なら僕何でもします……本当にごめんなさい」
泣きながら必死に頭を下げる。頭上から少しだけ不機嫌そうな声が聞こえた。
「――何でもします、なんて簡単に言うもんじゃないよ」
「だって……」
そろりと見上げると工藤さんの優し気な瞳とぶつかった。
工藤さんは怒ってない――?
「俺が風邪ひいたのは都築くんのせいじゃないよ」
「でも、だって僕が風邪ひいてそれで工藤くんにうつって、それでそれで――」
「あーもう!」
そう言ってぎゅっと抱きしめられ、驚く。
「風邪のウイルスに名前でも書いてた? 違うよね、俺が受験に失敗したのは俺自身の責任だよ。それなのに――辛かったよな……、俺のせいでずっと――」
抱きしめる腕に力が籠り「ごめん」と工藤さんは小さく呟いた。
「工藤……さん……」
「今日は折角ホワイトデーだしさ、都築くんが俺の事どう思っているか、俺とどうなりたいか聞かせて欲しいな。俺は都築くんが好きだよ。俺の気持ち受け取る? 受け取らない?」
そう言うと抱きしめていた腕を解き、少しだけ距離を取り再び目の前に差し出される袋。
「……」
「都築くんの本当の気持ちを教えて……?」
袋を持つ手に力が入ったのかくしゃりと少しだけ袋に皺が寄った。
本当に僕がこれを受け取ってしまってもいいの?
僕は震える手で袋に手を伸ばしたけど、途中で止まる。
どう考えても僕にはこれを受け取る資格がないように思えたからだ。
そんな僕の様子に工藤さんは苦笑し、更に言葉を紡ぐ。
「一哉と同級生なら来年受験だよね、一緒に勉強して一緒に合格しよう? 絶対に俺受かるから、俺はもう何も諦めないって決めたんだ。そう思えたのは都築くん――叶のお陰だよ。だから申し訳ないとかそういう理由で躊躇ってるなら俺は絶対に叶を諦めない。だから叶も諦めないで」
突然の名前呼びに胸がキュンキュンして止まらない。少し強気な態度にも。
好き……、工藤さんが好き。
「――は……はぃ……」
袋を今度こそしっかりと掴み胸に抱き込む。大切な大切なあなたの気持ち。
「――大好き……」
ぽつりと零れた僕の心を工藤さんは拾い上げ、喜んでくれる。
「『大好き』いただきましたっ! ホワイトデーも最高――っ!」
工藤さんは少しだけ声を抑えてそんな事を言って空を仰ぎ見た。僕はバレンタインデーみたいに大騒ぎするのも楽しくて好きだったけど、後ではしゃぎすぎたって謝られたから我慢しているのだろう。
我慢なんかしなくていいのに。
僕はえいっと工藤さんの胸に飛び込んで、工藤さんを見上げる。
「僕、工藤さんと一緒に大学生になりたい、です」
「ああ、約束する。一緒に大学行こうな」
そう言って笑った顔が本当に素敵で、僕はオーバーヒートしてしまった。トマトみたいに真っ赤になって頭がクラクラする。
だけどこのわーってなる気持ちを伝えたくて、慌てる工藤さんの腕の中で「ホワイトデー万歳っ!」って叫んた。
*****
万里さん、工藤くんと区別する為にも工藤さんの事を最近下の名前で呼び始めたんだけど恥ずかしくてなかなか慣れない。
僕たちは宣言通り同じ大学に合格してキャンパスライフを満喫している。そこに工藤くんも加わって、兄弟漫才のようなふたりの会話を僕は近くで見ている事しかできないけど、ふたりを見ているだけでも楽しいし会話に入れない事は別に気にならない、だって――
「叶、こっちこっち」
すぐに万里さんが笑顔で僕に手を差し出してくれて、僕はその手を掴むから。
-終わり-
しばらくは諦めていた事が叶って浮かれ過ぎていたけど、僕はもうひとつ工藤さんに告白をしないといけない事があるのだ。今日こそはと思いながらひと月が過ぎ、今日はホワイトデーだ。工藤さんが差し出す綺麗にラッピングされた袋を僕は受け取る事もできず、じっと見つめた。
不安気に工藤さんの瞳が揺れる。そんな顔して欲しくない、だけど――。
「――あの……どうしても聞いて欲しい事が……あります」
「聞いて欲しい事……?」
「まさか別れ話……?」と小さく呟くのが聞こえたけど、それを決めるのは工藤さんで僕じゃない。僕はゴクリと唾を飲み込み話し始めた。
「二年前の……受験の……日、風邪……ひきました……よね?」
「――え?」
「そのせいで受験……ダメ……で、それって僕のせいなんです……」
「どういう事?」
いきなり何を言いだすのかと訝し気に僕を見る工藤さん。
「僕、言ってませんでしたが工藤さんの弟と同じクラスで……、あ、殆どしゃべった事はないんですが……席が隣りで……、僕……僕風邪ひいてたのに学校行って、それで工藤くんにうつしちゃって、それが工藤さんに――っだから僕のせい、なんです!」
じっと見つめてくる工藤さんの瞳に、逃げ出してしまいそうになるけど逃げるわけにはいかない。これが多分僕が工藤さんに謝れる最初で最後のチャンスだ。
「最初は工藤くんが話すお兄さんに憧れてました。工藤くんと東くんが話すお兄さんの話が本当に楽しくて――好きでした。僕のせいで受験……ダメだった時、工藤さんに謝ろうってコンビニに行ったんですができなくて――、何度もなんども――。それでこないだ工藤くんと東くんがお兄さんにチョコあげる子がいたら元気になるんじゃないかって話してて――それなら僕がって思って――」
「――うーんと……、じゃあ俺の事好きでチョコくれたんじゃないって事? あーいやちょっと待って、待って……そういや俺好きって言われてないわ――」
「ち、違います! 本当に好き、です! 本当に……大……好き」
ぽろぽろと零れていく涙たち。僕に泣く資格なんかないのに――涙が止まらない。
「僕……、僕……内緒にしたまま付き合う事はできなくて……、工藤さんが元気になる為なら僕何でもします……本当にごめんなさい」
泣きながら必死に頭を下げる。頭上から少しだけ不機嫌そうな声が聞こえた。
「――何でもします、なんて簡単に言うもんじゃないよ」
「だって……」
そろりと見上げると工藤さんの優し気な瞳とぶつかった。
工藤さんは怒ってない――?
