上 下
26 / 34
最終章 (全知視点)

最終話 ③

しおりを挟む
 ズイとノイアは乳姉妹だった。実の兄だったソーマはノイアとは十歳離れており、幼かったノイアにはソーマがひどく大人に見えた。その為同い年であるズイの方が身近に感じられて、ズイと一緒にいることが多かった。自由奔放でわんぱくで行動力に溢れるノイアと聡明で世話好きで慎重なところのあるズイは、よくバランスが取れていた。ズイは兄、ノイアは弟、実の兄弟より兄弟らしかった。

 ある日、屋敷にある大きな木の途中で降りられなくなって鳴いている仔猫を見つけた。ノイアは助けようとすぐさま木を登りを始め、ズイは止めさせようとした。

「ノイア、そんなことしちゃダメだよ。怪我をしたらノイアだって痛いし、怒られちゃうよ。助けたいなら誰か大人を呼んでこようよ」

 ズイの言うことが正しいことはノイアにも分かっていたが、猫が仔猫であり落ちてしまえばただではすまないと思った為、すぐに助けてあげたいと思ったのだ。ノイアが木登りが得意だった為、過信してしまったということもある。

「ほら、こっちへおいで。大丈夫だから」

 ノイアが怯える仔猫に手を伸ばし、捕まえる。怯え、固まったままの仔猫を自身の懐の中に入れ、もう一度優しく言い聞かせる。

「大丈夫だからな。そこで大人しくしておいで」

 登るときよりも慎重に、あともう少しというところで仔猫は懐から飛び出してどこかへ逃げてしまった。ノイアは仔猫が飛び出したことでバランスを崩し、木から落ちてしまう。もう大分降りてきていた為地面からはそう離れてはいないところまできていたが、落下による痛みはあるだろうとノイアは覚悟した。
 だが落ちたはずなのにちっとも痛くなくて不思議に思い目を開けると、ズイが自分の下敷きになっていた。

「えっ? ズイ! 大丈夫かっ??」

 ズイが落ちてきたノイアを受け止めたのだが、子どもであった為そのまま一緒にべしゃりと崩れ落ちてしまったのだ。だがズイのおかげでノイアの身体には傷ひとつなかった。ズイの方も多少の怪我はありそうだが擦り傷適度で済んでいた。

「大丈夫。はぁ……、本当にノイアは……。僕言ったよね? 危険だって」

「だけど……、あぁ、そうだな。危険なことしてごめん」

「ふふ、素直なノイアは好きだよ。今回は怪我もなかったし、これはふたりだけのひみつってことにしない?」

 「しー」と言って唇の前に人差し指を立てて見せた。ノイアも同じようにして、ふたりで笑い合った。
 ノイアはズイのことを友人として、兄として本当に大好きだった。

 それから何年もしないうちにズイはノイアのことを『ノイア』と様づけで呼ぶようになり、精神的にも物理的にも距離をとった。身分的にも仕方がないこととはいえ、ノイアは寂しく思った。それでもノイア自身も成長しており、今まで通りじゃないと嫌だというのはただの我儘で、ズイを困らせることだと分かっていた。それからノイアは主従としての適切な距離を保ちながらも心の中ではずっと親しい人として慕っていた。だがその選択がズイの心を傷つけ、少しずつ歪ませていった──。ズイは物分かりのいいフリで、ノイアの我儘を期待していたのだ。






しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

シャルルは死んだ

ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす
BL
 αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。  努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。  世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。  失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。  しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。  あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?  コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。  小説家になろうにも掲載。

白熊皇帝と伝説の妃

沖田弥子
BL
調理師の結羽は失職してしまい、途方に暮れて家へ帰宅する途中、車に轢かれそうになった子犬を救う。意識が戻るとそこは見知らぬ豪奢な寝台。現れた美貌の皇帝、レオニートにここはアスカロノヴァ皇国で、結羽は伝説の妃だと告げられる。けれど、伝説の妃が携えているはずの氷の花を結羽は持っていなかった。怪我の治療のためアスカロノヴァ皇国に滞在することになった結羽は、神獣の血を受け継ぐ白熊一族であるレオニートと心を通わせていくが……。◆第19回角川ルビー小説大賞・最終選考作品。本文は投稿時のまま掲載しています。

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

みづき
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

愛しているかもしれない 傷心富豪アルファ×ずぶ濡れ家出オメガ ~君の心に降る雨も、いつかは必ず上がる~

大波小波
BL
 第二性がアルファの平 雅貴(たいら まさき)は、30代の若さで名門・平家の当主だ。  ある日、車で移動中に、雨の中ずぶ濡れでうずくまっている少年を拾う。  白沢 藍(しらさわ あい)と名乗るオメガの少年は、やつれてみすぼらしい。  雅貴は藍を屋敷に招き、健康を取り戻すまで滞在するよう勧める。  藍は雅貴をミステリアスと感じ、雅貴は藍を訳ありと思う。  心に深い傷を負った雅貴と、悲惨な身の上の藍。  少しずつ距離を縮めていく、二人の生活が始まる……。

処理中です...