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番外編
番外編 1 ソーマ (ソーマ視点) ※人死に バッドエンド
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実の弟であるノイアが生まれるひと月程前、きみが生まれた。生まれたばかりのきみは真っ赤な顔で皺くちゃのモンスターみたいで、大きな声で泣いていたね。お世辞にも可愛いだなんて言えなかったけれど、なぜだかとても愛おしく思えたんだ。きっとこれは生まれたばかりの守るべき存在だからなんだって、そう思った。だけどそのひと月後にノイアが生まれて、違うんだって分かったんだ。勿論ノイアのことは可愛いと思ったし、守ってあげなくちゃとも思った。でも……愛おしいとは思わなかったんだ。この違いはなに? 僕は当時まだ十歳の子どもで、この感情がなんなのか分からなかった。だけど後ろめたさだけはあって、きみに近づくのを止めようとした。結局弟の乳姉妹だったきみと距離を置こうにも、きみは弟べったりだったから無理な話だったけれど。何度僕と弟が逆だったらって思ったことか──。
それから十年、僕は二十歳になりきみは十歳になった。
相変わらずきみと顔を合わせる機会は多かったけれど、積極的には関わらないようにしてきた。それは僕の中にある感情をきみに気づかれたくなかったのと、これ以上この感情を育てたくなかったからだった。だけど僕の感情は勝手にどんどん育っていって、──きみの秘めた想いを知ることになった。きみには好きな人がいた。告白もせずにずっと傍にいて、その人の為に色々と頑張っていたね。「そんなに頑張る必要なんてない。それはその人がやるべきことだよ」って何度も言ってしまいそうになった。だけどそんなことを言ってもきみは喜ばないし、そんなことを言う僕のことを嫌ってしまうかもしれない。好かれないまでも嫌われてくはなかったんだ。だから僕はなにも言えなかった。
きみの想い人は──ノイア。大人しい僕とは違い明るく活発で、優しい僕の弟。なんで? って何度も思った。性格は違うけれど僕はノイアより沢山のことに優れていた。だって僕はノイアがサボって遊んでるときもがんばっていた──。能力でないとしたら──、では外見?
僕たちは正真正銘血の繋がった兄弟だけど、あまり似ていない。もしも似ていたらノイアじゃなく僕の方を好きになってくれた? そう考えてすぐに否定する。ううん。たとえそっくりな双子だったとしてもきみはノイアを選ぶだろう。悲しいけれどそれが現実だ。どんなに願ってみてもどうにもならないこともあるって知っていた。だから僕はせめてきみの優しい兄になろうとした。ノイアときみの兄に。
「やぁズイ、どうしたの? そこ擦りむいてるみたいだけど……。痛いでしょ……?」
「え? あ、さっき転んでしまって──」
そう言ってきみはふぃっと視線を逸らした。これは僕だけが知る、きみが嘘をついているときの癖だった。だけど僕はそれに気づかないフリをした。
「そう。気をつけてね」
「は、はい」
きみは誰に言われるまでもなく僕には敬語を使っていたね。僕はそれがとても嫌だったんだ。僕もノイアと話すときみたいにしてよって言いたかった。だけど僕はきみよりも十歳も年上で、将来は領主になることになっている。だから僕がそんなことを言うときみを困らせてしまうことは分かっていた。
僕はいくつもいくつもきみへの贈りたかった言葉も、贈るべきだった言葉も飲み込んできた。そうすることがきみの為だって思っていたけれど、今こうなってみて初めて伝えればよかったって思うんだ。そうしたらなにかが違っていたんじゃないかって──。
斬りかかる賊から父を守ろうとした僕をきみは抱きしめることで止めた。そして──キスをしたんだ。気持ちの篭らないとても冷たいキスだった。それでも僕は動揺して、きみの向こう側で父が倒れていくのが見えても動くことができなかった。そしてきみは僕の胸に剣を突き立てて、唇が動く。『さ・よ・う・な・ら』──と。
あぁ、きみは僕の気持ちに気づいていたんだね。それでも僕にこうした──。これはきっと弟、ノイアの為──。
だけど僕はそれでもきみを愛しているよ。愛していたよ。どうかきみが幸せでありますように──。そんな僕の最期の願いもきっときみにはなんの意味もない。それでも僕は微笑み、もう動かなくなってしまった唇で最期に告げる。
『さようなら、愛しい人』
番外編 ソーマ・完
それから十年、僕は二十歳になりきみは十歳になった。
相変わらずきみと顔を合わせる機会は多かったけれど、積極的には関わらないようにしてきた。それは僕の中にある感情をきみに気づかれたくなかったのと、これ以上この感情を育てたくなかったからだった。だけど僕の感情は勝手にどんどん育っていって、──きみの秘めた想いを知ることになった。きみには好きな人がいた。告白もせずにずっと傍にいて、その人の為に色々と頑張っていたね。「そんなに頑張る必要なんてない。それはその人がやるべきことだよ」って何度も言ってしまいそうになった。だけどそんなことを言ってもきみは喜ばないし、そんなことを言う僕のことを嫌ってしまうかもしれない。好かれないまでも嫌われてくはなかったんだ。だから僕はなにも言えなかった。
きみの想い人は──ノイア。大人しい僕とは違い明るく活発で、優しい僕の弟。なんで? って何度も思った。性格は違うけれど僕はノイアより沢山のことに優れていた。だって僕はノイアがサボって遊んでるときもがんばっていた──。能力でないとしたら──、では外見?
僕たちは正真正銘血の繋がった兄弟だけど、あまり似ていない。もしも似ていたらノイアじゃなく僕の方を好きになってくれた? そう考えてすぐに否定する。ううん。たとえそっくりな双子だったとしてもきみはノイアを選ぶだろう。悲しいけれどそれが現実だ。どんなに願ってみてもどうにもならないこともあるって知っていた。だから僕はせめてきみの優しい兄になろうとした。ノイアときみの兄に。
「やぁズイ、どうしたの? そこ擦りむいてるみたいだけど……。痛いでしょ……?」
「え? あ、さっき転んでしまって──」
そう言ってきみはふぃっと視線を逸らした。これは僕だけが知る、きみが嘘をついているときの癖だった。だけど僕はそれに気づかないフリをした。
「そう。気をつけてね」
「は、はい」
きみは誰に言われるまでもなく僕には敬語を使っていたね。僕はそれがとても嫌だったんだ。僕もノイアと話すときみたいにしてよって言いたかった。だけど僕はきみよりも十歳も年上で、将来は領主になることになっている。だから僕がそんなことを言うときみを困らせてしまうことは分かっていた。
僕はいくつもいくつもきみへの贈りたかった言葉も、贈るべきだった言葉も飲み込んできた。そうすることがきみの為だって思っていたけれど、今こうなってみて初めて伝えればよかったって思うんだ。そうしたらなにかが違っていたんじゃないかって──。
斬りかかる賊から父を守ろうとした僕をきみは抱きしめることで止めた。そして──キスをしたんだ。気持ちの篭らないとても冷たいキスだった。それでも僕は動揺して、きみの向こう側で父が倒れていくのが見えても動くことができなかった。そしてきみは僕の胸に剣を突き立てて、唇が動く。『さ・よ・う・な・ら』──と。
あぁ、きみは僕の気持ちに気づいていたんだね。それでも僕にこうした──。これはきっと弟、ノイアの為──。
だけど僕はそれでもきみを愛しているよ。愛していたよ。どうかきみが幸せでありますように──。そんな僕の最期の願いもきっときみにはなんの意味もない。それでも僕は微笑み、もう動かなくなってしまった唇で最期に告げる。
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