「俺が風邪ひいたのは都築くんのせいじゃないよ」
「でも、だって僕が風邪ひいてそれで工藤くんにうつって、それでそれで――」
「あーもう!」
そう言ってぎゅっと抱きしめられ、驚く。
「風邪のウイルスに名前でも書いてた? 違うよね、俺が受験に失敗したのは俺自身の責任だよ。それなのに――辛かったよな……、俺のせいでずっと――」
抱きしめる腕に力が籠り「ごめん」と工藤さんは小さく呟いた。
「工藤……さん……」
「今日は折角ホワイトデーだしさ、都築くんが俺の事どう思っているか、俺とどうなりたいか聞かせて欲しいな。俺は都築くんが好きだよ。俺の気持ち受け取る? 受け取らない?」
そう言うと抱きしめていた腕を解き、少しだけ距離を取り再び目の前に差し出される袋。
「……」
「都築くんの本当の気持ちを教えて……?」
袋を持つ手に力が入ったのかくしゃりと少しだけ袋に皺が寄った。
本当に僕がこれを受け取ってしまってもいいの?
僕は震える手で袋に手を伸ばしたけど、途中で止まる。
どう考えても僕にはこれを受け取る資格がないように思えたからだ。
そんな僕の様子に工藤さんは苦笑し、更に言葉を紡ぐ。
「一哉と同級生なら来年受験だよね、一緒に勉強して一緒に合格しよう? 絶対に俺受かるから、俺はもう何も諦めないって決めたんだ。そう思えたのは都築くん――叶のお陰だよ。だから申し訳ないとかそういう理由で躊躇ってるなら俺は絶対に叶を諦めない。だから叶も諦めないで」
突然の名前呼びに胸がキュンキュンして止まらない。少し強気な態度にも。
好き……、工藤さんが好き。
「――は……はぃ……」
袋を今度こそしっかりと掴み胸に抱き込む。大切な大切なあなたの気持ち。
「――大好き……」
ぽつりと零れた僕の心を工藤さんは拾い上げ、喜んでくれる。
「『大好き』いただきましたっ! ホワイトデーも最高――っ!」
工藤さんは少しだけ声を抑えてそんな事を言って空を仰ぎ見た。僕はバレンタインデーみたいに大騒ぎするのも楽しくて好きだったけど、後ではしゃぎすぎたって謝られたから我慢しているのだろう。
我慢なんかしなくていいのに。
僕はえいっと工藤さんの胸に飛び込んで、工藤さんを見上げる。
「僕、工藤さんと一緒に大学生になりたい、です」
「ああ、約束する。一緒に大学行こうな」
そう言って笑った顔が本当に素敵で、僕はオーバーヒートしてしまった。トマトみたいに真っ赤になって頭がクラクラする。
だけどこのわーってなる気持ちを伝えたくて、慌てる工藤さんの腕の中で「ホワイトデー万歳っ!」って叫んた。
*****
万里さん、工藤くんと区別する為にも工藤さんの事を最近下の名前で呼び始めたんだけど恥ずかしくてなかなか慣れない。
僕たちは宣言通り同じ大学に合格してキャンパスライフを満喫している。そこに工藤くんも加わって、兄弟漫才のようなふたりの会話を僕は近くで見ている事しかできないけど、ふたりを見ているだけでも楽しいし会話に入れない事は別に気にならない、だって――
「叶、こっちこっち」
すぐに万里さんが笑顔で僕に手を差し出してくれて、僕はその手を掴むから。
-終わり-
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